ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第39話 隠し事

 午前11時。さっき石崎と話して今は部屋の中。部屋には鈴音と佐倉がいる。

 部屋にある椅子に座って本を読んでた鈴音が本を閉じて私の方に来た。

 

「もう......今までどこに行ってたの?」

 

「ちょっと、お話してた。ごめんね、朝行けなくて」

 

「朝起きたら部屋にいないし連絡も取れないから何かあったと思ったわ。誰かといたの?」 

 

 石崎のことは内緒にして椎名の話をすることにした。

 

「Cクラスの椎名って女の子といた。椎名は本を読むのが好きなんだよ。きっと鈴音もいい友達になれると思う」

 

 鈴音も結構本を読んでるから二人は楽しく話が出来そう。

 

「本......へえ、普段どんな作品を読んでいる人なの?」

 

「普段って言われると分かんないけど......私には白鯨って本を勧めてくれたよ」

 

「は、白鯨......?大分難しい本を勧めるのね......」

 

 鈴音が驚いてる。

 

「え......そんなに難しいの?」

 

「ええ。あの本は色んなところで話が脱線するもの。もちろんタメになったりする部分は多くあるけれど、あなたのような本を読まない人があの本を読んだらパンクするわよ」

 

「でも一緒に読んでくれるって言ってたから......多分大丈夫だよ?」

 

 私がそう言うと、鈴音は『考えが甘いわね』っていいながらため息をついた。

 

「......やっぱり余所の人には任せられないわね。綾瀬さん。本を読みたいなら私に言いなさい。私が綾瀬さんでも読める本を探しておくから。大丈夫よ、私が懇切丁寧に解説してあげるから。綾瀬さんでも本が読めるようになるわ。その椎名さんという人が本を読むことが好きなのは分かったけれど、綾瀬さんのことはまだまだ理解しきれていないようね。絶対私の方が綾瀬さんに合う本をお勧めできるわ」

 

「そ、そっか......」

 

 圧が凄い......鈴音って負けず嫌い......

 

「椎名さんと言えばあなたと同じグループの人よね。そっちはどんな感じなの?」

 

「こっちは船の中楽しいねとか、いつも何やってるのとかそんな話をしてるよ。池と松下も他のクラスの人たちと話してるよ」

 

「え?別クラスの人たちと?普通なら疑心暗鬼にでもなりそうなものだけれど......Aクラスの人たちも話し合いには参加しているってこと?」

 

「Aクラスは一人だけ私たちと話してる。でも皆楽しそう」

 

「う、羨ましい......」

 

 ベッドの上にいた佐倉が声をかけてきた。

 

「あ、急に話に入っちゃってごめんなさい......」

 

「別に構わないわよ。それに佐倉さんのグループのことも聞いておきたいわ」

 

「私たちはクラスの人たちでそれぞれ固まってて......私は話す人がいないから一時間が凄く長く感じる......」

 

「へー......鈴音は?」

 

「私たちの場合は腹の探り合いね。やっぱりリーダー格が集められているから優秀な人間ばかりね。だからこそ迂闊な発言をすれば命取りになる」

 

 皆私たちと同じ感じだと思ってたけど全然違うんだ。

 

「うぅ......あと少しで3回目の話し合い......」

 

 嫌そうな顔をする佐倉。なんとかしてあげたい。せっかく旅行に来てるから楽しまないともったいない。

 

「佐倉。どこかに遊びに行こうよ」

 

 遊びに行くと気分転換になるかと思ってそう言うと、佐倉の顔がパッと明るくなった。

 

「え......!いいの!?」

 

「うん」

 

「遊ぶのはいいけどせめて次の話し合いが終わってからにして頂戴」

 

「分かった。鈴音も行く?」

 

「......いいえ、二人で楽しんできなさい」

 

 鈴音は私じゃなくて佐倉の方を見ながらそう言った。

 

「佐倉はいつ遊びたい?あと遊びたい場所とかもあったら教えて」

 

「そ、それなら......」

 

