「......綾瀬さん。そろそろ起きてもらえるかしら。動けないのだけれど」
「......ん......」
堀北の声で目が覚めた。
私はいつの間にか堀北を抱き締めてたみたい。腕を離して身体を起こす。
今日は5日目。この試験もあと少しで終わり。
「おはよう二人とも。本当は今の二人を見て色々言いたいところなんだけど.......ちょっとそんな余裕はないかも」
櫛田がガッカリしながらそう言った。
「隣では何があったの?」
堀北が反対のテントの方を見た。テントの中からだと何も見えないけど、篠原たちが怒ってる声と軽井沢が泣いてる声が聞こえる。
「うん。今話を聞いてきたばかりなんだけど、実はね......軽井沢さんの下着が盗まれちゃったみたいなの......」
「盗む......それって良くないことだ......」
「しかも盗まれたのが下着だからね......軽井沢さん相当ショックだったみたい......」
櫛田は自分のことみたいに落ち込んだ顔をしてる。軽井沢がショックを受けてたのが櫛田も悲しいんだ。
みーちゃんとか伊吹、他の人たちも起きてきて、櫛田が何があったのかを説明する。
そして私たちは外に出ると、怒った篠原たちが見えた。
「ごめんね櫛田さん。皆のこと起こしてもらって」
「ううん。それよりも軽井沢さんは......」
「もうずっと泣いてる......下着を盗むなんて男子マジ最低......!」
篠原が綾小路たちいるテントの方を睨んだ。
「私、軽井沢さんのところに行ってくるよ」
「お願い。私たちは男子のところに行ってくるから」
櫛田は反対のテント、篠原たちは綾小路たちがいる方に向かった。
「堀北......私はどうすればいいんだろう.......」
「私たちも篠原さんたちについていって様子を見るしかないわね。軽井沢さんと接点のない私たちがそっちに行っても何も出来ないわ」
「うん......」
確かにそう。軽井沢は櫛田に任せる。堀北と一緒に篠原たちについていった。
「ちょっと男子。集まってもらえる?」
「いつまで寝てんの。早く起きなさいよ」
皆怒りながらテントに向かってそう言うと、平田が出てきた。
「どうしたの?」
「あ、平田くん。......悪いけど、男子全員起こしてもらっていい?大変なの」
「......何かあったんだね。分かったよ。声をかけてくるよ」
それから眠そうにしてる綾小路たちが出てくる。池や山内は私たちを見て不思議そうにしてた。
「それで、こんな朝早くからどうしたんだい?」
「平田くんには関係のない話なんだけど......どうしても確認しなきゃならないことがあるから集めたの」
篠原は平田以外にさっきよりも強い目で男の子たちを睨んだ。
「今朝、その......軽井沢さんの下着がなくなってたの。それがどういう意味か分かる?」
「え......下着が......?」
いつも落ち着いてる平田もさすがにビックリしてた。
「今、軽井沢さん、テントの中で泣いてる。櫛田さんたちが慰めてるけど......」
「え?え?なに?なんで下着がなくなったことで俺たちが睨まれてんの?」
「そんなの決まってるでしょ。夜中にこの中の誰かが鞄を漁って盗んだんでしょ。荷物は外に置いてあったんだから盗ろうと思えば誰でも盗れたわけだしね!」
眠そうにしてた男の子たちは一気に目が覚めたみたい。
「いやいやいやいや!?え!?え!?」
池が慌てながら私たちと綾小路たちを交互に見た。
「そういや池、お前昨日......遅くにトイレに行ったよな。結構時間かかってたし」
「いやいやいや!あれは、その、暗かったから苦労したんだよ!」
「ほんとかよ。軽井沢の下着盗んだのお前じゃないの」
「ば、違うって!そんなことしねぇよ!」
皆お前がやったのかって言い合ってる。なんかこの空気凄く嫌......。
