抹消ヴォイスのヒーローアカデミア【番外編】   作:M.T.

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IF ひなた in 普通科

「不合格……かぁ」

 

 ひなたは、雄英からのヒーロー科の不合格通知を見て、目に涙を浮かべていた。

 ひなたは、ヒーロー科の入試に落ちてしまった。

 運悪く頭の悪い受験生と同じ会場になり、その受験生の放った攻撃によって倒壊したビルの下敷きとなってしまい、試験時間中ほとんど気を失っていたのだ。

 他の受験生を庇って下敷きになったので、一応レスキューポイントは加算されていたが、流石に試験時間の9割意識がなかった受験生を合格させるのは厳しいという判断だったのか、ヒーロー科は不合格となってしまった。

 ひなたが唇を震わせて泣いていると、相澤が声をかける。

 

「ひなた」

 

「…わかってる。落ち込んでる暇があるなら、どうすればいいのか考えろ、だったよね。大丈夫だよ、お父さん。どんな手を使ってでも絶対ヒーロー科に編入して、誰よりも立派なヒーローになってやる」

 

 ひなたは、涙を拭いながら、力強い声でハッキリと言った。

 相澤は、ひなたの誰よりも先を見据えたその目を見て、心配は無用だったと考え直す。

 今更入試の結果を覆す事はできない。

 だが、ひなたなら絶対にヒーロー科に編入してくるはずだ、相澤はそう信じていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 数日後、入学式の日。

 ひなたは、自分のクラスであるC組の教室を探していた。

 

「えっと、C組、C組…」

 

「C組の教室探してる?」

 

 唐突に背後から声をかけられる。

 振り向くと、入試でひなたの受験票を拾った背の高い少年が立っていた。

 少年の顔を見るなり、ひなたは目を丸くして少年を指差して言い放つ。

 

「あっ! そのモテそうなツラは! 受験票の人!!」

 

「覚え方」

 

 ひなたが言うと、少年は呆れた表情を浮かべながらツッコミを入れる。

 若干抜けているところがありそうなひなたを見て、放っておけなくなったのか、少年はひなたについていってやる事にした。

 

「俺、同じクラスだから。一緒に行こうぜ」

 

「あ、うん! あっと…僕、相澤ひなただよ。よろしくね」

 

「俺、心操人使。好きに呼んでくれていいよ」

 

「うん! じゃあひー君だ!」

 

「ひ、ひー君?」

 

「うん! 人使くんだからひー君! カアイイでしょ! …あ、ごめん嫌だった?」

 

「嫌じゃないけど」

 

 ひなたがパァッと明るい笑みを浮かべながら話しかけると、心操は若干戸惑った様子で答える。

 心操は、洗脳という強力な“個性”を持っていたが、その“個性”故に人から避けられ、中学校ではひなたのように明るく声をかけてくれる友達など一人もいなかった。

 今は明るく話しかけてくれるひなただが、自分の“個性”を知ったらどうせ中学の頃のクラスメイトと同じになる、心操は自虐気味にそう自分に言い聞かせた。

 その後二人は、一緒にC組の教室に入った。

 だがその時、ひなたはうっかり手が滑って『スパァン!!』と勢いよく扉を開けてしまう。

 他の生徒から見られている事に気がついたひなたは、自分でも顔が熱くなるのを感じながら、クラスメイト達に声をかける。

 

「あ…ごめんなさーい」

 

 誤って扉を勢いよく開けてしまったひなたは、恥ずかしそうにそそくさと自分の席に座った。

 クラスメイト達が教室で雑談をしていると、宇宙服のようなコスチュームを着たヒーロー、13号が生徒名簿を持って教室に入ってくる。

 

「皆さん、席につきましたね。もうご存知の人もいると思いますが、僕はスペースヒーロー『13号』。皆さんの担任を務める事になりました。よろしくお願いしますね!」

 

 13号が自己紹介をすると、普通科の生徒達は騒然とする。

 雄英はヒーローが教師をするとは聞いていたが、自分達普通科の担任もプロヒーローが請け負うという話は聞いていなかった。

 そんな中ひなたは、パァァッと表情を明るくし、目を宝石のように輝かせながら触角をピコピコさせていた。

 一人だけ温度差が違うひなたに対し、他のクラスメイトは困惑した表情を見せる。

 そんな中、ひなたの隣の席の黒髪ボブヘアーの女子生徒は、頬杖をついてひなたの方を眺めていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、ひなた達は体育館で入学式を行った。

 だが、そこにA組の担任と生徒の姿はなかった。

 A組が辞退したと聞いて、ひなたのクラスメイトはざわざわと騒ぎ出す。

 

「あれ? ヒーロー科ってA組もあるよな?」

 

「まさか…」

 

 A組が入学式に来ていないとわかったひなたは、顔をひくつかせる。

 すると案の定、ブラドキングからアナウンスが入る。

 

『えー、大変申し訳ございませんが、ヒーロー科1年A組は担任の都合により入学式及びガイダンスを辞退する事になりました。ご了承ください』

 

(何しくさっとんじゃあのヒゲ面!!)

 

 ブラドキングが言うと、ひなたは頬をひくつかせイラっとした表情を浮かべる。

 A組だけ入学式を欠席した事に対して、他の組からは不満の声が上がり、中にはA組に敵意を抱く者も少なくはなかった。

 そんな中、A組の担任の相澤の娘であるひなたは、何も悪くないA組の生徒達に対して心の中で謝っていた。

 

(A組の皆…ウチの愚父がごめんね…ごめんね…!)

