「しっかし優待者なんて見つかるのかね」
一回目の話し合いの最中に橋本がそう言った。
「難しい試験だよね。なんか無人島のときもリーダーを当てるなんてルールがあったけど、それと同じぐらい難しいっていうか」
松下は私が優待者だってことを知ってる。それでもこうやって話をしてくれるから私はまだ皆に怪しまれてない。
「無人島試験と言えば......Dクラスは凄かったなー。あれってリーダーを当ててたんだろ?一之瀬たちは全然分からなかったって言ってたぜ?」
「鈴音が知ってたんだよ。凄いよね」
「鈴音っていうのは......堀北のことかい?それならDクラスのリーダーは堀北なのか?」
「堀北さんはどっちかって言うと参謀って感じなのかな?って言っても私たちもよく知らないけど。なんかいつの間にか作戦を立ててたみたいなんだよね。そうだよね?池くん」
「ああ。堀北ちゃんすげーよなぁ。俺たちなんて生活するのだけで精一杯だったっていうのに」
「なるほどな......」
橋本は何かを考えているみたい。
「無人島楽しかったよな!またあんな感じの試験が来て欲しいぜ!」
「私も。勉強するよりいい」
「うっ......俺にはあのときの綾瀬さんが未だに忘れられないっすよ......」
近藤が頭を抱えてる。頭痛いのかな。
「一応聞いとくが、綾瀬がCクラスを掌握したっていうのは本当なのか?」
「別にそんなんじゃねぇよ。だけど運動ならこの人に勝てる人なんてなかなかいねぇかもな。それこそ龍園さんかアルベルトぐらいだ」
「運動ねぇ。まああんだけ島を回ってたぐらいだしな。一体どこであんな体力がついたんだ?」
「簡単だよ?いっぱい身体を動かしてたらそうなった」
難しいことなんて何も考える必要がなかった。頭を空っぽにして身体を動かす、ただそれだけ。
「ていうかお前らって何で綾瀬ちゃんに敬語使ってんの?」
「砂浜で滅茶苦茶に動き回る綾瀬さんを見てたらいつの間にかそうなってたんだよ。なあ?」
近藤が園田に確認を取ると、園田が頷いた。そんなに動いてたつもりないんだけどな。
「ほうほう。やっぱ色んな話を聞けるのは面白いな。あいつらもこっち来ればいいのに。里中だって葛城に従がってるわけじゃないんだけどな」
橋本が里中って言うと、Cクラスの木下とBクラスの漆原が反応した。
「はあ......私このグループで良かったぁ......里中くんカッコ良すぎ......」
「あれはマジで反則でしょ......」
「うちのクラスも平田くんが凄い人気だけど、Aクラスも似たような感じなんだろうなぁ。綾瀬さんもそう思わない?」
「え......どうなんだろ。よく分かんない......椎名は?」
「里中くんはCクラスでも名前を良く聞きますが......確かに覚えやすい顔をしているとは思います。ですが多分私の心中は綾瀬さんとは同じでしょうね......」
松下も加わって女の子たちは楽しそう。私と椎名だけよく分かってない。
「ぐぐぐ......イケメンめ......」
「くっ......お前の気持ちは分かるぜ......」
「僻むな僻むな」
悔しそうにしてる池に近藤たちが肩を置いた。それを見て橋本がおかしそうに笑う。
そんな感じで話し合いは続いた。なんか良いかも。皆仲良く喋ってて楽しそう。
「って、いつの間にか結構時間経ってるじゃん。なあ、今回の試験ってどうするんだ?」
池がそう言うと皆時間を確認し始めた。あとちょっとで話し合いも終わり。
「まあ今は対話をしていくしかないんじゃないか?まだ試験も始まったばかりだしな」
「今は優待者の手がかりは何もありません。橋本くんの言う通りとりあえず今は対話を重ねていくべきでしょう」
「それじゃあ優待者を見つけたらどうする?」
池が少し緊張しながら周りを見る。
「よっぽどの確信がないと解答なんて出来ないからなぁ。俺は試験終了まで待つのもありだと思ったぜ」
「とりあえず今日の夜も話し合いがあるわけだし、方針はまた後にでも話せばいいんじゃない?」
どうしよう。何話せばいいか分かんない。皆試験のことについて話してるみたいだけど、私が喋ったら嘘ついてるのバレちゃいそう。でも喋らないと変だって思われちゃいそうだし......