「とにかく。これ、凄く大問題だと思うんだけど?下着泥棒がいる人たちと同じ場所でキャンプ生活するなんて不可能でしょ。だから平田くん。何とかして犯人見つけて貰えないかな?」
「それは────でも、男子が盗ったって証拠はないんじゃ......軽井沢さんが無くした可能性もあるんじゃないかな」
「そうだそうだ!俺たちは無関係だ!」
そっか......確かに無くしただけってこともあるよね。それなら誰も悪くない。
「僕はこの中に犯人がいるとは思いたくないよ」
「平田くんが犯人じゃないのは分かってるけどさ......とりあえず男子の荷物検査させて」
「は?ふざけんなって。そんなことする必要ないし。断れよ平田」
「ひとまず、僕たち男子で集まって話し合ってみる。少し時間を貰えないかな」
「......平田くんがそう言うなら......分かった。軽井沢さんにも話してみる。でも、犯人が見つからなかったら、私たちにも考えがあるから」
平田がそう言うと、私たちは距離を取り合った。
女の子たちはテントの前に集まって話し合いをする。
「ほんっと最低。こんなの許せないんだけど」
「もう私無理。平田くん以外の男子とか信用できない」
昨日まで皆楽しそうにしてたのに今はもう皆怒ってる。
私はほんの少し離れたところにいる堀北のところにいった。
「ねえ堀北。男の子たちの中に軽井沢の下着盗った人がいるのかな......」
「どうでしょうね。私は男子の可能性は低いと思ってるわ」
「どうして?」
「こうして犯人探しになることが目に見えているからよ。男子が女子の下着を盗んだなら手元に隠し持っているか、この辺りのどこかに隠しているはず。でもそんなのすぐに見つかるのが関の山よ。犯人が相当な間抜けか軽井沢さんのことがよっぽど好きで凶行に走ったならあり得るかもしれないけれど......まあないでしょうね」
隠してもすぐに見つかる......えと、つまり.......。
「それなら......男の子がやったわけじゃないの?」
「軽井沢さんのことが嫌いな女子がした嫌がらせ、そっちの方がまだ現実的よ。今みたいに女子ならまず疑われないものね。ただ────」
堀北は私たちよりも離れたところにいる伊吹に視線を向けた。
「ねえ見て......なんかあの三人怪しくない......?」
「うわ......池くんと山内くんと綾小路くんじゃん。確かにあの三人なら女子の下着とか盗みそう......変態だし......」
「まともな男子なんて平田くんしかいないよ......」
綾小路たちが疑われてる。
「......気に入らないわね」
今度は女の子たちを見て堀北がそう言った。
男の子たちは荷物を調べ終わったみたいで、平田がこっちの方に来た。
「全員調べたよ。でもやっぱりなかった」
「ほんとに?」
「うん。間違いないよ、やっぱり男子は犯人じゃないね」
「ちょっと待って」
篠原がテントの中を調べた。それが終わった後、また平田と向き合う。
「あのさ平田くん。もしかしたらポケットとかに隠してるかもしれないよね?さっきコソコソしてた三人もいたしね」
そうして今度は綾小路たちの方を向いた。
「いい加減にしろって!」
「池くんさっきから怪しくない?もしかして本当に隠してるとか?」
「はあ!?か、隠してるわけないだろ!調べたきゃ調べろよ!」
池は両手を広げた。それを見てると、池は絶対犯人じゃないって思える。
「じゃあ調べて。平田くん、お願い出来る?」
「......分かった。それで女子が納得するなら。だけどこれで見つからなかったら、もうこれ以上男子を調べ上げる真似は止めてほしい」
ポケットとかを調べる検査が始まった。最初は池、次に山内。この二人から出ることはなくて、最後に綾小路の番。
そして綾小路の検査も終わると、平田がこっちに来る。
「三人は持ってなかったよ」
「おかしいな......あの三人の誰かと思ったのに。でも平田くんが言うなら......」
