ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第34話 優れた子

 部屋に戻って休んでいたらもう20時20分。

 

「そろそろ時間ね。少し早いけどもう出ようかしら」

 

 鈴音は20時40分に説明を受ける人。だから外に出ようとしてた。

 

「鈴音、私もついてく」

 

「ついてきても何もないわよ?」

 

「いいの。一緒に歩きたいだけだから」

 

「そう。構わないわよ」

 

 一緒に歩くの、なんか一緒に学校にいくみたいで好き。

 

「手、繋いでもいい?」

 

「皆が見てるとこでなんて恥ずかしいから嫌よ」

 

 別に恥ずかしくなんかないのに、残念。

 

「試験の説明はしっかり理解できた?」

 

「全部は、まだだけど......なんとなくやることは分かった」

 

「綾小路くんにも聞いたけど複雑な試験だったわ。だからきっと混乱すると思ってたけれど、その様子なら今のところ大丈夫そうね。でも分からないことがあったら無理せずに相談するのよ?」

 

「うん。すぐ相談する」

 

「ええ、そうして。期待してるわよ」

 

 鈴音は少しだけ笑った。

 今回の試験、私は苦手なことばかり。でも鈴音は私に期待してくれてるみたい。

 

「......ごめんなさい。気負わせちゃったかしら」

 

「ううん、私、頑張る」

 

 鈴音に期待されるの、嬉しい。頑張らなきゃ。

 

「それにしても、20時40分組って他に誰がいるのかしらね」

 

「あ、それならメール来てたよ」

 

「20時40分組の人から?それは誰?」

 

「えっとね、桔梗......」

 

「────え?」

 

 私が喋ろうとしたら鈴音がすぐに割り込んできた。

 

「......え?それって櫛田さんの名前よね?いつの間に櫛田さんのこと名前で呼ぶようになったの?」

 

「え......今日のお昼ご飯のとき......」

 

「どうして?」 

 

「桔梗は、特別だから......」

 

「特別?私は?」

 

「......特別、だけど......」

 

「特別という言葉はそんなに簡単に使って良い言葉じゃないのよ?」

 

「......えと......」

 

 なんか桔梗のときと同じ......やっぱり下の名前で呼ぶって凄い重要なことなんだ......。

 

「......袖ぐらいなら貸してあげるわ」

 

「え?恥ずかしくないの?」

 

「これなら前に一緒にお菓子買ったときもしたでしょう。恥ずかしくないわ」

 

「鈴音が良いなら......」

 

 そっと袖を掴むと、鈴音が少しだけ嬉しそうだった。

 ......よく分かんないけど、嬉しそうならいいの、かな......?

 そうして鈴音が呼ばれた部屋に近づいていくと、色んな人とすれ違った。

 

「なんだか妙に視線を感じるわね......それに私たちを見て携帯で何かを打ち込んでる人までいるわ。失礼な人たちね」

 

「ほんとだ......なんでだろ......」

 

 あれはAクラスの鈴木、あれはCクラスの守屋。話したことある人。

 扉の前まで来ると、私は鈴音から手を放した。鈴音もいかないといけないから。

 

「む......お前たちは......」

 

 私たちに4人近づいてくる。葛城とAクラスの人が3人。

 

「......綾瀬。なぜお前がここにいる。お前は19時20分組のはずだが?」

 

「私は鈴音と歩きたかったから」

 

「随分と綾瀬さんの情報を掴むのが早いのね」

 

「各グループのメンバーはもちろん把握している。そして綾瀬は最も注目すべき人物だ。無人島試験が終わった後に流れている噂のことを考えればな」

 

「「噂?」」

 

 綾瀬と堀北の声が被った。

 

「同じDクラスなのに知らないのか?しかも本人までが知らないとはな。かなり広まっている噂だぞ」

 

「生憎そういったことに興味がないの」

 

「私も全然知らない」

 

「なるほど。お前たちの情報収集能力の高さは既に把握している。それなのにシラを切るつもりか」

 

「......あなたは何を言っているの?」

 

 鈴音は本当に良く分からなそうにしてる。私もよく分かんない。

 

「綾瀬に何度もAクラスに訪れさせて情報を収集させたのは堀北、お前だろう?どうやったかは知らないが、そこで我々のリーダーを見抜いたようだな」

 

「え?情報?」

 

 何のことだろう......私がAクラスに行ってたのはただAクラスの人とも仲良くなれればいいなって思ったからなんだけど......。

 

「なんだか勝手に勘違いしてくれてるみたいね。とにかく、先日話したときは眼中にもなかった私たちを警戒してくれてる、ってことでいいのかしら?」

 

