ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第23話 女王

 少し遠くに、二つの出来上がったテントが並んでいる。そのテントも残念ながら女子に占有されてしまい、男子は野宿を強いられる状態になっている。

 池を含めポイント消費に極力反対の男子たちは草をむしってきてそれをシーツの代わりに出来ないかと相談していた。

 女子テントの設営を終えた平田が、額に汗をかきながらやって来た。

 

「あの、綾小路くん。良かったら少し頼まれ事を聞いて貰えないかな?」

 

 そんな風に低姿勢、申し訳なさそうな様子で声をかけてきた。

 

「懐中電灯だけで夜を向かえるのは不安だと思う。そこで焚き火をするのに使えそうな枝を拾ってきてもらいたいんだ。もちろん綾小路くんに無理強いは出来ないけど」

  

 数多くいる男子の中、折角頼まれたんだし引き受けることにしよう。

 

「じゃあ適当に拾ってくる」

 

「ありがとう。本当は綾瀬さんと高円寺くんも探したいんだけど、今は生活をどうするかで頭がいっぱいだよ。そんな自分が情けなくて嫌になるんだ......ごめんね、綾小路くんにこんなこと話しちゃって」

 

「あまり考えすぎるなよ。高円寺はともかく綾瀬は割と頑丈というか、たくましいからな。もし気になるんだったらダメ元で茶柱先生に聞いてみたらどうだ?」  

 

「そうだね。もし遭難なんてしてたら学校側も把握していると思う。聞いてみるよ」  

 

 そのときはリタイアでマイナス30ポイントとなるわけだが、まあそれはないだろう。

 

「あ。綾小路くんまではぐれたら大変だから誰かを誘った方がいいと思うな」

 

 その通りだと判断しパートナーを探そうとすると、その場に佇みジッと森の方を見つめる堀北を見つける。見られていたことに気づいたのかこちらを向いてきた。

 

「綾瀬を探しに行きたいのか?」

 

「手がかりがない以上どうしようもないわ。ここであまり体力を消耗するわけにもいかないから」

 

 確かに堀北らしい考え方ではある。だがその『状態』で言われてもな。

 

「お前、大丈夫か?」

 

「何が?」 

 

「綾瀬もいないんだし、今は無理することないと思うが」

 

「あなたが何を言いたいのか分からないわね。いいから枝を拾ってきなさい」

 

 聞く耳を持たずか。

 仕方ないので枝を拾いにいこうとすると、須藤がこちらに来る。

 

「おい綾小路。綾瀬探しにいかねぇか?」     

 

「悪い。ついさっき平田に枝を集めて来て欲しいと頼まれたばかりなんだ。焚き火するのに必要だからな」

 

「そうか......まあそれなら仕方ねぇな」

 

「あなたなら体力的にも問題なさそうね。でもあんまり遠くにいかないようにしなさい。そろそろ日も暮れ始めるころだから。綾瀬さんのこと、任せるわ」

 

「おう!任せとけ!」

 

 堀北に頼りにされたのが嬉しかったのか、須藤は暇そうな男子に声をかけてさっさと綾瀬を探しにいった。

 オレも早くパートナーを見つけないとな。テント近くで女子と話し込んでいた山内を見つけたので誘ってみることにした。

 

「これから焚き火用の枝を拾いに行くんだけど、付き合ってくれないか」

 

「ええ、面倒臭そうだな......。さっけ健にも綾瀬ちゃん探しにいかないかって言われたけど俺はもう疲れたんだよ。ほら、寛治たちとスポットも見つけたろ?だからパス」

 

「山内は綾瀬のことが心配じゃないのか?」

 

「大丈夫じゃね?なんか綾瀬ちゃんって何処ででも元気でやってそうな感じがするっていうか」

 

 正直オレもそう思っている。もし猪とかがいても綾瀬なら殴り倒してそうだ。

 それにしても困ったな。須藤は綾瀬を探しにいってしまったし、堀北も無理。櫛田は他の女子たちとどこかに出払っている。オレってこういうときに頼れる友達が全然いないんだな......。

 

「あの......私......一緒についてって、いい、かな?」

 

 近くで話を聞いていたのか、様子を窺うように佐倉がやって来た。

 

