抹消ヴォイスのヒーローアカデミア【番外編】   作:M.T.

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IF 敵名『壊音』・前編※

「くくくくく…! ついに完成したぞ…!! 私の最高傑作が!!」

 

 地下の研究施設で、眼鏡をかけた壮年の男、志賀円弥は笑い声を上げていた。

 志賀の前には、培養槽から出てきたばかりの全裸の少女が立っていた。

 腰まで伸びた癖っ毛の黒髪と、大きなエメラルドグリーンの瞳を持った、8歳くらいの少女だ。

 志賀は、興奮した様子で少女に歩み寄り話しかけた。

 

「よくやった! いい子だ101号! さあ、一緒にこの腐り切った世界をこぱキャ

 

 志賀が話しかけた瞬間、志賀の上半身が消し飛んだ。

 上半身を失った志賀は、血と臓物を撒き散らしながら仰向けに倒れる。

 見ると、少女が片手を軽く前に出していた。

 生みの親を殺した少女は、眠そうに大きなあくびをした。

 

「くぁ………」

 

 少女が血と臓物を浴びながら眠そうにあくびをした、その時だった。

 

「あーあ、生みの親を殺しちゃうとはね。お前、思ったよりイカレてるね」

 

「にぃに!」

 

 白い髪や肌を持った少年、零が研究室に入ってくる。

 すると少女は、パァっと笑みを浮かべて触角をピンと立てる。

 零は、

 

「まずその格好何とかしろよ。ほら、服とタオル持ってきてやったぞ」

 

「えへへ〜、ありがとう!」

 

 零が服と検査着を持ってくると、少女は無邪気な笑顔を浮かべた。

 少女は、しばらく研究所の中を見渡し、上水管を見つけると、上水管をへし折って流れている水を噴き出させた。

 大量の冷たい水で血と臓物を洗い流した少女は、きゃっきゃとはしゃいだ。

 

「きゃー!」

 

 少女が身体を綺麗に洗い流し、身体を拭いてから零が持ってきた検査着に着替えた。

 するとその時だった。

 突然何もないところからワープゲートが現れ、三つの人影が現れる。

 一人はワープゲートの“個性”の使い手である黒い靄のような顔をした男“黒霧”、一人は特徴的な眼鏡をかけ、禿頭と立派な髭が特徴的な小太りの老人“ドクター”、そしてもう一人はスーツに身を包んだ背の高い男“オールフォーワン”だった。

 ドクターは、少女を見るなり髭を触りながら声をかける。

 

「君がワシの息子の最高傑作かの?」

 

「……?」

 

「おっと、申し遅れたの。ワシは…そうじゃな、氏子達磨。今適当に付けた名じゃ。君の生みの親の父じゃよ。おっと、息子の事は気にせんでええぞよ。彼奴も最高傑作の君の糧になれたのなら本望じゃろうて」

 

 ドクターが言うと、少女はくりっとした目をドクターとオールフォーワンに向ける。

 オールフォーワンは、少女の前に立って言った。

 

「はじめまして。僕は…そうだな、君の先生だよ。オールフォーワンとでも呼んでくれたまえ」

 

「…あい! 先生!」

 

 オールフォーワンが言うと、少女は無邪気に笑う。

 この日、世界の均衡が大きく崩れた。

 魔王に拾われた事で、世界の運命が変わった事は、少女はまだ知らない。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「すぅ…すぅ……」

 

 7年後。

 オールフォーワンに拾われた少女は、自分の部屋で寝息を立てて眠っていた。

 少女が気持ち良さそうに眠っていると、黒い靄のような顔をした男、黒霧が現れる。

 

「お迎えに上がりました。壊音(カイネ)

 

「わぁい、ありがとう黒霧さん!」

 

 黒霧がカイネと呼ばれる少女を迎えに行くと、カイネは触角をピコピコさせて喜ぶ。

 カイネは、髪を高い位置で括り、お気に入りの仕事着に身を包んだ。

 カイネの仕事着は、黒のロングコートに白いホットパンツ、黒いロングブーツといった格好だ。

 胸の膨らみがほとんど無く、160cmに満たない背丈は、中学生くらいの子供を連想させる。

 改造手術の過程で生殖能力を失った身体は、女性にしては直線的で筋肉量が多く、一見男性に見えなくもないような中性的な体格に成長していた。

 

「今度は雄英を襲撃するんだよね? みんな殺していい?」

 

「ええ。我々の目的はオールマイトですから…むしろ、生徒を殺せば奴は出てきてくれる事でしょう」

 

「え、何それ大好きだね(笑)」

 

「ただ…有望そうな生徒は、出来れば殺さず生け捕りにしていただきたい。人材は多いに越した事はありませんから…」

 

