天駆ける神意 HEAVENLY MIND   作:家葉 テイク

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chapter02 『雲上学区』

「しかし……『雲上学区』だったか? お偉いさんの考えることは分かんねえな」

 

 

 3Dのモーションアクターのような廉価版駆動鎧(パワードスーツ)を取り外しながら、浜面は呑気に言う。

 

 

「巨大な航空機を幾つもジョイントさせながら飛行することで、上空五〇〇〇メートルに『新たな学区』を生み出すプロジェクト、だっけ? 結局、道楽だとは思うけどね」

 

「そもそも、燃料の問題とかどうすんだって感じだがよ」

 

 

 取り外した廉価版駆動鎧(パワードスーツ)を箱のような収納場所にしまい込みながら、浜面は言う。

 ムサくるしい工事現場は、いつの間にか浜面と同様に器具をしまい込んで仕事終わりと洒落込む作業員で溢れ返っていた。

 爽やかな疲れを漂わせる喧騒の中で、フレンダはゆるゆると首を横に振り、

 

 

「そこについては問題ないというか、結局、むしろそここそがこのプロジェクトの目玉って聞いてるけど」

 

 

 首をかしげる一般不良浜面に対し、テックに強い系美少女フレンダはカタログを読むような調子で説明する。

 

 

「HsRM-01、通称『フローリング』。こいつは雲の上を飛ぶことによって安定した太陽光発電を実現しているらしいわ」

 

「へえ。それじゃあ、夜はどっかに着陸してるってのか?」

 

「いいや。そもそも機体表面に刻まれた空力的な溝によって、飛行中は風力発電も行っているらしいわね。結局、再生可能エネルギー技術の粋を集めて作られた『半永久飛行』を実現した夢の機体って訳ね」

 

「はえー……」

 

 

 どこにでもいるアホな不良の浜面としては、この手の技術話にはただただ感心することしかできない。

 しかしフレンダは気にせずにさらに続けて、

 

 

「実際に『雲上学区』を形作っているのは複数の航空機な訳だから、どれか一機を地上に下ろすとかして物資を集めれば、外部とのインフラ構築も完璧。結局、このプロジェクトは本気で『飛行機で空に新たな学区を作る』っていうバカげた目的を実現させようとしてるって訳よ」

 

 

 ちょっと聞くだけでは荒唐無稽にしか聞こえない夢物語だが、実際に自分達が乗って作業をしているものがこれだと考えると一笑に付すこともできない。

 実際、そのプロジェクトを推し進める為に浜面のような労働者まで雇われているというのだから、いよいよもって上層部も本気ということだ。

 

 

「でもなぁ、こんな大掛かりなことするほど学園都市って土地不足なのかね? 言っちゃあなんだが、色々と余っている土地はある気がするぞ」

 

「さぁね。結局、本気で土地不足を解消したいってよりは、実験も兼ねてるって考えるべきじゃないの? 再生可能エネルギー技術だとか、長距離航空技術だとか、航空機同士のジョイントとか飛行中の整備とか、実験的な要素なんかいくらでもある気がするけど。あ、あと航空機自体のAI自動運転技術もか」

 

「……そうやって聞くと、なんか急に不安になってくるな」

 

「何? 浜面ってば車の自動運転とかでビビっちゃうタイプ?」

 

「色々実験要素がある代物に乗っかって上空五〇〇〇メートルを飛行している事実を改めて自覚して不安になってんだよ! 落ちたら死ぬじゃん! っつか基本的に俺は俺以外の運転に命を預けるのが嫌なの!」

 

「あー、浜面がいつも運転役してるのってそういう?」

 

「いや、それはシンプルに俺が一番下っ端だからだが……って何言わせんだよテメェ」

 

 

 ぷすす、と悪戯っぽく笑うフレンダに対して、浜面はこめかみに青筋を浮かべながらツッコミを入れる。

 

 

「まぁでも、結局細かいことはいいじゃない。『雲上学区』プロジェクト。工事自体がプロモーションを兼ねてるから、こうして私らもさっさと作業時間を終わらせられるんだし」

 

「工員は地上との『定期便』が来るまで自由時間なんだっけか? 明らかに『雲上学区』の宣伝って感じだよなぁ。『現場を作っている側からの声』っていう裏側を滲みださせた評判は、確かに宣伝効果がありそうだがよ」

 

「お陰で、私達はこうして作業もそこそこにオモシロSFスポットで観光ができるって訳よ!」

 

 

 そう言って、フレンダは両手を広げる。

 外がまだまだ明るいにも拘らずこうして早々に作業が終了しているのは、廉価版駆動鎧(パワードスーツ)によって作業スピードが爆速で進むのでスケジュールに余裕があるから──というのもあるが、それ以上に『作業員に観光させることが宣伝になる』という考えがあるからである。

 

 

