第32話 前途多難な彼女の旅立ち
人が脳に知識を溜めていくのはノートに忘れちゃいけないことを書くのと同じ。だから私は人の脳はノートみたいだって思ってる。
頭のいい人はノートのページに文字がビッシリ埋まっていて、しっかり保存されているんだ。
「ねえ、じごくってなに?」
「必要のない知識です」
そう言われると、私はページを破り捨てないといけない。
「かけざんってどうやるの?」
10歳ぐらいのときだっけ。何となく聞いたことがあったから、どんなのか知りたかったんだ。
「必要のない知識です」
そう言われたから、そのときはすぐにページを破り捨てた。今ならちゃんと九九が言えるよ。
「どうしてさっきのひとはおびえてたの?ワタシといっしょなんでしょ?」
「同じではありませんよ。誰もあなたには敵いませんから」
どうして怯えているのか教えてくれなかったから、ノートには何も刻まれない。
私が小さい頃にまともに勉強したのは、最低限話が通じるようにって言われときぐらいだった。
でも、それも日が経つにつれて必要なくなっていったんだ。私の存在価値は、力を振るうことだけだったから。
だから私のノートは────空白ばかり。
島の試験も終わって三日が経った。今は船の上。風を感じたかったから外にいたんだ。今は11時半ぐらい。人もいっぱい。
試験のことを思い出す。試験はDクラスが一位。皆が頑張ったから。皆も喜んでたし、一位でよかった。
島は楽しかったな。あんな自然がいっぱいのところを回れて気持ちよかった。それに友達もできた。でも私は櫛田みたいに話すことは出来ないから遊びにいったりとかはあんまり。とりあえず顔が合ったら話しかけられるぐらい。それでも楽しいけど。
綾小路は他クラスの人と仲良くしたいみたいだから私がどんな人だったかを教えてあげるの。これからも。でも綾小路は恥ずかしがりやだからこのことは秘密にして欲しいんだって。だから鈴音にも内緒。
......鈴音。そう呼ぶと、なんだか嬉しくなる。須藤の言ってたこと、分かったかも。鈴音はあんまり外に出たがらないけど、一緒にご飯を食べにいってくれたときもあったんだ。あとは遊んだりとか。
「あれ......」
携帯が鳴った。チャットだ。送ってきたのは平田。試験が終わった後平田と連絡先を交換したんだ。
『なかなか機会が取れなくてごめんね。本当は君と話がしたかったんだけど、軽井沢さんたちとご飯を食べることになったんだ。いつかまた誘うよ』
平田は人気者だから忙しい。私は『分かった』って打った。
軽井沢とはまだ仲直りできてない。軽井沢はいつも通りに振る舞ってるけど、私を見る目が怯えているのが分かっちゃう。早く仲直り、出来たらいいな。
「あ、電話......」
今度は電話。相手は櫛田。
『綾瀬ちゃん。ご飯食べた?』
「ううん。まだ」
『そっか。それなら私と一緒に食べない?』
「食べる」
そう言った後にどこで食べるか相談して、レストランで待ち合わせすることになった。
「綾瀬ちゃん」
レストランにつくと、櫛田が先にいる。二人で席について板......じゃなくてタッチパネルを見た。これを触って注文とかするんだよ。携帯と似てる。
ハンバーグ、唐揚げ、変な色したお米、パスタ、デザート。とにかく色んなものがいっぱい。どれにしよう......あ、ポイントがかからないから好きなものを食べていいんだ。
「じゃあ......これと......これと......これと......」
とにかく気になったものを注文する。
「え......そんなに食べれるの......?」
「うん。お金かかんないなら大丈夫」
「私が聞いたのはそういうことじゃないんだけどな......綾瀬ちゃんっていつもお菓子しか食べてないから少食だと思ってたよ......」
「別に食べなくても動けるから」
「あー......そう、なんだ?あはは......」
櫛田がよく分かんなそうにしてた。
とりあえず注文はこれぐらいでいいや。
ご飯が来るまで櫛田とお話。私は櫛田にお礼を言わないといけない。
「櫛田。ありがとう」
「ん?急にどうしたの?」
「私、もうDクラスの皆から嫌われたと思ってた。でも櫛田がフォローしてくれたから、皆いつも通り私に接してくれた。全部櫛田のおかげ。だから、ありがとう」
本当に感謝してる。皆に嫌われるのは、寂しかったから。
「そんなの全然いいよ。それに私が綾瀬ちゃんにそうさせたんだもん。だから感謝される筋合いなんかないよ」