「うん、有望そうな奴ね。わかった!」

 

 黒霧が言うと、カイネはケラケラと笑った。

 カイネはふと、いつも一緒にいる零の事を思い出す。

 

「にぃには? 一緒じゃないの?」

 

「零は今、別件がございまして…」

 

「さいですか」

 

 黒霧が言うと、カイネは唇を尖らせる。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「あ…あぁあああ………」

 

「凡夫って大袈裟だねぇ。こんなもんで最高峰だなんて。やだねぇ、哀しいねぇ」

 

「カイネちゃんカイネちゃん! 血、ちうちうしていいですか!」

 

「いいよ〜、やっちゃってヒミコちゃん」

 

「わぁ! やったぁ! じゃあちうちうするね!」

 

 襲撃当日。

 A組の金髪の軟派な男子生徒“上鳴電気”は、目の前の光景に絶望していた。

 目の前には、癖っ毛の黒髪を腰まで伸ばし、猫耳を思わせる癖っ毛と二本の触角を生やし、黒いレザーのコートに身を包んだ少女が、ポニーテールの女子生徒“八百万百”の生首を持って遊んでいた。

 その隣では、クリーム色の髪をしたセーラー服の少女“トガヒミコ”が、血が入ったタンクを眺めて恍惚とした表情を浮かべていた。

 そしてその近くには、上半身がなくなった八百万の遺体と、ボーイッシュで小柄な女子生徒“耳郎響香”の遺体が転がっていた。

 耳郎の遺体は、身体中をナイフのようなもので刺され、全身から血が流れ出ていた。

 

 それは、一瞬の出来事だった。

 担当教師の13号の話を聞き、入学してから間もないヒーロー科の授業に胸を膨らませていた、その矢先だった。

 突然現れた黒霧によって、A組の生徒はUSJの各地点へ飛ばされた。

 上鳴、耳郎、八百万が飛ばされた山岳ゾーンには、(ヴィラン)連合の少女、カイネとトガヒミコがいた。

 カイネが八百万の上半身を吹き飛ばし、トガが逃げて応援を呼ぼうとした耳郎を刺殺し血を奪った。

 

 そこからは、一方的な蹂躙だった。

 クラスメイトを殺された怒りで放電した上鳴だったが、怪物という言葉すら生温いカイネの前では微風に等しく、そのまま上半身を吹き飛ばされて一瞬にして絶命した。

 カイネがUSJ内の生徒の状況を探っていると、状況を探り終えたカイネが触角の先をピクピク動かす。

 

「カイネちゃんどうしましたか」

 

「あー…弔おにぃが、手を貸してほしいんだって。僕は弔おにぃのお手伝いしてくるから、ヒミコちゃんは他の皆の援護しに行ってくれる? 生徒にあったら血はちうちうしていいよ!」

 

「カイネちゃん、やる気ですね! わかりました!」

 

 カイネが言うと、トガはぱぁっと笑顔を浮かべながら、他のメンバーの援護に行く。

 USJには、零がかき集めた精鋭達が散らばっていた。

 情報と頭数こそA組の生徒達に劣るが、経験値と実力では圧倒的にA組の生徒達に優っていた。

 

 

 

 その頃、入場ゲート付近では、スペースヒーロー『13号』とA組の生徒達が、大柄なトランス女性のマグネ、爬虫類顔の男スピナー、そして高校生くらいの黒髪ボブの少女シエスタと交戦していた。

 

「ちょっと『シエスタ』! 見てないで手伝いなさいよ!」

 

「いやです。私、カイネちゃんの命令以外聞きたくありません」

 

「だぁぁぁもう! 面倒くせえな!!」

 

 シエスタがサボっていると、マグネとスピナーがキレる。

 13号は、まだ子供にもかかわらず連合に加入しているシエスタに対して叫ぶ。

 

「お嬢さん。君、見たところまだ中学生か高校生でしょう!? 親御さんを悲しませてまで、何故こんな事をするんです!?」

 

「何でこんな事をするか、ですって? ふふふ、やっぱりあなた達は何もわかっていませんね。私にはね、私が人を殺したところで悲しんでくれる親なんていないんですよ。あなた方の基準で私を測らないでいただきたい」

 

「な……」

 

「私はね。影が薄いせいでずっと皆から無視されて生きてきたんです。この悩みを誰にも理解されず、苦い学生時代を過ごしました。あなた達贋者ヒーローが私を助けてくれなかったからです。でも、カイネちゃんは、カイネちゃんだけは私を見てくれたし、助けてくれるって約束してくれたんです。だからここが私の居場所なんです。私は私のヒーローの為だけに生きると決めたので、贋者のあなた達は死んで下さい」

 

