なんか自分で読み直してて変だな......って思ったところが多々あったので修正しました。
試験が全て終了した夜。俺はバーや居酒屋のある区画の休憩室にいた。休憩室は狭い個室になっていて、あるのはテーブルと椅子、ドリンクバーぐらいしかない。
この区画は俺たちのような学生はあまり足を踏み入れないが、立ち入り自体は禁止されていない。当然アルコールは厳禁。この豪華客船自体が学校の貸切である以上隠れて飲酒などしたなら一発でバレるだろう。
それならなぜこんな場所が開放されているのか。それはまるで悪巧みをするために用意されているような場所だから。俺にはそんな学校側の意図が隠されているようにしか見えねぇな。
豪華客船で行われた特別試験。それは結果だけで見れば俺たちCクラスが勝利と言ってもいい。
だがそれ以上に、有益な情報が手に入ったことの方が喜ばしい。
「心音のヤツ、完全に恐怖を飼い慣らしてやがるな」
俺は心音が協力を持ちかけた時のことを思い出していた。
「龍園にはね、話し合い中に私の電話に出てほしいの」
「電話だと?」
「そしてもし私を裏切ったら、その人を見つけるよって言って欲しい」
「だが見つけると言っても学校側はそんなこと許しはしないぜ」
「それにそもそも誰が裏切ったかなんて見つけられるもんなんですか?」
「大丈夫。それは大事なことじゃない。裏切ったら自分は殺されるって思わせることが大事なの」
「こ、殺される......!?」
石崎は面食らった顔になる。
「クク。まさかお前の口からそんな物騒な言葉が聞けるなんてな」
「だって、そう思わせることが一番傷付けなくて済むんだもん。力を見せつける。それだけで、今までは誰も私に挑もうとなんてしなかった」
その口ぶりから心音はこんなことするのが初めてではないことが分かった。
心音は恐怖をどう使えばいいか理解してやがる。
誰も自分に敵わないという自負。それがあるからあんな策を取れる。
だからこそ俺はひよりに心音を裏切らせあいつの自信をへし折りたかったが、上手くひよりを抱え込まれちまったな。
まぁいい。まだ心音からは受け取れていないが、プライベートポイントを稼ぐことは出来た。プライベートポイントでは様々なものを買うことが出来る。今後有効的に使わせて貰おう。
「ごめんね龍園くん。待たせちゃった?」
扉が開く音と共にやってきたのは待ち合わせをしていた女、櫛田桔梗だった。
「別に待ってねぇよ、桔梗」
この女は自クラスの優待者を情報提供してきやがった。自分たちにとって命とも呼べる情報をあっさり流す重大な裏切り行為。
まさかクラスのアイドル様にこんな裏の顔があったとはな。
「堀北はどうだった?さぞ悔しがってたんじゃない?」
「まぁな。鈴音は悔しさのあまり何も言えなくなってたぜ」
「えー、見たかったなぁ」
どうやら鈴音と桔梗の間には並々ならぬ因縁があるらしい。まぁそんなこと俺にはどうでもよく、こいつが利用出来るから利用する。それまでだ。
「そうだ、心音ちゃんがこの試験でやったこと教えようか?」
「いらねぇよ。もう聞いた。随分と派手にやってくれたみたいだな」
「あれ?そうなんだ。私を呼んだのはこのことだと思ってたのに。でもそれならもう分かってくれたよね?私の価値が」
桔梗は情報と同時に心音が結果1を狙うように誘導させるとまで俺に伝えてきた。
到達不可能だと思われていた結果1を達成させることで自分が心音をある程度コントロール出来る立場にいることを示し、自分の価値を俺に認めさせる。そうして今後の協力関係を結ぶ材料にしてきたというわけだ。
「一つ疑問なんだが、お前が誘導しなくても心音は結果1を目指したんじゃないか?」
「それはないよ。だってあの子、そもそも最初はこの試験で自分が出来ることはないと思ってたから。あの子はこの手のことになると決まってこう言うんだよ。役目じゃない、てね。だから私が結果1にすれば皆が幸せになるよ~って教えてあげたんだよ。それに一応鼠グループの人たちにも結果1の魅力ってヤツを刷り込んでおいたからさ」