「ううん、櫛田の言った通りにしたら喧嘩なくなった。だからあれが正解だった」
「......そっか。それならまた今度も私に協力してくれる?」
皆に何も言わせない力を見せつける。それが私には出来る。そしてその力を櫛田が皆のために使ってくれるから、私は櫛田を信じる。
「うん」
「......綾瀬ちゃんは本当に素直で良い子だね......あはっ......」
櫛田は少しの間だけ下を向いて、すぐに顔を上げた。
「あ、そうだ。堀北さんは元気になった?」
「うん。鈴音は......」
「────え?」
私が喋ろうとしたら櫛田がすぐに割り込んできた。
「......え?いつの間に堀北さんのこと名前で呼ぶようになったの?」
「え......試験が終わった後......」
「どうして?」
「堀北は、特別だから......」
「私は?私は特別じゃないの?」
「......特別、だけど......」
「じゃあなんで私のことは名字で呼ぶの?」
「......えと......」
なんか櫛田があのときみたいにおかしくなった......また怒らせちゃったのかな......。
「き、桔梗......」
私がそう呼ぶと、くし......桔梗は凄く笑った。
「わぁ!下の名前で呼んでくれて嬉しい!私も今日から心音ちゃんって呼ぶね!!」
......よく分かんないけど、喜んでるからいい、のかな......?
その後、ご飯が来ていっぱい食べた。桔梗は私がご飯を食べてるのを見て、見てるこっちがお腹痛くなりそうって言いながら変な顔してた。
桔梗と別れた後、私は綾小路に呼び出された。場所はカフェの奥。あんまり人がいないところ。
「呼び出して悪かったな」
「ううん、何かあったの?」
「ちょっと相談というか、頼み事があってな」
頼み......なんだろう。
「綾瀬にはAクラスのリーダーを教えてもらっただろ?でもそのことは秘密にして欲しいんだ」
「それは......どうして?」
「もしAクラスのリーダーを知ってたなんてバレたら注目されるからな。オレはあんまり目立ちたくないんだよ」
「そっか......綾小路は恥ずかしがりやだもんね......うん、分かった」
綾小路って佐倉みたい。それなら秘密にしてあげなきゃ。
「ありがとな。ちなみに堀北は綾瀬がAクラスのリーダーを知ってたことを聞いているのか?」
「試験の後話そうと思ってたの。体調悪そうだからあんまり考え事させない方がいいかなって。でも堀北にリーダーのこと話そうとしたらもう知ってるって言われた。やっぱり堀北はリーダーが分かってたんだね」
「そうか。さすが堀北だな」
リーダーを当てるって凄い難しいことだったんだよね。一之瀬も無理って言ってたし。
突然、私と綾小路の携帯が同時に鳴った。
キーン、っていう高い音。これは学校からの連絡。マナーモード?っていうのにしても鳴るんだって。確か凄い重要。
そしてアナウンスが聞こえる。
『生徒の皆さんに連絡致します。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願いいたします。繰り返します────』
「......今届いたメールのこと、だな」
「メール......」
重要なことがさっき届いたメールに書いてるみたい。
見てみると、こんな内容だった。
『間もなく特別試験を開始します。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日19時20分までに2階203号室に集合してください。所有時間は20分ほどですので、お手洗いなどを済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』
「特別試験......」
どんなことをするんだろう。全然分かんない。
「ちょっと見てもいいか?」
「うん」
綾小路に見せて、私も綾小路のを見る。
綾小路の時間は18時。場所は204。ちょっと違う。
「どうして違うの?」
「......見当もつかないな」
堀北はどうだったんだろう。綾小路も気になって鈴音にチャットを送る。その会話を見させてもらう。
『今学校からメール届いたか?』
『届いたわ』
『オレは18時からに指定されていたんだが、そっちは?』
『こっちは20時40分からよ。随分時間が違うみたいね』
私は19時20分だから......バラバラ......
