俺はーーマサラタウンのレッドだ。   作:ムキムキぷりん

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最近、水曜日と日曜日に毎週投稿できるように頑張ってます。ですので、基本的に更新があるとしたら水曜日に更新したら次は日曜日で、日曜日に更新したら次は水曜日だと思って下されば幸いです。
ただ、そろそろ就職活動元いインターンシップや合説募集とかも始まる時期なので完結までにこのペースで行けるかは不明です。微力は尽くします。



第5話 不協和音

昨日、リーフと共にニビジムへチャレンジしていたレッドは疲労からか昼過ぎまでベッドの上で意識を落としていた。普段なら遅くとも昼前にはレッドを叩き起すピカチュウですら、彼の傍でぐっすりと眠っていた。

 

レッドのニビジム戦が終わった後、リーフも危なげなくタケシに勝利を収めた。

ニビジム戦ではリザードのみが出張っていた事もあり、ピカチュウやピジョン、サナ、エリアたちは元気が有り余っていた。そのため、ニビジム戦後にレッドは次なるジム戦の予定地であるハナダジムの情報を仕入れつつ、その対策のためにポケモンたちと共に修練に励んでいた。

途中、夕食の時間が来た事もあって中断したが、ニビジムでの勝利やヒトカゲの進化など、興奮冷めやらぬレッドは、アドレナリンのせいもあってか修練は日付を跨いで行われた。結局、夕食後も8時間以上ぶっ通しで修練を行い、朝焼けが見え始めた4時半過ぎに泊まっている部屋に戻った。

疲労からレッドはそのままベッドに倒れ込もうとしたが、エリアによって制止された事でシャワーだけ浴びて睡魔に導かれるままに床に着いたのであった。

 

 

「………………。」

 

朝…。倦怠感が凄い。特に、身体が重い。

ああ、昨日…ほぼ徹夜でハナダジムの攻略について皆で考えていたんだった。

今日は、昼過ぎからリーフたちとオツキミ山に向かうって約束だったような…起きないと。

 

 

倦怠感と筋肉痛に抗い、レッドは身体を起こす。まだ寝ている彼らを起こさないように、そっとベッドから降りる。朝の日差しにあてられて伸びをしていると、足元に何かが触れる。エーフィ(エリア)だ。

ベッドの軋む音を察知した彼女は、目を覚ましてレッドの傍に近寄ったのだろう。足元で伸びをした彼女は、臀部を高く突き出すとレッドの足に身体を擦り付ける。

 

足元にまとわりつく彼女を抱き抱えると、レッドはそっと扉を開けた。

そのままの足で、リーフたちが居ると思われる下階のレストランルームを目指す。エレベーターでレストランルームのある下階に降りて、リーフたちを探していると奥の方からレッドを呼ぶ声が聞こえる。

 

 

「昼過ぎまで寝てるなんて…アンタ本当に寝るのが好きよね。」

 

「……ごめん。4時半くらいまでハナダジム攻略の会議してた。」

 

「え!?そんな遅くまでやってたの!?」

 

「……うん、やり出したら止まらなくなって。結局、寝たのは5時近いかも。」

 

「アンタねぇ…。ホント、ポケモンバカなんだから。昼夜逆転してもしらないわよ?」

 

 

ブルーに窘めながら、昼食?をとる。

レッドはサイダーとハンバーガーやポテトを頼むと、料理が来るまでに彼女らが午前中に何をしていたのか尋ねる。

ブルーはイエローと共に朝イチでジム戦に挑戦していたらしい。イエローはギリギリで何とか勝利を収めたらしいが、ブルーは相性の問題もあって難なく突破したらしい。つまり、4人共1個目のジムバッチを手に入れたワケだ。そんなイエローはと言うと、ジム戦で大量に使用したキズぐすりの補充のためにフレンドリーショップで買い物をしているらしい。

