放課後。今日はやることもないから帰って寝ようかな。寝てるときは何も考えなくていいから楽なんだよね。
「......虚しい」
隣でソワソワしてた綾小路がそんなこと言いながらガックリしてた。
綾小路、友達と仲良くできてないと悲しそう。こういうのって......哀れ?って言うんだっけ。堀北がそう言ってた。
「須藤。お前に少し話がある。職員室まで来てもらおうか」
サエが須藤とお話するみたい。あそこでするのかな?生徒指導室。
「は?なんで俺が?これからバスケの練習なんですけど」
須藤。バスケで忙しい。バスケが好きだから。
「顧問には話をつけた。来るも来ないもお前の自由だが、後で責任は取らんぞ」
「なんなんだよ......すぐ終わるんだろうな」
「それはお前の心がけ次第だ。こうしている間に時間は過ぎていくぞ」
須藤、イライラしてる。でもサエの後についてった。須藤いなくなった後、ちょっと教室ざわつく。
「変わったようで変わってないよな、須藤のやつ。退学しといた方がよかったんじゃね?」
誰かが須藤の悪口言った。ここからだと誰かまでは分かんなかった。
「あなたたちもそう思う?須藤くんが退学しておけば良かったと」
教科書しまいながら堀北が聞いてきた。
「ううん。私は思わない」
退学、この学校からいなくなっちゃうってこと。そんなのよくない。いなくなるってことは、価値がないと判断されたってことだから。
「オレも別に。お前こそどうなんだよ堀北。須藤に手を貸した一人として」
「彼がクラスにとってプラスになるとどうかはまだ未知数ね」
堀北、冷たく見える。
でも堀北は須藤のために頑張ってた。だからきっと冷たくない。
その後、私たちは3人で寮に帰ることになった。この時間が好き。いつもってわけじゃないけど、たまにこうして話をしながら帰るの、楽しいんだ。
「少し気になるわね。今朝先生が言っていたこと」
「ポイントの振り込みが保留になったことか?」
「ええ。トラブルがあったらしいけれど、それが学校側の問題なのかそれとも私たち生徒側の問題なのか。もし後者なら......」
「考えすぎだろ。ポイントを止められてるのはDクラスだけじゃない。単純に学校側の問題だって」
私たちだけじゃなくて1年生皆だもんね。きっとすぐに振り込まれると思う。
「ところでさ、たまには二人ともチャットに参加したらどうだ?ずっと未読だけど」
綾小路が携帯を見せてきた。チャットってやつだっけ。連絡するのに必要なんだって。
「全く興味ないもの。通知もオフにしてるから」
「左様か。綾瀬は?」
「私は使い方よく分かんないから......あれ、携帯どこだっけ」
少し触ってみようと思ったら携帯がない。
ポケットの中、ない。鞄の中、ない。服の中────
「......なにをやっているの?」
「......え?もしかしたら服の中に入っちゃったかなって......」
「だからって脱ぎ始めなくてもいいじゃない......」
「止めてなかったらワイシャツまで脱いでそうな勢いだった......いや、待て。オレは悪くない」
また綾小路睨まれた。かわいそう。
「はぁ......また携帯電話を失くしたのね......」
「またって、もしかしてしょっちゅう失くしてるのか?」
「うん。たまに携帯出した後、そのままどこかに置いてきちゃう。普段使わないから携帯なんて気にしてない」
「携帯という言葉の意味が分からなくなってくるな......」
「少し待ってちょうだい。今探すから」
堀北、いつも携帯で私の携帯探してくれる。
「それは?」
「連絡先を登録すると位置情報が分かるのよ。当然私は他の人には見られないようにしているけれどね」
「そんなのあるのか。なんか色々悪用できそうな機能だな」
堀北の画面を見ると、私の携帯の場所が映し出されてる。
「ここ、どこ?」
「教室ね。机の中とかそんなところかしら」
「おー......ありがとう堀北。探してくる」
「待ちなさい。一人でなんて行かせられないわ」
「そうだな......綾瀬ならそのまま帰ってこなさそうだし」
「......ありがとう」
私のせいで二人の時間を奪っちゃうのは嫌だけど、それでも嬉しいって思っちゃう。私って、ワガママ......かな?