「あぅ......何も分かんない......」
「大丈夫だよ綾瀬さん。そんなに急いで理解しようとしなくても」
松下がそう言ってくれた。
「そうですよ。まだ全然時間はありますから。今は色んなお話をしましょう」
話し合いは全部で6回。どうするかはそのときに考えよう。
私たちの話し合いはそこそこ順調だった。ただ、私たちからすればいざ優待者を見つけようって話になったらどうするかは悩みどころだ。もちろん綾瀬さん以外の誰かに擦り付けるのは当然として、問題はどうやってそれをやるか。まだ手段までは思い付かない。
1時間が経過し、自由にしてよいというアナウンスがされ解散可能な状態となる。
すぐに橋本くん以外のAクラスの生徒は部屋を後にした。
「綾瀬さん。これからどうしますか?もし良かったらこれから一緒に......」
「駄目ですよ椎名さん!今からいかなきゃいけないとこがあるんですから!」
「あ......そうでしたね......残念です。ではまたの機会に」
「ばいばい」
Cクラス、そしてBクラスと橋本くんも一度情報をクラスに持ち帰って整理するのか、あまりここに残ることなく続々と退出していく。
「俺も春樹や健と合流すっかなー。あいつらは同じ牛グループだったし」
「そっか」
「じゃ、また後でよろしくな」
そうして残された私たち。これはまたとない機会だと思って私は綾瀬さんに声をかける。
「ねえ綾瀬さん。ちょっとこの後私に付き合ってくれない?」
「んー......ちょっと待って......」
綾瀬さんは携帯を取り出し、たどたどしく携帯を操作する。人差し指を使いながら文字を入力しているようだ。チャットかな。
「あ、もし他に用事があるならそっちを優先していいよ?」
「ううん、鈴音も桔梗も時間のあるときでいいって言ってたから.....」
堀北さんと櫛田さんを下の名前で呼んでるんだ。そしてその二人と予定があった......。
どちらもDクラスの中では代表的な存在。櫛田さんは言わずもがな、堀北さんも無人島試験から一気に株を上げた。まあそれでも堀北さんは気難しいタイプだから私たちと友達になるなんてことはなかった。だからこそそんな堀北さんに受け入れられてる綾瀬さんは結構凄いことをしてる。
そんな二人と親しく、しかも他クラスまでパイプが繋がっている。人の懐に入るのが上手い......いや、人に受け入れられやすいのかも。なんか悪いこととか考えてなさそうだし。
「うん。二人ともいいって」
「そっか。それならどこか適当なところでドリンクでも飲みながら話そうよ。私、綾瀬さんのこともっと知りたいんだ。これも何かの縁だしね」
「分かった」
綾瀬さんは未知数なところが多い。今後付き合っていく上でこの子のことについては知っておかなければならない。
綾瀬さんと歩いていると、こちらをチラチラ見ながら携帯に何かを打ち込んでいる人が何人か見える。
「綾瀬さん。あの人たちがどのクラスの人たちが分かる?」
「えと......AクラスとCクラス......」
なるほど。その二つのクラスは綾瀬さんを強く警戒してるってわけか。綾瀬さんの行動は逐一報告されてると見た方がいい。
もちろん私が隣にいることも把握されるが、幸いなことに私は綾瀬さんと同じグループ。一緒にいても違和感はない。
ただこんなに注目されているなら試験のことについてはあまり話せないかな。話すにしてももっと人気のない時間と場所を選ぶ必要がある。まあいいや。今回は単純に交流を深めることだけを意識しよう。
「綾瀬さん。カフェでいい?」
「うん。甘いもの食べたい」
席につくやいなやメニュー表をめくる綾瀬さん。その中で1ページ丸々使って紹介されているものを見て綾瀬さんの手が止まる。
「松下......このスペシャルパフェって何......?」
「これは......うっ......」
綾瀬さんが指差したものはとことんスペシャルなパフェだった。
ホイップクリームとフルーツ。おまけに苺のソースやチョコソースと色んなものがかかったアイスが何個もある。
