ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第35話 特殊

 鼠グループの優待者となった綾瀬。

 この試験は優待者が圧倒的に有利だ。ただ黙っているだけで50万ポイントを得る権利を与えられたみたいなものだからな。それに他の人間を優待者に仕立て上げることも選択出来る。

 しかし綾瀬か......不安だ......。

 

「一応言っておくけれど、優待者であることは隠しておくのよ?」

 

「うん。分かってる。ねえ私が優待者だって池と松下に言った方がいい?」

 

「二人は何て言ってたんだ?」

 

「本人次第だって」

 

 本人の意思に任せるということか。オレも普通だったら黙るべきだと思うんだが、手綱もない綾瀬だと何をするのか分からないためそうは言えない。

 

「あなたはどうしたいの?」

 

「私は......えと、話そうかなって......思ってる......私、多分嘘つくの下手だから......」

 

 少し自信が無さそうに綾瀬はそう答えた。

 綾瀬なら『お前は優待者か?』なんて聞かれたらうっかり『うん』と答えてしまいそうだ。それなら二人にフォローして貰った方がいいだろう。

 ただ池は会話は出来るが戦略なんてものは期待できないだろうな。そして松下は......正直接点が無さすぎてよく分からない。良くも悪くもあまり印象に残らない生徒、そんな感じだ。確か篠原や佐藤といるところよく見る気がする。

 

「そこまで不安になることはないわ。もしあなたが怪しまれても優待者だと解答するのは相当な確信がないと出来ない。もちろん隠しておくに越したことはないけれど────」  

 

 話している途中の堀北に、オレは唇前に人差し指を立てて言葉を遮った。

 

「よお、こんな人気のないところで仲良く密談か?」

 

 不適な笑みを浮かべながらやってきた龍園。そしてもう一人、伊吹がこちらを強く睨み付けながら早歩きで向かってきた。そしてオレたちのテーブルに勢いよく手を置き、綾瀬の方を向く。

 

「次は絶対倒す......!!」

 

 伊吹は鬼気迫る目で綾瀬を睨み付けた。唐突に物凄い剣幕で綾瀬へとリベンジ宣言をするものだからオレと堀北も困惑してしまった。

 睨みを受けた綾瀬は少しだけ目を見開く。

 

「......そんなこと、言われたの初めて」

 

 そして、どこか嬉しそうな声色でそう言った後に右手を差し出した。

 

「いつでも、待ってる」

 

「......フン!相変わらずムカつく!!」

 

 伊吹はその手を取らなかった。依然として綾瀬を睨み付けたままだ。それを見て綾瀬は少し残念そうにする。

 

「そういきり立つな伊吹。お前じゃこいつには勝てねぇよ」

 

「そうね。熱を出していた私に苦戦していたぐらいだし」

 

「このっ......!」

 

 伊吹はすぐにでも食ってかかってきそうな勢いだったが、一度綾瀬の方を見て悔しそうにしながら矛を収めた。

 直接見たわけではないが、恐らく伊吹は綾瀬に手も足も出なかったんだろう。綾瀬が苦戦する様子など全く想像できない。実際にあのときの綾瀬は無傷だったしな。

 

「メールが届いたと思うがどうだったんだ?優待者にはなれたのか?」

 

「教えるわけないでしょう」

 

「それなら心音に聞くか。なあ心音お前は────」

 

 龍園が言い切る前に綾瀬が口を両手で塞いだ。

 

「......お前は何をやっている?もしかして本当に優待者なのか?」

 

「残念ながら彼女には龍園くんに何を聞かれても口を塞ぐように言ってあるの。そうよね?」

 

 アドリブだったが綾瀬はしっかり堀北のフォローを理解した。

 コクコクと綾瀬が首を縦に振る。

 

「どう見ても怪しいが、まあ今はいいだろう。それよりも無人島試験のことでどうしても気がかりなことがある」

 

「負け惜しみでも言いに来たのかしら」

 

「確かに試験の結果が俺の想定とは違う結末になったことは素直に認めてやる。正直驚いたぜ。だがそれはこの際どうでもいい。重要なのは心音の価値に気がついたヤツがいるかも知れねぇってことだ」

 

