各グループの部屋は全て同じ階層にあるため、私たちが目的の場所にたどり着くまでそう時間はかからなかった。
竜グループのプレートが飾られた部屋の前まで来ると、一之瀬さんと綾小路くんに会い、互いに目を見合わせる。
「綾小路と一之瀬だ」
「やっほー綾瀬さんっ」
「やっほー一之瀬」
「私は葛城くんに話があって来たんだけど綾瀬さんは堀北さんの様子を見にきたのかな?」
「うん。何となく気になった」
綾瀬さんは一之瀬さんとも話す仲のようで、そこそこ親しげな様子だ。
しかし何で綾小路くんまでいるんだろ。何というか、かなり意外な組み合わせだ。でもあれか、一応同じグループなんだっけ。軽井沢さん絡みで聞いたことがある。やっぱり一之瀬さんも注目株だからね。
「そっちは......松下さんと椎名さん、だよね?」
「あれ、話したことないのに良く分かったね」
「同じ学年の人の名前は覚えるようにしてるんだ。もう入学して4ヶ月も経つしねー」
椎名さんはともかく、私のことまで覚えてるのは凄いと思う。私なんて個性が強めのDクラスでは埋もれちゃってるし、今まで特別目立ったことをしてきたわけじゃない。
「凄いですね......私は人の顔と名前を覚えるのが苦手なので羨ましいです」
「え?ちなみに私の名前は覚えてるよね?」
「ええ。流石に二日も顔を合わせているのでなんとか......」
それって一日目は私の名前を覚えてなかったってことなんじゃないだろうか。そうだったとしたらちょっとショックだ......。
「......そちらの方は?」
「オレか?オレはDクラスの綾小路だ」
「綾小路くん、ですか。......ごめんなさい。印象が薄い顔なので名前を忘れてしまうかもしれません」
「お、おう」
結構キツいこと言うな......綾小路くんもそんなこと言われたら困惑するしかない。
しかも本人に悪意とかなさそうなのがまた質が悪い。天然って恐ろしい。
「私が言えたことじゃないんだけど、綾小路くんがここにいるのは意外かも」
「オレは堀北の様子を見にきただけだ」
綾小路くんはいまいちパッとしなくて影が薄い印象の人だ。学力も身体能力も中途半端。まあ私も綾小路くんからそう思われてそうだけど。
唯一の取り柄は綾瀬さん、そして堀北さんと親しいところぐらいか。その二人に挟まれた席にいるから自然と仲良くなっていったんだろうね。いいなぁ、私が綾瀬さんの隣だったらもっと上手くやれたかもしれないのに。
「そう言う松下はどうして来たんだ?」
「私は綾瀬さんと椎名さんに付いてきただけだよ。なんか面白そうだし」
各クラスのリーダーが一堂に集う機会なんてなかなか訪れない。今後のことも考えると各クラスのリーダーのことを少しでも知っておきたい。
「結構時間かかってるみたいだね」
「皆話し合い?」
「どうでしょう。龍園くんと葛城くんがあまり話し合いをするとは思えませんが......」
「こっちには平田くんと櫛田さんがいるから話し合い自体は上手く成立させてそうだけどどうなんだろ」
Dクラスのラインナップは相当なものだ。案外竜グループを支配してたりするかも。
所定の時刻を10分ほど過ぎた頃、竜グループの扉が開いた。
先陣を切って出てきたのは葛城くんと同じAクラスと思われる生徒たち。
「む......やけに人が多いな......綾瀬と一之瀬がいるということは何か俺に用事でもあるのか」
「え?私は特になかったけど......お話、する?」
「あ、私も葛城くんと少し話がしたいな。時間いい?」
「......まあいいだろう。十分に時間を持て余しているから問題ない」
やや警戒ぎみではあるけど、それでも対話には応じてくれるようだ。
それにしても......なかなか貫禄があるなぁ。こうして間近に見たのは初めてだからちょっと驚き。
「俺だけ残っていれば問題ないだろう?」