 佐倉は私の耳元に口を当てて小さな声でこう言った。

 

「ナイトプール......にいかない......?」

 

 ナイトプールなら夜......なんか雰囲気が全然違うんだっけ。

 

「いいよ」

 

「本当!?やった!」

 

 なんか凄い嬉しそう。それなら良かった。

 

「はぁ......早く夜にならないかなぁ......綾瀬さんと二人っきりで夜を過ごすの楽しみだなぁ......えへへ......」

 

「なんだかその言い方だと変態みたいね......」

 

「ち、違います!決してやましい気持ちはないです!!ちょっと......その、撮影会みたいのをしてみたいなとは思ってますけど......」

 

 顔を赤くしながらモジモジしてる佐倉を見て堀北が心配そうな目で私を見た。

 

「やっぱり私もついていこうかしら......」

 

「あ、堀北さんも大歓迎です!二人が組み合わさるといい写真がいっぱい取れそうなので!!とりあえず二人には水着姿で私の言う通りポーズしてもらって......」

 

「水着姿でポーズ?あなたは何を言ってるの?」

 

「あ、大丈夫です!私色々詳しいから......!ちょっと過激な感じになったりするかもしれないけど......二人に合う最高のポーズを考えてくるから!とりあえず100枚ぐらいは撮りたいなぁ......!あ、そうだ!貸し出し用の水着に綾瀬さんに合うやつも選んでいい?ピッタリなヤツ選んであげるね......!」

 

「あ、あなたそんなキャラだったのね......」

 

 テンションの高い佐倉に鈴音はちょっと驚いてた。

 そのあと、鈴音は結局断ることにした。言われた通りにポーズするなんて嫌だって。

 そのことは残念だけど、佐倉と遊ぶのは楽しみ。次はちゃんと途中で寝ないようにしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後になり、兎グループのオレは再び同じ部屋にやってきた。

 開始10分前に来て一番乗りだったオレの次にやってきたのは、軽井沢だった。

 オレを見つけた直後、一瞬嫌そうな顔をしたがすぐに視線を逸らすと、オレから一番遠い位置に腰を下ろした。そして携帯を弄り始める。

 オレは軽井沢に一方的に嫌われているため会話をすることなどない。しかも原因らしい原因もなくただ漠然と嫌われているだけ。どうせ影が薄くて情けない男子だからとかそんな理由だろう。

 二人きりの部屋で訪れる静寂。なんとなく気まずい空気が流れる。

 

「ねえ」

 

 そんな中、軽井沢がこちらを見ることなく声をかけてきた。

 

「あんたって綾瀬さんと仲いいんでしょ」

 

「オレはそう思ってるが綾瀬もそう思っているかは分からない」

 

「何それ.....素直に仲が良いって言えばいいじゃん......」

 

 まどろっこしい言い方をしたことによってまた好感度が下がってしまったようだ。

 

「オレからも聞いていいか」

 

「は?何」

 

「どうしてお前は無人島のとき、綾瀬に怯えていたんだ?」

 

「────!」

 

 綾瀬の名前を聞いた瞬間、軽井沢の携帯を持つ手が微かに震え始めた。

 

「な、なんであんたがそんなことを聞くわけ......」

 

「いや、綾瀬がお前のことを気にしていたから」

 

「気に......してた......?」

 

 オレとしては綾瀬が軽井沢を心配していたというニュアンスでそう伝えたのが、軽井沢はその言葉をマイナスの方向に捉えたのか、顔を青くし始めた。

 

「綾瀬は軽井沢と仲直りしたいって言ってたぞ」

 

「仲直り......?そんなの、嘘に決まってんじゃん......!だって私は綾瀬さんを怒らせたし......」

 

 そんなことはないと思うが、軽井沢はそう思い込んでいる。

 どうやら軽井沢はとことん綾瀬に怯えているようだ。 

 今のところ原因は不明。

 だからこそこの恐怖を取り除くのはなかなかに難しい。だが、いい加減乗り越えてもらわなければ困る。

 なぜなら、軽井沢恵の力は今後Aクラスに上がるために必要になってくる可能性があるからだ。今はまだ見定めている段階。だがやはり軽井沢の『場を支配する力』は手中に納めたいとオレは考えている。