「前の試験驚異的な結果を見ればそうせざるを得ないな。もしこれから先いつかは分からないが......DクラスからCクラスへ上がってくるようであれば、Aクラスは容赦なくお前たちを叩くだろう」

 

 葛城の傍にいる人たちが私たちを警戒した。

 あ......それで思い出した。桔梗から頼まれていたことがあったんだ。

 

「ねえ」

 

「......なんだ?」

 

「あ、私が声をかけたのは葛城じゃないんだ。そこのあなたたちに言わなきゃならないことがあるの」

 

「......俺たちにだと?一体何を───」

 

「それ、止めた方がいいよ?あなたたちじゃ私には勝てないから」

 

 軽く身体に力を込める。この人たちの戦意を削るぐらいの力。これで喧嘩をしようなんて思わなくなるよね。

 

「っ......こいつ......」

 

「やっぱり私たちのところに来てたのは作戦だったのね......これが綾瀬心音の本性......」

 

 ......そう思ってたんだけどなんかもっと警戒するようになっちゃった......後で桔梗に言わないと。

 

「なんだか随分と物騒な雰囲気だな」

 

 そう声をかけたのは神崎だった。あ、その後ろに綾小路と平田、桔梗も見つけた。

 

「心配無用よ。この人たちが綾瀬さんの真意が読み取れなかっただけだから」

 

「真意?先ほどの綾瀬の発言は我々に宣戦布告したものだと思っていたのだがな」

 

「彼女は忠告したのよ。もし容赦なく私たちを叩くようであればそのときは自分の身が危ないということをね」

  

 私と喧嘩しても誰も勝てない。多分人を傷つけることになる。だからそうなる前に力の差を分からせる。これが一番平和。

 でも葛城たちは気づかなかったみたい。軽井沢も怯えさせちゃったし、やっぱりこれじゃ駄目なのかな......でも......。

 

「クク。随分と雑魚が群れてるじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」

 

「......龍園か」

 

 龍園だ。龍園が来ると、葛城の声が少しキツくなった。神崎も警戒してる。

 

「おっと、獣が一匹紛れ込んでやがったか。悪いな、心音」

 

「獣?私が?」

 

「お前にはピッタリだろ?お前ならここにいる全員を喰らい尽くせるぜ。クク。今すぐリードでも着けて飼い慣らしてやりたいぐらいだ」

 

「相変わらずあなたは綾瀬さんを駒みたいに扱いたくてしょうがないみたいね。でもこの子にリードなんて必要ないわ」

 

「鈴音。保護者面するのもいいが俺はしっかり言ってやったはずだぜ?宝の持ち腐れだってよ」

 

「私も言ったはずよ。この子に必要なのは自立だと」

 

 また喧嘩してる......どうしよう......。

 

「まさか本当だったとはな。綾瀬心音がCクラスを掌握したという噂は」

 

「掌握?笑わせるな。心音は人の上に立つ存在じゃねえよ。俺がいる限りこいつが俺のクラスを掌握するなんざ有り得ねえのさ」

 

「人の上に立つ......それって平田とかみたいに?それじゃ私は出来ないよ」

 

 そういうのは頭がいい人がやること。私の役目じゃない。

 

「これ以上話が続くようなら私は先に失礼させてもらうわ。そろそろ時間だから」

 

 龍園たちに向かってそう言うと、鈴音は背中を向けて扉を開けた。

 それに続いて龍園たちも入る。そして桔梗も私の後ろから扉に向かった。

 

「────見てたよ、心音ちゃん。後で連絡するね」

 

 私にそう小さく話すと、桔梗も部屋に入った。

 

「綾瀬。なんだか大変だったな。とりあえず部屋に戻るか?」

 

「うん」

 

 人が少なくなってきた。ここにずっといると眠たくなっちゃいそうだから綾小路と歩いてよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食の時間。生徒たちの間で人気のビュッフェを避け、船の甲板へにあるカフェ『ブルーオーシャン』へと足を向けていた。早朝のカフェには殆ど生徒の姿はなく、その中でも日陰に当たる不人気な奥のテーブル席に座り、待ち人たちを待つ。時刻は午前7時55分。  

 約束の時刻の1分前になると、あくびをしながら眠そうにしている綾瀬、そしてその綾瀬に袖を掴まれている堀北の姿が見えた。

 

「それじゃあ、改めて情報の整理をしましょう」

 

 二人が席につき、堀北は昨日のチャットでしたやり取りの続きを始めた。

 

「それで、学校からの呼び出しや詳細は一緒だったのか?」

 

「全く同じね。違いを上げるなら説明担当の先生が違ったことくらいでしょうね」

 

「私も......」

 

「グループメンバーと人数は?」

 