 

 その後、ひなた達は入学式を終え、ガイダンスがてら自己紹介をする事になった。

 自己紹介は出席番号順にする事になり、トップバッターは出席番号1番のひなただった。

 

「はいっ! 垢離里中学校出身、相澤ひなたです! “個性”は『共鳴』、声で相手の“個性”を消す事ができます! 僕は、オールマイトをも越えるNo.1ヒーローになりにここに来ました! 皆さん、よろしくお願いしますっ!」

 

 ひなたは、手を挙げてハキハキと自分の目標を語った。

 それを聞いたほとんどのクラスメイトは、『バカなのかこいつ』、と思った。

 普通科の生徒のほとんどは、最初からヒーローになる気がない者、もしくはヒーロー科の入試に落ちた者がほとんどだった。

 ヒーロー科の入試に落ちた者が、オールマイトを超えるNo.1ヒーローになるなど夢のまた夢。

 クラスメイト達の中でのひなたの第一印象は、『頭のおかしいバカ』だった。

 だがそんなひなたの事を、そのような目で見なかった生徒が二人だけいた。

 

「名部中学校出身、影山幽華です。“個性”は『否定』……まあわかりやすく言うとすごく影が薄いです。皆さんよろしくお願いしますね」

 

 一人は、影山と名乗る女子だ。

 黒髪を肩のあたりで切り揃えた大和撫子という言葉が似合う美少女で、声も決して小さくはないのだが、何故かすこぶる影が薄く、誰にも顔を覚えてもらえずに中学時代を過ごしたという。

 

「…心操人使です。“個性”は『洗脳』、声をかけて返事をした相手を操る事ができます。えっと、ヒ………」

 

 もう一人は、心操だ。

 心操が“個性”を言うと、教室は騒然とする。

 ある生徒は顔を向け合って何かを話し合い、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

 それを聞いた心操は、その後に言おうとしていた言葉を飲み込み、不貞腐れた表情を浮かべながら席に座ろうとする。

 だがその時、元々丸い目をさらに丸くして自分を見つめるひなたと目が合った。

 ひなたの目を見た心操は、何を考えたのか、席に座るのをやめて言葉を続けた。

 

「……俺も、ヒーローになりに来ました。よろしくお願いします」

 

 心操は、それだけ言って席に座る。

 その後も自己紹介は進んでいき、全員の自己紹介が終わった後、次の日の日程などを説明が終わってから下校となった。

 

 

 

「ねえっ!」

 

 放課後、心操が荷物を鞄にしまって帰ろうとすると、ひなたが声をかけてきた。

 

「ひー君、ヒーローになりに来たって言ったよね!」

 

 ひなたが声をかけてくると、心操はひなたの方を振り向く。

 ひなたは、パァッと満面の笑みを浮かべながら心操に声をかけた。

 

「僕と一緒だぁ! やっぱりね、何だか君とは仲良くなれそうな気がしたんだよ! ねえ、ちなみにひー君はどんなヒーローになりたいの? 僕はねぇ───…」

 

 ひなたは、キャッキャとはしゃぎながらヒーローの話をしようとする。

 すると心操は、ひなたを睨みながら、ずっと気になっていた事を尋ねる。

 

「…あんたさ、俺が怖くないの?」

 

「え?」

 

「普通、俺と話す奴は警戒するんだよ。いつ洗脳されるかわかったもんじゃねえからな………ああ、それともアレか? 俺に同情してんのか? あんたも、“個性”と試験の相性が悪くて落ちたってとこなんだろ。それで傷の舐め合いしようってか、ふざけんなよ! 馴れ合いなんか要らねえんだよ!」

 

 そう語る心操の表情には、恵まれた“個性”を得られなかった悔しさや惨めさ、それでもなお揺らぐ事のないヒーローへの憧れが宿っていた。

 そんな彼の表情を見ているうちに、ひなたの心は痛くなった。

 だが、彼の本心をわかっていたからこそ、黙ってはいられなかった。

 

「いい加減にしろ!!」

 

 ひなたは、バンっと机に両手をついて叫んだ。

 すると心操は、僅かに目を見開いてひなたの顔を見る。

 

「さっきから黙って聞いてりゃあよ、受験に落ちた!? そんな事くらいでウジウジするな! ヒーローになりにここに来たんじゃなかったのかよ!?」

 

 ひなたが怒鳴ると、心操はぐっと唇を噛み締める。

 ひなたは、とっくに心操の本心をわかっていた。

 ひなたは、心操の本心に語りかけるように、ぐっと拳を握りしめて言い放った。

 

「僕はNo.1ヒーローになりにここに来た。どんな手段を使っても、絶対にヒーロー科に編入して、そこで一番になってやる。僕は初めからそのつもりだったけど…君は違うの?」

 

 ひなたが言うと、心操は拳を握りしめる。

 心操も、本当はまだヒーローになる事を諦めていなかった。

 心操は、目に浮かんできた涙を拭いながら、自分の思いを語った。

 

「……クソッ、そんな風に焚き付けられたら、諦められるものも諦められねえじゃねえかよ。入試じゃ躓いたけど、こっからだ。絶対ヒーロー科に編入して、誰よりも…お前よりも立派なヒーローになってやる」

 

 心操が本心を語ると、ひなたは僅かに目を見開く。

 そして笑顔を浮かべると、ひなたはくるっと踵を返して職員室へと向かう。

 

「よし、じゃあヒーロー科のカリキュラム取ってくる」

 

「待て待て待て待て」

 

 ひなたがカリキュラムを取りに行こうとすると、心操がひなたの腕を掴んで止める。

 

「いや、そんな出前取る感覚で取りに行こうとするなよ。っていうかまずどうやって手に入れるんだよ?」

 

「ああ、言ってなかったっけ。A組の担任が僕のお父さんなの。まあお父さんがダメだったら、お父さんの仕事の関係でプロヒーローの連絡先何人か知ってるし、その中には雄英出身の人もいるから、当時の授業を再現してもらえないか頼み込んでみるよ」

 

 ひなたがしれっと言うと、心操は呆然とする。

 自分もヒーロー科に編入するつもりではいたが、ひなたがそこまでして編入するつもりだったというのは流石に想定外だった。

 ひなたがダメ元でヒーロー科のカリキュラムを見せてもらえないか頼んでみたが、情報漏洩に繋がるとの事で教えてもらえなかったので、仕方なく知り合いのヒーロー科の先輩やOBのプロヒーローからカリキュラムを聞いて自分なりにヒーロー科の時間割を再現した。