「オレはありがたいけど、いいのか?疲れてるだろ、休んでもいいんだぞ」

 

「私なら大丈夫。ここにいても、その、ちょっと居心地が悪くて......」

 

 人付き合いの苦手な佐倉にとってはこの集団生活も苦痛でしかないらしい。せめて綾瀬がいれば良かったんだが。

 

「じゃあ行くか」

 

「なあ!」

 

 二人で森へ向かおうと思ったとき、後ろから山内の呼び止める声が聞こえた。

 

「やっぱり俺も手伝ってやるよ!」

 

 先ほど断ったばかりの山内だったが、何故か考えを変えたようだ。

 

「え......いいのか?」

 

「まあほら、困ってるときは友達を助け合うもんだし。な、佐倉」

 

「あ......は、はい......」

 

 萎縮した様子で、佐倉は少しオレの背中に隠れて頷いた。

 山内とは殆ど会話したことないだろう。これを機に佐倉に友達が増えるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて考えていたオレだったが、すぐにその考えを改めることになった。

 山内が急に手伝うようになったのも佐倉と付き合いたいから少しでも近づくためだった。そして急に好意を持った理由が胸が大きいからと本命の櫛田では目標が高すぎるから滑り止めとして佐倉を選んだから。そんな理由で好意を持たれても佐倉だって嫌だろう。

 結局山内は佐倉に警戒されたまま枝を拾い集め、オレにそれを押し付けて歩きだす。

 そうして帰ろうとしていると、大木に背中を預けるようにして座り込んだ一人の少女がいた。その子の頬には赤く腫れた跡があり、一目で誰かに叩かれたのだと分かった。それもかなり強い力で。

 山内は傷ついた女の子を放置できず声をかける。その少女の名は伊吹というらしく、Cクラスの生徒だった。最初は伊吹もこちらに見向きもしなかったが、伊吹が折れるまで居座る覚悟だった山内(その間佐倉と話せるから)を見て伊吹も粘り負けした。

 伊吹は立ち上がり、オレたちと一緒にDクラスのベースキャンプへと向かうことになったのだ。ちなみにオレはずっと枝を持っていてチクチクしている。

 

「......バカだなお前ら。相当なお人好し。うちのクラスじゃ考えられない」

 

「うへ、そっちのクラスはビンタし合うような喧嘩とかするんだ......」

 

 伊吹は我慢しているようだっだが、時折表情を苦痛に染めて頬を撫でている。 

 伊吹が邪魔そうに鞄をかけ直すのを見た山内は、何かを閃いたように目を輝かせた。

 

「なあ、せめて鞄持ってやるよ」

 

「......いい。ちょ、いいって。やめろよ」

 

 伊吹は山内に申し出を強く断った。鞄を逃した弾みで、鞄がゴン、という鈍い音を立てながら木にぶつかってしまう。

 

「わ、悪い。別に悪気はないんだよ。ごめんな」

 

「わかってる。ただ、私はまだお前らを信用していない。わかるだろ?」

 

 それ以上は何も話したくないようで、伊吹は黙ってしまった。山内も諦めて歩き出す。

 オレは木の枝を抱えながら、伊吹がここにいた理由について考えていた。

 

 

 

 

 枝をかき集めてキャンプ地に戻ってきたオレたち。伊吹は他クラスに迷惑をかけたくないと言い、離れたところに腰を下ろしてた。

 

「とりあえず伊吹ちゃんのこと説明しないとな......って、なんか様子変じゃね?」

 

 山内の言う通り、Dクラスからは不穏な空気が漂っていた。また喧嘩でも勃発したのだろうか。近くにいた平田に聞いてみる。

 

「何かあったのか?」

 

「それが......さっき茶柱さんに綾瀬さんと高円寺くんのことを確認したら高円寺くんがリタイアしたことが分かったんだ」

 

「ええ!?それマジかよ!?」

 

 どこまでも自由な男だとは思っていたけど、まさか勝手にリタイアするとはな。これでオレたちは30ポイントを失ったことになる。そのことは当然受け入れられるものではなく、普段は冷静な幸村も怒り心頭だった。

 

「あの、綾瀬さんは......」

 

「綾瀬さんのことは教えてもらえなかった......きっと無事ではあるんだろうけど......」

 