 そう言ってシエスタは、“個性”を使って存在を消し、13号に接近を試みる。

 だが13号は、シエスタが刺す直前に“個性”を解除したのを察知し、『ブラックホール』で吸引した。

 

「そこだ!」

 

 13号の『ブラックホール』で吸引されたシエスタは、バラバラに分解されて塵になる。

 だがそれは、連合の仲間が作ったシエスタの分身であり、シエスタの身体はドロドロに溶けた。

 そしてその直後だった。

 

「あーあ、酷いですね。あれ、本物だったら死んでましたよ?」

 

「がはっ…!!」

 

 本物のシエスタは、13号の背後に現れ、長い得物で13号の身体を背後から貫いた。

 シエスタがそのまま13号の腹に刺さっている長い刃物を引き抜いて斬り捨てると、刃物についた血を振り払った。

 それを見た生徒達は、絶望の表情を浮かべながら叫ぶ。

 

「先生ぇ!!」

 

 シエスタは、刃物についた血を眺めながら目を細めると、不気味な笑顔を浮かべる。

 

「やっぱり便利♪ 分倍河原さんの『二倍』。さて…本番はここからですよ」

 

 そう言ってシエスタが何もない空間から出現させたのは、二丁の機関銃だった。

 それを見た障子は、思わず目を見開く。

 

「伏せろ、皆!!」

 

 障子が叫んだ直後、シエスタは不気味な笑みを浮かべながら二丁の機関銃を炸裂させた。

 マグネ、スピナー、シエスタの三人は、入場ゲートにいた13号と生徒達を殺害した。

 

 

 

 そしてその頃、暴風・大雨ゾーンでは。

 

「にく〜…にくめんん〜……」

 

 全身を拘束具で拘束した男ムーンフィッシュが、鋭利に尖らせた歯を伸ばしていた。

 ムーンフィッシュの視線の先には、烏頭の男子生徒“常闇踏陰”と、岩石のような頭をした男子生徒“口田甲司”がいた。

 口田は、ムーンフィッシュの歯で片腕を切断され腹を刺されて致命傷を負ったいた。

 

「口田! 口田ァ!!」

 

 常闇は、致命傷を負わされた口田に駆け寄る。

 そしてクラスメイトに致命傷を負わせたムーンフィッシュに怒りを覚え、“個性”の黒影(ダークシャドウ)を暴走させる。

 

「貴様ァアア!!!」

 

 常闇は、黒影(ダークシャドウ)を巨大化させてムーンフィッシュに襲い掛かろうとする。

 だがその時、背後から音もなく何者かが現れ、折り畳み式の刃物で常闇の身体を貫いた。

 

「ガハッ……!」

 

 身体を刃物で貫かれた常闇は、背後に目を向ける。

 常闇の背後には、真っ白な髪と肌を持った青年、零が立っていた。

 

「うーん、もうちょっとスマートにできないもんかね」

 

 零は、そのまま常闇を斬り伏せ地面に投げ捨てると、血のついた刃物を眺める。

 するとその直後、ムーンフィッシュが零に攻撃を仕掛ける。

 

「何だ君は…この子達の肉面を見るのは僕だ。邪魔をするなああ!」

 

「ばぁか、今の俺がアシストしてなきゃやばかったろ。この変態野郎。大体おま…」

 

 ムーンフィッシュが激昂する中、零が何かを言おうとすると、ムーンフィッシュは零の上半身を真っ二つに斬り裂いた。

 だがその直後、零の身体は一瞬で再生し、何事もなかったかのようにムーンフィッシュに話しかける。

 

「お前な、俺じゃなかったら死んでたぞ」

 

「肉、肉…」

 

 零が呆れ顔を浮かべながら首を鳴らす中、ムーンフィッシュは地面に倒れている生徒二人の死体に見惚れていた。

 

 

 

 そしてその頃、倒壊ゾーンでは。

 

「はははは、いいねえお前ら! 嬲り殺し甲斐があるってもんだ!」

 

「くそっ……!」

 

 筋骨隆々な大男マスキュラーが、赤髪の男子生徒“切島鋭児郎”に殴りかかっていた。

 圧倒的な体格差に加え筋肉で増強しているマスキュラーの前では切島の硬化能力も無力であり、ボロボロにやられていく一方だった。

 だがその時、金髪のツンツンヘアーの男子生徒“爆豪勝己”がマスキュラー目掛けて爆破を放つ。

 

「死ねぇ!!」

 

 爆豪は、マスキュラー目掛けて大規模な爆破を浴びせた。

 大量に発生する爆煙の中、爆豪がもう一度畳み掛けようとした、その時だった。

 爆豪に向かって、突然何者かの手が伸びる。

 

「しまっ…」

 