 当然、普通科は午後も必須教科の授業があり、訓練の時間を取れなかったので、ひなたの独学でのヒーロー基礎学の授業は放課後だ。

 ヒーロー基礎学の座学は相澤が高1の頃の教科書を借りて独学で勉強し、演習も何とか自分なりにやれる事をやった。

 戦闘訓練の授業は普段の相澤や知り合いのプロヒーローからの指導で何とかなったが、救助訓練の授業は自分では再現する事が難しかったため、担任の13号の手を借りる事にした。

 

「救助訓練の補習を?」

 

「はい! 戦闘訓練はおと…相澤先生にご指導いただいていたので何とかなると思うんですけど、救助訓練はどうしても先生方のお力を借りる必要があるので…お忙しいところ申し訳ありませんが、何とかお時間いただけないでしょうか?」

 

「お願いします」

 

 ひなたと心操は、13号に事情を話した。

 ヒーロー科に編入した後遅れをとらないよう放課後ヒーロー科の授業を自分達で再現した授業を実施している事、そして救助訓練も遅れを取りたくないので救助訓練の補講を開講してほしい事を相談し、頭を下げて頼み込んだ。

 すると13号は、二つ返事で二人の相談を了承した。

 

「そういう事なら、もちろんやりましょう! 毎週火曜日に補講の時間を設けるので、是非来て下さい!」

 

「でも、迷惑じゃありませんか? ヒーロー科の授業もあるのに…」

 

「人助けをするのがヒーローの仕事ですから! それに、君達が相談に来てくれて僕は嬉しい。せっかく目の前にチャンスがあるのに諦めてしまう人が多い中、君達は誰よりも先を見て行動をしている。君達ならきっと、素敵なヒーローになれると思いますよ!」

 

 13号は、ヒーロー科に編入してそこで終わりではなく、ヒーロー科に編入した後遅れを取らないよう必死に努力を重ねている二人に感激し、ヒーロー科の授業とは別に補講の時間を設けた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 入学式の2日後。

 13号は、ホームルームの時間に生徒達に今日の予定を話す。

 

「今日は皆さんに、学級委員長を決めてもらいます。やりたい人は挙手を!」

 

「はい! はいはいはい! 委員長! それやりたいです僕!!」

 

「俺もやりたいです」

 

 13号が言うと、ひなたと心操が真っ先に手を挙げた。

 普通科では委員長の押し付け合いは毎年恒例のはずだが、ヒーローの精神を持つ二人は率先してクラスのリーダーをやりたがった。

 結局、他に誰も立候補者がいなかったので自動的に二人が委員長と副委員長をやる事になり、ジャンケンでひなたが委員長に、心操が副委員長になった。

 

「やったー!!」

 

「クッソ、パー出しときゃ良かった」

 

 

 

「………」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 入学から1週間後の放課後、ひなたは、『ほんの戯れ』と称していつも通り相澤との組み手をしたのだが、地力をつける為に隣で筋トレをしていた心操は、あまりのレベルの違いに驚かされる事となった。

 ひなたと相澤は、常人ではとてもではないが目で追い切れないスピードで練習試合をしていた。

 

「まだまだ踏み込みが甘いな。もっと身体の軸を安定させろ」

 

「っはい!」

 

 ひなたが蹴りを入れると、相澤はそれを軽々と受け止め、ひなたにアドバイスをする。

 心操の目の前で繰り広げられていたのは、どう見ても戦闘の達人同士の試合だ。

 心操自身少し強くなったのと、雄英のヒーロー科に合格した先輩がたまたま身近にいたからこそ理解できた。

 今のひなたは、当時の先輩より数倍強い。

 ひなたの実力であれば、たとえ“個性”が入試と相性が悪くとも余裕で合格できていたはずだ。

 心操は、思わず目を見開いてポツリと呟く。

 

「これがヒーロー科に落ちるって…どういう事だよ…?」

 

 その日の訓練が終わった後、二人は一緒に下駄箱まで行った。

 ひなたは、笑顔で心操に話しかける。

 

「やー、まだまだ弱っちいね、僕!」

 

 ひなたが話しかけると、心操は言おうかどうしようか迷いつつも、ひなたに質問する。

 

「………今更だけどひなたさ、何でヒーロー科の入試落ちたの? お前なら“個性”使わなくても受かってただろ?」

 

「ああ、実はね…」

 

 ひなたは、自分が落ちた理由を心操に話した。

 すると心操は、呆然とした表情を浮かべ、思わず声を漏らす。

 

「…………は?」

 

 ひなたが語った真実は、心操の予想を容易く裏切った。

 受験会場に平気で人に危害を加える愚かな受験生がいた事、その受験生の攻撃に巻き込まれて怪我をした他の受験生を庇って試験時間中ずっと瓦礫の中に生き埋めになってしまい、誰にも救助してもらえないまま試験が終了してしまった事、他の受験生を庇った分のレスキューポイントでは、僅かに合格点に至らなかった事。

 それを知った心操は、自分の事のように憤った。

 

「え、いや、それはどう考えてもそのバカとそういうバカをすぐ追い出さなかった学校側の落ち度だろ。抗議しに行かなかったのか?」

 

「油断して巻き込まれて気絶した僕が悪い。実戦だったら、巻き込まれた時点で僕はヒーローじゃなくて要救助者になってた。落とされても仕方ないよ」

 

 心操が尋ねると、ひなたは首を横に振った。

 ひなたの話を聞いた心操は、悔しそうに拳を握りしめる。

 本当は、ひなたのような人間こそヒーロー科に行くべきだったのだ。

 誰よりも超えたいと思っている相手が、たった一人の馬鹿のせいでその努力と才能を踏み躙られた事が許せなかった。

 

「…俺、決めたぞひなた。俺も今度の体育祭、優勝を狙いに行く」

 

「ひー君…」

 

「それでさ、日本中に、いや…世界中に思い知らせてやるんだよ。逃がした魚がどんなにデカかったかをな」

 

 心操は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら言った。

 するとひなたも、不敵な笑みを浮かべる。

 