良かった。とりあえず悪い人はいないみたい。
「一度荷物を片付けていいかな。話はそれからでも出来るよ」
平田がそう言うと、男の子たちは自分の荷物を持ってテントの方に向かった。
「凄いことになっちゃったね......」
佐倉が心配そうにしてる。
「佐倉は私たちの中に軽井沢の下着盗んだ人っていると思う?」
「うーん......私には分かんないけど......少なくとも綾小路くんは違うんじゃないかな......綾小路くんは優しい人だから」
佐倉は男の子が怖いって言ってたけど綾小路は別。相談に乗ってくれた人だって言ってた。
「皆は仲直り、出来るかな」
「......どうでしょうね」
「......えと......」
堀北と佐倉はあんまり仲直り出来るって思ってなさそうだった。
......私に何か出来ること、ないのかな。
「分かった。皆を呼んでくるよ」
篠原たちに呼び出された平田が男の子たちを呼びにいった。すぐにクラスの人たちが全員集まった。
軽井沢ももうテントの外に出てて、目を真っ赤に腫らしながら怒ってる。
「男子は信用できない。このまま同じ空間で過ごすなんて絶対無理......!」
「でも、男女で離れて生活するのはちょっと問題じゃないかな......。試験はもう少しで終わる。だからこそ、僕たちは仲間なんだから信じ合って協力しないと」
「でも下着泥棒と一緒の場所なんて耐えられない!」
軽井沢は凄く嫌がりながら首を振った。そして篠原が木の枝を持って地面に線を引く。
「私たちは犯人が男子だと思ってる。だからここに線引きして男子と女子エリアを分けてよ。男子はこっち側に絶対立ち入り禁止ね」
「それからシャワー室も使わないでよね!変態の泥棒がいるかも知れない男子に使わせるなんて冗談じゃないし!」
「そーかよ。じゃあお前らでテントとか動かせよ。俺たちは動かないし手伝わないからな」
「へっ。お前らにテントの杭とか打ち込めるのかよ」
空気がピリピリしてるのが伝わる。心がチクチクする。
「ねえ平田くん。軽井沢さんのためにも手伝ってもらえる?」
「......わかった、僕が手伝うよ」
「けっ、平田だけ特別扱いかよ。平田だって犯人かもしれねぇのに」
「は?平田くんが犯人なわけないじゃん。バカじゃないの」
「な!?ふざけんなよ軽井沢。彼氏だから犯人じゃないとか、根拠になんねーし!」
池たちが文句を言ってるけど、軽井沢と篠原がそれを聞き流してどんどん話を進めてる。
「ちょっと待って。あなたたちに異議を唱えるわ。特に軽井沢さん」
「なによ堀北さん。今の話に不満あったわけ?」
「男女で生活区間を変えるまでは構わないわ。だけど平田くんだけが特別に女子のエリアに入って構わないルールを作るのは納得がいかないわね。平田くんも下着泥棒の可能性は除外しきれないもの」
「平田くんがそんなことするわけないでしょ。それくらい分かんない?」
「それはあなたの考え方でしょう?私にまで同じ考えを強要しないで」
軽井沢が堀北のことまで睨んでる。私もなんとかしなきゃ。
「ねえ、やっぱり他の人も入れてあげようよ」
「綾瀬さん何言ってんの?冗談じゃないって!あたし、下着盗られたのよ?男子に辱しめを受けたの!なんでわざわざ犯人を引き込まないといけないのよ!」
「それはあなたの危機管理が甘かったことに責任があるんじゃないかしら。知らず知らず盗まれるような原因を作っていたかも知れないでしょう?」
「な、何よ危機管理って!全員同じように鞄置いてたでしょ!」
「下着を盗っても構わない。あるいは盗られても仕方ないような日常生活を送ってるんじゃないかってことよ。あなたを恨んでいる人は結構いそうだもの」
「っ......!あんたねぇ......!」
あ......軽井沢はもう頭の中が怒りでいっぱいになってる......