「あなたも葛城くんと同じで噂に踊らされているのね」

 

 今1年生の間で流れている噂。それは綾瀬が他クラスに食料を配っていた、そしてそれに尾びれがつくようにその行動はリーダーを探るための情報収集だったなんてものまで。後は綾瀬がCクラスを掌握したといったものか。

 

「葛城は心音を動かしたのはお前だと思っているみたいだが俺はそうとは思ってねぇ。伊吹からの報告によるとお前がそういう戦略を取れる人間ではなさそうだからな」

 

「そもそも勘違いしてるみたいだけれど、綾瀬さんは自分の意思で食料を配っていたのよ。他の皆と仲良くなりたかったんですってね。私も初めて聞いたときは驚いたわ」

 

 どう見ても敵に塩を送る行為だが堀北は綾瀬を責めなかった。このときの綾瀬はまだなんとなくでAクラスを目指していたためだ。だが綾瀬も力を貸してと堀北に頼まれた以上、必要以上に他クラスに塩を送るなんてことはなくなるだろう。

 

「本当にそうか?俺は心音が鈴音じゃない誰かに利用されている気がしてならないんだよ。そいつは裏で心音を操って全クラスの情報を探ってやがる」

 

 当たりだ。やはり龍園とオレの思考はどこか通ずるものがある。

 龍園はオレとほぼ同じレベルで綾瀬の駒としての価値に気づいている。故に綾瀬の行動には何か裏があるという発想になるのだ。これで綾瀬も動かしづらくなるな。

 

「それはあまりにも邪推じゃないかしら。それよりもいいの?Cクラスは綾瀬さんに掌握されたなんて噂が流れているけれど、そっちの方があなたたちにとっては重要でしょう?」

 

「私にはなんでそんな噂流れてるのか意味分かんないんだけど。私のいない間に何があったのよ」

 

「クク。全くふざけた噂だぜ。一体誰がこんな噂流しやがったんだろうな」

 

 そう言う龍園はおかしそうに笑った。

 しかしこの船上で噂が広まるのはなかなかだな。教室とは違って少人数で部屋も分けられている。外に出れば交流する機会こそあれどもそれにしては情報の伝達が早すぎる気もする。それほど綾瀬の注目度が高いということか。各クラス回っていたから綾瀬のことを知らない人間などもういないだろうしな。

 

「確かに心音の脅威は連中にも伝わっただろうよ。だが葛城にも言った通りだ。俺がいる限りそれはあり得ねぇ。そして裏で心音を操っているやつに伝えとけ。お前の存在は必ず見つけ出すとな。いくぞ、伊吹」

 

「ちょっと!私のいない間にあったことを話しなさいよ!」

 

 言いたいことを言えて満足したのか、龍園は伊吹を引き連れて去っていく。

 

「......意外ね。てっきり無人島試験のことをもっと聞いてくると思っていたのに。それこそリーダーが変わったとか、そういうことをね」

 

「それほど龍園にとっては綾瀬のことの方が重要だったのかもな」

 

「改めて確認するけどあなたは綾瀬さんを利用していないのね?」

 

「もちろんだ。そうだろう?綾瀬」

 

 未だに口を塞いでいた綾瀬は再びコクコクと頷く。綾瀬はオレが恥ずかしがりやだからと言ってオレが綾瀬にお願いしたことを秘密にしてくれている。

 

「もう喋ってもいいのよ」

 

「......分かった。秘密にするのって大変だね」

 

 しかし綾瀬も色々変わってきたな。表情はほんの少しだけ豊かになりつつあるし、嘘をつくことだって覚えた。

 

「そうだ堀北。もし龍園に聞かれていたらオレの存在はどう話すつもりだったんだ?」

 

「別に話さないわよ。あなたは事なかれ主義でありたいみたいだし」

 

「それはオレの存在を敢えて隠してくれるということか?」

 

「あなたがそれで動きやすいならそうするわ」

 

「なんだ、随分優しくなったんだな。てっきり交換条件でも出されると思ってたぞ」

 

「もちろん力を貸してくれるなら大歓迎よ。ただ、あなたの意思までねじ曲げようとは思ってないわ」

 