 他のメンバーもそろそろ来る。手短だが軽井沢にその恐怖を取り除くための手段を少しでも刷り込ませよう。

 

「軽井沢。オレなら綾瀬心音を完璧にコントロール出来るぞ」

 

「......は?あんた、何言ってんの......?」

 

 当然軽井沢の中でカーストが低い男子が急にこんなことを言い出したら訳が分からないとでも言いたくなるだろう。

 だが綾瀬に怯える軽井沢には今オレが言ったことは決して無視できないものだ。

 

「ちょっと、黙ってないで何とか───」

 

「二人とも早いねー」

 

 軽井沢が何かを言いかけたところでBクラスのメンバーが同時に3人やってきた。

 

「ありゃ?もしかして取り込み中だった?」

 

「いいや、ちょっと試験のことで話してただけだ」

 

 平然と嘘をつくオレを怪訝そうな顔で見る軽井沢。だが一之瀬たちに続いてメンバーが入室してきたためオレとの会話は有耶無耶になってしまった。

 これで軽井沢も少しはオレに意識を向けるようになっただろう。漠然と嫌われているだけでは打開策もなかったからな。少しでもオレと軽井沢の間に取っ掛かりを作る必要がある。

 軽井沢もオレが話したことなど本気で信じてはいないだろう。だが今でも綾瀬を怒らせてしまったと勘違いしているなら軽井沢はオレが想像する以上に綾瀬に怯えている可能性がある。それなら藁にでもすがる思いでなんとかしたいと思っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼠グループ三回目の話し合いが始まった。相変わらず戸塚くんたちを除いて楽しそうな雰囲気ではあったけど、その中で一人、椎名さんの様子が少しだけ変な気がした。多分気づいてるのは私か......綾瀬さんぐらいの微弱な変化。

 椎名さんも綾瀬さんと一緒でボーッとした感じの人なんだけど、今回はそれがいつも以上っていうか、どこか上の空な気がする。

 

「.......」

 

「......椎名?どうしたの?」

 

「───え?」

 

 綾瀬さんに声をかけられて椎名さんはハッとした顔をになった。

 

「......すみません。ちょっと考え事をしてました」

 

「......?そう......?」

 

「ええ。法則のことで、少し考えてたんです」

 

 椎名さんは切り替えたのか、いつもの穏やかな顔で笑ってた。

 法則ね。確かにそれが分かりさえすればもう勝ったも同然だし、そりゃ周りが見えなくなるほど考えたりもするか。

 話し合いは続き、そろそろ30分を切るかと言ったところで橋本くんが私たちにこんな提案をした。

 

「なあ、皆もクラスで優待者の法則を話し合っているんだろ?そこでだ、そろそろこのグループの皆で一緒に優待者の法則を考えてみないか?お互い情報交換でもしようぜ」

 

「まて橋本!お前いい加減にしろよ!」

 

 優待者を見つけずに静観することを目的とした戸塚くんは当然こんな提案など受け付けない。

 

「もしこの場で法則なんて分かってしまったらただの早い者勝ちになるぞ......!」

 

 戸塚くんの言うことも尤もだ。もし優待者の法則が分かったらもちろん自クラスの人間に共有することになる。それなら後はどれだけ情報を早く伝えられるかが勝負の分け目だ。

 

「そうなったら最後に物を言うのは団結力ってわけだな。その点ウチは不利になっちまうなぁ」

 

 Aクラスは内部分裂を起こしているため情報の伝達は遅れる。

 だけど私たちだって団結力があるわけじゃないからそんなことされたら困るんだけどね。

 

