ようこそ!読者が紡ぐ実力至上主義の教室へ 作:海月
今回のお話は1万2000文字とかなり長いです。
5月1日を早く終わらせたくて、この長さになってしまいました。
近衛の選択……美紀の想い。
ライトな感じからヘビィな感じに突然変わっていますし、急なシリアスが入ってますが、楽しんでくださったら嬉しいです。
皆様お久しぶりです。少し小説投稿に疲れてしまい数日お休みをいただきました。かなり休めたので、今日明日には新話を投稿します。なう(2024/04/14 03:21:01)
※アンケート補足は後書きにて記す
堀北は全員が座り、面談を行える状態である事を確認し、口を開いた。
「ではまずは、候補者達には簡単な自己紹介をして貰おう。順番は最後に入室した近衛から席順に行って貰う。氏名、クラス、志望動機、長所、短所を簡潔に述べてくれ。では、始めてくれ。」
そう促された私は、一度軽く深呼吸した後、言われた通り自己紹介を始めた。
「私は1年Aクラスの近衛美雨と申します。長所は他者の意見を否定せず受け入れられるところで、これは短所にもなると考えています。私は他者の意見に流されやすい面があり、これについては自分の意見を持ちそれを他者に伝える事で対策し、改善していきたいと考えています。そして堀北会長が部活動説明会で堂々と自信を持って話す姿に憧れ、私も先輩の様な人間になりたいと思い、生徒会役員を志しました。本日は宜しくお願い致します。」
私の自己紹介が終わると堀北会長は頷きながら私を見つめる。そして次に一之瀬帆波が立ち上がった。
「私は一年Bクラスの一之瀬帆波です。志望動機は、生徒会役員になってこの学校をより活気づけていきたいと思ったからです。長所は誰とでも円滑にコミュニケーションが取れるところで、短所は優柔不断なところです。私は出来るだけ多くの人の意見を汲みたいと考えており、なかなか結論を出せない時があります。なので、この点については改善していきたいと思っています。本日は宜しくお願いします。」
一之瀬の自己紹介が終わり、次に立ち上がったのは葛城康平だ。
「私は一年Aクラスの葛城康平です。生徒会役員の志望動機は、この学校の風紀を正したいからです。学校では勉強以外にも心身を鍛える場が存在しますが、やはり学生の本分は勉強です。図書室や廊下で騒ぐ等、真面目に生活する生徒の邪魔をする生徒がいると、快適な学校生活は送れません。だから、風紀を正すため生徒会役員になって他の生徒を指導していきたいと思い、生徒会役員を志しました。長所は正義感が強いところで、短所は頑固なところです。たまに融通が利かないと言われる事もあるので、柔軟な思考が出来るよう励んでいきたいと思います。本日は宜しくお願い致します。」
葛城が自己紹介を終え、次は噂のDクラス御曹司の番だ。彼は立ち上がりもせず、足を組んで美脚をアピールするかのように品定めするかのような体制で話し始めた。
「私は1年年Dクラスの高円寺六助だ。理由はミスター・堀北に生徒会に所属すればプライベートポイントを支援するという提案をいただいたからさ。私の美しさをより輝かせる為にはより多くのポイントが必要なのだよ。長所はこの美しいボディ、そして優秀な頭脳だ。天才である私に短所などは存在しないのだよ。ハッハッハッ!」
(え、こんな態度でそんな理由で生徒会に入ろうとする人がいるの?!……世界は広いのね。)
よろしくとも言わずに彼は高笑いし、挑発的な笑みを生徒会役員達に向けている。橘は顔を顰め、堀北は真顔、南雲は新しいおもちゃを見つけた子供の様に不敵な笑みを浮かべていた。
「……では、今からそれぞれに幾つか質問をしていく。まず最初の質問は、君達がこの学校で行いたい事だ。……そうだな、一之瀬にまずは答えて貰おう。」