葛城くんは後ろの生徒たちに先に行くように指示した。そして私たちは通行人の邪魔にならないように壁よりに集まる。
一之瀬さんの傍には綾瀬さんが立ち、私を含めた他の3人は一歩引いた形を取る。葛城くんも私たちを見学人として扱っていて、特に構うことはなかった。
「それで、話とは?」
「君が全てのグループに対話をしないように指示してるんだってね。でもこの試験は対話で答えを見つけるもの。だから考え直してもらえないかなって」
うちのグループは橋本くんだけ話し合いに参加してるけど、他のグループではAクラスは沈黙を貫き通してる。
一之瀬さんはその状況をなんとかしたいみたいだけど果たして葛城くんはどう出るのか。
「これは誰が聞いても同じことを答えるが、俺は勝つための戦略を立てている。お前は今回の試験を対話ありきと考えているようだが、それは違うな。今回の試験はシンキング、考える試験だ。その点を拡大解釈してもらっては困る。俺はしっかりと試験に沿って考え、話し合いの拒絶を考え出した。何も問題はない」
「でも葛城くんの考えだと、試験を拒否しているようにも見えるよ」
「言葉は悪いが間違ってはいない。この試験だけではなく、今後も試験では、結果の差異がつかない仕組みを探していくつもりだ」
葛城くんはどこまでも慎重な人っぽい。冒険はしないタイプだ。あくまでリードを維持するためだけの戦略。確かにAクラスの立場ならそうするのが一番無難だ。
「へー......葛城頭いい......私はいいと思う。私は結構葛城の考え方、好きかも」
「敵であるお前にそう言われるのは間違っていると思うが、分かってくれたことには感謝しよう」
綾瀬さんの場合は平和主義って感じなのかな。確かに普段の綾瀬さんは人畜無害そのものって感じがする。たまに怖いときがあるけど。
「あ、でも私もAクラス目指してるからずっと変わらないままじゃ駄目だった......ごめんね」
「なぜ謝る。お前の立場からしたら当然のことだ。遠慮せずにAクラスを目指せばいい。俺には俺の、お前たちにはお前たちのやり方があるのは何もおかしいことじゃない」
案外理解があるようだね。戸塚くんの感じからして『お前たちではAクラスなんて到底不可能だ』とか言いそうなものだと思ってた。
「とにかく、これ以上話しても俺の考え方が変わらないことは分かっただろう一之瀬」
「あはは、参ったな」
苦笑いこそ浮かべるものの、落胆している様子はないから葛城くんが話に乗らないことは分かっていたみたい。あわよくば、って感じだったんだろうね。
「その様子だと足掻くつもりのようだな」
「もちろん。それが試験だしね」
私たちは綾瀬さんが優待者だって分かってるからいいけど、他のグループからしたら葛城くんの作戦は厄介だ。
Aクラスが話し合いに参加しない以上ヒントがどうしても欠ける。ただでさえ手探りでヒントを集めてる状況の人たちからすれば困ったものなんだろう。
「時間を取らせてごめんね。何となく理解できたよ。葛城くんの思いや考え方がね」
「それはよかった。では失礼する」
一之瀬さんはその場から動かず葛城くんを見送る。その隣でバイバイと言いながら手を振る綾瀬さんがちょっと可愛かった。
「この試験は、ほんと守る側からすると楽だよねー。余計なことはしなきゃいいんだもん」
その点、ポイントが欲しい他クラスはやることも考えることも多くて大変だ。しかも優待者を当てようとしても外したらクラスポイントを失うリスクまである。
「それにしても、神崎くんたち出てこないね」
「中ではどんな話し合いしてるんだろ」
それから更に待つこと30分ほど。その間綾小路くんは若干気まずそうだった。女の子4人に囲まれちゃったらにそうなるか。
そしてようやく竜グループの扉が開き、出てきたのはCクラスの生徒。そして櫛田さんと平田くんだった。
「あれ?人がいっぱいだね......綾小路くん、これはいったいどうしたんだい?」