 その次の瞬間、爆豪が消え、代わりに爆豪がいた場所に小さなビー玉が現れる。

 シルクハットとコートに身を包んだ紳士風の男“Mr.コンプレス”は、キザっぽい立ち振る舞いでビー玉を回収した。

 

「はーい、将来有望な爆発小僧くんは俺のマジックで戴いちゃいました。タネも仕掛けもございません」

 

 Mr.コンプレスが爆豪を圧縮して懐にしまうと、マスキュラーが苛立った様子で文句を言う。

 

「てめぇ、余計な真似すんなよ。俺はそいつを殴り殺さねえと気が済まねえんだよ」

 

「ああ、ダメダメ。この子は連合に引き入れる事にしたからね。有望そうな奴がいたら殺さず攫えって命令だったろ? それとも、カイネちゃんに殺されたいのかい?」

 

「チッ……」

 

 Mr.コンプレスが諭すと、マスキュラーは大人しく引き下がる。

 マスキュラーも、カイネとの実力差はわかっているようで、命令違反をして粛清されてまで自分の欲望を優先する程馬鹿ではなかった。

 だがその時、切島がマスキュラーに殴りかかる。

 

「……あ?」

 

「てめぇら、返せよ…爆豪を返せよ!!」

 

「返せだぁ? 随分とおかしな事を言うじゃないか、エゴイストめ! マスキュラー、お客様がご指名だ」

 

 マスキュラーとMr.コンプレスに対して切島が叫ぶと、Mr.コンプレスは切島の相手をマスキュラーに任せ、ビルをつたって逃げ果せる。

 切島がガキン! と拳を鳴らしながら戦闘態勢を取ると、マスキュラーはニィッと笑みを深くする。

 

「いいねえ、そのツラ。んじゃあ俺も、そろそろ本気出すとするか」

 

 マスキュラーは、義眼をはめて両腕を筋繊維で強化し、切島に殴りかかった。

 

 

 

 そしてその頃、土砂ゾーンでは。

 

「バッカ熱あ!!」

 

 ラバースーツに身を包んだ男トゥワイスと、下顎と両腕が焼け爛れた男“荼毘”が、紅白髪の男子生徒“轟焦凍”と交戦していた。

 轟は、巨大な氷塊を出してトゥワイスと荼毘を遠ざけるが、荼毘は圧倒的な火力で轟の氷塊をドロドロに溶かしていく。

 荼毘は、“個性”の発動限界を迎えて息を切らしている轟を見て、不気味な笑みを浮かべる。

 

「おいおい、随分と氷が小さくなってきたんじゃねえか? 舐めプしてる場合か? ()()()()さんよ」

 

「てめぇ…何でそれを…!?」

 

 荼毘が轟の何かを知っているかのような口ぶりで言うと、轟が目を見開いて固まる。

 するとその直後、物陰から荼毘の分身が現れ、轟に蒼炎を浴びせた。

 轟は咄嗟に氷でガードするが、荼毘の炎が直撃し、右半身に火傷を負う。

 

「ぐぁ…!!」

 

 轟が荼毘と交戦している中、全身透明な女子生徒“葉隠透”は、見えないという性質上荼毘とトゥワイスには気付かれておらず、少し離れたところから轟が連合と戦っているのを見ていた。

 

(やばい、やばいやばい…! あの轟くんが押されてる…! 私だけでも逃げて応援を──)

 

 自分が助けに行ったところで逆に轟の足を引っ張ってしまうだけだと判断した葉隠は、出来るだけ足音を殺して逃げて応援を呼ぼうとする。

 だがその時、何かが勢いよく葉隠の首に突き刺さり、葉隠の視界が歪む。

 

「ぎっ!!」

 

 葉隠の首を貫いたのは、トガのナイフだった。

 トガは、バタッという音とともに空中で止まったナイフが地面に落ちその場に血溜まりができたのを確認すると、ナイフを回収しつつトゥワイスに尋ねる。

 

「仁くん、大丈夫ですか」

 

「トガちゃん! お呼びじゃないぜ!」

 

 トガは、葉隠からナイフと血を回収すると、ナイフを持ち替えて轟相手に臨戦態勢を取る。

 するとトゥワイスがトガに話しかける。

 

「よく伏兵に気付いたな! 俺も気付いてたけどな!」

 

「さっきの男の子と違う足跡があったので辿ってきたのです」

 

「チッ、俺への心配は無しかよ」

 

 トゥワイスの質問にトガが答えると、荼毘がツッコミを入れる。

 その直後、轟が地面に手をついて氷塊を出し、三人を遠ざける。

 

「へえ、まだ動けたか」

 

 ゼエゼエと息を切らしながら氷を出す轟に対し、荼毘は左手から蒼炎を出しながらせせら笑う。

 荼毘の左手からは、黒い煤のようなものが少しずつ出ていた。

 