「…それ、いいね」

 

 二人が話していた、その時だった。

 

「面白そうですね、その話。是非とも私にも協力させてくださいな」

 

 物陰に隠れて話を聞いていた影山が、すぅっと姿を現す。

 するとひなたは触角をピンと立て、心操は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「幽華ちゃん!」

 

「げ…影山」

 

「あら、私の事を覚えている人がいたとは」

 

「そりゃああんな事して記憶に残らない方がおかしいだろ」

 

 心操が露骨に嫌そうな顔をすると、影山はそれを面白がるようにクスクス笑う。

 状況が理解できていないひなたは、二人を交互に見る。

 

「え、何? 知り合い?」

 

「中学一緒だったんだよ。こいつ、入試で他の受験生攻撃して不合格になったんだ」

 

「え……」

 

「待って下さい。それには訳があったんです。まあ話せば長くなりますが…それに今は反省して真面目に模範生やってるじゃないですか」

 

 そう言って影山は、どうして他の受験生を攻撃するなどといった凶行に走ったのかを説明した。

 影山は、“個性”のせいで生まれてからずっと実の両親以外に無視され続けてきた事、縋る思いでヒーロー科を受験したが、受験中も無視されてとうとう今まで溜め続けてきたものが溢れてしまった事、あの時はどうかしていて、そのまま(ヴィラン)として生きる事も一度は考えた事、全てを話した。

 影山は、涙を流しながら語った。

 

「もう我慢の限界だったんです…! それでついカッとなって…今思えば、何て馬鹿な事をしてしまったの…!」

 

「…………」

 

 影山が泣きながら語ると、心操は顔を引き攣らせる。

 心操は、影山の本性を知っていた。

 影山は、ひなたの同情を誘って取り入ろうとしていた。

 影山の話は、ほとんどが真実だったが、そこにはかなり影山の主観や脚色が混じっており、ひなたの同情を誘おうという意図が見え見えだった。

 そうでなくとも、どんな理由があろうと入試で他の受験生を攻撃するなど論外だという心操の考えは揺るがなかった。

 だが影山の話を聞いたひなたは、ボロボロと涙を流しており、影山にひしっと抱きついていた。

 

「つらかったんだね、幽華ちゃん…皆に無視されて、ずっと燻り続けてたんだよね…」

 

「えっ」

 

「僕は幽華ちゃんの事、ちゃんと見えてるからね…!」

 

「えっ」

 

 すっかり影山の話に絆されたひなたは、影山に抱きついて泣いていた。

 どう考えても同情を誘おうとしているようにしか思えない話を聞いて泣いているひなたに対し、心操は困惑していた。

 だが次の瞬間、影山の元クラスメイトだった心操ですら予測していなかった事が起こる。

 

「…あれ、何これ…止まらない…泣きたいわけじゃないのに…うっ、うぅっ…!」

 

 影山は、どういうわけか、今度こそ嘘泣きではなく本当に泣き始めた。

 ひなたの同情を誘うつもりで誇張した話をしたが、ひなたの優しさに触れた影山の心は温かく溶かされ、逆に影山の方がひなたに絆されていた。

 

「相澤さん…」

 

「ひなたでいいよ…!」

 

「ひなたちゃん…私…!」

 

 ひなたと影山は、ひしっと抱き合って涙が枯れるまで泣いた。

 この一件で、ひなたと影山の絆はより一層深まった。

 だが女子同士で抱き合ってわんわんと泣いている中、完全に置いてけぼりを喰らっている男が一人いた。

 

「えぇ──ー…」

 

 抱き合って泣いている二人を見て、心操は困惑していた。

 そして思った。

『こいつら下駄箱の前で何をやっているんだ』と。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 翌日。

 ひなたは、普通科の士気を高めるため、クラスメイトを集めて演説をした。

 

「ほら、皆頑張ろうよ! 今度の体育祭で良い結果出せば、ヒーロー科に編入できるチャンスなんだよ!?」

 

「……委員長。いいよ、俺らの事なんか気にしなくて」

 

「運が悪かっただけの君らと、落ちるべくして落ちた僕らとじゃ全然住む世界が違うんだよ…頼むから、もう放っておいてくれよ」

 

「私らなんてどうせ落ちこぼれだし、今更頑張ったって誰も見ちゃくれないよ…」

 

 クラスメイト達が悲観的な事を言うと、ひなたは悲しそうな表情を浮かべながら首を横に振る。

 クラスメイト達は、とっくに気がついていた。

 ひなたと心操は、運悪くここに来てしまっただけで本来はヒーロー科にいるべき人間であり、本当にヒーローの素質が無くてここにいる自分達とは次元が違う。

 普通科の生徒のほとんどは、そう思っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

「猫の手手助けやってくる!!」

 

「どこからともなくやって来る…」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

 休日、ひなたはクラスメイトを連れてプッシーキャッツの私有地を訪れた。

 クラスメイト達の実力を分析したところ、放課後の訓練だけでは足りないと判断したので、プッシーキャッツに協力してもらいクラスメイト達の地力を上げる事にしたのだ。

 ひなたが小さい頃からの付き合いだったプッシーキャッツは、二つ返事でひなたの要求を受け入れ、休日は普通科の生徒達のトレーニングに付き合ってくれる事になった。

 そして、ここにいるのはひなた達C組の生徒だけではなく、D組やE組の生徒も来ていた。

 だが、半数以上の生徒はひなたの呼びかけに応じず、一応顔だけは出した生徒も半数以上は帰っていった。

 

「…付き合ってられっかよ」

 

「ウチも帰る」

 

 訓練の内容を聞いて馬鹿馬鹿しくなった普通科の生徒達は、次々と帰り支度をした。

 ぞろぞろと帰っていく生徒達を、マンダレイが引き止めようとする。

 

「あっ、ちょっと皆!」

 

「放っておけ。去る者は追わん」

 

 虎は、腕を組んだまま普通科の生徒達の方を振り向くと、鬼神の如きオーラを放ちながら普通科の生徒達を脅す。

 