平田くんは唯一の男子である綾小路くんに声を掛ける。隣にいた櫛田さんも綾小路くんから状況を説明された。
「......椎名さんってあんまり今まで話したことなかったけど......なんか心音ちゃんに似てるね」
「......私が、ですか?」
「うん。それになんか仲良しって感じがするねっ」
櫛田さんは二人の顔を交互に見比べてそんな感想を溢した。
綾瀬さんはボーッとしてるし、椎名さんもなんかぽやっとしてる。雰囲気もそうだけど、片方が身体能力全振りでもう片方が本を読むのが好きな知的な感じの女の子だから案外良いコンビになりそうではある。椎名さんって運動出来なさそうだし。 ......いや、綾瀬さんのこともあるから見た目に騙されてはいけないかも......。
「堀北さんと神崎くんを待ってたんだけど、まだ話し合い中?」
「その二人なら龍園くんと話してるよ?中に入ったら?」
櫛田さんはどうぞ、といった様子で扉に手を掛ける。そう招かれては断りづらく、私たちが部屋に入ろうとした矢先に櫛田さんは綾瀬さんの方に近づいた。
「あ、心音ちゃんちょっといい?」
櫛田さんは綾瀬さんの耳元に手を当て、何かを小声で話している。
「......確かに、そうかも」
「でしょ?」
二人は話を終えると、内緒話を止めて私たちと向き合った。
「私たちはこれから行くところがあるから離れるね」
「うん。じゃあね」
「え......綾瀬さんいっちゃうの......?」
綾瀬さんがいなくなったら綾瀬さんの付き添いできた私の立場が......
「綾瀬さんはどこかに行ってしまうんですね。それなら私は帰ります」
「え!?椎名さんもいなくなっちゃうの!?」
「......?はい。部屋で本を読むことにします」
椎名さんまで帰ったらいよいよ私はただの場違いな人間に......ていうか椎名さんって龍園くんの様子を見にきたんじゃなかったっけ。
なるほどね、やっぱり綾瀬さんを連れてきたことには意味があったんだ。もしかして綾瀬さんをこの場に引き合わせることで反応を確かめたかったとか?それとも何か別の狙いがあって......
......って、冷静に考察してる場合じゃない!うーん、どうしようかなぁ。私もこの場を離れるべきかなぁ。でも竜グループは気になるしなぁ。いやぁ、でも......
「あのー......松下さん大丈夫?」
「......ハッ!」
私があれこれ頭を捻らせていると、一之瀬さんが私の顔を覗き込んでいた。
「......何となくオレには松下の気持ちが分かる。だがまあ、別にいてもいいんじゃないか?居づらいとは思うが......そこまで気にされないと思うぞ」
おお......さすが綾小路くん。Dクラスの中でも個性が薄いだけある。
お互い自分の立場を弁えている者同士仲良く出来そう。
「そ、それじゃあお言葉に甘えて......」
「あははっ、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ」
そうは言われても緊張してしまう。私のこと突っ込まれたらなんて返事すればいいんだろう。何とか葛城くんのときみたいにただの見学人として扱ってもらえることを祈ろう。
そうして竜グループの部屋に入る私たち。室内では三者が、やや距離を置きつつ座っていた。
分かってはいたけど仲良くお話してたってわけじゃなさそう。異質な空間に部外者が立ち入ったことで、それぞれの視線がこちらに向けられる。
神崎くん。うん。噂通りなかなかにイケメンだ。女子の間ではそこそこ有名人である。
そして龍園くん。こちらはもう見た目だけで凶暴な感じがする。そういうのがいいって子もいそうだけど、私はあまり近づきたくない。
堀北さんと神崎くんは特に表情を変えることはなかったけど、龍園くんは何が面白かったのか小さく笑い声をあげた。そして手をあげ一之瀬さんを呼ぶ。
「よう。わざわざ偵察に来たのか?遠慮せずに座れよ」