次の日、朝のホームルーム。サエから私たちに報告があるって言われた。
「先日学校でちょっとしたトラブルが起きた。そこに座っている須藤とCクラスの生徒との間でトラブルがあったようだ。端的に言えば喧嘩だな」
サエはそれからも説明を続けた。須藤とCクラス、どっちが悪いのかによって須藤が停学......学校に来れなくなっちゃうかもしれないし、クラスポイントが減っちゃうかもしれないみたい。
「その......結論が出ていないのはどうしてなんですか?」
平田だ。こういうときはいつも平田が率先して質問する。
「訴えはCクラスからだ。一方的に殴られたらしい。ところが真相を確認したところ、須藤はそれは事実ではないと言った。須藤が言うには自分から仕掛けたのではなく、Cクラスの生徒たちから呼び出され、喧嘩を売られたとな」
「俺は何も悪くねえ、正当防衛だ正当防衛」
正当防衛......それは自分が攻撃されたら自分も
「だが証拠はない。違うか?」
「そりゃそうだろ。証拠なんてねえよ」
「つまり今のところ真実が分からない。だから結論が保留になっている。どちらが悪かったのかでその処遇も対応も大きく変わってくるからな」
「無実以外納得いかねーけどな。つかあのときは誰かいた気がすんだよ。そいつに聞けば証明してくれるぜ」
「本人はこう言っているが、どうだ、喧嘩を目撃した生徒がいるなら挙手してくれないか」
......誰も手を上げてない。
「残念だが須藤、このクラスに目撃者はいないようだ」
「......のようだな」
「学校側としては目撃者を探すために、各担任の先生が詳細を話しているはずだ」
「は!?バラしたってことかよ!」
「とにかく話は以上だ。この話の最終的な判断は来週の火曜日には下されるだろう。それではホームルームを終了する」
サエが教室を出てった後、須藤も一緒に教室を出ちゃった。
皆須藤がいなくなった後は騒がしくなってた。皆須藤のこと悪者扱い。正当防衛、じゃないの?それなら須藤は
「ねえ皆。少し私の話を聞いてもらってもいいかな?」
あ、櫛田だ。櫛田は優しい人だから須藤の味方。
「確かに先生の言う通り須藤くんは喧嘩をしたかも知れない。でもね、須藤くんは巻き込まれただけなの」
「巻き込まれたって、櫛田ちゃんは須藤の言ったこと信じるわけ?」
「うん。実は昨日須藤くんから相談を受けたんだけど......」
櫛田は色々話してくれた。
須藤がバスケ部で凄かったからCクラスの人が須藤をバスケ部から追い出そうとして数人で脅したんだって。
「改めて聞くね。もしこのクラスに、友達に、先輩たちの中に見たって人がいたら教えて欲しいの。いつでも連絡ください。よろしくお願いします」
凄い。サエと言ってること似てるのにサエと全然違う。サエってこういうの下手だから。
でも皆......あんまり須藤のこと信じてないみたい......
「僕は信じたい」
立ち上がったのは平田。平田は皆のこと一番考えてる人。
「他クラスの人が疑うならまだ僕も理解できる。だけど仲間を最初に疑うなんて間違ってるよ。精一杯協力してあげるのが友達なんじゃないかな?」
「あたしもさんせー。もし濡れ衣だったら問題でしょ?とにかく無実なら可愛そうじゃない」
軽井沢だ。あんまり話したことないけどお洒落な人。
櫛田と平田、軽井沢が話すと、クラスはみんな付いてくる。
「私、友達に当たってみるね」
「じゃあ僕もサッカー部の先輩たちに聞いてみるよ」
「あたしも色々聞いてみよっかな」
おー......みんな色々聞いてくるみたい。じゃあ私も聞いてみよっと。
昼休み。ご飯の時間。でもご飯食べなくてもいいや。ちょっと用事あるから。
「綾瀬?どこにいくんだ?」
「ちょっと聞きに行ってくる」
「聞きに、って......須藤のことをか?へえ......友達いたんだな......あ、いや別にバカにしてるとかじゃないんだけど」
「......?友達、いるよ?」
綾小路とか、堀北とか。他には櫛田とかも。
「ま、申し訳ないがオレは大した役に立たないから代わりに頑張ってくれ」
「うん。がんばる」
教室を出て、隣のクラス、Cクラスにいかなくちゃ。
よし、Cクラスに到着。扉を開けて......知らない人ばっかり。誰に聞こうかな。一番詳しそうな人がいいよね。
あ、立ってたら人の邪魔になっちゃった。
「お前は確かDクラスの......教室間違えてるぞ」
「ううん、間違ってないよ。用事、あるから」
「え?」
話を聞きたいけど......この人じゃない。少し見渡す。
あ、きっとあの人だ。
髪が女の子みたいに長い人。うん、あの人にしよう。
「ねえ」
「......なんだ?」