トッピングにはポッキーやウエハースとその他諸々。それとクリームの間や底には定番のコーンフレークなどが入っているわけだけど、どれも量が尋常じゃなく、画像だけでもそのボリュームが伝わってくる。
「綾瀬さんお昼食べてないの?」
「食べたよ。でも食べられる。あ、ジュースも頼もう」
ついでにりんごジュースまで頼んでしまった。甘い食べ物に甘い飲み物ってそんなに相性良くない気がするけどなぁ......。
私はドリンクでも飲む予定だったけど、綾瀬さんのパフェを見てたら胸焼けしそうだったのでブラックコーヒーを頼むことにした。暑いからアイスでね。
店員にスペシャルパフェを頼むと、店員は少し驚いた顔になりながら注文を取った。まさか頼む人がいるなんてとでも言いたげだ。
先にドリンクだけ早めに渡され、パフェが来るまでは雑談をしていた。綾瀬さんとこうしてじっくり話したことはなかったけど、なんというかリアクションが子供みたいで話していて楽しい。周りはすぐに恋愛話になったりするからそういうのが一切ないのもまた新鮮だった。
「松下、よくそれ飲めるね」
「コーヒー飲めないんだ」
ちょっとからかう感じで聞いてみた。
「うん......それ嫌い......うぇ......」
綾瀬さんは味を思い出したのか、ベッと舌を出して感情表現をする。可愛い。
「甘いもの、好きなの?」
「好き。今まであんまり甘いものって食べちゃ駄目って言われてたけど、食べてみたら凄く美味しかった。お菓子とかも全然食べたことなかったんだよ」
「へえ。そんなこと言われるんだ。どんなものを食べてたの?」
「よく分かんないけど......身体にいいもの?栄養がつくやつ?ずっとそんな感じ」
「......もしかして結構厳しい家庭だったりする?」
そう聞いたのは綾瀬さんがアスリートみたいな食事制限をさせられていたのかと思ったからだ。
正直言って綾瀬さんの身体は引き締まっていると言った感じではないけど、普段の体育を見てると小さい頃からそっち方面の英才教育を受けてたんじゃないかと思ってしまう。異常なスタミナはもちろん、尋常じゃない水泳の上手さや体育で手を抜いても普通についてこれる実力もその賜物なんじゃないだろうか。
「家庭って、お母さんとかお父さんとか?」
「まあ、そうだね」
「それなら違うよ。私、お母さんとお父さんいないから」
「────え?」
綾瀬さんは淡々とそう言い切った。悲しむわけでもなさそうな綾瀬さんだけど、これ以上踏み込むのはさすがに失礼な気がする。
そう思っていたのに綾瀬さんは説明を続けた。
「私、生まれたときから施設にいた。だからお母さんもお父さんも分かんないの。それと1年前からは────」
「ちょ、ちょっと待って!いいよ、そこまで喋らなくても!」
「いいの?松下は聞かなくて」
「うん。そんなこと根掘り葉掘り聞けないって」
気にはなったけどこれ以上はさすがに申し訳ない。綾瀬さんは何ともなさそうだけど、もしかしたら心のどこかに傷を負っているかもしれないんだ。優しい両親に恵まれた私にこれ以上踏み込む資格なんてあるはずもない。
「ほら、パフェ来たよ」
私は話題を逸らすようにそう言った。
店員がテーブルにパフェを置くと、そのボリュームを表すかのようにドンと大きな音を立てた。画像で見るよりも遥かに大きく見える。
「これが......スペシャル......」
「うっ......やっぱりコーヒーにして正解だった......」
瞳をキラキラさせてる綾瀬さんとは違って私の瞳は多分黒ずんでる。もう見てるだけでお腹いっぱいだ。
やや興奮気味の綾瀬さんはスプーンとフォークを手に取ってパクパクパフェを食べ始める。幸せそうだ。
「ああ、口にクリーム付いてるよ」
綾瀬さんの口元に付いてたクリームをハンカチで拭き取る。なるほど、堀北さんの気持ちが少し分かった。これはついつい面倒を見てしまいなくなる。
ちなみに堀北さんが陰で綾瀬さんのお母さんと呼ばれているのはここだけの秘密だ。
「......ありがとう、松下」
そう言う綾瀬さんは嬉しそうだった。何となくの雰囲気ですぐ分かる。
さっき両親がいないと語ったときの綾瀬さんは何ともなさそうにしてたけど、きっと綾瀬さんも心のどこかでは母性や父性を求めてるのかもしれない。