須藤がCクラスと話し合いするまであと1日。今日も一人.......。
昨日は佐倉が協力したいって言ってくれた。でも、佐倉大丈夫かな。ちょっと心配。
「これ、なんだろう......」
そんなことを思いながら階段を登ってると、次の階段にいくまでの場所に須藤の名前、あとはCクラスって書いてある紙が貼ってあった。
「おはよう綾瀬。何を見てるんだ」
「綾小路、これ」
「これは......須藤とCクラスに関係する情報を掲示板で募っているのか。しかも有力な情報提供者にはポイントまで支払うとは......場所もいいし、これはしらみつぶしに聞くより効率的だな」
あ、そっか。ここなら皆が見る。情報をくれる人もいっぱいなんだ。頭いい。でも、誰がやったんだろう。私たちじゃない。
「おはよー二人ともっ」
「おはよう一之瀬」
後ろから一之瀬に声を掛けられた。
「今貼り紙を見てた。もしかしてこれは一之瀬が?」
「うーん?へぇ、なるほどなるほど。こういう手もありだねぇ」
そう言われて一之瀬は貼り紙を見たけど知らなさそう。
「一之瀬じゃないのか?」
「これは多分────あ、いたいたおはよう神崎くん」
一之瀬に名前を呼ばれた人がこっちに来た。
「この貼り紙、神崎くんだよね?」
「ああ。金曜日のうちに用意しておいた。それがどうかしたのか?」
「彼が誰がやったのか気になってたから。あ、紹介するね。Bクラスの神崎くん。こっちはDクラスの綾小路くんと綾瀬さんだよ」
「神崎だ。よろしく」
神崎、いい人そう。平田?一之瀬もそう見えるから平田みたいな人いっぱい。
「掲示板を用意したはいいが、有力な情報は無かった。すまない」
「そっか。じゃあこっちの掲示板も見てみるね」
一之瀬が携帯を見せてきた。
「学校のHPに掲示板があるのって知ってる?そこで情報提供を呼び掛けてるんだ」
「こっちでもポイント......」
「ポイントのことなら気にしないで。私たちが勝手にやってるだけだから。あ、情報提供来てるね。どれどれ......」
一之瀬が携帯を確認してる。
「えっとね、例のCクラスの一人、石崎くんは中学時代相当な悪だったみたい。喧嘩の腕も結構立つらしくて地元じゃ恐れられたんだって」
「それは本当か?半信半疑だったが......綾瀬の見立ては合ってたのか......」
「それはどういうことだ?」
「実は綾瀬は一度石崎と話したことがあるんだが、そのときに石崎が喧嘩してそうなのを見抜いたんだ」
「へえ......それは凄いね......じゃあ信じていいのな?この情報は。でもそれだと少しおかしなことになってきたね」
「おかしなことって何?」
「事件に巻き込まれたのが喧嘩慣れしている石崎。そして残りの二人がバスケ部で運動神経も悪くないであろう小宮と近藤。いくら須藤がどれ程強くてもその三人が一方的に返り討ちに合うのは不自然だ」
「おー......神崎頭いい......」
神崎に拍手。私は全然思い付かなかった。確かに石崎だけでも須藤に反撃することは出来そうなのに、それに加えて石崎には味方もいるんだもんね。
「もしかして須藤にやられたのはわざとかも知れないな。三人が須藤を罠にハメるために動いたと考えれば自然と話が通じる」
「これは有難い情報かもね。でもまだ弱い、か。せめて別の目撃者がいればって思ったけどやっぱり厳しいかぁ。後はネットや貼り紙からの情報を待つしかないね」
「いいのか?そこまでして貰って。Cクラスの連中に狙われるかもしれないぞ?」
「そんなのへーきだよ。元々私たちはCとA、その両方から狙われることになるわけだし」
「その通りだ。俺たちには何も問題はない。それに、ルールに基づいての競争なら望むところだが、今回はそのルールの外、許していい行いじゃない」
二人は立派。凄い。
「とりあえず、情報をくれた子にはポイントを振り込んであげないとね。あ、でも相手は匿名希望か......どうやってポイント譲渡すればいいんだろ?」
「良かったら教えようか?」
「綾小路くんわかるの?」
二人は身体を寄せ合いながら携帯を操作してる。私と神崎は後ろでそれを見てた。
「それにしても綾瀬。どうやって石崎が喧嘩をしていたと見抜いたんだ?」
「見ただけで、なんとなく分かる」
「そうか......それなら俺は、と聞いてみたいがそれは少し恥ずかしいな。そうだな......お前から見て綾小路はどう見えるんだ?」
神崎は綾小路に聞こえないように小声で話す。それなら私もそうする。
「綾小路?────強いよ。私が見てきた中で、一番強い」
そう答えると、神崎はちょっと困ったような顔になって笑った。
「それは石崎たちよりも強いということか?いや、初めて会ったばかりの綾小路には申し訳ないが、あまりそうは見えないぞ?とても喧嘩をしてきたようには見えないが......」
神崎は信じてないみたい。