「随分と面白い組み合わせだね。時間外で何をしていたのか興味があるな」
「クク。そりゃそうだろうさ。本来ならお前が神崎とこの場所にいたはずだろ?ところが蓋を開けてみればお前は別のグループ。それも、箸にも棒にもかからないチンケなチームに振り分けられるなんてな」
「やだな龍園くん。戦略もなにも、学校側が決めたことだし、詳細は分からないよ」
「気づいてないなら教えてやるよ。今回の全てのグループ分けが教師連中に決められたのは明らかだろ?となれば、Bの筆頭のお前が外れた理由はなんだろうな?」
「へえ。竜グループが優秀な人たちで構成されてるのは気づいてたけど、他のグループも先生たちに決められたんだね。ありがとう、助言感謝するよ。だけど、そんな情報を私に明かしても大丈夫なの?」
一之瀬さんは想定どおりと言った感じで素早く返す。
でもやっぱり一之瀬さんが竜グループにいないのは違和感だ。Bクラスの教師は星之宮先生。それなら星之宮先生の采配ってことになるのかな。普段は保険医をしてるからあまり接点がないんだよね。無人島試験のときに綾瀬さんに抱きつかれてたのを遠目で眺めてたけど、あれはちょっと驚いたかも。
「それにしても......まさか心音と同じグループのモブ女までいやがるとはな」
モブ女......私のことらしい。まあそう思われても仕方がない。
それよりも綾瀬さんのことを名前呼びしてることが気になった。綾瀬さんは龍園くんとも親しいらしい。綾瀬さんって案外顔が広いんだな。もしかしたら櫛田さんに匹敵するレベルかも。
「鼠グループと言えば他のグループの中でもかなりレベルの高い方に位置するはずだ。そこにお前がいるってことはお前にも何かあるのか?」
おっと、龍園くんの興味が私の方に向いてしまった。だけどここでボロを出すほど私も馬鹿じゃない。なるべく恐る恐るといった雰囲気で質問に答えることを意識する。
「え......鼠グループってそんなに凄いの?そんなこと考えてる余裕がなくて全然分かんなかったよ......」
「じゃあなぜお前はここにいる?」
「綾瀬さんが堀北さんの様子をみたいって言うから私も付き添いで来たんだけど......綾瀬さんが途中でどっかに行っちゃってさ。それでどうしようか迷ってたんだけど、なし崩し的な感じで来ちゃっただけなんだよね」
「ほう......?心音か。確かにお前と心音はここ最近仲良くしてるみたいだな。それは何故だ」
しっかり情報は把握されているか。昨日カフェに行ったときもCクラスの人たちが私たちを見てたしね。
「そりゃ同じクラスだし、せっかく同じグループになったから仲良くなりたいって思ったんだよ。無人島試験のときも綾瀬さんには助けられたしさ。それに綾瀬さんって可愛いなって思ってたからずっと興味あったんだ。それは多分私だけじゃないんじゃないかな......?」
「そうか。フン、つまんねぇ女だな」
龍園くんは私に興味を失くしたのか、それ以上何かを言ってくることはなかった。
「もし心音がこの場にいたら面白いことになってたかもな」
「龍園くんは綾瀬さんにのこと随分高く買ってるんだね。それには何か理由があるのかな?」
「まあな。そうだ一之瀬、心音のことで面白い提案があるぜ」
「提案?しかも綾瀬さんのことなんだ。一応話だけは聞かせてもらうけど何かな」
「くだらない話だ。耳を貸すだけ時間の無駄だぞ」
神崎くんは切り捨てるように否定した。
「提案というよりはアドバイスに近いのかもな。悪い話ではないと思うんだが、神崎は反対らしい」
「どういう話?」
私としてもそれは気になる。
龍園くんの提案は、私には驚くべき提案だった。
「Bクラスの鼠グループの連中に優待者は心音だって伝えておいた方がいいぜ」
私は表向きは平静を保ちつつも、心中では驚きに満ちていた。
まさか綾瀬さんを優待者であることがもうバレた......?