 入学当初の堀北からは想像も出来ないセリフだ。一体どういう風の吹きまわしなんだろうか。

 堀北も綾瀬と一緒で色々変わってきているのかもしれない。綾瀬の保護者をしていく内に他人の気持ちを理解できるようになってきたのか。後はクラスメイトとも打ち解けられればいずれ堀北も立派なリーダーへとなれるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから試験が始まるのか......綾瀬ちゃんは大丈夫?」

 

「多分」

 

「そ、そっか。松下は?」

 

「まだどうなるかわかんないしね。何とも言えないかな」

 

「うぅ......俺はなんか緊張してきたぜ......」

 

 私と綾瀬さん、そして池くんは指定された部屋へと向かっていた。今日の朝にグループチャットで綾瀬さんが優待者だということが分かり、池くんは緊張気味だ。綾瀬さんはボーッとしてる顔がポーカーフェイスみたいなものだからなかなかバレることはないだろうけど、やっぱりどこか不安だ。上手くフォロー出来ればいいけど。

 部屋に入室すると、まだあまり人が揃っておらず、時間にもまだ少し余裕がある。

 

「あ......椎名......」

 

「あら、綾瀬さんですね」

 

 室内には円のように並べられた椅子が鼠グループのメンバー分あって、綾瀬さんがその内の一つに座っている女子の隣に座った。どうやら二人は顔見知りのようで、相手の女子は椎名って言うみたいだね。確かCクラスの女子だ。

 

「なかなか会えなくてごめんなさい。部屋の場所を教えておくべきでしたね」

 

「私も教えるの忘れてた。後で教えて」

 

「ええ。ただあの後自分が持ってきた本を何冊か見返したのですが、普段あまり本を読まない人には少し退屈になってしまう本ばかりかもしれません......」

 

「ううん、椎名が色々教えてくれるんでしょ?それなら、いい」

 

「そう言ってくれると嬉しいです。頑張って教えないといけませんね」

 

 物腰が柔らかくて、おっとりした印象だ。会話の内容から本を読むのが好きなことが分かった。わざわざ旅行に本を何冊も持ってくる人なんてなかなかいない。

 それにしてもなんだか妙に綾瀬さんと仲が良いって言うか、なんだろう。普段から良く話すような仲なのかな。あんまりそんな風には思えなかったんだけど。

 それから人も集まってきて、いよいよ所定の時間を迎える。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 船内スピーカーから簡潔で短いアナウンスが響く。後は自由にどうぞということらしい。

 当然、いきなり放り投げ出されてもどうすればいいか分からない。誰もがどうしようかと悩んでいる中、隣に座っていた池くんが立ち上がった。

 

「あのさ......せっかくこうして集まったわけだし自己紹介でもしようぜ。やっぱ名前ぐらい知っとかないと話しづらいし」

 

 意外にも見えるが、私にはそこまで驚きはない。彼は無人島試験のときも平田くんを除いて男子の纏め役を務めていたぐらいだ。もちろんキャンプ経験者だったからっていうのもあると思うけど、それがなくてもあまり変わらなかったと私は思っている。これで勉強と運動のせめてどっちかが出来てれば良かったんだけどね。

 

「自己紹介?フン、下らんな。そんなものする必要がない」

 

 威圧的な態度で提案を拒否したのはAクラスの戸塚くん。彼は葛城くんの忠犬みたいな人だから覚えている。その意見に対して先ほどのCクラスの女子、椎名さんが控えめに手を上げた。

 

「ですが自己紹介はした方がいいと思いますよ?説明のときに必ず自己紹介はするようにと言われていましたから」

 

 そこは私も気になっていた。必ずというぐらいだから自己紹介に意味があるんだろう。

 

「あれ?そうだったけ......まあそれならしておこうぜ」

 

「いや、学校側も本気で言ったわけじゃないだろう。自己紹介なんてしたいヤツだけでやればいい」

 

「でもやっぱり必ずって言うぐらいだからしないと駄目な理由があったりするんじゃない?自己紹介をしなかった人が後で注意されたりするかもしれないし」

 

 ここで発言するのは迷ったが、しっかりした纏め役がいない現状ではさっさと話を進めないと次に進まないため発言することにした。

 