『色々気になることはあるけれど、ひとまず時間になったら足を運ぶしかないわね。あなたの方が早いみたいだから、報告よろしく』
『分かった』
その後に私の方にも堀北からチャットが来た。私も綾小路みたいにチャットしてると、最後に『何か分からないことがあったら相談するのよ』って書いてた。多分分かんないことばかりになりそうだから相談するかも。
「とりあえず今は待つしかないな」
「うん」
どんな試験か分かんないけど、私に出来ることがあればいいな。
メールに書いてた時間まで後3分。ちょっと迷ったから遅れそう。
なんとか扉の前まで来たから手を掛ける。
「あら!綾瀬さんじゃない。間に合ってよかったねー」
扉を開けるとイスに座ったチエがいた。そしてチエの前にはDクラスの人がいた。
「おお!綾瀬ちゃんか!なんか心強いぜ!」
そう言ったのは池。
「やほ、綾瀬さん」
そしてその隣には松下がいた。
「さ、綾瀬さんも座って~。これから試験の説明を始めるよ。ちなみに質問は受け付けないからしっかり聞いてね~」
私もイスに座ると、チエは説明を始めた。これで人が揃ってるんだ。なんか少ないね。
「今回の特別試験では一年生の皆を
シンキング......考える、だっけ。
「社会人に求められる能力は大きく分けて3つ。アクション、シンキング、チームワークだね。無人島の試験ではチームワークが大事だったけど~、今回はシンキング。大人になったら色々考えないといけないことも増えるからとーっても大事なんだよっ。そこで今回の試験では12グループに分けて試験をやることになったんだ」
「......私、考えるの苦手......」
考えすぎると頭痛くなっちゃう。
「まあ、そこまで難しく考えすぎなくても大丈夫大丈夫。他の先生なら今頃堅苦しく説明してるだろうけどねー」
「えーと、ということは......」
松下が何かを考えていた。
「ん?松下さん質問したそうだね。んー......それならちょっと早いけど質問タイムに入ろっか。はい、松下さんどうぞ!」
「あ、いや......他の先生なら今頃って言ってたから、もしかしたら今頃私たちみたいに他の人たちが同じような説明を受けてるのかなーって......」
「正解!松下さんの言う通り、他の部屋でも同じような説明をされてるよ。そして君たち3人とその人たちは同じグループになるってわけ」
「それならメンバー全員集めた方がよくないすか?そっちの方が一気に説明できて楽じゃん」
「確かにそうだね。でも他の部屋で説明を受けてる人は別クラスの人なの。各クラスから3人か4人を集めて一つのグループを作っているんだ。だから事前に説明しておかないと混乱するでしょ?」
......?他クラスの人とグループ?仲間......ってこと?
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!他のクラスとグループを組むって、俺たち敵同士じゃないんすか!?」
「ま、色々気になるよね~。でも話を進めてけばすぐに分かるよ。君たちの配属されるグループ『
渡された紙には全クラスの人たちの名前。そして『鼠』って書いていた。
Aクラス
里中聡・戸塚弥彦・西川亮子・橋本正義
Bクラス
漆原優香・柴田颯・田中健人
Cクラス
木下美野里・近藤玲音・椎名ひより・園田正志
Dクラス
綾瀬心音・池寛治・松下千秋
あ、椎名だ。結局あれから会えてないんだよね。でもこうして会えるのはついてるかも。あとは柴田とか、橋本とか......へー......弥彦って戸塚っていう名字なんだ......
「まだどんな試験をするのかは分からないと思う。でもちゃんと説明するからね」
......理解できるかな。ちょっと不安。池と松下が理解してくれればいいけど......。
池は私と同じであんまり分かってなさそう。松下は......どうなんだろう。何考えてるのかよく分かんない。
試験の説明は以前と同じく綾小路にバトンタッチ......するか迷っています。案外綾瀬視点で説明を聞かせるのもアリかもしれないと思ってきたところです。
あと松下にはあまりスポットを当てる気なかったのですが、僕の気が変わったら今回の章の準主人公になる可能性を秘めています。どうしようかな。
近藤の名前はれおん。アニメで出ていたみたいです。意外すぎる。
あと活動報告なんてものも書いてみたので暇だったらぜひ見てみてください。