「しかも、観光中に気付いたことをフィードバックして、『雲上学区』の正式リリースまでに改善する目的もあるらしいからな。この時間も給料は発生するときた。給金つきでバカンスってのは、かなり嬉しいオプションだぜ」

 

「結局、よくわかんないプロジェクトの意義とか考えても仕方がない訳よ。今はこのオイシイ話に全力で乗っかってりゃいいと思うけど?」

 

「…………違いねえな」

 

 

 現金無能力者(レベル0)どもは互いに頷き合って、『雲上学区』の観光を開始する。

 

 そもそも『雲上学区』とは、二〇機の『フローリング』と呼ばれる巨大航空機が連結されて構成されている居住空間である。

 『フローリング』は三角形のシルエットの全翼機だ。翼の下に居住空間となる機体本体が設置されている。機体本体同士がカーボンナノチューブ製のジョイント部品で連結されることで、一つの巨大な住空間が作り出されているのだ。

 そして『雲上学区』内は複数機体ごとに区画が分割されている。先頭に近い部分は学校区画、次に学生寮区画、続いて商業区画、最後に物流区画となっている。

 主に浜面達が楽しんで利用できそうなのは商業区画であり、此処は日用品を買う為の店の他に遊興用の施設なんかも揃っていた。ちなみに浜面達が先程まで作業していたのは『雲上学区』の最後部、物流区画である。

 商業地区の方はまだ工事中の箇所もあるが、おそらくは工事期間中もプレオープン期間とみているのか、幾つかの施設については既にオープンされていた。

 

 

「結局、どうしよっかなぁ~。せっかく初日だし、麦野たちにも『雲上学区』土産は渡したいわよね」

 

「……ってか、わざわざ一緒に行動する必要あるか?」

 

 

 浜面を引き連れて商業区画をうろちょろしているフレンダに、浜面は微妙な表情で問いかける。

 

 

「はぁ? アンタがいなかったら、結局私が買ったお土産は誰が持つのよ」

 

「俺は荷物持ちかよ……」

 

 

 げんなりとする浜面だが、このくらいは慣れっこでもある。悲しい慣れであった。

 

 

「まぁ別にいいけどよ。どこから行くんだ? 商業区画のラインナップとか全然知らねえんだけど、目当ての場所とかあんの?」

 

「ん? まぁ色々ね。商業区画にセブンスミストが『雲上学区』限定のショップを出店してたりしててさー」

 

「よくそんなもん調べてるな……」

 

「そりゃ、アンタ達が肉体労働してる間、私は暇だし」

 

「テメェ俺が必死こいて働いてる途中にお土産屋調べてたのか!?」

 

 

 憤慨する浜面だが、相手が美少女なので掴みかかる訳にもいかない。

 これでコイツが女装がめちゃくちゃ似合うだけの男なら取っ組み合いの喧嘩もできたのだが……と歯がゆく思う不良である。

 

 

「作業用に貸与されているパッド機器にマップ機能もあってね。一応テナントとか、作業状況みたいなのが展開されているって訳よ。ちなみにこの作業状況の最新化も私の仕事だから、仕事してないってのは言いがかりね」

 

「釈然としねえ……」

 

 

 歯噛みする浜面だが、一〇〇%居直られてしまうと言い返しづらい。すごすごと引き下がりながら荷物持ちの任を甘んじて受ける。

 あまりにも情けない男であった。

 

 

「……っつか、そんなマップ機能なんかあったのか。道理でさっきから歩き方に迷いがないと思ったぜ」

 

「まぁね。工事の管理と同じデータベースを使用しているのか、設備の裏側まで見れちゃうわよ。セキュリティ的にはちょっとどうかと思うけど」

 

「別に見られてもいいってことじゃねえの? むしろ技術情報の凄まじさをあえて外部に知らしめたいとかじゃねえ?」

 

「結局そこまで機械オタクじゃないわよ、私」

 

 

 そんなこんな言い合いながら、馬鹿二人は物流区画を出て商業区画へと足を踏み入れる。

 といっても、別段変化はない。カーボンナノチューブによって構成されている部分も内部は鉄板で補強されているので感覚としては機体部分と違いはないし、慣性系の制御によって揺れのようなものは一切ない。もっとも、このあたりはフィンスタビライザーによる『揺れない船』を始めとして、機体駆動の揺れを抑える技術は最近では珍しくもないのだが。

 

 

「さて、セブンスミストは、と……」

 

 

 タブレット機器を操作しながら歩いていたフレンダだったが、そこでふと足を止めた。

 カツカツという金属を踏む靴音が、前方から近づいて来たのだ。浜面が一歩前に出ると同時、通路の奥から足音の正体が小走りで現れた。

 フレンダと浜面がその人物の正体を注視する間もなく、足音の主は声を上げた。

 

 

「…………た、たすけて、ください…………」

 

 

 ──面倒事の足音も、同時に近づいて来た。

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