その人に話しかけたら周りが静かになった。他の人、こっち見てる。視線、たくさん感じる。これは......なんだろう、よく分かんない。
「須藤に殴られた人、教えて?」
「なぜ俺に声を掛けた」
「んー......あなたが一番詳しそうだったから?」
その人は私を見つめた。凄く見られてる。もしかして口にお菓子ついてる?堀北に恥ずかしいからやめなさいって言われてたのに、またつけちゃったかな。
「俺のことを知っているのか?」
「ううん、知らない。初めまして......だよね?」
人の名前は忘れないようにしてる。でもこの人の名前は知らない。私が忘れてたら、この人に悪いことしちゃってるかも。
「りゅ、龍園さん!こいつが綾瀬です!お菓子ばっか食ってて、水泳がとんでもなく上手い、そしてDクラスの中でもあの高円寺に次ぐ変人!!だけどそこがまた可愛くて......しかもめちゃくちゃ美人なことで有名なあの綾瀬です!」
「......石崎。あんた妙に詳しくない?」
「ばっ......別に詳しくなんかねぇよ!」
石崎って人、顔赤い。熱?あ、よく見たらちょっと顔腫れてる。この人なのかな、須藤に殴られた人。
「クク、普通ありえねぇぜ?たった今揉めてる相手のクラスに単独で乗り込んでくるなんてのは。ましてや俺に声を掛けてくるとはな。お前には恐怖心ってものはねぇのか?」
「恐怖?」
恐怖......怖いってことだよね。それは私にもあったと思う。多分。でもそれはきっと昔の話だから、もう覚えてない。確実にわかること、伝えないと。
「壊しちゃったから......もうないよ?」
「......お前、イカれてやがるな?」
この人、嬉しそう。友達になれるかも。
「私、綾瀬心音。あなたは?」
「龍園だ。よろしくな、心音」
手を差し出された。握手だ。櫛田としたから分かる。
「────!......」
握手をした瞬間、龍園の視線が変わった。これは警戒。なんで?全然力いれてないけど......龍園は手を離して自分の手を見てた。どうしよう、話、してもいいんだよね。
「えっと、龍園。須藤に殴られた人、教えて?」
「なぜお前はそんなことが知りたいんだ?」
「え?どうして須藤と喧嘩したのか知りたかったんだけど......」
「......石崎、話してやれ」
「は、はい!」
石崎が色々話してくれた。
石崎はバスケ部の2人に頼まれたんだって。須藤のこと。友達のために手を貸したみたい。
櫛田が言ってたこととそんなに変わらないけど、知らないこともあった。やっぱり本人に聞くのが一番だよね。
石崎の顔......そう言えば腫れてたっけ......
「あ、あの......そんなに見られると......」
「顔、逸らしたらだめ。私の方を見て」
「はい!すみませんでした!!ずっと見てます!!」
「なに照れてんのよ......」
「う、うるせぇ!仕方ないだろ!」
怪我は深くない。きっとそんなに酷い喧嘩じゃなかったんだ。
石崎、多分喧嘩はそこそこできる。でも須藤に勝てる程じゃない。
それならどうして喧嘩を挑んだんだろう......自信があったから?
「あの、龍園さん......ちょっといいですか......」
あれ、あの人......山脇って人だ。図書館で会った人。
山脇が龍園にこそこそ話してる。なんだろう。
「ほう......心音、お前喧嘩はできるのか?」
「喧嘩?うん。誰も私に勝てないと思うよ」
「......クク、そうか......」
思ったことを言うと、龍園が笑いながら立ち上がった。石崎を押し退ける。
そして────
龍園の拳が、私の頬を掠める。
早いパンチ。龍園は相当強い。多分喧嘩もたくさんしてる。これは須藤じゃ勝てない。
「なぜ避けない?」
「元々当てる気、なかった......よね?」
龍園からは感じない。敵意、殺意。
私を試してる、見定めている。
そういう視線、分かる。
「訴えてもいいんだぜ」
「なにを?」
「今のは暴力行為だって、訴えてもいいってことだよ」
「私は暴力、受けてないよ?」
「......なるほどな。まあお前なら訴えないとは思っていたが......その返答は予想していなかった。クク、ますます気に入ったぜ」
「......そう?それは良かった。お菓子食べる?」
「......いらねえ」
「そうなの?おいしいのに......」
龍園と一緒に食べたかったのに。残念。
「聞きたいこと、聞けたから帰るね」
「そうか、また遊びにこいよ。俺はいつでも歓迎するぜ?心音」
「うん。ばいばい、龍園」
龍園、いい人かも。またCクラスに遊びにいこうかな。
でも須藤と石崎、どっちが悪いのか分かんなかった。放課後、皆にも聞いてみよう。