堀北に突然指名された一之瀬は一瞬目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻し柔らかな笑みを浮かべながら話し始めた。彼女の席は真ん中なので、席順で彼女が真っ先に指名される事は無い。だから急に自分が指名された事に驚いてしまったのだろう。しかし、冷静さを直ぐに取り戻し、行動に移せる点は確かに人の上に立つ人間に相応しい。
「私が生徒会役員になったら、皆が安心して通えるいじめゼロの学校にしたいと思っています。その為にいじめアンケートの匿名性を上げる為、或いはいじめの密告や被害者本人の申告がしやすい様な環境作りが必要だと考えています。なので、生徒の学籍を入力し自宅で携帯を使って簡単に答えられるアンケート……紙媒体から電子媒体に変更する事を提案したいと思います。そして、いじめ問題を解決する上で重要なのは証拠なので、学校の監視カメラの数を増やす事も提案したいです。」
一之瀬は言い終えると、彼女は前に座る3人の生徒会役員の顔を順番に見ていき、最後にニコリと微笑んで一礼した。堀北の表情から彼がどう判断しているかを読み取る事は出来ないが、彼女の言葉を聞いて嫌な顔をする人はいないだろう。そんな顔をするのはいじめの加害者だけだ。
「分かった、ありがとう。では次に葛城、頼む。」
「分かりました。」
次に指名を受けたのは葛城だ。彼は真剣な表情で堀北を見つめ、口を開いた。
「私は生徒会役員になったら、生徒会役員の業務である見回りの強化を行いたいと思っています。理由は先程志望動機でも触れましたが、学校の風紀を正したいと考えているからです。そして一之瀬のやりたい事と被りますが、理不尽な目に遭う生徒を救うという意味でも私は風紀の強化は重要だと考えています。生徒会役員は見回り時、問題が起きた時に備えて音声や映像で証拠が残せるよう、録音機等を使い、問題を起こした生徒に逃げ場を与えない様にした方が良いと思います。その方が、該当生徒の処分がしやすくなりますから。」
葛城は真面目な性格の男だ。だからこそ、彼は正義感が強く、素行不良な生徒が嫌いなのだろう。幾らこちらが問題行動を指摘したとしても、言い訳や言い逃れをする事は考えられる。その場合を想定して、彼は見回りの記録を物証として残せるようにしたいらしい。
「……なるほどな、なかなか正義感が強い様だな。では次に高円寺。」
「やりたい事?ふむ、考えた事も無かったな。……ああ、一つ思いついたよ。」
高円寺は足を組んだまま、ニヒルな笑みを浮かべ堀北を真っ直ぐ見据えた。
「私が生徒会役員になったら……そうだな、未来の高円寺コンツェルン後継者として、暇潰しに人材育成でもしてみようか。天才である私が直々に指導する訳では無いが、マニュアルくらいは用意してあげよう。感謝したまえ、ハッハッハ。」
高円寺は相変わらず上から目線の言動を続けているが、それに気分を害しているのは葛城と橘のみで、南雲と堀北は特に嫌そうな顔はしていない。一之瀬は苦笑しているが、気分を害している訳では無さそうだ。しかし、こんな言動をとって退出されないのは、彼が本物の天才で高円寺コンツェルンの御曹司という肩書きがあっての事だろう。つまり彼の今の話し方は彼の実力が認められている証拠とも言えるのだ。
「……それはまた大きく出たな。まあ、良いだろう。では最後に近衛、頼む。」
「分かりました。」
私は緊張を紛らわす様に深呼吸をし、目を閉じる。そして数秒後、目を開け口を開いた。
「私が生徒会役員になってから行いたい事は、皆さんのやりたい事のサポートです。」
私がそう言うと南雲と堀北は意外そうな顔をし、私に聞き返して来た。
「サポート?」
「どういう事だ?」
私はそれに動じる事無く、落ち着いて言葉を続ける。