「いいか、貴様らはただでさえ遅れを取っているのだ。故に、ヒーロー科に追いつき追い越す為には()()()()()を使う。我ーズブートキャンプが終わる頃には、貴様らは二本足で立てなくなっている事だろう。それでもヒーローになりたい者はここに残るがいい」

 

 虎がわざと脅すように言うと、ほとんどの生徒は怖気付き、慌てて帰り支度をする。

 その場に残ったのは、普通科の生徒120人中たったの13人だった。

 

「残ったのはこれだけか。いいだろう。みっちりいじめ倒してやるから覚悟しておけ……」

 

(((この人だけ性別もジャンルも違うんだよなぁ)))

 

 虎が『ゴゴゴゴ…』という効果音が聞こえてきそうな鋭い視線で睨むと、ひなた達は心の中でツッコミを入れる。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして体育祭2週間前。

 

「行くぞ、ひなた」

 

「本当にやるの…?」

 

「当たり前だろ」

 

 心操はひなたを引っ張っていき、A組の教室に向かった。

 A組とB組の教室の前には、ヒーロー科の視察に来た他科の生徒達が何人か来ていた。

 聞いた話では、他科の生徒がヒーロー科を視察しに行くのは毎年恒例らしい。

 だが、心操とひなたは、敵情視察をする気などさらさら無かった。

 

「敵情視察だろ。意味ねえからどけ、モブ共」

 

 金髪ツンツンヘアーの男子生徒、爆豪が悪態をついてくると、すかさず心操が反論する。

 

「どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」

 

「ああ!?」

 

 心操の挑発に爆豪がキレる中、他のA組は勢いよく首をブンブン横に振っていた。

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ。敵情視察? 少なくとも俺とこいつは、調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」

 

 心操がそう言うと、ひなたも深々とA組に頭を下げながら宣戦布告した。

 

「言っておきますけど、僕達本気です。何なら遠慮せず優勝狙いに行くんで、そのつもりでよろしくお願いします」

 

(((この人達すごい大胆不敵だ…!!)))

 

 心操とひなたが堂々と宣戦布告すると、A組は心の中でツッコミを入れる。

 二人はその後、B組にも宣戦布告をしに行き、用事が済むと帰り支度をして早速プッシーキャッツ達の別荘に向かった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 体育祭前日。

 この日まで残っていた普通科の生徒は、ひなた、心操、影山、そしてD組の女子生徒(さかき)(ひいらぎ)、D組の男子生徒活俣(かつまた)託也(たくや)、E組の中性的な男子生徒霧崎(きりさき)表裏(ひょうり)、E組の背の高い男子生徒送田(そうだ)意織(いおり)、以上7名のみだった。

 それぞれの“個性”の詳細は、次のようなものとなっていた。

 

 

 

 C組 相澤ひなた

 “個性”『共鳴』

 特殊な声を操り、相手の“個性”を無効化する

 その他にも、声を衝撃波として放ち攻撃したり、エコーロケーションをしたりと多彩な使い方ができる

 ただし調整が難しい上に消耗しやすく、その性質上初動が大きくタイムラグがある

 

 C組 影山幽華

 “個性”『否定』

 自分及び無生物の存在を消し、他者からの認識を不可能にする

 概念系の“個性”に分類されるため、感知系の“個性”でも探知は不可能

 “個性”のせいか、影山自身生まれつき極端に影が薄い

 

 C組 心操人使

 “個性”『洗脳』

 問いかけに応じた相手の肉体を支配する

 衝撃を与えるか心操自身の意思で解除可能

 心操自身がその気でないと発動しない

 

 D組 榊柊

 “個性”『操緑』

 触れた植物を自在に操る

 

 D組 活俣託也

 “個性”『活性』

 半径3m以内にいる人物の“個性”を強化する

 

 E組 霧崎表裏

 “個性”『表裏』

 凶暴な第二の人格を身体に宿す

 第二の人格はストレスを溜め込んで凶暴化する性質があり、ストレスを放置していると本人の意思とは関係なく暴走する

 

 E組 送田意織

 “個性”『送心』

 一度行った事のある場所に自分の意識のみを飛ばす

 マンダレイのテレパスと似ているが、人を媒介しなくても意識を飛ばす事ができ、どちらかというと幽体離脱に近い

 

 

 

「最後まで残ったのはこの7人か…」

 

「ニャハハハ! 皆よく頑張ったにゃん!」

 

「特に霧崎! 貴様が最後まで残ると思わなかったぞ」

 

「はいっ、プッシーキャッツの皆さんのおかげです!」

 

「そうか…」

 

 虎が霧崎を褒めると、霧崎はピシッと背筋を伸ばしながら言い、虎は霧崎に背を向けつつも裏では感動のあまりじぃんと涙を流していた。

 プッシーキャッツの面々は、何だかんだでひなた達7人の成長を喜んでいた。

 プッシーキャッツの特訓を乗り越えた7人は、入学当初とは見違えるように強くなっていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 そして迎えた体育祭当日。

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ!? こいつらだろ!!? 300倍のえげつない倍率を勝ち抜き、登竜門に並び立つスーパールーキー共!! ヒーロー科だろぉぉ!?』

 

「えげつない倍率の自覚あったんかい」

 

「今更でしょ」

 

 プレゼントマイクが実況をする中、ひなたと心操がツッコミを入れる。

 生徒達が全員入場すると、選手宣誓が行われたのだが、A組首席の爆豪が盛大にやらかす。

 ひなたのクラスメイトは当然不満を漏らしたが、ひなたは爆豪の大胆不敵な態度に逆に燃え上がっていた。

 

「おおお、大胆不敵だあ…!」

 

 ひなたが燃え上がっている中、ミッドナイトが競技の発表をした。

 今年の第一競技は、スタジアムの外周を走る計11クラスでの総当たりレースだ。

 ミッドナイトの説明が終わると明らかに狭めに設計されたスタートゲートが開き、ゲート上部に設置されたランプが点滅を始める。

 

「スタ──────ト!!」

 

