ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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今回は綾小路視点からです


第11話 好奇心

 放課後、オレたちDクラスは須藤の事件でいるかもしれない目撃者探しをする方針で固まっていた。

 とは言っても実際に動くのは平田軽井沢率いるヒーロー&ギャルチームと、櫛田率いる美少女&お調子者チームだ。

 昼にも綾瀬を除いたオレたちは食堂で話し合いをしていたが、特に成果は得られず。しかも堀北が協力を拒否したため途中で離脱してしまった。堀北曰く、自分の愚かさに気づいていない人と一緒にいると不愉快になるからとのこと。

 堀北が言わんとすることは分かる。だが堀北が自分の口からしっかりと説明するはずもないので、肝心の須藤は自分のしたことをいまいち理解していない。

 今日もあてのない聞き込みをするために櫛田が堀北を誘おうとこっちに来た......と思ったが、櫛田は何やら神妙な顔で綾瀬へと話しかけた。

 

「あ、綾瀬ちゃん......ちょっといい?」

 

「......どうしたの?」

 

「今ちょっと噂になってて......その......」

 

 櫛田が何やら様子がおかしいものだから帰ろうとしていた堀北も足を止めた。一体何があったんだろうか。

 

「綾瀬ちゃん、Cクラスの人たちと喧嘩したって......本当?」

 

「......冗談だろ......?」

 

「......冗談よね......?」

 

 寝耳に水すぎて一瞬思考が飛んだ。 

 綾瀬がCクラスと喧嘩って......

 堀北もさすがに驚きで固まってる。

 

「ま、まさか......昼休みに聞きに行くって、Cクラスに......」

 

「Cクラスにはいったけど......喧嘩はしてないよ?学みたいに手合わせ?じゃ、ないね。確認、はされたけど......」

 

「え?え?ど、どういうこと?」

 

 学とは堀北兄。そして綾瀬と堀北兄は互いに怪我こそしなかったものの、一歩間違えれば血を見る戦いを繰り広げたことがある。

 そういえば堀北兄も確認と言っていたか。綾瀬にとってあれは喧嘩の内に入らないらしい。

 その堀北兄がした確認というものをCクラスの生徒にされたのか。なかなか物騒だな。

 

「......本当に喧嘩はしてないのね?」

 

「うん。龍園のパンチが頬を掠めただけ」

 

「一体何をどうしたらそうなるんだ......」

 

 まあとにかく綾瀬はCクラスで何かをやらかしたらしい。龍園?という生徒にパンチを食らわされそうになる何かを。ぶっちゃけその龍園とやらが悪いのか綾瀬が悪いのかまったく判断がつかない。だって綾瀬だから。

 オレは綾瀬が話を聞くならAクラスかBクラスの生徒かだと思っていた。だがまさかそのどちらでもない、まさに揉めてる最中のCクラスに話を聞きに行くなんて誰が予想できる。 

 やはり綾瀬は常に手綱を握っていないと駄目か。

 

「はぁ......これ以上勝手に行動されたらまた問題が増えそうね。そうなる前に一つアドバイスしてあげるわ」

 

「え!協力してくれるの!?」

 

「協力はしないわ。ただ目撃者に心当たりがあるというだけ」

 

「目撃者って......それ本当!?」

 

 堀北が持つ情報はオレたちがずっと望んでいたものだった。正直存在するのかすら怪しかった目撃者に目星がついているようだ。

 

「堀北。それって、誰?」

 

「おそらく佐倉さんよ。まだ確認はしていないけれどね」

 

 佐倉......確か須藤の近くに席にいる影の薄い女子生徒だった気がする。確か山内が佐倉の胸がでかいとかなんとか言ってたか。

 

「佐倉が目撃者......どうしてそんなことが言えるんだ?」

 

「櫛田さんが教室で目撃者の話をしたとき、彼女、目を伏せたわ。多くの生徒が櫛田さんを見ていたか、あるいは興味なさそうにしていた中、たった一人だけね。自分に無関係ならそんな表情は見せないもの」

 

「へー......そうなんだ......全然気づかなかった......」

 

 オレも全く気がつかなかった。あの状況でクラスメイトの仕草を見逃さない堀北の観察力はなかなかだな。

 

「目撃者がDクラスって......それならきっと証言してくれるよ!」

 

「そうだな。明日、佐倉に話を聞いてみよう」

 

 同じクラスなら頼みやすい。ただ懸念点があるとするなら、もし目撃者とするならどうして名乗りでないのか、といったところか。

 

「ふわぁ......じゃあ、今日は色々聞きにいかなくていいの?」

 

 綾瀬が目を擦りながら聞いてきた。どうやらもう眠たいみたいだ。

 

「うん......綾瀬ちゃんはもう勝手に行動しちゃ駄目だよ......」

 

 少し遠い目をしながら櫛田がそう言った。またCクラスになんて行かれたら大変なので、しっかり釘を刺す必要がある。

 

「じゃあ私たちは池くんたちにもこのこと伝えにいくね」

 

「え?たちって、オレも?」

 

「もしかして......嫌だった?」

 

「そんなわけないだろ。行く行く。もちろん行く」

 

 そんな可愛らしい上目遣いをされたら誰だって抗えるわけないじゃないか。隣で堀北が呆れているが無視無視。

 

「それじゃ、須藤くんのこと任せたわよ」 

 

 そう言って堀北は綾瀬を連れて帰っていった。

 それからオレたちは池たちに目撃者のことを話した。須藤は堀北が自分のために目撃者を見つけてくれたのだと思って大喜びしていたが、堀北は未だに須藤の事件に対して積極的には動こうとはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堀北と一緒に学校に行くと、教室の中はいつもより静か。少し早めに来てるから人が少ない。綾小路はまだいない。櫛田や池たちもいない。あ、幸村こんな朝早くから勉強してる。凄い。高円寺も朝からいる。あれ、何やってるんだろう。いつも楽しそう。