「なるほどな。それなら確かにお前の功績かもな」
「それが分かるなら龍園くんも心音ちゃんの性質をよく理解してるってことだね」
愉快そうに話す桔梗を見て、俺は本題に入ることにした。
「お前は心音をどうしたいんだ?」
「どうしたいって?」
「心音を使って何を企んでやがる」
心音は決して雑魚を寄せ付けない。なぜなら圧倒的な存在感が雑魚をビビらせるからだ。石崎みたいなのは例外だがな。
心音に近づくヤツなんてのはそいつ自身も常識から逸脱したヤツが殆どだ。
「えー、人聞き悪いなぁ。私は心音ちゃんの望みを叶えさせてあげたいだけだよ?」
「心音の望みだと?それはなんだ?」
俺がそう聞くと、桔梗は妖しく笑いながらこう答えた。
「────理想郷」
「......あ?」
全く予想もしていない単語が出てきやがった。
確かユートピアってやつか。楽園とかそんな意味だったな。
「そこは皆が幸せになれるような場所。心音ちゃんはそんな夢みたいなものが本気であると信じている。そして救済しなければいけない人をそこに連れて行くのが心音ちゃんの役目、なんだってさ」
須藤の暴力事件、そして今回の試験で見せた結果1への執念。それが先ほど桔梗が語った心音の性質でもある。救済こそが心音の行動原理。
「じゃあお前がそれに加担する理由はなんなんだ」
「私だって皆のこと幸せにしたいんだよ?」
「くだらねぇ嘘はやめろ。お前のことはもう大体分かった」
「つれないなぁ。確かに私はこれっぽっちも皆の幸せを考えてないんだけどさ、これでも心音ちゃんの前でだけは必死にそう思い込むようにしてるんだよね」
「どういうことだ?」
「────プッ!アハハハハ!」
「......突然どうした。気味の悪い高笑いしやがって」
桔梗はしばらく笑った後、恍惚とした表情で語り始めた。
「心音ちゃんは正真正銘の化け物。誰も敵わない。誰も逆らう事なんて出来ない。敵と認識されたらもうお終い。心音ちゃんと一緒にいた時間が一番長い私だから分かるんだ。心音ちゃんなら......きっとこの学校の神様になれる!だからね?私はその手助けをしてあげてるんだよ!」
心音が神様、か。下らない妄言だ。
「お前は心音をこの学校の頂点に君臨でもさせる気なのか」
「そう!私は見たいの。心音ちゃんがこの学校を支配するところをね......」
心音は決して人の上に立つような人間じゃない。だがこの女は本気で心音がこの学校の王になることを信じている。フン、俺からすれば馬鹿げているとしか思えねぇな。
「お前は心音と何があったんだ?」
「それは秘密」
口を割る気はない、か。
「とにかく、私と心音ちゃんにとって堀北が邪魔で仕方ないからさ、龍園くんには期待してるよ」
「お前が利用できる存在であるなら協力してやるよ」
俺たちは利用し、利用されるだけの関係。互いの事情は詮索しても意味がない。
「分かってると思うけどぉ、私のことを他の人に話したら容赦しないから」
桔梗はいつも振る舞ってるであろう嘘臭い笑顔でそう言った。
何をしてくれるのか楽しみではあるが、十中八九心音を仕掛けてくるだろうな。桔梗が泣き落としでもすれば心音はあっさりこちらに牙を剥くだろう。
それはこちらとしても望む展開ではない。心音と正面衝突するにはまだ下準備が足りていない。衝突するにしても相応しい舞台が必要だ。
綾瀬心音。
やはりあいつはAクラスに上がるためには決して無視出来ない存在。
いっそあの契約を行使して心音を退学させてやってもいいが、心音にもまだ利用価値があるからそれは駄目だ。何よりつまらねぇ。それにアイツはしっかり己の価値を証明したからな。退学させるのは契約違反だろう。
......それにしても心音をもっと探る必要があるか。ちょうど『取っ掛かり』もある。
クク、楽しみが尽きねぇな。
櫛田の目的に対してじゃあその動機は何なの?って思うかもしれませんが、それはまだ秘密です