「私は生まれてから今日まで委員会や生徒会役員等、人の上に立つという経験が一切ありません。勿論上下関係については中学や小学校で学年の違う生徒と関わる事で学んでいますが、人を引っ張っていくという経験は一切ありません。そして今回私が生徒会役員を志望した理由も自身の成長の為という私欲を満たす為のものです。なので、何をやりたいのか、どんな学校にしたいのかと問われれば、私は具体的な事を言えません。」
こんな事を話してしまえばきっと生徒会役員に選ばれる事は無いはずだ。しかし、それでも私は嘘をつく事は出来ない。どれだけ考えてもやりたい事が無いのだから仕方ない。そもそもどのような事が行えるかも分からないのだから、意味不明な事を話して幻滅されるよりはマシだ。
「……そして、私は一之瀬さんや葛城君の考えに共感しましたし、高円寺君の人材育成という提案も面白いと感じました。それらの活動を支援し、実力主義を掲げるこの学校で生徒の力を伸ばす場をを用意し、生徒達が安心してそれぞれの目標に向かって進めるような環境を作りたいと今思いました。ただ、私には奇想天外で奇天烈な発想力は無い為、彼らのサポートに徹していきたいと考えています。そして生徒会役員を行いながら、自分の目指す学校について考えていきたいです。」
私が話終えると、堀北は顎に手を当ててなにか思案し、南雲は面白そうだと言わんばかりの笑みを浮かべた表情を見せた。橘は私の主張を手元のノートに書き込んでおり、今後橘のノートを元に私達の合否を決める会議が行われるのかもしれない。
「……じゃあ、次は俺が質問させて貰おう。まず葛城、近衛の主張を聞いてどう思った?率直な感想を話してくれ。」
南雲が葛城に話を振ってくる。
「……正直言えば、彼女の考えには共感しました。理由は2つあります。1つ目は彼女が自分の考える活動を支持してくれた事、そしてもう1つは私自身も一之瀬や高円寺の行いたい活動を推奨したいと考えたからです。なので、私も彼女の意見を見習って彼らの活動に協力したいと考えています。」
葛城はそう言い私に視線を向け小さく頷いた。優秀なAクラスのリーダー候補である葛城に自分の主張を認めて貰えた事で、少しだけ自分自身を受け入れられた様な気がした。
「では、一之瀬は近衛の考えについてどう思う?良いと思うか?悪いと思うか?積極性が重要な生徒会にこんな下手に出るような生徒が必要だと思うか?」
南雲は圧迫面接官の様に一之瀬に詰め寄る。彼女は少し困惑しながらも苦笑混じりに話し始めた。
「……良いか悪いかで言えば良いと思います。理由は、生徒会役員全員がそれぞれのしたい事を主張していたとしても、結局協力や賛同が得られなければ活動は出来ません。なので考えを尊重したり纏めてくれるような人間は縁の下の力持ちとも言えますし、そういう面で彼女はとても重要な存在だと感じています。」
「なるほど、お前はそう考えるか。では高円寺はどうだ?」
一之瀬は私の事を過大評価している節がある様だ。しかし、こうして生徒会役員の候補者のライバル達に認められるというのは嬉しいものだ。認め合い高め合う、そんな学校に通えて良かったと心の底から思った。
「悪いとは思わないさ。ただ、私は私のしたい事をするし、生徒会役員として協力はするかは私の自由だ。私の行動に賛同を見せたのは彼女の本心の様だし、特に嫌悪感は感じないね。ただ───」
高円寺はそう言い、一度区切ってから私の方を見つめて再度口を開いた。
「人の言葉を引用しているレインガール、気を付けると良い。その行動は積極性を求められるような場で使うべきでは無い。生徒会に入ってから考えたいという思考も甘い。その辺りを改善した方が良いだろう。これは善意のアドバイスだよ、よく覚えておくと良い。」
