時間は午後4時。2回目の話し合いまで時間があるから桔梗と一緒にみーちゃんの部屋に行った。今はみーちゃんと同じ部屋の人が誰もいなくて、私たち三人だけ。
「話って何?」
私は桔梗から話があるって言われてた。二人で話すと思ってたけどみーちゃんもいるのはどうしてなんだろう。みーちゃんの部屋で話すって言われたときもなんで?って思った。
「試験のことで聞きたいことがあるんだよね。それに......ね?」
「う、うん......」
みーちゃんが恥ずかしそうに顔を赤くした。なんだろう。
「まずは私から話すね。二人とも、試験はどう?」
「うぅ......私は全然喋れないよ......人と話すの得意じゃないから......」
みーちゃんは自信なさそう。でも私もそう。嘘つくのって苦手。
「ねえ、もし良かったら教えて欲しいんだけど......二人って優待者だったりする......?」
桔梗が不安そうに聞いてきた。
私は優待者。桔梗は同じクラスだから言ってもいいんだよね。
「私、優待者だよ」
私がそう言うと、桔梗はパッと顔が明るくなった。
「え!?心音ちゃんも!?良かったぁ......同じ気持ちを共感できる人が傍にいると心強いよ!」
「『も』っていうことは......もしかして......?」
「分かっちゃうよね......そうなの。こんなこと聞いたのもね、実は私が優待者だからなんだ。あはは......」
「そ、そうだったの!?」
「うん。でもいきなり優待者だって言われて不安だったんだ」
「そうだよね......私も優待者になんてなったらちょっと怖いかも......責任重大だし......」
「だからもし私と同じ優待者の人がDクラスにいれば相談出来るかなって思ったんだけど......心音ちゃんで良かった」
「でも......私は何も出来ないよ......?」
「ううん、気持ちを共感してくれる人がいるだけで私としては凄く助かるよ。同じ立場なら困ったときにお互いどうするか相談しやすいと思わない?同じ悩みを抱えるもの同士......みたいな感じで」
確かにそうかも。私は優待者になってどうすればいいか分かってないけど、この気持ちを一番理解してくれるのは同じ優待者の桔梗だけなんだと思う。
「お互い分からないことがあったらすぐに相談しよ?」
「うん」
「それにしても、なんで二人が優待者なんだろうね......」
「うーん......堀北さんは法則があるかもって言ってたけど......私はさっぱりだよ」
鈴音と桔梗が分からないなら私も分かるわけがない。
「でももし結果1だったら100万ポイント......二人とも凄い大金持ちになっちゃうかも......」
「そうなったら友達といっぱい遊べるね!」
「ご飯も食べ放題......」
もし100万ポイントがあったら......いっぱいあるなら少しぐらい、いいんだよね......?でもお金って大事に使わないといけないから鈴音に相談してからにしよう。
「ごめんね、こんなこと聞いてもらっちゃって。みーちゃんも綾瀬さんに話があったのに」
「あ。そうだ......私、綾瀬さんに言いたいことがあるんだ」
「何?」
「えっとね......」
みーちゃんは少しの間モジモジしてた。恥ずかしがってるみたい。
「ありがとう。綾瀬さん」
「......なんで、ありがとう?」
どうしてそんなこと言われたのか分かんなかった。
「無人島試験の時、具合の悪い私のためにいっぱい果物取ってきてくれて......それが凄く嬉しかった......だから、これ......」
みーちゃんは机にあった小さい船のアクセサリーを私の方に差し出した。
「これって......?」
「みーちゃんがお店で買ったんだよ」
みーちゃんが頷いたあと、私の目をジッと見つめてこう言った。
「这是特意为你买的」
突然みーちゃんが聞いたことのない言葉を喋った。桔梗なら分かると思ってそっちを見たけど、桔梗も分かってないみたい。そんな私たちを見てみーちゃんが答えを教えてくれた。
「これはね、あなたのために特別に買いましたって意味なんだ。ごめんね、ちょっと恩着せがましく聞こえるよね。でも中国では贈り物を渡すときにその人のことを特別に思っていますっていうことを伝えるためにこう言うの」
「私に......くれるの......?」
「うん!綾瀬さんは......ううん、心音ちゃんは友達、だから......」
笑ったみーちゃんから渡される贈り物。私のために、買ってくれたもの。
「嬉しい......」
いつの間にか、そう言ってた。
貰ったアクセサリーを胸の方に寄せる。嬉しい。凄く、嬉しい。
「これは携帯とか鞄につけれるんだ。もし良かったら......」
「うん。大切にする」
携帯につけることにした。これならもう、携帯をなくさないように出来る。だってみーちゃんがくれたアクセサリーがあるんだもん。絶対に大切する。
「今度心音ちゃんに心ちゃんも紹介するよ。きっと心音ちゃんなら友達になれるよ」
「ありがとう......桔梗」