 ミッドナイトが掛け声を上げた瞬間、生徒達が一斉にゲートを通ろうとして押された。

 ひなたは、小柄な体格を活かして生徒達の間をすり抜け走っていく。

 そして、ヒーロー科の生徒のほとんどが通過し終えた頃、ひなたは大勝負を仕掛けた。

 

『YEAHHHHHHHHHHHHHH!!!!!』

 

 ひなたは、開始早々大音量で叫び、ヒーロー科の生徒達を一網打尽にした。

 まさかいきなり爆音攻撃に晒される上に“個性”を消されるとは思っていなかったヒーロー科は、完全に不意打ちを喰らって足を止めた。

 

「お先に失礼」

 

 ヒーロー科の生徒達が足を止めている間に、ひなた達普通科の上位7人は次々と駆け抜けていった。

 その後のロボインフェルノ、綱渡り、地雷原などの障害物もものともせず、ひなたは最前線を走っていく。

 障害物競走の結果は、ひなたが1位、心操が2位、影山が3位、A組の地味めの男子緑谷が4位、A組の推薦枠の男子轟が5位、爆豪が6位、霧崎が7位、榊が8位、送田が9位、活俣が10位という結果になった。

 第一競技は、上位10名のうち7名が普通科、そして上位3名をC組が独占。

 そしてヒーロー科から6名も脱落者が出るという、雄英の歴史に名を残す大革命で終わった。

 そして始まった、第二競技の騎馬戦。

 

「俺と組んでくれ、ひなた」

 

「ひなたちゃん私と組みましょう!」

 

「1位の人! 私と組みましょう!」

 

 1000万ポイントを手にしてしまったひなただったが、早くも心操と影山、そしてもう一人の女子に声をかけられた。

 声をかけてきたのは、サポート科の発目という女子だった。

 ひなたと組んでくれたのは、自分の作品の宣伝をしたいからだそうだ。

 騎馬が完成したひなたは、他の騎馬を見渡す。

 他の普通科の4人は、その4人で騎馬を組んでおり、霧崎が騎手で送田が前馬、そして榊と活俣がそれぞれ右馬と左馬を担当していた。

 

 そして騎馬戦がスタートする。

 ひなたは、自分の『声』と心操の『洗脳』と影山の『否定』、そして発目のサポートアイテムのハメ技コンボで次々とヒーロー科を罠に嵌めて鉢巻を奪っていく。

 普通科だけでほとんど全ての騎馬の鉢巻を奪った直後、時間切れとなる。

 

「1位相澤チーム!! 2位霧崎チーム!! 3位轟チーム!! 4位爆豪チーム!! 以上4チームが最終種目に進出だァ────ー!!!」

 

 騎馬戦は、ひなた達相澤チームがほとんど全てのポイントを掻っ攫い、圧倒的1位となった。

 最初から決勝で対決するつもりだった霧崎チームの騎馬は狙わなかったため生き残り2位となっており、3位と4位は直前の順位から判断し轟チームと爆豪チーム、以上4チームが決勝進出となった。

 だが、主役でないひなた達がハメ技で上位を独占していく事に対して怒りを覚えたヒーロー達がブーイングを浴びせてきた。

 

「その8人を今すぐ失格にしろ!!」

 

「汚ねえ手で勝ってそんなに嬉しいか!?」

 

「真剣勝負じゃ勝てないからって卑怯な手を使いやがって!!」

 

「体育祭を何だと思ってるんだ!!」

 

 ヒーロー達は、ハメ技で勝ち上がったひなた達にブーイングを浴びせた。

 すると相澤は、放送用の機器が並ぶテーブルをドンッと叩きながら地を這うような声を放つ。

 

『黙れ』

 

 相澤が低い声で言い放つと、ブーイングを浴びせたヒーロー達はビクッと肩を跳ね上がらせながら振り向く。

 相澤が放っていたのは、気が弱い者なら気を失ってしまいそうな程の気迫だった。

 

『お前らの方こそ、体育祭を何だと思ってやがる? ヒーロー科を引き立てる為のお遊戯会じゃねえんだぞ。こいつらの策がヒーロー科を上回った、たったそれだけの事だろうが。本気で勝とうとしているからこそ、手段なんて選んでられねえんだろ。ここにいる奴等がチャンスを掴む為にどれだけ牙を研いできたか、プロのくせにそんな事もわからねえのか?』

 

「っ………!」

 

『それでもここにいる選手を侮辱したいなら、今すぐここから出て行け』

 

 相澤が言い放つと、ブーイングを浴びせたヒーロー達は押し黙った。

 そして最終種目に出場する16人が決まった。

 

「というわけで、組はこうなりました!!」

 

 

 

 Aブロック

 第一試合 送田VS活俣

 第二試合 轟VS瀬呂

 第三試合 耳郎VS心操

 第四試合 飯田VS発目

 

 Bブロック

 第五試合 芦戸VS影山

 第六試合 相澤VS八百万

 第七試合 切島VS霧崎

 第八試合 榊VS爆豪

 

 

 

 競技場のセッティングが終わり、試合が始まった。

 

 第一試合は、かなり接戦だったが、ほとんど“無個性”状態の活俣を送田が体格差で追い詰め、送田の勝利。

 

 第二試合は、轟が醤油顔の男子瀬呂を速攻で氷漬けにし、轟の勝利となった。

 

 第三試合は、耳朶がイヤホンジャックになった女子耳郎がプラグを使って攻撃を仕掛けるが、心操は難なくそれを避け、洗脳を仕掛けて勝利。

 

 第四試合は、眼鏡の男子飯田が発目に嵌められ、ひなたに『アイテムを宣伝したいなら勝ち上がった方がいい』と吹き込まれた発目は、そのままサポートアイテムを使って飯田を場外に追いやり、発目の勝利。

 

 第五試合は、影山が全身ピンクの女子芦戸を翻弄し、影山の勝利。

 