あのDクラスの有名な御曹司が、いつになく真剣な表情で私に言い放った。普段の傲慢で不遜で我儘な彼と違い、本心で私に助言してくれているのだと感じた。
確かに私は入学してからずっと自分自身の能力を貶してきたり、卑下したりして来た。集団で結果を出す様な話し合いの場では、自分の意見を言う事を避けてきた。今日この場でも、逃げる様に他人の言葉に同調しただけだった。だからこそ、彼の言葉は私の心に深く刺さり、彼のアドバイスをしっかり受け止め、もっと前向きで明るい、積極性のある人間に変わりたいとそう心の底から思った。
「……分かりました。ありがとうございます、高円寺君。そのアドバイス、有難く活用させていただきますね。」
高円寺は私の言葉を聞くと、どこか満足げに不敵な笑みを浮かべて頷いた。
その後、堀北は幾つかの質問を私達に投げ掛け、私達はそれらの質問を指名順に答えていった。そして約30分が経過した頃、堀北は橘を見て目で何かを伝え、橘はそれを察して口を開いた。
「では、本日の面談はこれにて終了します。結果については、後日各クラスの担任の先生を通してお伝えしますね。本日はお越しいただきありがとうございました。」
これで今日の生徒会役員の面談は終了した。まさか高円寺がこの場に来るとは思わず、とても驚いたが、彼は彼で確かに人の上に立つ人間として相応しい人間だ。彼からは学べるものが多そうである。
一之瀬、葛城、高円寺は荷物を纏めて生徒会室を出て行った。
「……あれ?近衛は出ていかないのか?」
南雲が私に訝しげな顔で尋ねた。
「……実は、この後堀北先輩と個人的にお話したい事がありまして。」
私がそう言うと、堀北も私達の前にやって来て、「ああ」と賛同を示し頷いた。
「近衛には個人的に聞きたい事があってな。悪いが、少しの間生徒会室を借りるぞ。」
「それは別に構わないが、2人で話したい事ってなんだ?もしかして……告白とかですか?」
南雲が茶化すように言うと、堀北は心底呆れた様子で彼を見た。
「はあ、お前は相変わらずだな、南雲。俺と彼女に聞きたい事は、この学校に関する事で、個人的な事では無い。……納得したか?」
「……へぇ?まあ、分かりましたよ。」
南雲はそう言い、生徒会室を去っていた。そして彼に続き橘模生徒会室を出ていった。出ていく前、「ごゆっくり。」と声を掛けてくれた事からも、彼女はとても親切で優しい人なのだと理解した。
(橘先輩かぁ……とっても優しそうな先輩だなぁ。)
そんな事を考えていると、堀北は私の目の前に座り、机の上に9冊の冊子を置いた。
「今ここにある分が一昨年の中間試験の過去問だ。」
「……あれ、9冊ありますね?先輩方の歳は9科目の試験が行われたんですか?」
1年生の中間試験は、英語、英語演習、国語総合、古典、数1・A、理科基礎、日本史or世界史の7科目だ。しかし机の上には9つの冊子が置かれており、2科目多い。これは一体どういう事なのだろうか。
そう尋ねると、堀北は首を横に振った。
「……いや。英語、英語演習、国語総合、古典、数1・A、生物基礎と化学基礎、日本史と世界史で系9科目だ。」
「なるほど。選択科目は2つある。だから9冊の問題冊子が置かれているんですね。」
堀北は冊子を一つ手渡してきた。私は渡された冊子を開き、中を確認していく。
「……聞きたい事がある。何故、過去問を中間試験の対策に使おうと考えたんだ?なかなか思い付ける事では無いと思うが。」
堀北の鋭い眼差しは、私の心の中まで見透かしてしまいそうで少し恐ろしく感じた。しかし、私は怖気付いいている事を悟られないよう、彼に対峙し話し始める。