昨日、レッドと共にニビジムに挑戦したリーフは、朝からオツキミ山の登山計画を立てていたらしい。話を聞く限り、既にオツキミ山の登山というか越山経路は完成しているらしく、後は必要な物を確認して足りない物を買い揃えるくらいらしい。

 

レッドは二人の話を聴きながら、出された料理を食べる。レッドが料理を食べ終える頃にはイエローもレストランルームで合流していた。イエローが合流すると、リーフがリストアップしていた買い物リストを埋めるべく、リーフとブルー、イエローに同行する。

荷物持ち係として同行したレッドは、彼女らが両手のカゴに次々と投げ入れる道具に「買いすぎだろ…」と内心愚痴を言いながら小一時間ほど付き合った。

会計を済ませると、ポケモンセンターまで彼女らの荷物を運んで仕分けて貰う。泊まった各部屋で出立の準備を整えると、八つ刻が終わる頃にはポケモンセンターでチェックアウトの手続きを済ませてニビシティを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニビシティを出発して3番道路を小一時間歩いているとオツキミ山の入口が見えたので、オツキミ山の入口付近で小休止をとっていた。

小休止の間に、レッドはポケモンたちを外に出して、ポケモンたちが新たに覚えた技などを念入りにチェックしていた。レッドがポケモンたちのメンテナンスをしていると、オツキミ山から黒いスーツに身を包んだ男が降りてくる。

山に似つかわしくない身なりに包んだ男に、レッドたちは訝しみつつも失礼にならない程度に男の動向を傍目で捉えていた。

男がレッドたちの近くまで歩いて来ると、不意にレッドは男に話しかけられた。

 

 

「…君、若いのに良いポケモンを持っているね。そのポケモンは君が育てたのかい?」

 

「……はい、自分が育てました。」

 

レッドは男に話しかけられた事に驚きつつも、彼に返事をした。すると、男は「私もポケモンを育てているのだが…どうだろうか?おじさんと一勝負願えないだろうか?」と尋ねられる。

レッドは男の意図を図りかねて、困惑しつつも、アイコンタクトでブルーに受けても良いか尋ねて「大丈夫よ」と言われたため、承諾する。

 

 

「ルールはお互いの手持ちが全員戦闘不能になるまでで良いかい?」

 

「……構わない。」

 

「それでは、始めるとするか。行けっ…ペルシアン。」

 

ニャー!!

 

「………………!!行けっ、ピカチュウ!!」

 

「……ほう。そのピカチュウ、並のピカチュウではないな。戦闘に向かないピカチュウというポケモンを、よくもまぁここまで育てたものだ。」

 

 

ペルシアンを繰り出した男は、レッドのピカチュウを見てレッドの育成能力の一端を瞬時に見抜いた。

彼の言動から男が明らかに格上である事を悟ったレッドは、緊張感を高めていく。

 

 

一目見ただけでも分かる。あのポケモンは強い。どんなポケモンなのかは全く分からないけれど…迂闊に動いたら殺られる。

……不用意に、先制攻撃できない。

 

 

「……来ないのか?ならば、此方から行かせてもらおう。ペルシアン、催眠術。」

 

「……ッ!!」

 

 

ーー早い。ピカチュウに催眠術をあてられた!?先手を取られるとは…。不味い。

 

 

レッドはピカチュウが事実上行動不能となった事を悟ると、瞬時にピカチュウの目覚めを待つより一旦下げる事の方が得策だと考え、下げる。

しかし、男はレッドに易々と主導権を握らせなかった。レッドの交換を悟っていたかのように、ペルシアンを交換してニドクインを繰り出す。レッドはこれにラルトス(サナ)を繰り出して様子を見た。

 

男はレッドに主導権を渡さないと言わんばかりに、レッドが指示するよりも早く砂嵐(すなあらし)をニドクインに指示。サナに催眠術(さいみんじゅつ)を指示して、場の主導権を取り返そうとしたレッドの目論見を見事に潰した。