「まあ俺たちが話し合ってもすぐに法則が見つかるってわけじゃないと思うぜ?法則なんて昨日から他のクラスでも話し合ってるだろ。それでも試験が終わってないんだから簡単に見つかるような法則なんかじゃないのさ。だから雑談がてらに法則のことも少しは話し合ってみようぜってだけだ。別に自分たちのクラスの優待者を教えろだなんて言うつもりはないしな」

 

 法則が分かったならすぐに試験を終わらせるはず。昨日の猿グループの裏切りみたいなことがあるかもしれないからわざわざ長引かせるメリットは少ない。もちろん、完全にないわけじゃないけど。ただ私も含めて法則さえ分かればすぐに試験を終わらせる方向に走る人が殆どに違いない。

 

「待て待て!そんな話し合いは俺が許さん!やはりリスクがある!」

 

「リスクがあるのはAクラスのお前らだけじゃねえの?」

 

 

「俺は優待者については話し合ってもいいと思うなぁ。一応試験っぽいこともしなきゃいけないしな」

 

「私も話し合いには賛成。だって困ることないし」

 

 本当は困るけど。だけどせっかくだからこの流れに乗っかることにした。私は続けて発言する。

 

「ていうか、なんか戸塚くん怪しくない......?別に話し合いぐらいならしてもいいのにこんなに必死になって止めるって......」

 

「あ!分かったぞ!もしかしてお前らの中に優待者がいるんじゃないか!?」

 

「なっ.......!俺たちが話し合いをしないのは作戦のためだと初日に説明しただろ!」

 

 池くんが大きな声でAクラスの人たちを糾弾した。私たちは綾瀬さんが優待者だと分かっているからこそこうして別の人間を優待者だと思い込ませないといけない。

 

「弥彦......えと、あ、怪しい......」

 

「ぐっ......こんなヤツにまで......フン!まあいい。確かに話し合いを止めるのは無駄のようだ。それなら勝手にしろ」

 

 これ以上醜態を曝したくないのか、戸塚くんはすぐに落ち着きを取り戻す。そしてどうせ法則なんて分かるわけがないとでも言い残しながら戸塚くんは私たちを鼻で笑った。

 

「さて、優待者の法則だが......なんか情報ある人とかいるか?」 

 

 橋本くんがそう聞いたけど、反応はあまり芳しくなかった。

 情報を安易に流してしまってよいのか迷っている......いや、本当に手がかりがないって人が殆どかな。

 そこで私は椎名さんに声をかけてみることにした。

 

「椎名さんは何か分かった?」

 

「いいえ、私には何も分かりません」

 

 うーん......表情からは何も分からない......さっきずっと考えていたぐらいだから何か掴んでそうだと思ったんだけどな。

 心理戦を仕掛けようにもこんなところでするわけにもいかない。

 それから話し合いは続くけど、結局優待者の法則が見つかることはなかった。そろそろ誰かしらに優待者を擦り付けないといけないけど、その方法はまだ思い付かない。

 そして三回目の話し合いが終わり各々部屋を退出して行く中、椎名さんが綾瀬さんに声をかけた。

 

「綾瀬さん。これから竜グループのところに行きませんか?」

 

「竜グループ......鈴音とか龍園がいるところだよね?」

 

 竜グループと言えば各クラスの代表者が集まったグループだ。そんなところに綾瀬さんを連れていってどうするつもりなんだろ。

 

「ちょっと龍園くんの様子を見に行きたいんです。綾瀬さんも気になりませんか?」

 

「そう、だね。私も鈴音のこととか気になるかも。いいよ、一緒に行こ」

 

 もしかしたら向こうではまだ退散せずに話し合いをしてるかもしれない。各グループの話し合いは同じフロアで行われているため、竜グループまでいくのもそんなに時間はかからない。

 

「ねえ、それ私もついてっていい?」

 

「ええ。構いませんよ」

 

 私はあまりお呼びではないかもしれないけど、それでもついていきたいと思った。

 そう思ったのは単純な興味が半分、そして『疑い』が半分あるからかな。しっかり立ち回りは考えておかないとね。

 

 

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