「ごめん、間違えた」
「......そう、か......まあ、そうだよな」
「うん。綾小路、強くない」
綾小路のためにそう言ってあげると、私の脳が焼けるみたいに痛くなった。
「おはよ!綾瀬ちゃん!それに綾小路くんも!」
「おはよう櫛田」
「お、おう。おはよう」
今日はいつにも増して明るく元気な櫛田がオレたちに挨拶してきた。その勢いと眩しさに反射的にのけ反ってしまった。
「昨日はありがとう。綾瀬ちゃんとは何度か遊んでたけど、綾小路くんとも一緒にお出掛けできて楽しかったな」
社交辞令と分かっていてもドキッとしてしまうのは男の
「綾小路くんはまた綾瀬ちゃんの私服姿見たい?」
「え、あ、ああ......まあ......」
ニヤニヤしながら聞いてくる櫛田。本人のいる前でそんなこと聞いてくるなんて反則だぞ。
「ふふっ、また一緒に遊ぼうねっ」
可愛らしい笑顔で手を振る姿もまた良い。ふむ、これも綾瀬がオレを誘ってくれたからこそ見れたものと言える。ありがとう綾瀬。私服姿、良かったぞ。
「あなたたち、休日は櫛田さんと一緒だったのね」
隣人堀北からの声。
「佐倉のカメラ治しにいったんだよ」
「そう」
「それがどうかした......か......」
何となく顔を向けると、そこには見たことのない顔をした堀北がいた。
「ど、どうしたんだよ?」
「どうした、とは?」
「いや、なんか物凄い顔をしてるぞ」
「......別に。なんでもないわ」
そうは言うけどなんか様子がおかしい。そんな堀北を見て綾瀬が堀北の前に立つ。
「堀北、寂しい?」
「......はい?そんなことあるわけないでしょう。私は今まで寂しいだなんて感じたことないわ」
オレも綾瀬の発言にそんなわけないだろうと思った。孤独大好き少女堀北が寂しいなんてあるわけない。
「私は、寂しい」
そう言いながら綾瀬は堀北をギュッと抱き締めた。
「ちょっと......こんなところで止めなさい......」
「......やだ」
あら~、なんて可愛らしい光景なんでしょう。綾瀬と堀北の周りに百合の花が咲いているのが見えるではありませんか。
眼福眼福。いやぁ良いものを見させてもらいましたよ、っと。
そんな気持ちで胸がいっぱいだったオレ。しかし綾瀬心音という変人の本領はここからだった。
堀北を抱き締めた綾瀬は突如────堀北の胸に自分の頭を擦り始めた。
「ちょ......!あ、あなた何してるの!」
唐突に始まった綾瀬の奇怪な行動。だが、どこか既視感がある。あぁ、あれだ。星之宮先生だ。
「やめっ......だ、駄目よ......!そんな、とこっ......」
お、おぉ......なんかいやらしく聞こえてくるぞ......いつもは冷静な堀北が顔を赤くして取り乱している。す、凄いぞ綾瀬......!
オレはゴクッと喉を鳴らした。
「そろそろっ......離し、なさい......!」
「うん。分かった」
頑張って振りほどこうとしていた堀北だったが、結局綾瀬が力を抜いてようやく解放されたという形だった。
「はぁ......はぁ......なんて力なの......この私が振りほどけないなんて......」
息を乱す堀北なんてかなり珍しい。堀北はすぐに呼吸を整えて、キッと強い視線で綾瀬を見た。
「なんでこんなことしたの」
「チエはよく私に『寂しかったよ綾瀬さん~』って言いながらこうするよ?だから私もした」
星之宮先生はまだこんなことを綾瀬にやっていたのか。なんか聞きたくなかったな......
「綾瀬さん。あなたには徹底的に教育しないといけないみたいね」
「え......だって堀北寂しそうだったから......」
「寂しくないと言っているでしょう」
堀北は完全に説教モードである。このままこの場にいたら間違いなくオレにまで飛び火するだろう。よし、逃げよう。
逃げようとしたらちょいちょい、と肩を指先で叩かれる。振り向くとそこには櫛田がいて、ちょっと来てと呼び出される。
廊下まで連れていかれると、櫛田はちらちらと教室の中を窺いつつ言った。
「す、凄いものを見たね......あんな堀北さん初めてかも......」
「綾瀬は堀北を振り回せる唯一の人間だからな」
「あはは......それは間違いないね。でも綾瀬ちゃんが言ってたことも間違ってないかもね」
「それは......堀北が寂しいってやつか?」
「うん。堀北さんも綾瀬ちゃんや綾小路くんと過ごしてくうちに友達と話したり過ごしたりする時間の楽しさに気づいたんじゃないかな?」
「そうかぁ?」
オレも櫛田に続いて教室の中を見る。説教をしている堀北とそれを受けている綾瀬。
「......まあ、オレのことはさておき、少なくとも二人は楽しそうだな」
その二人を見てそんな感想が溢れた。特に説教を受けているはずの綾瀬は、表情はあまり動いていないのになんとなく嬉しそうだと思ったからだ。