レッドが催眠術をあてて主導権を握れないと判断すると、影分身(かげぶんしん)を指示して、迎撃体制を整える事を優先した。

しかし、レッドの行動を見た男はレッドが守備に回ったのをこれ幸いとばかりに、ニドクインへステルスロックと毒菱(どくびし)の指示を立て続けに行う。迎撃体制を整えるレッドに対して、着実に布石を打って次の一手に繋げる黒いスーツの男。その場しのぎで辛うじて対応しているレッドと、冷静に次の一手を打ちながら相手の行動を一つずつ封じる黒いスーツの男とでは、どちらが主導権を握っているかなど一目瞭然であった。

 

そして、レッドが悠長に影分身(かげぶんしん)をしているところに「態々、時間を作ってくれてありがとう」とでも言いたげに、男はニドクインへ地割れ(じわれ)を指示して、サナを一瞬で鎮めてしまった。

未だかつてない強敵を前にして、レッドは焦っていた。反撃の糸口が全く見えず、既に実質2匹のポケモンを失っている。対して、相手は無傷。

レッドはステルスロックと毒菱が撒かれた状況を打開して、反撃の糸口を掴むためにピジョンを繰り出して竜巻(たつまき)を指示。これにより、ステルスロックと毒菱を除去する事に成功した。

しかし、男はこれすらも見越していたかのようにニドクインを下げると、ニドキングを繰り出した。レッドは次々とポケモンを下げては繰り出す男の戦術に驚き、戸惑っていた。ポケモンバトルの世界では、ポケモンの交換を禁止されていないものの…普通は眠らされでもしない限りポケモンを下げるという行為は行われない。寧ろ、暗黙の了解としてポケモンバトル=勝ち抜き戦のような傾向がある。

 

だが、目の前の男はそんな事を知らぬとでも言わんばかりに手を変え品を変え、レッドの行動に併せてポケモンを次々に交換する。

そんな男の戦術を前にレッドは男の真意を図りかねて困惑するしかなかった。しかも、繰り出すポケモンはレッドが見た事のないポケモンばかり。タイプ相性は愚か…どのような技を使うのかの見当も付かないレッドは、完全に攻めあぐねて後手に回っていた。

 

 

「……ふむ、この戦い方はーー」

「ーー少年、私の繰り出したポケモンについて…一切の情報を持っていないのか?」

 

「………………!!」

 

 

見抜かれていた…だとッ!?

まさか…今までの行動で俺の力量を量っていたのか…!?

不味い…ピジョンはステルスロックと毒菱を除去する代わりに、かなりのダメージを負っている。しかも、猛毒を浴びてしまった。

……悔しいけど、今のピジョンじゃ目の前のポケモンにダメージをほとんど与えられない。それくらい、力関係は圧倒的だ。

ピジョンが倒れれば、残りはリザードとエーフィ(エリア)しか居ない。どうする…。

 

 

レッドは苦しい状況に置かれた。男の発言から男は少なくとも自分より遥かにポケモンに対する知識を保有しており、その上ポケモンのレベルも自分とは比べ物にならないほど格上である事が推測できた。しかし、相手との力量差を把握できたからと言って、この劣勢を覆すには至らない。

レッドは苦悩の末に、ピジョンに電光石火(でんこうせっか)からの至近距離で砂かけ(すなかけ)を指示。レッドの指示を受けたピジョンは乾坤一擲の大勝負とばかりに、目の前の敵の懐に突撃した。

しかし、ピジョンの攻撃に男は眉一つ動かさずにニドキングへ指示を飛ばした。

 

 

「ーー不意打ち。」

 

 

レッドの意表を突く一撃だった。劣勢を覆そうとしたレッドの一手をいとも簡単に見抜き、懐に誘い込んだピジョンを一撃で沈めてしまった。

たった一度の攻撃だったが、レッドはこの一撃で久しぶりに「絶望」の二文字を思い出す事になった。どう足掻いても勝てない。自らの策を尽く潰し、自らに攻撃の隙を一切与えない男の戦術を前に、初めてポケモンバトルを放棄したいと考えるようになった。