「それにグループ全体の責任になる場合もあります。やはり自己紹介はするべきだと」

 

 おっとりしている子だと思っていたけど、案外頭の回転は速そう。やっぱり本を読んでるだけあるね。

 とにかく自己紹介する流れになったため、言い出しっぺの池くんから切り出した。

 

「よーし!じゃあ俺から始めるぜ!俺は池寛治!よろしくな!」

 

 池くんも櫛田さんにゾッコン中だからか『彼女募集中!』なんてことは言わなかった。もしこの場で言ってたらドン引きだ。

 自己紹介はそれぞれが適当なタイミングで始めることとなった。そして私も終わらせ、いよいよ残すところは綾瀬さん一人となる。

 

「あ、私最後だ......」

 

 綾瀬さんの番になると、皆の視線が一気に綾瀬さんに集中した。

 Aクラス、Bクラス、Cクラスの全員が綾瀬さんを見ている。

 

「えと......綾瀬心音。よろしく......」

 

 その視線には喜び、期待、興奮、困惑、警戒、恐怖、色んなものがあった。

 ......何これ。

 多分櫛田さんでもこんな多種多様な視線を一手に集めることなんてないだろう。大抵可愛いと思われるぐらいで終わるはず。綾瀬さんも美人ではあるけど、それでもここまで注目を集めることなんて普通はあり得ない。

 当の本人は相変わらずボーッとしていてどこ吹く風。

 もしかして私って想像以上にとんでもない大物を味方に引き入れようとしてる......?

 

「それじゃあ......どうするよ?」

 

 池くんが様子を窺いながら問いかけると、戸塚くんが自信たっぷりな表情を浮かべて席を立った。

 

「お前たちにこの試験を確実にプラスでクリアする方法を教えてやろう」

 

 その言葉に驚きを隠せない鼠グループの面々。

 

「な......なんだよその方法って!?」

 

「葛城さんに感謝するんだな。これは葛城さんが推奨する試験攻略法......その内容とは、最初から最後まで話し合いを持たないことだ」

 

 それは誰にでも簡単に分かる内容だった。

 

「え......ねえ弥彦。話さないなら、優待者、探さないの?」

 

 綾瀬さんがそう聞くと、戸塚くんは一瞬苦虫を噛み潰したような顔になった。だけどすぐに切り替えて試験攻略法の説明に戻る。

 

「この試験で裏切り者が優待者を当てにいくことで正解だろうが不正解だろうが必ずどこかでマイナスが発生するだろう。しかし、話し合いを行わずに優待者を見つけなければ残りの二つの結果にたどり着く」

 

「......えーと......」

 

 あんまり理解できてなさそうだから耳打ちをする。

 

「戸塚くんは結果1か結果2。つまり最終日まで何も話さないでこのどっちかの結果にしようとしてるんだよ。ちなみに結果1だと皆がプライベートポイントが貰えて、結果2だと優待者だけがポイントを貰えるの」

 

「あ......だからプラスになる......」

 

「やっと理解したようだな綾瀬心音」

 

 戸塚くんは綾瀬さんをバカにするように嘲笑した。

 

「でも優待者がどこかのクラスに固まってたらどうするんだ?」

 

 疑問をぶつけたのはBクラスの柴田くんだった。確かにそんなことになっていればどこかのクラスにプライベートポイントが何百万も集中しかねない。でもそんなことにはならないだろうね。

 

「少し考えれば分かるだろう。学校が不公平な振り分けを行うはずがない。試験開始前に公平性を嫌というほど強調していた。『グループに優待者が一人だけ』いる事実はあるが、『全てのクラスに均等に優待者がいる』ことを考えれば公平さも保たれている。無人島試験のときもそうだっただろう?AクラスもDクラスも平等なスタートであることは疑う余地もない」

 

 優待者は全グループ合わせて12人。それを4クラスで分けると各クラス3人いることになる。つまり私たちDクラスには綾瀬さんの他に後2人優待者がいる。

 もし葛城くんの考えた作戦が成立するなら各クラス50万プライベートポイントを3人分受けとることが出来てしまうということだ。もちろんそんな作戦は現実的じゃないけどね。

 