桔梗と友達になってなかったら、こうしてみーちゃんと話すことなんてなかったかも。それに心ちゃんって井の頭のことだよね。楽しみだな。また友達が増えるといいな。
午後7時50分。鼠グループ二度目の話し合いが行われるまで後10分。
指定された部屋にたどり着くと、既にメンバーがチラチラ見える中、一際目立つ綾瀬さんも見えた。その綾瀬さんは携帯を取り出して何やら凄く嬉しそうにしてた。
「あれ?それ昼のときはつけてなかったよね?」
綾瀬さんの携帯からキラリと光る小さな船のアクセサリーが見えた。この船で買ったのかな。
この船は食事や施設を利用することは無料だけど、お店でものを買うときはポイントを支払う必要がある。
「これ、貰ったの。凄く嬉しい」
そう言う綾瀬さんの表情はあまり動いてないけど、全身から幸せオーラを感じる。そのオーラを浴びていると浄化されてしまいそうだった。
私は卑しい女......スペックの良し悪しや価値で物事を判断する女......アクセサリー一つでこんなに幸せそうに出来る女の子がいるっていうのに......。おっと、危ない危ない。自分を見失うところだった。
続々とメンバーが入室し、橋本くん以外のAクラスの生徒は一回目と同じように距離を取った。
そうして午後8時を迎える。
顔合わせは済んでるので話し合いに至るまではスムーズだった。そろそろ優待者についても話し合わなければいけない。
「うーん、やっぱ優待者を見つけるのって難しそう......これは試験終了まで待った方がいいのかな?」
そう切り出したのは私だ。結果4を狙いにいくなら、まずは優待者を見つけるという方向性に話を持っていく必要がある。だけどそれには仕掛けるタイミングが重要になってくる。早々に優待者を見つける、なんて話になったら綾瀬さんがボロを出してしまう可能性があるため危険だ。
「おや、それだと庇ってるみたいに聞こえるぜ?もしかしてDクラスの中に優待者がいたりするのか?」
挑戦的な態度で聞いてくる橋本くん。確かに庇っているように聞こえるかもしれない。
「ううん。どうせ私みたいな人間に優待者を当てるなんて出来ないから、それならまだ可能性のある結果1を狙って50万ポイント欲しいなぁって思っただけ。まあこっちも優待者を当てる必要があるんだけどさ」
「結果1なら皆が50万ポイント......うーん、クラスポイントも欲しいけど、確かに解答してリスクを背負うよりはリスクのない方がいいかも......」
そう発言したのはBクラスの漆原さんだ。Bクラスは私たちよりかは余裕があるからDクラスやCクラスみたいにクラスポイントに固執する必要はない。もちろんそれでもクラスポイントが欲しいって人はいるだろうけど、皆が皆そうじゃないんだ。
メンバーは14人。自分を除いて13分の1で50万ポイントが貰えるかもしれないと考えれば結果1もそこまで悪くないと思ってしまうだろう。しかもノーリスクともなると余計に。まあ私はクラスポイントの方が欲しいんだけどさ。
「まあ、それもそうか。疑って悪かったな」
「別に気にしてないよ。私だって優待者が見つかるならそれでいいと思ってる。だけどどうすればいいのか分かってないからそう言っただけだったし」
私がお手上げだと言わんばかりに難色を示すと、近藤くんが発言する。
「とりあえず今は喋ることしかないってことでいいんだよな?」
「それでいいと思います。現状はそれしかありません」
椎名さんの言葉を皮切りにそれぞれ対話を始める。実際手がかりがないからそうするしかないのだ。話し合いでメンバーの特徴や思考を分析でもしてようかな。
「そういやお前らってナイトプールとかいった?」
「ナイトプールってなんか......いいよな......」
「今日は高級スパ行こうかな~」
「ここのビュッフェは最高だぜ!」
主にこの船にある施設の話で盛り上がっている中、椎名さんが綾瀬さんに近づいた。
「綾瀬さん。この後一緒に温泉に行きませんか?」
この豪華客船にある大浴場。船の中にあるとしてはなかなかのスケールだ。外国人向けの豪華客船ならそんなものないけど、当然この船は日本人向けのもののため温泉もある。日本人なら温泉は欠かせないものだ。ちなみに露天風呂では星を眺めながら湯舟に浸かることも出来る。デッキからも見ることは出来るけど、露天風呂から見る星空もまた違った景色になるんだろうな。どちらも灯りの強い都心ではまず見られない。
「少し時間が遅くなってしまいますがそれでも良かったら......」
「うん。いいよ」
......ちょっと交ざりたいと思ったけど止めておこう。椎名さんは綾瀬さんと話がしたそうだし、私も篠原さんとかとの付き合いがあるからね。
しかし相変わらずこのグループは緩いな。竜グループでは各クラスの代表者が集められてるって聞いたけど、もしかして鼠グループではコミュニケーション能力の高い人間が集められているとか?でもそれなら他にも適切な人間がいそうなものだけど。まあ恐らく私は偶然入れられただけなんだろうな。それだけは間違いない。
二回目の話し合いも終わっちゃった。優待者って言葉が出ると少し緊張しちゃうけど、このグループなら大丈夫そう。