しかし、レッドはピジョンが地に堕ちた音を聞くと正気に戻って、首を振る。ピジョンを戻して、リザードを繰り出す。

 

 

まだ、終わってない。

一匹も土をつけられないで負けるなんて…イヤだ。

 

 

「……リザード、龍の伊吹(りゅうのいぶき)。」

 

 

レッドはまだ終わってないと言わんばかりに、リザードへ龍の伊吹(りゅうのいぶき)を指示して砂嵐を除去するように指示した。

リザードの龍の伊吹によって砂嵐が晴れると、男はリザードの技の威力に感心して賞賛の拍手を送る。

しかし、男の行動に舐められていると感じたレッドはリザードに腹太鼓(はらだいこ)を指示して、ニドキングとの間合いを詰めさせる。そして、ニドキングの首元目掛けて噛み砕くを指示。

男は突っ込んで来るリザードを再び懐へ迎え入れると毒突き(どくづき)によってリザードの鳩尾(みぞおち)に拳を突き出させた。ニドキングの攻撃を急所にあてられたリザードは吐血しながらも、気力を奮い立たせてニドキングの首元へ力の限り噛み付いた。

リザードの思わぬ反撃を受けたニドキングは、反射的に雷パンチ(かみなりパンチ)を放つ。今度こそ完全に息の根を止めたニドキングは、リザードを蹴り飛ばしてレッドの足元に転ばした。

 

リザードを失ったレッドは、帽子を深く被ってエーフィを繰り出した。

 

 

「………………。エーフィ、仇をとってくれ。」

 

フィッ!!

 

 

エーフィを繰り出したレッドは、サイコキネシスを指示して男のニドキングを沈める。男は、ニドキングがいとも簡単に沈められた事に驚きつつも、ニドクインを繰り出す。

しかし、出会い頭のニドクインをサイコキネシスでワンパンすると、潮目が変わる。レッドに行きそうになっている流れを止めんと、男はダグドリオを繰り出す。男はダグドリオに砂嵐(すなあらし)を命令して、エーフィ(エリア)の視界を奪う事を画策。

だが、レッドは砂嵐をエーフィ(エリア)のサイコキネシスで強引にかき消すと、ダグドリオとの間合いを一気に詰めて恩返し(おんがえし)で反撃を試みる。ダグドリオは地震(じしん)エーフィ(エリア)を近付けまいと抵抗するも、遂に懐に入られ…ダグドリオは一撃で沈む。

 

ニドクインとダグドリオが一撃で沈められた事を視認した男は、驚いたように「……まさか、いや…そんなことが?」と呟く。そして、確認するかのように先発で繰り出したペルシアンを再び場に出す。

ペルシアンは猫騙し(ねこだまし)エーフィ(エリア)の虚を突き、奪われた流れを一気に取り戻しにかかる。そして、エーフィ(エリア)が一瞬後退りを見せた隙を見逃さず、辻斬り(つじぎり)で追い討ちをかける。ペルシアンの辻斬り(つじぎり)をまともに食らったエーフィ(エリア)は、タイプ不一致技とは言え…ダメージは少なくないようであった。

肩で息をしているエーフィ(エリア)に引導を渡すべく、ペルシアンは再び間合いを詰めて切り裂く(きりさく)エーフィ(エリア)を追い詰める。しかし、懐に引き込んだエーフィ(エリア)恩返し(おんがえし)で反撃。更に、ペルシアンがよろけた隙にダメ押しとして電磁砲(でんじほう)を放つ。

エーフィ(エリア)の思わぬカウンターを受けたペルシアンは永遠とも思える数分の戦闘の末に敗北を喫して倒れた。

 

 