 

 

 一方その頃、火災ゾーンでは。

 

「ぐぁあああぁああああ!!!」

 

 尾が生えた道着の男子生徒“尾白猿夫”は、右脚を押さえて悶え苦しんでいた。

 尾白の右脚は、膝から先が無くなっており、近くには地雷のようなものが炸裂した跡があった。

 それだけではなく、どこからか発生したピンク色の煙が漂い、容赦なく尾白を襲う。

 

「う゛…!? ゲホッ、ゴホッ…!!」

 

 尾白は、右脚を失っただけでなく、有毒のガスに晒されて悶え苦しんだ。

 するとその時、ガスマスクと学ランを身につけた少年マスタードが現れる。

 

「おいおい、雄英生だろ? エリートなんだろ? ちょっとは夢見させてよ。あんな子供騙しの地雷なんかに引っ掛かっちゃってさぁ」

 

「ぐ……」

 

「もうちょっといたぶって遊ぼうと思ったけど、抹殺命令出てるし殺すしかないよね。もういいやお前、死ねよ」

 

 そう言ってマスタードは、尾白に向かって拳銃を突きつけ、弾倉に入っていた弾丸を全て尾白に撃ち込んだ。

 

 

 

 そしてその頃、広場では。

 

「ぅ…ぐぅっ……」

 

 A組の担任のイレイザーヘッドこと相澤消太は、広場に来たカイネに惨敗し、ボロボロの状態で組み伏せられていた。

 全身の骨をバキバキに折った上でうつ伏せに押し倒して馬乗りになり、これ以上抵抗できないよう両腕を引きちぎった。

 その様子を、蛙顔の小柄な女子生徒“蛙吹梅雨”、地味めの緑髪の男子生徒“緑谷出久”、葡萄頭の小柄な男子生徒“峰田実”の三人が、水難ゾーンの池の中に身を隠したまま見ていた。

 連合のリーダーの死柄木は、右手の中指以外の指で相澤の髪を掴み、不気味な笑顔を浮かべながら話しかける。

 

「初犯で子供を殺すような事はしないと思ったか? 自分が手塩にかけた生徒達なら、簡単には殺されないと思ったか? そういう甘い見通しが、有望な若者の未来を奪うんだよ、イレイザーヘッド」

 

「貴様ら……」

 

「俺の友達がかき集めた精鋭達だ。情報の不利は、戦力の利で補うまでだ。合理的な戦法だろ?」

 

 そう言って死柄木は、ニタァ、とさらに笑う。

 カイネの服には、生徒のものと思われる血がこびりついていた。

 いやでも生徒を殺された事を悟った相澤は、絶望すると同時に、生徒をなぶり殺しにした連合と、何もできなかった己を憎んだ。

 だが、地獄はそれで終わりではなかった。

 

「ぐぁああぁああああ!!!」

 

「ほら、がんばれがんばれ。“個性”使うのやめると生徒が僕と弔おにぃに殺されちゃうよ?」

 

「先生…先生ぇ!!」

 

 カイネが相澤をいたぶっている間に、死柄木が生徒三人を殺そうとしたが、相澤は“個性”を使ってそれを阻止した。

 するとカイネは、ある悪魔的な思考に行き着き、あろう事かその場で相澤の右の眼球を抉り始めた。

『“個性”を使用したまま眼球を抉ったら、抉った方の眼球はどうなるのか』、『ヒーローは極限状態でどこまで人を守る為に身体を張れるのか』、そういった疑問を確かめたい、たったそれだけの理由だった。

 相澤の右眼を抉ったカイネが次は左眼を抉ろうとしたその時、緑谷が相澤を助けるため飛び出した。

 だがその時、オールマイトが現れた。

 

 

 

「もう大丈夫。私が来た」

 

「「「「オールマイトォォ!!!!!」」」」

 

「待ったよヒーロー、社会のゴミめ」

 

 オールマイトが現れると、生徒達は涙を流し、死柄木は不愉快そうな表情を浮かべる。

 オールマイトは、相澤と生徒達を救出すると、そのついででカイネを殴り飛ばした。

 そこからは、オールマイトとカイネの激戦が始まった。

 オールマイトとカイネは、驚異的な身体能力や戦闘力で互角の戦いを繰り広げた。

 カイネの衝撃波と殺人技術によって劣勢に追い込まれたオールマイトだったが、最後の力を振り絞り、最強に必殺技『UNITED STATES OF SMASH』でカイネを殴り飛ばした。