「……理由、と言えるほどのものは無いんです。ただ、私のクラスメイトが中間試験が5月の末に行われると教えてくれたんです。そして、小テストを受けた時、各教科の最後の3問が異様に難しいと感じました。もしこの様な難易度の高い問題ばかりが出題されたら私達生徒の多くが成績不振に陥ってしまうでしょう。だからこそ、傾向を知る為にも過去問は必要だと思ったんです。」
「なるほど。小テストを受けてからそこまで考えが回ったとはな。俺が期待していた回答とは違うが、お前の考えは気に入った。」
堀北先輩は私の回答がお気に召したようで、どこか満足げな表情を見せた。しかし、すぐにいつものクールな顔に戻る。
そして彼は私に対してこう告げた。
「俺はこの過去問を当初タダで渡す気は無かった。しかし、近衛が疑問に思った事、そして俺や南雲の様な人間とは違う観点からの考察というのは面白い。だから今回は特別サービスだ……この過去問は全て無料で譲ってやる。」
「え、いいんですか!?」
私は驚きのあまり思わず大きな声を出してしまった。しかし、堀北は気にした様子も見せず話を続ける。
「ああ。だが条件がある。」
「……条件?」
「そうだ。この学校のシステムを知った今、お前もAクラス卒業を目指し動くはずだ。しかし、他のクラスも当然Aクラスを目指す。だから、近衛美雨。お前に一つミッションを与える。このミッションをこなせたら、正式に生徒会役員として認め、今回の過去問も無料で渡そう。しかし、ミッションがこなせなかった場合、お前には生徒会役員を辞任して貰い、尚且つ今回の過去問を譲渡する上で支払う必要のある5万ポイントを請求する。」
ミッションは何なのか気になるが、そんな事よりも今堀北は驚くべき事を言った。
「……その発言では、まるで私が生徒会役員に一時的とはいえ迎え入れられるように聞こえます。」
「そう捉えて貰って構わない。」
堀北先輩は私に対して、生徒会役員として迎え入れる意思を示したのだ。それはつまり、私がこの学校においてのAクラスを目指す上で大きなアドバンテージになる。しかし何故彼はここまでして私を生徒会に招き入れようとするのか?それが私には分からなかった。
「……どうしてここまで良くしてくださるんですか?」
私はその疑問を素直にぶつけた。すると堀北はこう答える。
「……そうだな、お前に期待している、それだけだ。ああ、オマケで期末試験の分の過去問も先に渡しておこう。好きに活用してくれ。」
「期末試験の過去問まで……ありがとうございます、堀北先輩。」
私は渡された問題冊子を鞄にしまった後、改めて堀北に向き直り頭を下げる。そして彼は私に対してこう告げた。
「だが忘れるな、近衛美雨。俺のミッションを達成する事が前提だ。ミッションについては───────────以上だ。」
「……え、ど、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。この言葉の意味がいずれ分かるようになるはずだ。安心しろ、俺はお前なら出来ると判断してこのミッションを課したんだ。」
堀北先輩はそれだけ告げると、話は終わりだと言わんばかりに立ち上がり帰り支度を始めた。私も同じように帰る支度を行い、生徒会室を後にした。そして私は生徒指導室に向かって歩き始めた。私は生徒指導室に着くと2回ノックをし、扉に手を掛けた。
「失礼します。」
中に入ると真嶋がソファに座っていた。私は彼に軽くお辞儀をし、空いている椅子へと座る。真嶋が私を見て口を開いた。
「お待たせ致しました、真嶋先生。お話とは一体何についてでしょうか?」
私が彼に尋ねると、彼はいつになく真剣な表情で私を見つめる。
「……落ち着いて聞いてくれ。」
真嶋はそう前置きし、話し続ける。
「君宛に、我が校と君が中学の途中まで生活していた近衛家の別邸へ、脅迫文が送られてきたんだ。」
「……き、脅迫文、ですか?」
(……ど、どういうことなの?!)