 それを聞いて佐倉が不安そうに震え始めた。このまま綾瀬が明日の午前8時までに帰ってこなければ今日の午後の分も合わせてマイナス10ポイント。そうなればDクラスの士気はさらに落ちるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Cクラスの人たちと遊べるのかなって思ってたら、龍園がテーブルのあるところに私を連れてった。

 

「遊ぶんじゃないの?」

 

「その前に心音。これを握りつぶしてみろ」

 

 渡されたのはリンゴ。見たの久しぶり。

 

「おお!マンガとかで良く見るやつじゃないですか!これが出来たら男の中の男ですよ!!」

 

 私は女の子だけど......いいのかな、それ。

 

「でも食べ物を粗末にするのは良くないよ?これだってポイントを使ってるものだし......」

 

「それはさっき砂浜に落としちまったんだよ。洗えば食べれるかもしれないが、それでも危険だろ?だから細かくして処分したいんだ」

 

「そっか......砂がお腹に入ったら多分お腹壊しちゃうもんね......」

 

 龍園はもしものことを考えたんだね。そんなこと考えてもいなかった。

 テーブルの上にバケツが置かれた。その上でリンゴを持つ。そして、力を込めて握る。すると、リンゴは潰れてバラバラになった。

 

「はい」

 

「さすがだな。助かるぜ」

 

「嘘だろ......あんなあっさりと......あっ、芯は俺が回収しときますよ!あと手も洗わないといけませんね......!」

 

 石崎がちょっと興奮しながら濡れたタオルを持ってきてくれた。

 

「え......女子であんなことって出来るのか?」

 

「男子でも出来るやつなんてアルベルトか龍園さんぐらいだろ......」

 

 いつの間にか周りに人がいっぱいいる。

 

「こんなことに付き合わせて悪かったな。そろそろ遊んでもいいぞ」

 

 龍園がそう言うと、石崎が色んな遊びを考えてくれた。

 砂浜で追いかけっことか、水鉄砲で遊んだりとか、ビーチフラッグ?とかとにかく色んな遊びをした。遊びだからそこまで本気でやらなかったよ。さっきみたいに道具を壊しちゃうかもしれないから。

 

「はぁ......はぁ......なんで息一つ乱れてないんだ......」

 

「どんだけ力あんだよ......」

 

「この人やべぇよ......」

 

「......?」

 

 皆遊びつかれちゃったのかな。アルベルト以外は皆辛そう。

 Cクラスの人たちといっぱい遊んでたから空も暗くなってきた。他の人たちはなんかバーベキューとキャンプファイヤーの準備で忙しいみたいだから私は一人で座ってた。

 

「あ、綾瀬さん!お疲れさまです!」

 

「お疲れさまです!」

 

 男の人たちが頭を下げながら飲み物を渡してくれた。

 石崎みたいなんだけど、ちょっと様子がおかしい。

 

「......なんか変だね、どうしたの?」

 

「え!?だってあんなもの見せられたら......」

 

「あの......なんかすみませんでした!」

 

 ぴゅーって感じでどっかいっちゃった......。

 そのまま座ってると、隣に女の子が座った。

 

「こんばんは。綾瀬さん」

 

「あ。椎名だ」

 

「覚えててくれたんですか?嬉しいです」

 

 椎名はそう言って笑った後に私の腕を握った。

 

「......私とあまり変わらないように思えます。一体どこからあんな力を......?」

 

「......身体からだよ?」

 

「なるほど。確かにそうですね」

 

 椎名はまた笑ってた。クスクスって感じで。

 

「今日は楽しかったですか?」

 

「うん。他クラスの人とはあんまり喋れないからこういうの、楽しい」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 椎名は空を見上げた。そろそろ夜になりそう。

 

「綾瀬さんはAクラスに上がりたいですか?」

 

「Aクラス?私は......堀北が頑張ってるからついていってるだけ。椎名は?」

 

「私はあまり争い事に興味はありません。もちろん力になれることがあれば私も協力しますが、なるべく平和に終わることを願っています。皆さんが仲良くするのが一番ですから」

 

 皆仲良く......それって櫛田とか平田がいつもやってることだよね。

 

「うん。私も、そう思う」

 