 オールマイトに殴り飛ばされたカイネは、USJの天井を突き破って吹き飛んでいき、宙に光る星となって遥か彼方へと消えていった。

 カイネを失った連合は、これ以上USJに長居するのは得策ではないと判断し、応援が到着する前に黒霧のワープゲートでUSJを去っていった。

 だがその代償として、オールマイトはカイネの爆音の破壊音波を至近距離で浴びた事により、“個性”を失い瀕死の重傷となった。

 この事件で生徒12名が死亡し、1人は拉致されて行方不明。

 生存が確認された7名のうち飯田天哉、麗日お茶子、轟焦凍、緑谷出久の4名は重傷を負った状態で救急搬送され、無傷だったのは青山優雅、蛙吹梅雨、峰田実の3名だけだった。

 

 この事件を経て、雄英は、殺された生徒の家族や世間から大バッシングを浴び、生き残った生徒も肩身の狭い思いをする事となった。

 生き残った生徒は、殺された生徒の葬儀に参列した。

 A組だけでなく、B組の生徒の保護者も、雄英に対して不信感を抱き、USJ事件があったその日にB組の生徒の保護者が自分の子供を強制的に自主退学させ、B組からも何名かの生徒が去っていった。

 USJ事件の翌日は休校となり、生徒のメンタルケアや社会情勢などの観点から、ヒーロー科の授業の再開は5月以降となった。

 本来なら、この後雄英体育祭や林間合宿、文化祭などの行事があるはずだったが、殺された生徒の家族からの非難を無視して強行する事は出来なかったようで、それらのイベントは行わない運びとなった。

 オールフォーワンをも超える可能性を持った(ヴィラン)を撃退したオールマイトだったが、その代償はあまりにも大きかった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 USJでの戦闘の後、連合のアジトでは。

 死柄木達は、行方不明になったカイネを探していた。

 

「おい、居場所はまだ掴めないのか?」

 

「…ダメですね。追えません」

 

「何だ役立たずじゃねえかお前」

 

「死にたいらしいですね」

 

 衛星でカイネの居場所を探っているシエスタに荼毘が悪態をつくと、シエスタが殺気を放つ。

 死柄木は、二人の間に入って落ち着かせると、今後の方針を話す。

 

「さっさと居場所突き止めて連れ戻すぞ。カイネがヒーローに渡るって事は、俺達にとって取り返しのつかない損害になる」

 

「…だったら、この場は俺に任せてくれないか?」

 

 死柄木が今後の方針を話すと、零が袖を捲りながら前に出てくる。

 零の袖からは、鼠がぼとぼとと大量に湧き出ていた。

 零の袖から這い出てきた鼠は、街中に散っていく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃カイネは、腹の虫を鳴らしながら路地裏をひたすら歩いていた。

 だがオールマイトとの戦いでエネルギーを全て使い果たしたせいか、うまく歩けずに力尽きる。

 どこかに向かって歩いていたカイネは、とうとう地面に倒れる。

 カイネが朦朧とする意識の中、それでも前に進もうとしていると、少年の声が聴こえてくる。

 

「…なあ、あんた。大丈夫か?」

 

 少年が声をかけると、カイネは何とか声を絞り出す。

 

「う…うぅ…おなか……へった………」

 

 その言葉を最後に、カイネは力尽きた。

 カイネが最後に見たのは、青紫髪の背の高い少年の顔だった。

 

 

 

「はふっ、はぁふっ、ぁむっ」

 

 その後カイネは、心操人使という少年の家に連れられ、食事をご馳走になった。

 ホワイトシチューやローストチキンなどの豪華な食事が並び、カイネがそれらをがっついた。

 カイネが美味しそうに料理を食べていると、心操の両親は微笑ましそうに見つめる。

 

「気持ちいい食べっぷりね。おばさん嬉しいわぁ」

 

「壊音ちゃん。ウチの妻の手料理は美味しいだろう?」

 

「はい! 是非ともレシピ教えてほしいくらいです!」

 

「あらそう?」

 

 カイネが目を輝かせながら言うと、心操の母親の人美は嬉しそうに笑う。

 食事を終えた後、カイネが自分の皿を洗い終えてから帰り支度を整えると、心操がカイネに声をかける。

 

「母さん、すごい喜んでたよ。お客さんに飯出すの久々だったから」

 

「…そっか」

 

「……良かった、元気になって」

 

 心操は、回復したカイネを見て安堵の表情を浮かべる。

 カイネは、自分を心配してくれている心操の顔を見て、ほんのりと頬を赤らめる。

 その瞬間、カイネの世界が一瞬にして変わった。

 色の無い世界が一瞬で色付き、止まっていた時間が動き出した。

 カイネは、とある結論に行き着いた。

 これが運命だったのだと。

 

「ありがとう」

 

「え、何が?」

 

「何の素性もわからない僕をここに匿って、あたたかいご飯をくれて。君は本当にヒーローみたいな人だね」

 