男は次々に倒されるポケモンたちを傍目に、エーフィの事をじっと見詰めている。ペルシアンが倒され、男は暫し無言になってエーフィを見つめた後で「……いや、この技は…そういう事なのだろう。……懐かしや。」と呟くとサイドンを繰り出した。男はサイドンにストーンエッジを飛ばしつつ、地震(じしん)も指示してエーフィを追い詰めるように攻撃する。

しかし、レッドはエーフィにサイコキネシスを指示してストーンエッジを跳ね返してサイドンに攻撃させつつ、揺れている地面を止めるように指示。レッドとエーフィの反撃を見た男は口元に弧を描いた。

サイドンを戻すとギャラドスを繰り出して龍の舞(りゅうのまい)をしながら、エーフィに接近するように指示。揺らり揺らりと、揺れるギャラドスに中々攻撃をあてられないレッドは苛立ちつつも、被弾覚悟で願い事(ねがいごと)を指示。

ギャラドスの噛み砕く(かみくだく)によって傷付いたエーフィだったが、事前に用意しておいた願い事(ねがいごと)によって回復する。そして、お返しとばかりにサイコキネシスを指示。しかし、ギャラドスはそんなもの気にしないとばかりに、エーフィのサイコキネシスを受けながら続けて噛み砕く(かみくだく)を選択。

流石のエーフィも二連続で噛み砕く(かみくだく)を受けては耐えることができなかった。男のポケモンを四匹倒して、逆に追い詰めながらも敗北してしまったのである。レッドの残るポケモンは、眠らされたピカチュウのみ。仮に、ギャラドスに勝利できたとて…裏にはニドキングが居る。あれほどの強さであれば…残念ながら、レッドに勝てる見込みはなかった。

レッドは帽子を深く被り直して、震える声で敗北を宣言した。

 

レッドと男の勝負を目の当たりにしていたリーフ、ブルー、イエローは衝撃を受けていた。何せ、旅を始めてから圧倒的な成長速度で駆け上がり、無敵と行かないまでも相性不利のジムリーダー相手にリザード一匹で完封したレッドが、まさか完全敗北に等しい内容でポケモンバトルを終えるとは思わなかったからである。

寧ろ、強い強いと思っていたエーフィがここまで強かった事に感心すらしていた。だが、それ以上に「エーフィが居なければ、レッドはたった一匹すら相手に土を付けられずに敗北したのでは…?」という考えが()ぎった。

 

 

 

パチパチパチ

 

 

 

「素晴らしい、これほどまでに強いポケモンを持った少年が居るとは…将来が楽しみだ。」

 

「……アンタ、何者だ。俺はこれでもジムバッチ1個とったばかりなのに、ほとんどアンタに土をつけられなかった。」

 

「……おや、エーフィで私を追い詰めたではないか。」

 

「……エーフィは、母さんが心配して預けてくれたポケモンだ。俺が育てたポケモンじゃない。」

 

「……ふむ、そうだったのか。それは失礼した。」

「それで、私の話だったね。私はサカキ、しがないポケモントレーナーだ。」

 

「……サカキ。次は…負けない。」

 

「いい心構えだ。そんな少年に、一ついい事を教えよう。」

 

「……なんだ?」

 

「ポケモンバトルで勝ちたいならば、ポケモンの事を知り尽くすべきだ。そして、手を変え品を変え…自分が有利になる状況を作り出すべきだ。」

 

「………………。」

 

「……常識は敵だ。相手を倒す方法は、"攻撃技"だけじゃない。分かったかい?」

 

「……そうか…それが、俺とアンタの差か。」

 

 

果てしない、そう思った。

俺は浮かれていたのかもしれない。旅を始めてから、グリーンやリーフ、ブルーに勝って…無敗のままニビジム戦を攻略した。心のどこかで、俺は無敵だと思っていたのかもしれない。

……ああ、忘れていた。俺は、無敵でも何でもない。寧ろ、今まで勝てた方が少なかったくらいだ。慢心、だよな……嫌になる。

 

俺はまた…何もできずにポケモンたちを苦しめてしまったのだろうか。

 

 