「待って────」
「軽井沢さん。僕としても男子の手は借りたいと思ってるんだ。皆とは言わずとも、せめて一人ぐらいは居てくれると助かるんだけど......どうかな?」
私が軽井沢を止める前に平田が案を出してくれた。平田が言うと軽井沢も少し大人しくなる。
「で、でも......平田くん以外に信頼出来る人なんて......」
「あっ、それなら綾小路。綾小路がいるよ」
「......あんな影の薄いむっつりスケベタイプとか信用できないんだけど」
そう言われた綾小路はちょっと傷ついた顔をしてた。
「むしろ綾小路くんが犯人だったりして。朝、こそこそして怪しかったよね」
「ありえるかも......確か昨日、夜遅くまで焚き火の前に居たよね、綾小路くんって......」
あれ......綾小路って全然信用されてない......もっと綾小路のこと信用してあげてほしいな......。
そう思ってたら佐倉が怖がりながらも前に出た。
「あの......あ、綾小路くんは、そんなことしない、と思うな......」
「え?何それ、何でそんなことがあんたに言えんの?」
「あ、......その、えっと......」
佐倉は気の強い女の子じゃないから軽井沢みたい子は苦手。
「ねえ何で?何であんたに分かるわけ?綾小路くんが犯人じゃないって」
「軽井沢。止めて」
「綾瀬さんもさっきから何なの?」
軽井沢は私を見て馬鹿にするみたいに笑った。
「軽井沢が下着を盗まれて悲しいのは分かった。でも、だからって佐倉に攻撃しないで」
「はぁ?分かった?あのさぁ、綾瀬さんって全然状況分かってないでしょ。だって綾瀬さんバカだし」
「そうだね。軽井沢の言う通り私はバカだよ。だから私には何言ってもいい。でも、佐倉に酷いことするのは駄目」
「酷いことって。子どもみたいな言い方止めてよね。ああそっか、綾瀬さんは子どもみたいな人だから別に変じゃないか」
「軽井沢さん。そろそろ止めなさい」
堀北が止めに入った。でも軽井沢は無視して話す。
「綾瀬さんは少し常識を学んだ方がいいよ?これは聞いた話なんだけどさ、確か綾瀬さんってブラ着けてないんだっけ?だから下着が盗まれたってことがどれだけ重大なことなのか分かんないでしょ?」
「あなた......!こんなところでそんな話を────」
堀北が味方をしてくれるけど、私はそれを止めて首を横に振った。
今軽井沢と話してるのは私。攻撃されるのは私だけでいい。
「今は着けてるよ。着けないと品位が落ちるから。品位って、社会に出たら大事なんだよ」
「あっそ。寝癖だらけで言われても説得力ないけどね」
軽井沢がイライラしてるのを感じる。普通の女の子は下着を盗まれるのが嫌だから、気持ちが不安定になってる。なんとかしないと。
「軽井沢。もうそろそろ止まって。イライラしてるなら後でいくらでも私を殴っていいから」
「......は?なに言ってんの?そんなことするわけないでしょ.......ちょっと引いたかも。前から言おうと思ってたけど、綾瀬さんってなんか野蛮人みたいだよね。常識ないし、女の子として終わってるし」
「あ、綾瀬さんは終わってなんかありません......!綾瀬さんは、凄く、可愛い......です!」
「急に何?あんたの意見なんか聞いてないんだけど。全然友達いないんだからしゃしゃり出てこないでよ」
「っ.......!」
軽井沢に睨まれて佐倉が泣きそうになってる。
軽井沢は止まらない。このままだと皆嫌な気持ちになる。そんなの、私もやだ。
それなら、力の差を見せて黙らせるしかない。なるべく、怖がらせないようにする。
少しでいい。軽井沢が止まってくれる程度でいい。
少しだけ────殺意を向ける。
「────いい加減にして」
「ひっ......!」
軽井沢が小さく声を上げて尻餅をつく。そして私を見て震え始めた。
「あっ......ご、ごめんね......私、そこまで怖がらせるつもりは......」
私も軽井沢がここまでなるなんて思ってなかった。ただ止まってくれればそれでよかった。
でも軽井沢は凄く怯えてて、いつもの軽井沢と全然違った。それを心配して篠原とかが軽井沢のところに駆け寄る。
「え......軽井沢さん......?」
「............」
軽井沢は何も喋らない。ただただ、怯えてる。
「......彼女、どうしたのかしら」
堀北も不思議がってる。それぐらい私が向けた殺意はほんの少しだった。
でもここまで怯えるってことは、もしかしたら軽井沢は人の気配とか雰囲気を探るのが凄く上手なのかもしれない。それなら悪いことしちゃった......。