「見れば驚くわよ。偶然とは思えないほどの偏りだから」

 

 そう言って堀北は紙を差し出してきた。しっかり他クラスのメンバーを記憶し、自らメモしていたようだ。それを受け取りグループリストに目を通す。グループ名は辰、つまり龍。そこに載っていた面々を見て納得する。

 

Aクラス

葛城康平・西崎優花・的場信二・矢野小春

 

Bクラス

安藤紗代・神崎隆二・津辺仁美

 

Cクラス

小田拓海・鈴木秀俊・斉籐義富・龍園翔

 

Dクラス

櫛田桔梗・平田洋介・堀北鈴音

 

 まずDクラスは現状切れる最強の組み合わせ。そして葛城、神崎、龍園と各クラスを代表する人物たちが揃っている。

 

「なるほどな......これは必然的な組み合わせと見た方がよさそうだ。でも少し不自然な点もあるよな」

 

「あなたのグループの一之瀬さんのことね」

 

 そう。一之瀬はオレと同じ兎グループ。Bクラスの代表者と言えば誰もが一之瀬だと思っていることだろう。それなのに竜グループではないのは不自然さを覚える。

 

「ちなみに綾瀬はどんな感じだった?」

 

「えと......はい......」

 

 まだ少しだけ眠たそうにしながらも紙を差し出した。それに目を通す。

 

Aクラス

里中聡・戸塚弥彦・西川亮子・橋本正義

 

Bクラス

漆原優香・柴田颯・田中健人

 

Cクラス

木下美野里・近藤玲音・椎名ひより・園田正志

 

Dクラス

綾瀬心音・池寛治・松下千秋

 

 これが鼠グループのメンバー。綾瀬から貰った情報のおかげで大体の人物像は浮かぶ。

 そしてオレが思ったのは、堀北たちとまではいかないがこちらもなかなかのタレント揃いということだ。

 まずAクラスの里中。里中の名前は櫛田からも聞いたことがあるが、確かイケメンランキング1位の男だ。次に戸塚。葛城の付き人である。能力のほどは分からないが、恐らくあの葛城が傍に置くぐらいなのだから何かがあるのだろう......多分。無人島試験の印象だけで語るならあまりだったが。そして橋本。話すのが上手と綾瀬は評価していて、綾瀬にAクラスのリーダーを伝えた男だ。この男は坂柳派の中でもかなり坂柳に近い人物だと予想している。そして曲者な可能性もあるな。その辺りは綾瀬に探って貰おう。

 次にBクラスの柴田。綾瀬からは皆を笑わせる人と評価されていた。恐らくBクラスのムードメーカーなんだろう。

 そしてCクラスは須藤の暴力事件で揉めた近藤と綾瀬の友達の椎名か。近藤は龍園の舎弟みたいなもの、そして椎名は本を読むのが好きらしいから頭も良いんだろう。

 最後にDクラス。綾瀬もいるが、最も注目すべきなのは池だ。この試験を勝ちにいくなら対話が求められる。そこにコミュニケーション能力の高い池。このグループも何かしらの意図がありそうだ。

 

「何か法則がありそうだと思ったけれど、不自然な点が多くあるわね」

 

 ちなみにオレのグループには先ほど話した一之瀬。そしてDクラスには博士、幸村、軽井沢。Cクラスには伊吹がいる。

 オレたちだけで見ても学力の高い幸村がいるのは不自然だし、やはり一之瀬がいることがどうしても違和感しかない。

 

「そろそろ所定の時間ね。本当にメールは来るのかしら」

 

 時刻が午前8時を迎えると、一秒の誤差もなく携帯が鳴った。すぐに届いたメールを確認する。堀北は迷わず携帯を倒しこちらに液晶画面を向けてきた。オレも携帯を堀北に向け、お互いの画面を見比べながら詳細を確認する。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んでください。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。竜グループの方は2階竜部屋に集合して下さい』

 

 これが堀北の文章。オレとほぼ同じだ。違うのは卯か竜かの違い。

 

「あ......」

 

 声を上げたのは綾瀬。まだ綾瀬の画面は確認していない。オレたちは画面を見せるように言い、綾瀬が携帯をこちらに倒す。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれました。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んでください。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。鼠グループの方は2階鼠部屋に集合して下さい』

 

「私、優待者......」

 

「まさか綾瀬さんが優待者なんて......」

 

 鼠、もとい子グループの優待者が綾瀬って......これは偶然なのか?まさか綾瀬が子供っぽいからなんてふざけた理由ではないと思うが......まあ、一応視野には入れておこう。

 

 




綾瀬のグループには原作で竜グループだった生徒を一部入れています。
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