第9話 彼女の目覚めには痛みが伴う
「────た、助けて!!!お願いします!!誰か!!誰かぁ!!!」
これは命乞いと呼ばれるもの。
勉強ができない私でも知ってる言葉。
この人はもう修復不可能になってしまった。
こういうときにどうすればいいか私は知っている。
「大丈夫────私が救ってあげる」
修復不可能になったものに価値はない。この世界では価値のないものから順番に捨てられていくんだ。
だからせめて、私だけは見捨てないであげたい。
これが私の出来ること。
そして、私に与えられた役目。
「ん......」
目が覚める。でもまだ寝たい。
「頭、痛い......」
目が覚めるとき、脳が焼けるみたいに頭が痛くなる。私の朝はずっとこんな感じ。多分色んな情報が一気に頭に流れてくるからだと思う。
起きているのは、疲れる。ずっと何かを考えていなきゃいけないから。
私の脳は考えることを拒否しちゃうんだ。そういう風に、なっちゃったから。でも、そんな部分も少しずつ治していこうって思い始めた。
大きな音が鳴った。チャイム。 この音が鳴ったら、私は必ず起きなきゃいけない。そして、扉を開けるんだ。
「おはよう綾瀬さん」
「んー......おはよう堀北......」
そこには堀北がいる。
私の生活習慣を治さないといけないから、朝の時間にたまにくるようになった。
「眠そうね。ご飯は食べたの?」
「まだ......お菓子食べる......」
「駄目よそんなの。お菓子なんかじゃ頭に栄養がいかないわよ」
「でも......すぐ食べられるから、便利......」
近くにあったお菓子を食べる。
お菓子ってすごい。見たことないものばっかり。感じたことのない刺激だから、楽しい。
「はぁ......最近は弁当も作るようになったから今度あなたの分も作ってあげるわ。櫛田さんよりも美味しいのをね」
「おー......嬉しい......」
堀北、何でも出来る凄い人。堀北の弁当、早く食べたいな。
「それよりも早く制服に着替えなさい」
「んー......どこだっけ......」
制服......いつも床に置いてた。そんなとこに置いたら駄目って怒られたから今は別のとこ。探さなきゃ。
「あった......よい、しょ......」
制服を持って、ベッドに置きっぱなしだったお守りを首に掛ける。
「それ、ずっと気になってたけれど、ロザリオよね。どうしてそんなもの着けてるの?」
「......私には、必要」
ロザリオ。十字架。
祈りのための道具。でも私はそうやって使わない。この世界は祈りなんかじゃ何も救われないから。
「そう......まあどうして必要なのかなんて深く聞くつもりはないわ。けどロザリオって確か数珠を使うはずよね。それに装飾品として使うものでもない気がするけど......」
「......そうなの?」
そこら辺はよく分かんない。どうしてこうなっているのかなんて考えたことないから。
今日は7月1日。堀北と一緒に学校に行くと、教室の中がいつもとちょっと違った。
月始めはポイント支給日なんだっけ。ポイントない人がいっぱいだから皆嬉しそう。私もポイントないとお菓子買えないからないのはやだ......
「おはよう。仲良く登校してるな」
綾小路だ。私の友達。堀北と同じ。
「......おはよう、綾小路」
「私は綾瀬さんの生活習慣を治すために見てあげてるだけよ。仲良くなんて......してないわ」
「少しは素直になったらいいのに」
堀北が綾小路を睨んだ。綾小路いっつもこんな感じ。でも綾小路が悪いんだって。
「そう言えばポイントは確認したか?」
「ええ。ポイント、増えていなかったわね」
「そうなんだ、知らなかった......」
携帯を開いて、『残高照会』をやってみる。
21012pt。最初は100000pt。いっぱいあった。でもお金って思ってたより使うんだね。綾小路のおかげで分かったけど、お金でテストの点数とかも買えるから大事にしないと。
「おはよう諸君。今日はいつにも増して落ち着かない様子だな」
大きな鐘の音と一緒にサエが来た。サエは私にとって、初めての先生なんだ。
「佐枝ちゃん先生!俺たち今月もポイント0だったんですか!?朝チェックしたら1円も振り込まれてなかったんですけど!」
池だ。池は今日も元気。
「それで落ち着きがなかったのか」
「俺たちこの1か月、死ぬほど頑張りましたよ!中間テストだって乗りきったし......遅刻とか私語とかもなくなってきたし!」
「勝手に結論を出すな。まずは話を聞け。確かにお前たちは今までと見違えるようになった。それは認めよう。学校側も当然それは理解している」
私も、居眠りしない。......本当は寝たいけど。
「それでは今月のポイントを発表する」
今まで0だった私たち。でもサエが黒板に貼った紙には87って書いてた。
「え?87......ってことは、俺たちプラスになったってこと!?やったぜ!」
「喜ぶのは早いぞ。他クラスの連中はお前たちと同等かそれ以上のポイントを増やしているだろ。差は縮まってない。これは中間テストを乗りきったご褒美みたいなものだ。各クラスに最低100ポイント支給されることになっていたに過ぎない」
他のクラス......Aクラスは1004ポイント。1004-87は......筆算しないと分かんない。えっと、917。凄い差なんだよね、多分。
「そういうことね。急にポイントが支給なんておかしいと思ったわ」
「がっかりしたか堀北。まあ、クラスの差が開いてしまったからな」
「そんなことはありません。今回の発表で得たこともありますから」
「なんだよ、得たことってさ」
「僕たちが4月、5月で積み重ねてきた負債......つまり私語や遅刻は見えないマイナスポイントになっていなかった、ということを堀北さんは言いたかったんじゃないかな」
「あ、そっか。100ポイント貰ってもマイナスが沢山残ってたら、0のはずだもんな」
......どういうこと?皆分かってるみたいだけど、私にはさっぱり。後で教えてもらおう。
「あれ?でもじゃあ、どうしてポイントは振り込まれてないんだ?」
そういえば87って書いてるのに、私たちポイント増えてない。
「今回、少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている。お前たちには悪いがもう少し待ってくれ」
「えーマジすかあ?学校の不備なんだから、なんかオマケとかないんですか?」
「そう責めるな。学校側の判断だ。私にはどうすることもできん。トラブル解消次第ポイントは支給されるはずだ。ポイントが残っていれば、だかな」
あ、サエ悪い顔してる。変なの。
綾瀬視点、文章量はないけど色々考えることがあって意外に難しいです。