「きっと軽井沢さんもショックで気が動転しちゃってるんだよ。だから許してあげて?ね?」
櫛田がこっちに来てそう言った。怒ってるって思われちゃったかな。
「私は全然怒ってなんかないよ」
「そっか。それならいいんだ。後で私がフォローしておくから、綾瀬ちゃんは心配しなくていいよ」
「......うん」
私はやり方を間違えた。
みーちゃんは私のこと、平田みたいって言ったけど、私は全然違う。だって、言葉で何も解決できないから。
私は結局、頼れるものが力しかない。
あれから結局オレがテント運びの手伝いをすることになった。とは言ってもオレの役目はペグを地面へと打ち込んで固定させるだけなんだが。今は一つ目のテントにペグを打ち込んでいる最中だ。
テントを運ぶのは平田と綾瀬、そしてその他女子。わざわざ折り畳むのも手間なので組み立てたまま運んでいる。二つ目のテントは地面に置かれ、女子たちが息を整える。
「ふう、終わった~。なんだ、案外楽勝じゃん」
「男子なんていなくても全然いけるよ」
オレはその会話を聞いて、綾瀬がいるだけで男子何人分なんだろうなと思ってしまった。
「ごめんね、君にまでこんな大変な思いをさせて」
「綾小路。手伝うよ」
平田と綾瀬がこちらに来てオレの手伝いをしてくれるようだ。二人とも優しいな。
「助かる。それと平田、お前が謝るようなことじゃないと思うぞ。むしろ任せっぱなしで悪いな」
「うん。平田は凄い。皆をしっかり纏めてる」
「凄くなんかないよ。僕が好きで勝手にやってるだけだから」
爽やかな笑顔で平田はそう言った。
「こんなこと聞くのも変かもしれないけど、どうしてそんなに頑張るんだ?」
「頑張ってるつもりなんてないよ。しなきゃいけないことをしているだけさ」
「そっか......ねえ平田。皆はまた仲良く出来ると思う?」
「もちろんだよ。この特別試験、僕は戦いじゃなくて皆が仲良くなるための大切な機会だと思ってる。だから今のこの時間を大切にしたい。そのために必要なことなら辛い作業でも喜んでするよ」
平田からはただただ、皆と仲良くしたいという思いだけが強く感じられる。
裏表なんてものは一切ない。純粋な善意。そしてそれは綾瀬にもあるもの。
平田と綾瀬は本当によく似ている。
だからこそこの二人は────危うい。
「平田くーん!ちょっとこっちに来てー!」
軽井沢たち女子のグループから平田を呼ぶ声が聞こえた。しかし、こちらに近づこうとはしない。男子のオレがいるからだろうか。
あるいは────。
「平田。行ってきて」
「いや、でも二人だけに任せるなんて......」
「ううん、平田は行くべきだよ。ここは私たちがやっておく」
「......ごめん。すぐ戻るから」
平田は綾瀬のことを少し心配するような目で見てから軽井沢たちの元へと向かった。
そうして残されるオレたち。
「綾瀬ももういいぞ?今の状況で男子のオレといたらあんまりいい顔されないだろ」
「いい。私はもう......軽井沢たちに嫌われちゃったと思うから......」
そう言う綾瀬は少しだけ落ち込んでいるように見えた。
ただ、軽井沢はともかく他の女子たちは先程起こった一幕をまるで理解していないだろうからそんなに気にする必要ないと思うけどな。
綾瀬が軽井沢に向けて放った微弱な殺意。あれを感じ取れる人間はなかなかいない。おそらく近くにいた堀北さえも分かっていなかっただろう。オレでさえ辛うじて感じ取れたレベルだった。
しかし、軽井沢はそれを敏感に感じ取った。しかもあの怯えようも少し異常だ。果たして櫛田の言うように気が動転していたからで済ませていいものなのか......。
「ねえ綾小路......」
そんなことを考えていると綾瀬が小さな声でオレの名前を呼んだ。
「うん?どうした?」
「私......軽井沢を怖がらせちゃった......。どうしたら、仲直り出来ると思う......?」
そう言って綾瀬は顔を俯かせた。どうやら少しじゃなくて相当落ち込んでいるようだ。さっきからペグを打ち込む動作に力がない。この様子だと試験に支障が出かねないな。
「心配するな。今度オレが仲直りのきっかけを作ってやる。だから今はこの試験のことだけ考えるんだ。こういうことは時間を置けば案外あっさり解決したりもするからな」
軽井沢と接点のないオレにそんなきっかけを作れる保証などないが、今はそう言ってやるべきだろう。
「......分かった」
それからオレたちは作業に没頭し続け、結局平田が戻ってくる前にテントの固定は終わった。