だけど堀北さんと神崎くんは特に表情を変えていないことが気になる。
「それは......綾瀬さんが優待者だっていう確信があるの?」
「どうだろうなぁ。それは企業秘密ってやつだ」
「......全く話にならないな。なぜ確信もないのにわざわざ綾瀬を指名する必要がある」
「もし心音が本当に優待者だったら目も当てられないからだよ」
龍園くんも確信があるってわけじゃなさそうだけど......それならこの提案の意味は一体......
龍園くんは説明を続ける。
「Aクラスに上がりたいなら心音ほど厄介な存在はいない。そんなやつが優待者で結果2か結果4にでもなって50万プライベートポイントを手に入れてみろ。まさに鬼に金棒。ますます厄介になっちまうぜ」
綾瀬さんを指名して裏切れば綾瀬さんにポイントが入るようなことは確実に避けられる。綾瀬さんは優待者だから裏切った人は結果3だし、もし仮に優待者じゃなかったとしても綾瀬さん以外の誰かが得をするだけで綾瀬さんは何も得られない。
だけど普通そこまでする?龍園くんが綾瀬さんを警戒してるのは分かったけどさすがに過剰すぎると思う。それは周りの人たちも同じことを考えてるようだ。
「私としては別に構わないわよ。優待者じゃない綾瀬さんを解答してもらっても。私たちに何か害があるわけじゃないもの。むしろクラスポイントを得られるかもしれないわね。鼠グループの優待者は松下さんか池くんの可能性もあるから」
「その発言から察するにお前は優待者が誰かも把握してないようだな」
「これがブラフである可能性も考えられないなんて、あなた大丈夫なのかしら」
多分堀北さんも綾瀬さんが優待者だってことは聞いてると思うけど、当然この提案を否定するわけにはいかない。拒否した段階で綾瀬さんが優待者だと認めているようなものだ。もちろんそれを逆手に取って、みたいなことも出来なくはないけど。
「魂胆が見え見えだな。大方鼠グループにCクラスの優待者がいるんだろう。それで綾瀬の名前を解答させるよう誘導させて自分達がポイントを掠めとる気だな。そんな手に誰が乗るんだ」
「それにそこまで綾瀬さんを警戒する必要ってあるのかな?綾瀬さんの身体能力が凄いことは聞いてるけど、それでもそこまでする必要はないと思うけど。それとももしかして龍園くんにしか知らない綾瀬さんの顔がある、とか?」
「クク。お前たちには気づかないだろうさ。綾瀬心音の真価ってやつをな」
綾瀬さんの真価。それは『利用しやすいこと』。私はそう思っている。
綾瀬さんは良くも悪くも子どもっぽい。だから自分で行き先を決めることが出来ない。それは話していてすぐに分かった。素直な子だから良心の呵責みたいのが刺激されるけど。
もしあの身体能力を思うがままに扱えたら、どんな滅茶苦茶な作戦も遂行させてしまう可能性がある。
例えるなら綾瀬さんは止まることのない船。漕ぎ手次第で都度進路があっさり変わってしまうけど、手に入れたらどこまでも行けてしまう船だ。そう例えたのはちょうど船の中にいるからかも。
「そうだね。私たちには綾瀬さんの真価なんて分からない。だからその提案には乗れないよ」
「いいのか?俺はしっかりアドバイスしたぜ?後悔しても知らないぞ」
「これ以上は話し合っても無駄だ。あまりにもハイリスクローリターンすぎる」
「そうか。それは残念だな」
少しも残念そうじゃないね。最初から成立などしない前提で動いてる。
龍園くんは立ち上がると、そのまま部屋を去っていった。
「私もいくわ。それと松下さん。少し私に付き合ってくれないかしら」
「へ?別にいいけど......」
堀北さんが私を誘うなんて思ってもなかった。意外に思いつつも私は堀北さんと一緒に部屋を出る。
少し歩いていると、休憩スペースがあったのでそこに座ることにした。
「付き合わせてしまってごめんなさい。その、綾瀬さんはそっちではどんな感じなのかしら」
「綾瀬さん?多分いつも通りだよ?」