「ああ。君に危害を加える内容だそうだ。」
真嶋は私に茶封筒を手渡してきた。私はそれを受け取り中身を確認する。そこには私の名前と住所が書かれており、そして『お前を殺す』という一文が記されていた。
「これは……一体誰が送ってきたんでしょうか?」
私がそう尋ねると、真嶋は少し言いづらそうにしながらも口を開いた。
「送り主は不明、鑑定にもかけたが指紋は出て来なかった。」
「……そうですか。」
私はその茶封筒を鞄にしまい込んだ。そして真嶋は話を続ける。
「学校側はこの事について、君の御家族と相談した結果、警察に被害届を出すことにしたそうだ。しかし、脅迫文が送り付けられただけで実害はまだ無いためか、警察もすぐに動くというのは難しいらしい。」
「そうですか。」
私はそう答えた後、少し考え込んだ。脅迫文が送られて来た以上、この学校も安全とは言い切れなくなった。だが、もしかしたら親戚や母からの嫌がらせという可能性もある。であれば大事にする訳にもいかない。
「この学校も安全とは言い切れない。勿論、最新のセキュリティを敷き、安全には十分配慮しているが、保護対象は君だけでは無いからな。今なら、我が校が君を危険に晒してしまった事を詫び、君の望む高校へ転向できるように配慮する事も出来る。」
真嶋は心配そうな顔で私を真っ直ぐ見ながらそう言った。彼は心から私を心配してくれているらしい。
しかし、私がこの学校に来た目的は近衛家の言いなりにならない為だ。私には私の人生がある。今後も私の自由を搾取され、奴隷の様に生きなければならないなんて耐えられない。例え危険だとしても、私は絶対この学校に残り続ける。それが私の選んだ道だから。
「……真嶋先生、お願いがあります。」
「なんだ?」
「せっかく転校の提案をしていただきましたが、私はこの学校に通い続けたいです。私のみならず、他の生徒や教員、関係者の方を危険に晒してしまうかもしれません。しかし、それでも私はこの学校で学びたいんです。」
真嶋は驚いた様子を見せるが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「……それはどうしてだ?君の身の安全の為でもあるんだぞ?」
「私は家族から逃げてこの学校に入学しました。私は人の上に立つ事が許されず、常に下を向いて生きてしました。しかし、そんな私もようやく前を向いて歩こうと思えたんです。せっかく前に進もうと思った途端にこんな事が起きてしまって非常に残念ですが、それでも私はこの学校で人として成長したいんです。何より、堀北会長ととある約束を交わしました。そして、新たな友人ができ、新しい考えを知りました。私はこれらの行く末を見届けたいんです。生徒会役員として、彼らに微力ではありますが協力したいんです。……それに何より、私は美紀ちゃんともう一度同じ学校生活を送りたいんです。」
やりたい事、見届けたい事、尊敬する人との約束……そして親友との学校生活。私にはこの学校に来て得た物が多すぎた。何も持たない私は多くの物を得て、欲深くなってしまった。この学校を卒業し、自由を手に入れたいとそう切実に願い、夢を見てしまった。この心地よい場所からどこかに移動するだなんて、とても考えられなかった。
(初めて、自分の力で手に入れた大切な物。私は宝物を絶対に手放したりしない。だから────)
私はもう一度頭を深く下げ、再度念を押すように頼み込んだ。
「お願いします、真嶋先生。私がこの学校に残る事を許して下さい。」
「……分かった。君がそこまで言うのなら、俺もこの学校に残る事を認めよう。理事長と校長、君の御家族にもそう伝えておこう。」
真嶋は頷きながらそう答えた。私は顔を上げ、感謝の言葉を述べた後頭を下げる。そして彼は話を続けた。
「だが、本当にいいのか?君にとってこの学校で過ごす日々が苦痛に感じる日が来るかもしれないぞ?」
「はい、構いません。それが私の選んだ道ですから。」
私がそう言うと真嶋はそれ以上何も言わなかった。そして最後にこう告げたのだ。
「……入試の面接で俯いてばかりだった君はもういないんだな。俯いてはいるが、芯があり、真面目で誠実な君はAクラスに合っている生徒だと感じた。しかし、君はもうあの時とは違う。これからは、前だけを向いて歩きなさい。君の境遇も過去も、君が悪いわけじゃない。」
私が彼の言葉を聞き終えた時、頬に涙が伝った。私は真嶋の言葉を聞いてようやく、1人の人間として認められたような気がした。かつて母や祖父、叔父に掛けて欲しかった言葉を真嶋は私に掛けてくれたのだ。
「あ、ありがとう、ございます。」
ヒックヒックとしゃくりあげながら、溢れる涙を何度も拭う。しかし、涙はとめどなく溢れ、呼吸が上手く出来ない。
そんな私を真嶋はそっと抱きしめてくれた。
「もう、大丈夫だ。お前はこれからもっと成長して行けるさ。」
彼はそう何度も言い、赤子をあやす様に何度も私に言葉を掛けた。私は、今まで我慢してきたもの全てを洗い流すように泣き続けた。
それから落ち着いてきた頃、真嶋にお礼を言い生徒指導室を後にした。帰り道、人気の無い階段を下りていると、丁度美紀と出くわした。
「あ、美雨ちゃん!……って、その目はどうしたんですか?真っ赤ですよ?!」
「ああ、ちょっとね……」
「ちょっとって……誤魔化さないで下さい……美雨ちゃんが泣いているところなんて初めて見たんですよ。心配だってします。」
私は誤魔化そうとしたが、美紀は引き下がらない。
(……彼女は幼い頃からの幼馴染み。私の大切な親友で、私を理解してくれる2人目の人。彼女は信用に足る人物だし、話しても良い、よね?)