 第六試合は、黒髪ポニーテールの女子八百万が武器を創造して応戦しようとしたが、ひなたが音波攻撃で八百万の『創造』を阻止し、一瞬で距離を詰めると掌底打ちで場外に突き飛ばした。

 だが思ったより強く打ってしまい、八百万がリングの外に転げ落ちてしまったため、ひなたは気まずそうな表情を浮かべた。

 

 第七試合は、赤髪の男子切島の『硬化』を、霧崎の鋭い爪が切り裂き、そのまま場外まで突き飛ばして霧崎の勝利。

 

 第八試合は、爆豪に対しほとんど“無個性”同然の榊がギリギリまで喰らいついたが、爆豪に爆破され続け体力が限界を迎えて敗退。爆豪の勝利。 

 

 

 

 二回戦。

 第一試合は、轟が送田を氷漬けにし、戦闘不能に追いやり轟の勝利。

 

 第二試合は、心操相手に発目が次々とサポートアイテムを繰り出し宣伝していくが、心操が対応している間にサポートアイテムを全部宣伝し終えたため、発目自ら満足してギブアップ。

 

 第三試合は、ひなたと影山が大接戦だったが、最終的にはひなたが僅かに影山を上回り、ひなたの勝利。

 

 第四試合は、爆豪が霧崎に容赦ない爆破を浴びせ、気絶するまで徹底的にねじ伏せて爆豪の勝利。

 

 

 

 そして準決勝。

 第一試合は、心操が左の炎を使わない轟を挑発したところ、轟が本気を出したが、ギリギリで心操の洗脳がかかり心操の勝利。

 心操のとっておきの秘策によって敗北した轟だったが、心操に心を救われたおかげか、試合が終わる頃にはスッキリした表情を浮かべていた。

 

 第二試合は、爆豪が持ち前のタフネスでひなたに容赦ない爆破を仕掛け追い詰めるが、初見殺しのひなたの“個性”への対策などできるはずもなく、ひなたの勝利。

 

 

 

 そして迎えた決勝戦。

 激闘を繰り広げたひなたと心操だったが、最後にはひなたが背負い投げで心操を場外に追い出し、ひなたの優勝となった。

 

 

 

『以上で全ての競技が終了! 今年度の雄英体育祭一年優勝はC組相澤ひなた!』

 

「「「ウオォオオオオオオ!!!」」」

 

 プレゼントマイクが締め括ると、ひなたは満面の笑みを浮かべて手を振った。

 すると観客席からは歓声が飛び交う。

 この日、体育祭に普通科が優勝するという、雄英の歴史に名を残す大革命が起こった。

 ひなたの優勝は、他の科の生徒達に大きな影響を与える事となり、これを機に本気でヒーロー科を目指す為に自ら虎の『我ーズブートキャンプ』を申し込む者が急増した。

 そして、決勝戦まで勝ち上がった普通科の影響力を無視できなくなった教師陣は、元々ヒーロー科に行く気が無かった影山を除く6名をヒーロー科に編入させる事にした。

 連休明けからヒーロー科への編入が決まったひなたと心操は、13号やクラスメイトから祝福を受けた。

 

「おめでとう、委員長、副委員長!」

 

「あんた達のおかげでやる気出た。うちらも追いつけるように、もう少しだけ頑張ってみるよ!」

 

「ありがとう、皆!」

 

 ひなたと心操は、クラスメイトが買ってくれた花束を受け取って笑顔を浮かべた。

 すると13号も、二人に声をかける。

 

「努力は裏切らない、君達はその言葉を身をもって証明してくれました。とても誇らしい事です! 僕はヒーロー科でも会う機会があると思うので、編入後もいつでも気軽に相談に来てくださいね!」

 

「「ありがとうございます、13号先生」」

 

 13号が言うと、二人は笑顔を浮かべながら礼を言った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして週末明け。

 A組の教室は、通夜のような空気となっていた。

 優勝と準優勝を普通科に掻っ攫われたからではない。

 今回、除籍になった生徒が3人も出たのだ。

 ヒーロー科は、除籍も当たり前の厳しい世界。

 それは皆覚悟していたが、せっかく仲良くなった友達が除籍になってしまったのは、やはり悲しい。

 いつも通りだったのは、マイペースな轟と言わずもがなな爆豪くらいだった。

 そんな中、相澤が教室に入ってきて生徒達に告げる。

 

「お前ら、いつまで通夜みてえな面してんだ。ヒーロー科に入ったからには、これくらいの事は覚悟していただろうに。いい加減切り替えろ」

 

「でもっ…!」

 

 相澤が冷たく言い放つと、うららかな女子麗日が反論しようとする。

 だが相澤は、麗日の反論を却下し、淡々と話を続ける。

 

「去っていった者の話より、今はこれからの話をしよう。突然ではあるが、今日からA組に編入生が3人入ってくる。入っておいで」

 

「「「はい」」」

 

 相澤が扉の外で待機している3人に向かって声をかけると、女子が2人、男子が1人入ってくる。

 その3人を見たA組は、思わず目を見開く。

 

「「「あ…!」」」

 

 入ってきたのは、体育祭の優勝者と準優勝者、そして最終種目で爆豪と戦った女子だった。

 ヒーロー科の制服を着た3人は、黒板の前に並び、自己紹介をした。

 

「元普通科1年C組所属、相澤ひなたです! よろしくお願いします!」

 

「同じく元C組所属、心操人使です。よろしく」

 

「元D組所属…榊柊です。よろしく…」

 

 A組に編入してきたのは、ひなたと心操、そしてライムグリーンのグラデーションがかかった白い髪を低めの位置でツインテールにした大人しめの女子の榊だった。

 ちなみに霧崎、活俣、送田の3人もヒーロー科に編入しており、彼等はB組に所属していた。

 除籍となった生徒と入れ替わりで入って来た編入生に、A組は戸惑いの表情を見せつつも、ヒーローなら努力してその席を勝ち取った者達を暖かく迎え入れるべきだと考え、通夜モードから切り替えて明るく3人を迎え入れた。

 午後のヒーロー基礎学の授業の着替えの時間、女子達は新しく入ってきたひなたと榊に声をかける。

 