「ーー君の名前を聞いても良いかい?少年。」

 

「……俺はマサラタウンのレッドだ。」

 

「……レッド…。そうか、良い名だ。また、君と戦える日を楽しみにしているよ。」

 

 

男はそう呟くと、どこからともなく現れた赤い服に身を包んだ黒髪の少女とフーディンと共に姿を消す。ブルーは「テレポート…これが。」と呟いていた。

久しく忘れていた挫折という経験を味わったレッドは、終始無言のままリーフたちとオツキミ山を登った。イエローは心配そうに、レッドの事を窺っていたが、リーフとブルーに「こういう時は、下手に話しかけずに様子を見ておくのが一番なのよ」と耳打ちされた事もあってレッドの様子を窺うに留まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、日が傾き始めたオツキミ山で野宿の準備を整えたレッドたち一行は、辺りが暗くなる前に焚き火を炊いて夕食の準備をしていた。

夕食の準備中も終始無言のままだったレッドを見兼ねて、リーフはレッドを焚き火用の薪を一緒に拾う事を提案。レッドは無言で頷くと、リーフの後をついて行き、薪を拾いに行った。薪を拾っていると、不意にリーフはレッドに近付いた。

 

 

「……一度負けたくらいで何よ。レッドらしくない。」

 

「………………。」

 

「レッドは、これまでずっと負けてきた。でも、何回負けても君は立ち上がって挑み続けた。そしてーー勝った、最後に必ず。」

「……だから、一度負けたくらいで何よ。こんなの挫折のうちに入らないよ!!私、知ってるから。レッドがマサラの誰よりも強いってこと。」

 

「………………。」

 

「悔しくて泣きたい時は、泣いて良いんだよ。私だって、見てて悔しかったもん。だって、あんなに凄かったレッドが…手も足も出ないで負けたんだもん。」

「……一緒に強くなろ。そんでもって、あのサカキっておじさんにまた勝と?」

 

 

レッドは持っている薪をそっと置いて、帽子の鍔を強く握った。薄暗い森の中で帽子の鍔が微かに揺れるのを、リーフは見逃さなかった。立ち尽くすレッドに後ろから抱きついて、レッドの背中にそっと顔を埋めた。

レッドは声を押し殺して奥歯が揺れるのを必死に耐えながら、肩を震わせていた。

 

 

「……嬉しかった、やっとここまで来れて。」

 

「……うん。」

 

「……ニビジムで勝った時は、漸く実が結んだんだと思った。」

 

「……うん。」

 

「……でも、違った。」

「……俺はまた…何もできずに負けた。あの時みたいに。」

 

 

レッドのトラウマ…それはかつてソレイユと出会う以前にまで遡る。

レッドはトキワの森でピカチュウと出会ってから、始めて自分のポケモンになってくれたポケモンと出会って楽しい日々を過ごしていた。しかし、ある時…イーブイを手に入れたグリーンはレッドのピカチュウと戦う事を申し入れた。レッドはポケモンバトルができると喜び、グリーンの提案を快諾してポケモンバトルをした。

結果はーー惨敗だった。レッドは何もできずに敗北し、突き付けられたのは"自分のせいでピカチュウを一方的に傷付けた"という現実。そして、自分にはポケモンバトルの才能が微塵もないのだという宣告。

 

悲しみや悔しさを通り越して少年が背負うには些か重過ぎる事実に、彼は真っ白になっていた。

ピカチュウを抱えて蹲ったまま動かなかった。彼はグリーンが帰った後で、暗くなってレッドがまだ家に帰っていない事を知って家を飛び出したリーフに発見されるまで、ピカチュウを抱えて小さく蹲っていた。