「話し合いをして相手を疑い騙しあうよりもよっぽどいいだろう?確かに優待者を見つけ出して裏切り者が一人勝ちすれば見返りも大きい。しかし比べ物にならないリスクも抱えることになる。それなら何も話さずに平和で終わる方がいい」

 

「平和......おー......それ良いかも......」

 

 優待者という立場である綾瀬さんからすれば、ただ黙っているだけでプライベートポイント50万ポイントが貰える。それも願ったり叶ったりではある。

 ただ────。

 

「頭良いんだね弥彦」

 

「俺じゃなくて葛城さんを褒めるんだな!やはりあの人は素晴らしい人なんだよ!」

 

「ちょっと待った」

 

 いい気になっている戸塚くんにストップをかけたのはまさかの同じAクラスである橋本くんだった。

 

「......なんだ橋本。なぜここでお前が声をかける」

 

「いやぁ、そんな作戦どうせ通らないだろうから早めに切り上げておこうかと思ってな。既に気づいているヤツもいるだろうから言っておく。この作戦はAクラスの俺たちだけが得する作戦さ」

 

「な─────!?橋本お前、突然何を言い出す!!」

 

 戸塚くんが驚愕の表情を浮かべた。そしてそれは私も含めた他の生徒たちもだ。

 この作戦のカラクリには気づいてたけどまさかそれを同じAクラスの人間がバラすなんて予想もしてなかった。カラクリに気づいていない人たちに向けて橋本くんが説明を始める。

 

「この作戦ってお前さんたちにデメリットがないように見えるだろ?だがそれこそが罠だ。俺たちよりも下のクラスには見えないデメリットが隠されている」

 

「なんだよその、見えないデメリットって」

 

 よく分かっていない池くんに対して椎名さんが解説を始めた。

 

「もし全クラスに均等に優待者がいるとして、先ほどの提案が成立すると平等にポイントを得られることでしょう。しかし、それではAクラスの逃げきりを許します。何回行われるか分からない特別試験、その少ないチャンスを棒に振ることになってしまいますね」

 

「そういうことだ。全くせこいよな~。Aクラスだっていうのに情けないぜ」

 

 これはAクラスだけが取れる戦略。目の前の損得だけを考えれば遥かに良い条件。だけど後先のことやクラスポイントを得られるチャンスを私は無駄には出来ない。私としては結果4を狙うのがベストだ。

 

「橋本貴様......!!」

 

 謀反とも取れる行動に怒り心頭の戸塚くん。残りの仲間も橋本くんに困惑している。

 

「少し考えてみろよ。こんな作戦の魂胆なんてすぐにバレるぜ?当然他クラスがそのまま黙ってるわけがない。それなのに俺たちだけ黙って過ごすなんて冗談じゃないね。せっかく他クラスと交流出来る機会なんだぜ?」

 

 今まで他クラスと深く関わることなんてなかった。だけど無人島試験のときから他クラスの情報は敵の動向を掴むために必須なものへとなった。ましてや今回のような他クラスの生徒と対話をしなければいけないときが来るなら尚更。そしてそれは今後も必要となってくるに違いない。

 

「ふざけるな!葛城さんの指示に従え......!!」

 

「従う道理はないな。悪いが葛城じゃこの先Aクラスを引っ張れないと思うぜ?」

 

「このっ......!」

 

 葛城派と坂柳派。Aクラスが内部で分裂してるのは有名だったけどまさかここまでなんてね。試験の方針で揉めるなんて他クラスからしたら隙でしかない。

 激昂する戸塚くんを軽くあしらう橋本くん。その両者の間に綾瀬さんが割り込んでポケットから何かを取り出した。

 

「弥彦、はい」

 

「......またお前か!急になんだ!」

 

「この前渡せなかったから......お菓子あげる。チョコだよ」

 

「だから何なんだそれは!いらん!お前はいい加減空気を読むことをおぼえろ!!」

 

「弥彦って怒ってばっかり......もっとかるしうむ?取った方がいいよ」

 

「余計なお世話だ!それと下の名前で呼ぶな!!」

 

「弥彦はそんなに特別じゃないけど......こっちの方が呼びやすいんだよね......」

 

「煽ってるのかお前は!!」

 

「......何が?」

 