「いや、ヒーローって…そんな大袈裟な……つーか、俺はそのヒーローの登竜門で躓いたし…」

 

「そんなの気にする事ないよ! 僕にとっては、僕にあたたかいご飯と寝床をくれた君が最高のヒーローなんだよ?」

 

「……!」

 

 カイネが心操の手を取って微笑みかけると、心操は僅かに目を見開いて頬を赤らめる。

 どうやら自分の事を本気でヒーローとして慕うカイネに対し、心操も少しばかり心を動かされたようだ。

 心操は、帰り支度をするカイネに対し、首を手で押さえながら話しかける。

 

「…あのさ」

 

「何?」

 

「……その、もしまだ本調子じゃないなら、ここに泊まっていっていいからな」

 

 心操は、頬を微かに染めながらカイネに言った。

 するとカイネも、頬を染めて満面の笑みを浮かべながら伝えた。

 

「えへへ、ひー君は本当にどこまでも僕のヒーローだね。でも今日は大丈夫。じゃあね、僕もう行かなきゃ」

 

「そっか…もう行っちゃうのか」

 

「うん。お迎え来てるし」

 

 心操が少し寂しそうな表情を浮かべると、カイネは頬を掻きながら答える。

 心操の家族に玄関まで見送られたカイネは、深々と頭を下げる。

 

「今日は本当にありがとうございました。一飯のご恩は一生忘れません」

 

「いいのよ、壊音ちゃんならいつでも大歓迎よ。あ、そうだ」

 

 人美は、すすすっとカイネに近づくと、カイネの耳元でこっそり囁く。

 

「もし壊音ちゃんが良かったらなんだけど…ウチにお嫁に来てくれない?」

 

「へっ!?」

 

「とっても優しくて親想いの良い子なのよ。でもこの子、女の子を家に連れてきた事なかったから…きっとこれも何かの縁だと思うの。人使はあなたの事気に入ってるみたいだし、壊音ちゃんも人使の事、嫌いじゃないんでしょう?」

 

「な、何言ってんだよ母さん! 俺は別にそんな…」

 

 人美がやたらと一人息子をカイネとくっつけようと根回しを図ると、心操は顔を赤くして人美を止めようとする。

 頬を染めていたカイネだったが、咳払いをして微笑むと、人美に手を差し出しながら言った。

 

「お気持ちは嬉しいのですが、生憎色恋には疎い性分でして。それに、近々ここを離れなければならないので」

 

「あらやだ、ごめんなさいね。私ったら早とちりしちゃって…だったら、せめてこの子と…人使とお友達でいてくれる事はできないかしら?」

 

「それなら、是非」

 

 人美が言うと、カイネは営業スマイルを浮かべながら返事をした。

 カイネは、心操の実家を去ると、ちょうどアジトがある方角へと向かう。

 すると突然ワープゲートが現れ、零が中から現れる。

 

「やっと見つけた。ほれ、帰るぞ」

 

「はーい」

 

 零が声をかけると、カイネもワープゲートの中に足を突っ込む。

 カイネは、少しずつワープゲートの中に引き摺り込まれながらも、恍惚とした表情を浮かべながら口を開く。

 

「…ふふっ、かっこよかったなぁ。また会いたいなぁ。ひー君、ひー君、うふふふ…」

 

 

 

 

 




原作及び本編との違い

・ひーちゃん不在
梅干しに拾われたため。こちらの世界線での名前はカイネ。

・USJ前に開闢隊結成
死柄木が原作より有能なため、少数精鋭の人員をかき集める事ができた。
カイネをはじめとした開闢隊の活躍により、A組から死者が出る。

・マスキュラー&ムーンフィッシュ&マスタード連合入り
A組が連合に惨敗したため。

・影山(ヴィラン)
カイネちゃんに影響を受けたため。
(ヴィラン)名は『シエスタ』で、カイネちゃんを崇拝しているテロリスト。

・13号死亡
シエスタちゃんのせい。

・A組生徒大多数死亡
カイネちゃんの介入のせい。
ちなみにUSJで殺害された生徒と死因は以下の通り。
尾白…マスタードに地雷とガス喰らわされた挙句射殺された。
上鳴、八百万…カイネちゃんに上半身を吹き飛ばされて即死。
耳郎…トガちゃんに血う血うされて失血死。
切島…マスキュラーとの戦闘の末、力尽きて殴殺される。
口田…ムーンフィッシュに右腕を切断され、歯で腹を貫かれて死亡。
常闇…零に幻覚と不意打ちの初見殺しコンボを喰らい、斬殺される。
芦戸…シエスタちゃん特製強塩基剤で無力化させられた上でマグ姐に撲殺される。
砂藤…シエスタちゃんの機関銃で蜂の巣にされて即死。
障子…シエスタちゃんの機関銃で蜂の巣にされて即死。
瀬呂…シエスタちゃんのボウガンで肘を砕かれた上でスピナーに喉を掻っ切られて失血死。
葉隠…トガちゃんの投擲ナイフが首に直撃して失血死。