 

「あ......佐倉だ......」

 

「そうね。櫛田さんたちはまだ登校してないみたいだけれど......」

 

「私、聞いてくる」

 

「昨日櫛田さんが話を聞くって言っていたでしょう?......まあ、これぐらいならいいわ。聞きたいなら聞いてきなさい」

 

「うん」

 

 佐倉とお話するの、初めて。

 佐倉の席は須藤の右斜め前。

 

「佐倉」

 

「え......?あ、綾瀬さん......?」

 

 佐倉、ちょっと驚いてる。

 

「私のこと、知ってるの?」

 

「綾瀬さんのこと、知らない人なんていないと思うけど......多分......むしろよく私の名前知ってたね......」

 

「......なんで?クラスメイトだから覚えてるよ?佐倉の名前、忘れたことない」

 

「......え!あっ、......そう、なんだ......あ、はは......」

 

 佐倉、ちょっと嬉しそうにして、顔が赤くなった。どうしたんだろう。

 人の名前は大事。その人がその人であるための証明だから。別の言い方をするなら識別番号。それがないと、壊れたときに自分が自分だと証明できない。

 

「......あれ?佐倉のメガネ......なんか変だね」

 

 私がそう聞くと、佐倉がビクッと驚いた。

 

「そ、そんなこと、ないよ......?」

 

「んー......」

 

 私、目が良い。細かいもの、よく見える。

 佐倉のメガネ、他の人のメガネと何か違うと思うんだけど......

 

「佐倉、ちょっと待ってて」

 

「う、うん......?」

 

 メガネ掛けてる人......あ、幸村だ。幸村のとこに行こう。

 

「幸村、メガネ貸して」

 

「......は?お前は何を言っているんだ。貸すわけないだろ」

 

「じゃあ、見せて?」

 

「俺は今英語の勉強で忙しいんだ。お前に構ってる暇はない」

 

「英語?あ、聞いて聞いて。私、この学校に来てからアルファベット全部言えるようになったんだよ。えーびーしーでぃーいーえふじー......」

 

「何なんだお前は!いいから早くどこかにいってくれ!」

 

 ......怒られちゃった。メガネ、よくわかんなかったな。私の勘違いかも。佐倉のとこに戻ろう。

 

「あ、綾瀬さんって幸村くんと話したことあるの......?」

 

「ううん、全然」

 

「そっ、か......それなのに、あんな風に......やっぱり、綾瀬さんは凄いんだね......」

 

 佐倉、どんどん声小さくなってく。最後の方、凄いって言ってた?何が?

 

「綾瀬さん。あなたは何をしてるの?」

 

「......え?佐倉と話してた」

 

 堀北がこっちに来た。

 

「少し様子を見てたけれど、またおかしなことになってそうね。目的も忘れてそうだし、もう私が聞くわ」

 

「ほ、堀北さん......?ど、どうしたん、ですか......?」

 

 あれ、佐倉なんかビクビクしてる。堀北のこと、怖い?そういう目、してる。

 

「佐倉さん。単刀直入に聞くわ。あなた、須藤くんがCクラスの生徒と喧嘩をしている場面に遭遇したわね?」

 

「え......!どう、し......あっ......し、知らないです......」

 

「やっぱり何か知っているのね。良ければ話してもらえないかしら」

 

「知らない......です......!」

 

「あっ、佐倉......」

 

 佐倉がどこかに行っちゃった。それと入れ違いで綾小路が教室に入ってきた。

 

「今佐倉が出てったぞ。お前何したんだよ」

 

「私は佐倉さんに話を聞いただけよ」

 

「その割にはなんかビビってたように見えたけど......」

 

「......あれ?佐倉さんいたの?」

 

 今度は櫛田。

 

「話してたらどっか行っちゃった」

 

「え......私が話すって言わなかったっけ......」

 

「......そうだっけ?」

 

 眠たかったからあんまり聞いてなかった。

 

「私が許可したわ。でも須藤くんの件は早めに終わらせたかったから最終的には私が聞いたの」

 

「そ、そっか~......それで、佐倉さんから須藤くんのことは聞けたー?」 

 

 あれ、櫛田ちょっと変。なんだろう。

 

「いいえ、逃げられてしまったわ。彼女、どうやらあまり人付き合いが得意ではないみたいね」

 

「お前が言うのかよ......」

 

「私は人付き合いを好まない。そう言ったはずよ」

 

「佐倉さん、人見知りな子だからあんまり話したくないのかも」

 

 人見知り。話すの苦手な人。綾小路と一緒。

 

「でも綾瀬さんには少し心を開いているように見えたわ。遠目で見てただけだからはっきりは言えないけど」

 

「......そうなの?」

 

 今まで佐倉と話したことなかったから、まだ佐倉のことはよく分かんない。

 

「ま、綾瀬はボーッとしてるから全然怖くないしな。案外佐倉も話しやすいのかもしれないぞ。堀北と違って......だから怖いって」

 

 また綾小路睨まれてる。綾小路って睨まれるの好き、なのかな。

 

「まあ、佐倉にはまた昼休みか放課後にでも聞くしかないか」

 

「じゃあ私が一人で聞くよ。あんまり大勢だと警戒されちゃうかもしれないからね」

 

 佐倉にはまた話を聞くことになった。

 次は櫛田の番。でもまた佐倉ともお話、してみたい。

 

 

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