その時のレッドの顔を、リーフは一度も忘れた事がなかった。顔を歪ませて口元に弧を描く彼の顔は、およそ子供がする表情とは思えなかった。

レッドの幼少期は繊細だったのだろう。本来、たった一度のポケモンバトルで彼がそこまで悲観する必要性はなかったのだ。いや、結果のみを見ればそう捉えてもおかしくはない。ただ、レッドに与えたトラウマは"敗北"という結果ではなかった。「何もできなかった。一方的に、自分のポケモンが攻撃されるのをただ眺めている事しかできなかった」というポケモンバトルの内容に、言葉では表現できないながらにも、彼は自分の凡才さを感じとったのだろう。

そして、同時に…自分が最も愛する存在を、自分の軽い気持ちで傷付けてしまったという後悔。それらが複雑に絡み合って、レッドにトラウマを与えた。

 

あれから5年以上経った今では、多少は精神的に成長したレッドならば、前回のような事にはならなかった。

いや、ならなかっただけで彼の古傷を抉るには十分過ぎる出来事だった。現に彼は、フラッシュバックした過去のトラウマに必死に耐えるのがやっと出会った。

 

 

「……俺、負けないから。もう二度とあんな負け方…しないから。」

 

「……うん。」

「私、信じてるから。レッドなら大丈夫だって。」

 

「………………。」

 

「そう言えばさ、オツキミ山ってピッピの月の石の儀式が有名なんだよ?夜にピッピが月の石を取り囲むように集まって、踊るんだって。」

「……お姉ちゃんたちにはナイショで見に行こうよ。二人でさ。」

 

「………………。」

 

 

無言の返答。レッドは首肯するように帽子の鍔を上げて、薪を拾う。

レッドが薪を拾おうと屈むと、リーフはレッドから離れて自分も地面に置いておいた薪を拾う。

 

レッドとリーフがブルーとイエローの元に帰ってくると、何やらいい匂いがしてきた。どうやら、落ち込んでいるレッドを見兼ねてブルーとイエローはレッドが好きだと言っていたポトフを作ってくれたらしい。

 

 

「ほら、レッドとリーフもそこに座って!!ご飯できてるから、冷めないうちに食べちゃうわよ。」

 

「えへへ、レッドさんが好きって言ってたポトフですよ!!」

 

「わぁ、ポトフだ!!はい、これレッドの分ね!!」

 

「………………ありがとう。」

 

 

レッドはボソッと呟くと、スプーンによそって口に入れる。ゴクリとポトフのスープを飲み込むと、「……温かい」と呟いた。

レッドが料理を口に運んだのを見て、リーフは「いただきまーす!!」と言って箸を付けた。レッドの様子を窺っていたブルーとイエローも、レッドの様子を見て安心したのかリーフに続いてポトフに箸を付けていく。

 

 

ああ…温かい。

 

「……リーフ、今日は星が綺麗だね。」

 

「……!?」

 

 

レッドが何気なく呟いた一言に、リーフは噎せた。




あ、こんなところで言うのもなんですが…自分に余力があるなら2024年時点までに登場してるポケモンシリーズの地方(ポケモンレンジャーの地方は除く)を旅するところまでかきたいと思ってます。
一応、今描いている作品は小説情報にもあるようにあくまで前日譚なんです。まぁ…本来、前日譚は物語を終えてからスピンオフ的なものとして描くのが定石っちゃ定石なんですけど…どうしても、サカキとレッドという関係性に、メガシンカとレッドの話を描きたくて前日譚にあたるこっちを最初に出すという形になってしまったんです(というか、本編にあたるその後のレッドの物語や設定を極力しっかりとしたものにしようと思ったらこうなってました。途中から、もう前日譚じゃなくて良くね?となったのはナイショ。)。ただ、前日譚だけあって「俺はーーマサラタウンのレッドだ」の作品自体の結末は決まっていますし、大枠の構成も決まってます。というか、物語的にはレッドがアローラ地方に渡るところの話まで描いてしまわないと意味不明な部分が多くなってしまうんですよね(特に、この物語の登場人物とか作品のストーリーとか)。
なので、10年くらいはかかりそうですけど…ぼちぼちレッドの世界漫遊譚を書ければなと。
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