・かっちゃん拉致
原作および本編では林間合宿での出来事だったが、この世界線では前倒しになっている。

・オールマイト終了のお知らせ
カイネちゃんのせい。
カイネちゃんに軽くはないダメージを与える事には成功したものの、“個性”を破壊されて瀕死の重傷を負った。



ヴィランひなたのプロフィール

名前:壊音(カイネ)

性別:女

年齢:10歳

所属:(ヴィラン)連合

“個性”名:『共鳴』

出身校:学校行ってないよー

身長:111cm(初登場時点)→159cm(USJ時点)

体重:13kg(初登場時点)→50kg(USJ時点)

スリーサイズ:68/59/77(USJ時点)

足のサイズ:25.5cm

誕生日:6月2日

血液型:B型

出身地:東京都

趣味:好きな事して過ごすこと

特技:僕

好きなもの:自分、ひー君、おいしいもの

嫌いなもの:不自由

利き手:両手

視力:測ったことない

家族構成:不明

得意教科:知らない事を知るのは好き

苦手教科:学校行った事ないよ

性格:天真爛漫

戦闘スタイル:オールラウンダー



VILLAIN’S STATUS

パワー:S
スピード:S
テクニック:S
知力:A+
協調性:E



◯概要

本作の主人公。7年前とある研究施設に実験体として監禁されていた少女。その正体は、(ヴィラン)によってイレイザーヘッドこと相澤消太とプレゼントマイクこと山田ひざしの“個性”を複合させる目的で造られた人造人間。その後、オールフォーワンに拾われ、(ヴィラン)連合に所属している。



◯人物

黒髪と翠眼を持った、ボーイッシュで活発な美少女。
基本的に天真爛漫といった印象を受ける。明るくて人懐っこいが、自分の目的の為なら人を殺人や拷問も平気で行う残忍な性格。
一方で、オールフォーワンに英才教育を受けており、表社会に溶け込む方法も熟知しているため、仕事とは無関係の人間に対してはむしろ本編よりも礼儀正しい。
死賀が完成させた最高傑作であり、オールマイト並みのパワーと並外れた再生力を持ちながら人間としての機能を保っている超人。



◯容姿

ひなた’s ヘア
黒の癖っ毛ロング。16分音符の旗をイメージした触角がある。

ひなた’s アイ
水色に近いエメラルドグリーン。ぱっちりまんまるタレ目。ただしその瞳からは、人間らしい温かみなどは一切感じられない。

ひなた’s 顔
色白童顔。美人というより可愛い系だが、血色が悪く、不気味。ほっぺが柔らかい。意外と感情豊か。

ひなた’s 口
よく食ってよく喋る。唇は薄め。

ひなた’s 耳
メチャクチャ良い。右側が欠けている。

ひなた’s 全身
ザ・中肉中背。本編よりも背が高く、心なしか少しだけ男性的。

ひなた’s 胸
控えめ。右側にホクロがある。

ひなた’s 脚
健脚。

ひなた’s ファッション
ボーイッシュ系を好むが、フェミニン系もたまに着る。
ホットパンツやキュロットを好んで履く。



◯コスチューム

黒を基調としたコスチューム。上はノースリーブのロングコート。コートの前面には金のボタンが付いており、裾の裾部分に白い五線譜(きらきら星変奏曲)が描かれている。下は白いホットパンツ。
肩を出したタイプの袖と黒い革手袋を着用。
靴は、特殊合金を仕込んだ黒いロングブーツ。



◯“個性”

『共鳴』
『抹消』と『ヴォイス』の複合“個性”。
“個性”を破壊する性質を持った特殊な衝撃波を声として放つ事ができる。
対象の“個性”因子に声をぶつける事で強制的に共鳴現象を引き起こし、“個性”やそれに準ずる身体機能を一時的に麻痺、或いは完全に破壊し再起不能にする。
“個性”因子だけでなく、“個性”で生み出された物質をも分子レベルで崩壊させる。
『抹消』とは違い、異形型や常時発動型の“個性”にも有効。
“個性”発動中は髪が逆立ち、瞳がエメラルドグリーンをベースにした構造色に光る。



◯余談

この世界線では、志賀の実験が完成しているため、“個性”の成長に肉体の成長が妨げられる事も無く、本編より背が高くなっている。
ただし、改造手術の過程で生殖能力が失われているため、本編よりも女性らしさは失われている。
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