私はそう思い、美紀に真嶋から伝えられた脅迫文について話すことにした。
「実は───」
私は真嶋から脅迫文が届いた事、そして転校を勧められたが学校に残ることを認められた事を話した。すると美紀は驚きの声を上げたが、すぐに私を抱きしめてくれた。
「き、脅迫文……ですか?まさか、あの人達が送ってきたんじゃ?」
美紀の言うあの人達とは、私の母を始めとした叔父や叔母、祖父の事だろう。
「ううん……まだ分からないけど、その可能性は低いと思うよ。私が中学の途中まで生活していた近衛の別邸にも脅迫文は送られてきたみたいだから。お爺様も叔父様も敵は多いし、私自身も誰かに恨まれている可能性は否定できないから、犯人を見つけるのは難しそうだね。」
「そ、そんな!美雨ちゃんの生活していた場所にまで脅迫文を送ってくるなんて……酷いです!」
美紀は私以上に怒りを露わにし、憤りを見せた。そして彼女はすぐに私にこう告げる。
「……美雨ちゃん、この件は私達の様なただの学生には解決出来ないと思います。学校や警察だっていつでも守ってくれる訳じゃない……だから、誰かに助けを求めませんか?」
「え?」
「怖い人に襲われたもしても、身体能力の高い鬼頭君やバランスの良い葛城君、坂柳さんは……身体能力という面だと少し不安ですね。あ、そうだ!人望の厚い隣のクラスの一之瀬さんやDクラスの平田君が居たら、きっと美雨ちゃんの学校生活はより安全なものになる……と、思います。」
美紀は不安げな顔でそう提案してきたが、私はその提案をすぐに受け入れる事は出来なかった。
どうやら美紀は教員や警備員がいない時に襲われる可能性を考慮し、力を持つ者に助けを求められるよう配慮して貰う為にこの提案を話したようだ。内部犯の可能性もあるが、全員が敵ということは無い。信用に足る人物に相談し、助けを求めるという意見は間違ってはいない。
(確かにこの学校には頼れる人は沢山いる……でも皆を更に危険に晒してしまうかもしれない。本当に誰かに頼っても良い、のかな?)
私が躊躇していると、美紀は私の手を取り歩き出す。そして彼女は私にこう告げたのだ。
「大丈夫です!私もついてますから。それに美雨ちゃんは誰かに頼る事も覚えた方が良いと思います。」
「……うん、ありがとう。」
Dクラスの平田とは面識が無いが、彼の評判はAクラスまで届いており、一方的に彼の事は知っている。しかしやはり接点が無いので彼にいきなり頼み込むのは難しそうだ。
「……ただ、接点もない平田君に言うのは無理そうだね。」
私がそう言うと、美紀はこう言った。
「いざとなったら、橋本君に橋渡しを頼めば良いんです。」
「……だけど橋本君は坂柳派だよ?私の助けをしてくれるとは思えないけど。」
それを言ってしまえば鬼頭も坂柳派だが、彼は坂柳直属の部下なので、彼女に話を通せばもしかしたら、多少の協力は得られるかもしれない。そんな事を考えていると、美紀は決心したようにこう言った。
「……いざとなったら、私が坂柳派の一員になります。そうすれば、橋本君も私のお願いを無下にはしないでしょう。だから安心してください。」
「え、ええ?!だ、ダメだよ!美紀ちゃんはまだ派閥を決めかねているんでしょ?!」
私は驚きの声を上げた。彼女は私の為を思って行動してくれるが、それは流石に度が過ぎている。しかし美紀は譲らないようだ。
「……いいえ、入ります。だって……私は美雨ちゃんの親友ですから。私は親友に傷付いて、欲しくないんです。」
そう言ってくれる美紀に、私は胸が熱くなるのを感じた。そして彼女の手をギュッと握り返すとこう答えたのだ。
「ありがとう……美紀ちゃん。でも本当に、美紀ちゃんが我慢する必要なんてない。美紀ちゃんが私に傷付いて欲しくないって思ってるのなら、それは私も同じ。私も美紀ちゃんに傷付いて欲しくないってずっと思ってる。」
「……わかりました。だけど私の提案については考えて欲しいです。私が挙げた人物以外にも、生徒側に協力者がいた方がきっとより安全になると思いますから。」
「うん、分かったよ。」
その後、私は美紀と共に帰路に着いた。そして寮に戻ってから考えた。
(助けを求める、か。誰に助けを求めたら良いんだろう?)