「なんで何も理解してないんだよ!くそっ......こいつと話してると頭がおかしくなりそうだ......」

 

「くくっ......!これは面白いな!コントを見てるみたいだっ......!」

 

 橋本くんが腹を抱えながらケラケラ笑いだした。なんかツボに入ったみたい。それにしても綾瀬さんに振り回される戸塚くんは少し可哀想だ。さっきまであんなに偉そうにしてたのにもう威厳がなくなってしまった。

 

「ちっ!この馬鹿はともかく俺たちは話し合いなどする気は一切ない!後は勝手にやれ!」

 

 言葉通り橋本くん以外の3人は立ち上がり部屋の隅に移動した。

 おそらく全てのグループでAクラスは同じように行動しているんだろうね。坂柳派も葛城くんの指示に従っているはず。さっき困惑してた人たちの中に多分坂柳派もいただろうしね。でも橋本くんだけが特殊みたい。

 

「なんかお前たちって大変なんだな......」

 

「まあこっちも色々あるのさ。それよりもどうする?」

 

 現状手がかりみたいなものがないため、他クラスの人からしてみればとにかく何かを掴みたいはず。

 とにかく今のところは綾瀬さんに大人しくして欲しいけど......私の思いは通じず、綾瀬さんはとことこと再び椎名さんの傍に寄った。  

 

「ねえ、椎名。連絡先交換しようよ」

 

「はい。これでいつでも連絡を取ることが出来ますね」

 

 試験中だというのに呑気に連絡先を交換し始める二人。

 

「......機械って苦手。いつもどうやるか忘れちゃう」

 

「私も機械は少し......それにあまり連絡先は交換しないのでやり方に自信がありません」

 

「えっと、ここだっけ?」

 

「確かこちらを押せばよかったはずでは?」

 

 二人は身体を寄せ合って互いの携帯の画面を見せ合った。私はその光景を見てギョッとする。

 

「ちょ、ちょっと綾瀬さん!?それに椎名さんも何やってんの!?」

 

「え?」

 

「どうかしましたか?」

 

 キョトンとしてる二人。そんな様子の二人を見て他の人たちもおかしなものを見るような目で二人を見た。

 

「いやいや......この試験で携帯を見せ合うのはヤバいんじゃない......?」

 

「......なんで?」

 

「メールの画面を見せなければ大丈夫だと思っていましたが......」

 

「いや椎名さん!もし龍園さんから連絡があったら通知とかで出てきますよ!そのときに試験のこと話してたらヤバイです!」

 

「そうだぜ綾瀬ちゃん!結構それだけで会話の内容分かったりするときあるからね!?」

 

 池くんとCクラスの近藤くんもさすがにまずいと思ったのか慌てて二人を止めた。

 

「......確かに。あまり連絡が来ないものですから盲点でした」

 

「機械ってよく分かんないね」

 

「ええ。まったくです」

 

 クスクスと笑いだす椎名さん。全然笑い事じゃない......。私もそうだし池くん、そしてCクラスの生徒たちも内心ハラハラしているだろう。

 綾瀬さんは元々分かってたけど、まさかこの子も天然?道理で波長が合うわけだ......。

 

「やっぱり綾瀬は面白いなー。それに椎名がこんな感じだったのは意外だぜ」

 

 Bクラスの柴田くんがそう言いながら二人のもとに歩きだすと、残りのBクラスの生徒も二人の元に集まった。

 

「なんか難しそうな試験だったと思ってたけど案外そうでもない感じ?」

 

 池くんが周りをキョロキョロしながらそう言うと、柴田くんが同調するように頷いた。

 

「俺もなんか色々複雑だと思ってたけど何とかなりそうになってきたぜ!改めてよろしくな、池!」

 

「おう!せっかくだし仲良くやろうぜ!」

 

「おっと、俺も混ぜてくれよ。さっきは空気悪くして悪かったな。今のところ俺はお前さんたちとそこまで争う気はないからよ」

 

「私も、私も」 

 

「ふふっ、私もです」

 

 ......なんか緊張感ないなぁこのグループ。これも天然が二人もいるからなんだろうか。なんか空気がフワフワし始めた。

 まあ対話が成り立っているならまだマシな方だと思おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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