「温泉に行く前に着替えなどを用意しなければなりませんね。一度お互い部屋に戻りましょう」
椎名とは後で連絡して待ち合わせ。早歩きで部屋に向かって準備する。
「あら、早いのね」
話し合いが終わった鈴音が部屋に来た。
「うん。今から温泉に行くの」
「そう。でもあんまり遅くならないようにするのよ?明日も朝から綾小路くんと試験について話し合いすることになっているからね。それとちゃんと必要なものは用意した?」
「大丈夫」
本当は一回目の話し合いが終わった後に話す予定だったけど鈴音が明日でいいよって言ってくれた。
着替えやタオルを持って部屋を出る。そして携帯を出して椎名にチャットを打った。
アクセサリーがついた携帯。それだけでいつもの携帯と全然違う。
「お待たせしました」
待ち合わせの場所で待っていると、椎名が来た。
「ねえ椎名。皆変わった服を着てるね」
「変わった服......ああ、あれは浴衣ですね。浴衣だと涼しくて快適ですよ」
「へー......」
なんかあれに似てる。
私と椎名が着替えるところに入ると他の人たちもいた。
「ちょっと......恥ずかしいですね......」
「そう?」
着ていた服を脱いでロッカーに入れてく。首に巻いていたロザリオも入れた。椎名は少し顔を赤くしながら服を脱いでいく。私が全部服を脱ぐと、椎名が私の身体を見つめた。
「やっぱり腕と同じように細いですね......もしかしたら物凄く腹筋が割れてたりするかもと思っていたんですが......」
そして私の身体をペタペタ触り始める。ちょっとくすぐったい。
「実は温泉に誘ったのもそれを確かめてみたかったからなんです。実際にこの目で見るとやっぱり私と殆ど変わらないように思えますね......ですが直接触ってみると異常なまでに固い......不思議な感覚です......」
「へー......椎名はどんな感じなの?」
気になって椎名の身体を触ってみた。柔らかくてスベスベ。それに私と違って胸もある......
「......!あ、あの......そこは......あまり......」
「え?あ、ごめんね。ここはあんまり触っちゃいけないんだっけ」
鈴音にも怒られたんだった。気を付けないと。でも同じ女の子なのに私と全然違うからつい気になっちゃう。柔らかかったな。
タオルを持って温泉の中に入る。湯気が凄い。身体もポカポカ。いつも暑いのはあんまり感じないけど、お風呂や温泉は別。
「ふう......たまにはこういうのも良いですね.....」
「そうだね」
なんか落ち着く。身体の線もほどけちゃいそう。
「温泉って初めて。椎名は温泉好き?」
「私もあまりいったことはないんです。普段は部屋で本を読むことばかりなので。温泉は小さい頃に数える程度でしか行った記憶がありません」
「でも、覚えてるんだ」
「......?ええ......」
椎名は私を不思議そうに見た。
「椎名、私は知らないことばっかりなんだ」
「それは......私だってそうですよ?」
「ううん、私は椎名や他の人と違うの。私はね、何度も知識を破り捨てちゃったんだ。殆ど必要なかったから」
必要ない。この言葉だけで覚えることを止めていた。そう言われたから、そうしてた。
「それなら、また新しく知識を埋めていけばいいじゃないですか」
椎名は立ち上がって私の手を握った。
「露天風呂に行きましょう。きっとまた見たことのないものが見れますよ」
その手に引かれて歩くと、椎名が開けた扉の先には外なのに温泉があった。
「ここに立っていると寒くなってしまうのでこちらへ」
そのまま湯船に浸かると、また暖かくなる。そして椎名は空を見上げた。それにつられて私も空を見た。すると、そこには見たことのない空がそこにはあった。
「......凄い......」
空は星がいっぱいだった。私が星に包まれたみたい。
「綾瀬さんのことは良く耳にします。子供みたい、あまり世間を知らない。そんな風に綾瀬さんは言われていました。だからこそ私は綾瀬さんにずっと本を勧めてみたいと思っていたんです」
「......なんで?」
「本は自分の知らない世界を教えてくれます。こんな豪華客船の旅をする人のお話や星空を飛び回る少年のお話だってあるんですよ?」
「自分の......知らない世界......」
「もし綾瀬さんが知識を破り捨ててしまったと言うなら、私と一緒に新しい世界を学びませんか?私、ずっと本のことで話し合える友達が欲しかったんです」
温泉のせいで少し顔が赤い椎名が笑ってた。
知らない世界。新しい世界。
その言葉が私の頭の中で何度もグルグル回る。
きっと私は、ワクワクしてるんだ。
この学校に来てから知らないことばっかりだった。それを知るのは、楽しい。でも椎名が本を教えてくれるなら、もっと楽しくなる。
「また明日、二人で遊びにいこ。本の話、いっぱい聞きたい」
「はい。約束です」
約束をした後、私はもう一度空を見た。
真っ黒な空を埋めつくす星。
その空と、さっきの椎名の言葉が私の何かを満たしていくのを感じていたんだ。