「ひなたちゃん、柊ちゃん。体育祭、凄かったねぇ! 私麗日お茶子。よろしくね」

 

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。それと、わからない事があったら何でも聞いてね」

 

「ありがとう。えっと…麗日さん、梅雨…ちゃん?」

 

「わかった…じゃあ早速、聞きたい事がある」

 

 着替えの時間中の交流をきっかけに、ひなたと榊はA組の女子達と仲良くなった。

 そしてヒーロー基礎学の授業中。

 ひなた、心操、榊の三人は、“個性”や体術を駆使してヒーロー科の授業に喰らいついた。

 それを見た麗日と耳郎は、思わず驚く。

 

「えっ、3人とも凄っ!? 何でそんなに動けるん!?」

 

「ヒーロー科の授業受けてなかったんだよね…?」

 

「ん…でも、遅れとりたくなくて、独学で鍛えた」

 

「知り合いのプッシーキャッツの皆に鍛えてもらったんです」

 

 二人が尋ねると、榊とひなたが答える。

 すると、ひなたの話に興味を持った緑谷がずいっと近づいてくる。

 

「プッシーキャッツ…! 連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! 相澤さん、その話詳しく聞かせて貰ってもいいかな!?」

 

「てめぇ、今日入って来た奴にもそれやんのかよクソナードが!」

 

「かっちゃん…!」

 

「緑谷くん、爆豪くん…」

 

 緑谷がひなたの話に食いついてくると、爆豪が怒鳴り、ひなたが苦笑いを浮かべる。

 

「じゃあ、順番に話しますね」

 

 ひなたは、普通科にいた時にあった事をクラスメイトに話した。

 ひなたの話を聞いたクラスメイト達は、驚きを隠せない様子ですっかり話に聴き入っていた。

 

 その日から、ひなた達は、クラスメイト達のサポートによって新たな環境にもすぐに馴染んだ。

 来週に控える職場体験は、ひなたは4000件以上の指名を、心操は3000件以上の指名を、榊は200件以上の指名を受けており、ひなたはエンデヴァー事務所を、心操は指名を蹴ってイレイザーヘッドの元での職場体験を、榊はシンリンカムイ事務所を選択した。

 職場体験の後も、期末試験や合宿などのイベントを経て、ひなた達はすっかりA組に馴染んだ。

 合宿では(ヴィラン)の攻撃を受けたが、榊の“個性”がヒーロー科の危機を救った。

 夏休み中の仮免試験では、轟と爆豪以外は全員合格し、仮免取得を機にひなたは心操と交際を始める事となった。

 だが緑谷と爆豪は、仮免試験の後に喧嘩をした事で謹慎となってしまい、最初の授業は受けられずじまいだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして三日後。

 

「ご迷惑おかけしました!!!」

 

「デクくん、お勤めご苦労様!!」

 

「お勤めって…つか何息巻いてんの?」

 

 緑谷が謝ると麗日と耳郎が声をかけ、緑谷は飯田にも謝る。

 

「飯田くん!! ごめんね!!!」

 

「うむ…反省してくれればいいが…しかしどうした?」

 

「この3日間でついた差を取り戻すんだ!」

 

「あ、良いなそういうの好き俺!」

 

「ガッツだなデッくん!」

 

「ん…相変わらずだね」

 

 緑谷が鼻息を荒くして息巻くと、切島は負けじと燃え上がった。

 すると、相澤が扉から出て全員が席に着く。

 

「じゃ、緑谷も戻ったところで本格的にインターンの話をしていこう。入っておいで」

 

「ん?」

 

 相澤が呼び掛けると、前方の扉が開く。

 そして、三人の上級生が入ってきた。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか、直に経験している人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名────…通称ビッグ3の皆だ」

 

 

 

 

 




ひーちゃんの普通科送りによる原作及び本編との違い

・無自覚内通者のひーちゃんが普通科送りとなってしまった事で、(ヴィラン)連合がUSJに現れず、デク達が最初の成長フラグを失う
→体育祭時点の実力は原作の7割にギリギリ届く程度、本編の半分にギリギリ届く程度

・上記の理由でA組とB組の実力と注目度がトントンに。マイク先生のA組贔屓も無くなる
→物間もそんなにA組に興味がなく、『クラス皆で勝ちに行きたいね』程度の対抗心しかない。B組は原作より真面目に予選を通過しているため、A組インフレは起こらず

・ひーちゃん無双により普通科から7名予選通過者が出る
→その結果ヒーロー科からは6名予選脱落者が出た。A組からは青山、葉隠、上鳴、口田。B組からは吹出と黒色。

・ひーちゃん無双により普通科・サポート科連合の騎馬が二騎最終種目に進出
→デクチームは騎馬戦で脱落。デクチームのチーム構成は、発目out砂藤in。轟チームは上鳴out耳郎in。尾白は峰田チームに無事吸収済み。物間チームは、黒色out庄田in。小大チームは、吹出out鎌切in。鱗チームに角取in。

・ひーちゃん無双により決勝がひーひーカップルの争いに
→普通科が1位と2位を独占するという大革命に、例年以上にヒーロー達からの注目が集まり、校長はひなた達をヒーロー科に編入させざるを得なくなる。

・ひーちゃん無双により、相澤先生の中でのヒーロー科の最低ラインが心操達普通科の生徒になってしまい、例年通り除籍しまくりイカレイザーヘッドに大☆変☆身。
→青山、葉隠、峰田の三名がイカレイザーヘッドの餌食となる。青山と葉隠は成績不振、峰田は女子へのセクハラが不快すぎた事が除籍理由。

・ひーちゃん無双により、心操の編入時期が大幅に早まる。おまけに本作オリジナルキャラの柊ちゅわんが一緒にA組に編入。ちなみにひーちゃんは、編入した時は元々ヒーロー科にいたA組とは少し距離を感じているので、1学期の間はずっと敬語&苗字呼びです。

…こうして見ると、ひーちゃんの影響力ってメチャクチャデカいですね。
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