「そう。今回は彼女の苦手分野だから気になってね。一応本人からも聞いてるけど、他の人からも聞いてみたいと思ったの」
ようは心配なんだ。うん、保護者っぽい。なんか堀北さんが可愛く見えてきた。
「もう綾瀬さんから聞いてるかな。私と池くんも綾瀬さんのことは把握してるよ」
もしかしたらどこかで聞き耳を立てている人がいるかもしれないから優待者とは言わなかったけど、堀北さんは察してくれたみたいだ。
「綾瀬さんのことが気になるなら私の連絡先教えておくよ。いつでも聞いて」
「......そうね。お願いするわ」
拒否されるかもと思ったけど堀北さんは受け入れてくれた。
良かった良かった。これからAクラスを目指す上で外せない人とはなるべく仲良くなっておきたいからね。
竜グループの部屋を離れた私たちは、桔梗の部屋に向かった。他の人は遊んでるみたいで、部屋には私たちしかいない。
「ふぅ......危なかったね~......あそこにいる人たち皆頭いいから......」
桔梗はあそこにいると私たちが優待者だってバレるかもって教えてくれた。さっきまでとりあえず鈴音のいるところに行って見ようと思ってたけど確かに危なかったかも。
「はぁ......やっぱり辛いなぁ......優待者だってことを隠すの」
「桔梗でも辛い?」
「話し合いは好きだよ。優待者じゃなかったらもっと楽しめたけどね」
みーちゃんも優待者は責任重大って言ってた。ちゃんと考えなきゃいけないんだろうな。私は全然考えてないけど。
でも私はそれでいいと思っちゃってる。私が考えて何かをしてもきっといいことにはならないから。余計なことをしてまた誰かを怖がらせるのは嫌。
「でもね、私が優待者になったのってチャンスだと思うの」
「チャンス?」
「だって私が頑張れば結果1に出来るかも知れないんだよ?」
結果1......試験が終わるまで話し合いをして、最後の解答のときに皆に優待者を当ててもらう......。
「でも、それって難しいんじゃないの?」
「そうだね。普通は私が優待者だって分かったら他の人が解答しちゃうもん。だけど、私はなんとかして結果1にしたいんだ」
「それは......どうして?」
「100万プライベートポイントが欲しいのもあるけど......やっぱり皆にポイントが支給されれば皆幸せだと思うの」
「皆、幸せ......」
その言葉を聞いて、私がずっと前から知っていたものが頭に浮かんだ。
それは方舟の乗り方。
そして────理想郷。
「......心音ちゃん?」
「......あ、ごめんね。ちょっと、考え事してた。どうすれば、えっと......結果1に、出来るかなって......」
すぐにそう言って誤魔化した。
あまり人に見せたくない私が出てきそうだから。
「ふふ、心音ちゃんも成長したね」
桔梗は笑いながらそう言った。自分ではよく分かんないど私は成長してるみたい。
「皆ポイントが少なくて辛い思いをしてるからなぁ。特に寛治くんなんて......」
「池?どうかしたの?」
「あ......実は寛治くんから相談されてることがあって......」
桔梗はそのことを言っちゃっていいかどうかしばらく悩んでた。
「......本当は勝手に話しちゃいけないことなんだけど、もしかしたら心音ちゃん次第で寛治くんの悩みも何とか出来るかもしれないから話そうと思うの。内緒にしてね?」
「内緒......分かった」
私が何とかしてあげられるなら、内緒にすることも頑張る。
「池はどんなことを桔梗に相談したの?」
「心音ちゃん覚えてるかな......寛治くんのゲーム機が壊れちゃったこと」
「......うん」
そういえばそんなこともあったっけ。
私が池のゲーム機を強く握りすぎて壊しちゃったんだ。
「でもあれは修理に出したから治ったよ?」
「そのときのポイントは心音ちゃんが出したんでしょ?それでいつか返すことになってたって聞いたけど、寛治くんまだ返せてないんだよね?」