 この学校だと、皆Aクラスになりたくて必死。それはAクラスが一番価値のある存在だから。でも、だからって皆が仲良くしちゃいけないなんてことはない。

 

「そのためにはまず綾瀬さんと仲良くなりたいです」

 

「......いいの?」

 

「はい。綾瀬さんならきっと、仲良くなれると思いました。私と友達になってもらえませんか?」

 

「私も椎名と友達になりたい......」

 

「それは良かったです。ですが私はあまり友達がいなくて、こういうときにどういう会話をすれば良いのか分かりません......そうですね、綾瀬さんは本をお読みになられますか?」

 

「ううん、全然。難しい文字がいっぱいだから読めないんだ」

 

 堀北に見せてもらったことあるけど、途中で眠くなっちゃって駄目だった。

 

「それなら今度一緒に読みませんか?分からない文字があったら私が教えますよ」

 

「......読めるようになるかな......」

 

「綾瀬さんに読めそうな本を選んでおきますね。今は私物が持ち込めないので本は一冊も持ってきてませんが......船になら何冊かありますので」

 

「......うん、楽しみにしてる」

 

「はい、私もです」

 

 本を読める自信はないけど、それでも楽しみ。 

 

「綾瀬さーん」

 

 椎名と話してると、別の人が私の名前を呼んだ。

 

「じゃあ私はここで。バーベキューの準備ができたらまたお話ししましょうね」

 

「ばいばい、椎名」

 

 椎名と別れると、今度は私に声をかけた人が隣に座った。

 

「私は真鍋志保っていうの。よろしくね」

 

「私は綾瀬心音。よろしくね、真鍋」

 

 真鍋は元気そう。軽井沢みたいな感じ。

 

「それにしても綾瀬さんって超凄いね。運動神経抜群じゃん」

 

「運動は......得意だから......」

 

「もうそこらの男子なんかに余裕で勝てるよ~。でさ、そんな綾瀬さんだから言うんだけど......ちょっと私の頼み、聞いてくれない?」

 

「......頼み?」

 

「あ、これ絶対内緒してね。ちょっと困ってることがあるんだ」

 

「......うん」

 

 秘密にする自信はないけど、真鍋が困ってるなら力になりたい。

 

「頼みって、何?」

 

「あのさ────綾瀬さんだったら龍園くんも倒せるんじゃない?」

 

「......え?」

 

「もし倒せるんだったらさ、ちょっと龍園くんを懲らしめてよ」

 

 私はびっくりしてた。真鍋がどうして同じクラスの龍園を懲らしめたいのか分からなかったから。

 

「ウチのクラスってさ、今は楽しそうにしてるけど普段はもう最悪なんだよね。それも全部龍園くんのせい。あいつが王様気取ってやりたい放題してるんだよ」

 

「真鍋は......龍園のことが嫌いなの?」

 

「嫌いに決まってんじゃん。あいつがいるせいで全然楽しくないし。しかもそれに加えて伊吹って子が龍園くんの側近みたいになって調子に乗っててさ~」

 

 真鍋は悪口が止まんないみたい。なんかやだな......そう思ってたらまた別の女の子が声をかけてきた。

 

「あんま内部の情報とか喋んない方がいいんじゃないの」

 

 真鍋が急いで声のする方を振り向いた。でも、その人の顔を見てホッとした後に笑った。

 

「なんだ、西野さんじゃん。急に何?いつも一人でいるくせに話しかけてくるなんて」

 

「いや、なんか良からぬことを企んでそうな声が聞こえてきたからさ」

 

「ふーん、このこと話すの?」  

 

「別に」 

 

「そうだよね~、西野さんってこういうこと話せる人いないもんね」

 

 なんか仲悪そう......  

 真鍋は会話を止めて私の方を見た。その顔は楽しそうだった。

 

「綾瀬さん。また今度話そうね~」

 

「うん......」

 

 真鍋がいなくなって西野って人と二人きりになった。 

 

「気をつけておいた方がいいよ」

 

「......なんで?」

 

「なんかころっと騙されそうだから」

 

 それだけ言って西野もいなくなった。

 真鍋のこと、どうしよう。私には龍園がそんなに悪い人に見えなかった。でも真鍋は困ってそうだったし......。

 私はどうすればいいか分かんないまま、黒くなった空を眺めてた。

 

 

 

 

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