まず、美紀が言っていた鬼頭だが、彼の身体能力はこの学校内でも上位に位置している。何か起きた時、彼が近くに入れば、助けを得られるかもしれない。だが、彼については坂柳と同義で考えた方が良さそうだ。
次に葛城だが、彼については彼自身が派閥のリーダーである事から、派閥全体の助けを得られる可能性が高い。正義感が強い彼であれば、私の話も親身になって聞いてくれるだろう。
次に坂柳だが、彼女は身体能力が最も低く、その面では頼りにはならない。しかし彼女の側近には身体能力に特化した生徒が多く、もし彼女の助けが得られれば私のセキュリティ面も強化されるかもしれない。
ただ、坂柳は美紀に興味を示してはいるが、あまり私には関心を示していない。つまり、門前払いされてしまう可能性がある。
(って事は、やっぱり鬼頭君の説得も難しそう、かな?)
最後に平田と一之瀬についてだが、人望が厚く、もし危険が迫った時彼らがいれば周囲の人間に呼び掛けて貰う事で、危険を退けられるかもしれない。特に一之瀬はBクラスのリーダーであり、この学年で最も信用の高い人物でもある。彼女の助けもかなり強力なカードとなるだろう。
勿論これらは全て助けを求め、私の手を取ってくれた事が大前提なので、これ以外の選択肢もある。
(……もう一人、思いついている人はいる。だけど、私はこの人に助けて貰えるとはとても思えないんだ。だって、彼は───だから。彼だって、とっても大変なのに。)
私は考える。助けを求めるべきか、助けを求めないべきか。助けを求めるのであれば、誰に助けを求めるべきか。
『ようこそ!読者が紡ぐ実力至上史上主義の教室へ』に関するルール
①1話につき1つ選択肢がある
②選択肢は多数決で決める
③選択肢に関する補足説明は後書きにて記す
④主人公のステータスは選択肢によって増減する
⑤ステータスは最大値は100、最小値は0となる
⑥アンケートの締切は翌日の0時(又は約24時間後)
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近衛美雨のステータス
体力:40(限界値50)
頭脳:81.5(限界値100)
芸術:13(限界値75)
コミュ力:54(限界値90)
※頭脳が0.5up
※芸術が2up
※コミュ力が1up
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親密度一覧
山村 105(最大150)
葛城 13(最大100)
坂柳 4(最大100)
神室 9(最大100)
鬼頭 0.5(最大100)
南雲 5(最大100)
堀北学 12(最大100)
椎名 5(最大100)
橋本 0(最大50)
高円寺 2(最大50)
一之瀬 3(最大100)
橘 3(最大100)
※山村が5up
※山村の限界値が50up
※葛城が3up
※南雲が3up
※堀北学が5up
※高円寺が2up
※一之瀬が3up
※橘が3up
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※補足1→選んだ選択肢によって、今後関わる人物やイベントに変化が現れる
※補足2→選んだ選択肢によって、能力値や能力の限界値が変化する事がある
※補足3→選んだ選択肢によって、今後の展開が大きく左右される可能性がある
近衛が頼るべき相手は誰?(鬼頭は坂柳有栖を選ぶと着いてくる、かも?)
-
坂柳有栖
-
葛城康平
-
一之瀬帆波と平田洋介
-
Aクラス全員
-
近衛の思いついた人物