「別に返ってこなくていいよ。池はポイント全然ないだろうから無理して欲しくない」
「心音ちゃんは優しいね。でも寛治くんは結構気にしてるんだ。もちろん夏休みが終わればクラスポイント分で35000ポイント近くは入るからそれで返せると思うけど......ちなみに修理にかかったポイントはいくらぐらいなの?」
「8000ポイント」
「結構するんだねー......」
クラスポイントをプライベートポイントにすると35000ぐらい。そこから8000を引くと......27000。
「池って結構お金使う人、だよね?」
「そうだね。結構友達付き合いで使うんじゃないかな?」
「......27000ポイントなんてあっという間になくなりそう。池も私のことなんて気にしなくてもいいのに」
「男の子はそうはいかないんだよ。本当はお金を借りるのだって恥ずかしいって寛治くんは思ってたからね」
そうだったんだ......難しいな。人が何を考えてるかなんて全然分かんない。
「......50万ポイントを池にもあげれれば、池が私にポイントを返すとき何も気にしない?」
「何も気にしないってことはないと思うよ。むしろありがとうって言ってくれると思う」
「それは、池が喜ぶってこと?」
「そうだよ。それに松下さんやさっき一緒にいた椎名さんだって喜んでくれるよっ」
「じゃあ私も結果1を......狙いたい、けど.......」
私にはどうすれば結果1にすればいいかなんて思い付かない......
こういうときは桔梗に相談しよう。桔梗ならなんとかしてくれるかもしれないから。
「桔梗......私は、どうしたらいい......?」
「────っ......!」
私がそう聞くと、桔梗は急に背中を向けて少し震え始める。
そしてすぐに私の方を向いた桔梗は、顔が少し赤かった。
「ごめんね......心音ちゃんが私を頼ってくれることが嬉しくて......よーし!」
桔梗は胸の前で両手をぎゅっと握った。ガッツポーズ......だっけ。
「私に任せて!私が心音ちゃんのグループも結果1にするよう頑張ってみるよ!」
「え......そんなこと、出来るの?」
「鼠グループの人たちと話してみるよ。もちろん怪しまれない程度にね。まずは鼠グループでも特に仲がいい人とかに話してみようかな」
「でも、話すって......そんなことしても、やっぱり難しいんじゃないの?」
「そこは任せて。私はそういうの得意だし。そこまで時間はないかもしれないけど、色々考えておくから」
桔梗はこの試験をどうすればいいかちゃんと考えてる。私とは大違い。
「私、頼ってばっかりだね。本当は一緒に考えてあげたいんだけど......」
「人には向き不向きがあるんだから仕方ないよ。無人島試験では心音ちゃんが頑張ってくれたでしょ?私は心音ちゃんみたいに凄く運動が出来るわけじゃない。だからそういうときは私も心音ちゃんを頼るから気にしないで」
「......分かった」
人にはそれぞれ役目がある。だから私は身体を動かすことだけに集中すればいい。そう思うようにした。
「もし二人とも100万ポイント貰ったらさ、一緒にいっぱい遊ぼうよ」
「うん。私も遊びたい」
「良かった!約束だよ!」
100万ポイントを貰えるかは分からないけど、私は余計なことをしなければ大丈夫なのかな。
......あ、結果1にする方法。分かったかも。うん、きっとこれなら大丈夫。桔梗が教えてくれたこと、それをやればいいんだ。なんだ、全然考えなくてもいいんだね。
とにかくこれで試験は大丈夫。
それよりもずっと悩んでることがある。それは軽井沢のこと。軽井沢は私とすれ違う度に怯えた目を見せるようになっちゃった。
私が軽井沢をおかしくしちゃったんだ。だから責任を取らないといけない。これも桔梗に相談しようかと思ったけど、今は止めた。あんまり頼りすぎると悪いから。
この旅行が終わったら軽井沢にはしばらく会えない。だからそれまでに終わらせる。
たとえ