ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第46話 意外と外村秀雄は行動力がある

 夏休み。それはオレにとって未知のものだ。

 だがオレの通う高度育成高等学校の夏休みが特殊であることは間違いない。

 無人島でサバイバルをさせられ、船の上では嘘と嘘をぶつけ合う知略ゲームをさせられる。そんなものが普通の高校では行われないことぐらいさすがに分かる。

 だがそれも終わり、ようやく束の間の休息。生徒たちも羽を伸ばしているだろう。

 ちなみにオレはというと......

 

「さぁ!ここが拙者の庭でもある『ゲームセンター』ですぞ!」

 

「おー......!」

 

 オレと外村秀雄こと博士と綾瀬の3人でゲームセンターに来ていた。

 事の発端は博士のとある相談だった。

 なんと博士は綾瀬と遊びにいきたいとのこと。まぁ俗に言うデートだ。というのも、博士からすると綾瀬は自分の推しているアニメキャラにそっくりらしい。だからなんとかお近づきになりたいが、二人きりで女の子と遊ぶのはハードルが高いということでオレにも付き添ってくれないかという相談だった。

 オレは博士に借りがある。それは石崎たちを嵌めるために用意した監視カメラのセッティング。その借りを返すためにもこうして遊びに来ているわけだ。

 そして選ばれたデートスポットがゲームセンター。

 オレたちDクラスはポイントが少なく遊び場も限られるが、博士曰くゲームセンターはのめり込みさえしなければ安めに済むらしい。のめり込んでしまったらとんでもないことになるらしいが。

 しかしこの学校は何でもあるな。普通の基準が分からないから規模自体はそこまで広いようには見えないが、多種多様の筐体が置いてある。

 

「す、凄い......ピカピカいっぱい......!」

 

 隣で綾瀬は子供のように目を輝かせていた。かくいうオレも実はどんなものか非常に気になっている。ゲームセンターで遊ぶことも直前に知らされたものだから事前知識も殆どなしだ。

 

「普通のゲームセンターであれば100円玉を入れるものだが、この学校では端末をかざして承認すれば遊べるシステムでござる。少々味気ないですがな」

 

「なるほどな。しかしそれなら機体もこの学校専用に作られているってことだろ?なかなかコストがかかってそうだな」

 

「拙者のようなものたちにゲームセンターは憩いの場として無くてはならないものなのだ。コストを掛けて貰わねば困る」

 

 博士の言うとおりかもしれない。

 この学校に集まってくる生徒の趣味は多種多様。故に博士のような生徒たちのニーズに応えるための施設もそうだし、こういったこととは無縁な生徒たちのためにはまた別の施設でニーズに応える必要がある。そうすれば各々のモチベーションにも貢献してくれるだろう。

 ちなみにゲームセンターは大盛況とまではいかないが、ちらほら人はいる。

 

「博士、博士......!これ何......!」

 

 綾瀬がテンション高めで指さしたのは透明なプラスチックで覆われた機体。その中には大量のお菓子が積み重なっている。他にもフィギュアが入った箱やぬいぐるみなど機体によって入っているものは様々だ。どれもクレーンらしきものがぶら下がっており、あれを使って商品を取るもの、なんだろうか。

 

「これはクレーンゲームと呼ばれるものでごさるよ。クレーンゲームで取れるものは案外貴重なものだったりしますな」

 

 1ゲーム100ポイント。つまり100円でぬいぐるみなんてものが取れるなら破格だ。大量に積み上がっているお菓子だって一度で取れればとても100円で収まる金額じゃない。だがそうはならないように出来ているのが世の中の常というもの。当然何かしら裏があるに違いない。

 

「まずは拙者がお手本を見せてもいいが......綾小路殿のお手並みを拝見させてもらおうか」

 

「オレから?悪いがオレはやったことないぞ。オレもゲームセンターは初めてだからな」

 

「なにぃ!?それは意外でござるな......綾小路殿みたいな男はてっきり隠れてゲーセンに通い詰めているものだと思っていたが......」

 

 いったいオレにどんなイメージを持っているんだ。

 

「まぁものは試し。やってみたらハマりますぞ」

 

 そう言われると少し興味が湧いてくる。

 まずは機体を見てみる。オレが選んだのは比較的簡単そうなフィギュアの入っている箱が左、中央、右と3つ並んでいる機体。箱に描かれているのはどれも同じ女の子だった。中身はどうでもいいが、箱であればクレーンにも掛けやすい。

 

「ほほぉ、綾小路殿は爆乳メガネっ子が好みだったのか。なかなかいい趣味をしておる」

 

「適当に選んだだけだ......それよりもこのボタンであのクレーンを動かせばいいんだな?」

 

 矢印がついたボタンか二つ。右向きの矢印には①、上向きの矢印には②と書かれている。

 

「うむ。最初は①で横の調整をして、②で縦の調整をするのだ」

 

 なるほど。空間認識能力が求められるゲームか。それなら狙うは一番右奥にある商品。

 商品の位置とクレーンの位置。

 それを頭の中で描く。

 そして①の右向きに移動するボタンを押せばどのように移動するのか挙動を把握しつつ、軸を合わせる。後は先ほど把握した挙動を頭に入れつつ縦移動の調整。

 よし。かかった────が、掴んだと思ったクレーンのアームはあっさり外れてしまう。

 

「......なぁ博士。アームがあまりにも弱すぎないか」

 

「何を言っているんだ綾小路殿は。それがクレーンゲームというものでござる」

 

 一体こんなもののどこがクレーンゲームなんだ。力なくぶら下がっているクレーンはなんとも頼りなかった。

 

「次は私がやる」

 

 ピシッと手を上げる綾瀬。綾瀬はこういうの苦手そうだが大丈夫なんだろうか。

 綾瀬が選んだのは大量に積み上がっているお菓子が入っている機体。

 これこそ難しそうだが、先ほどので要領は掴んだ。馬鹿正直に掴みにいってもあの頼りないクレーンではまず不可能。つまりクレーンの開閉を上手く利用して、掴むというよりも引っかけて落とせばいい。

 なんて、オレが真面目に考察していたところをあざ笑うかのように綾瀬はとんでもない行動に出た。

 

「......これなら簡単そうだね。よいしょっと......」

 

 本来ならボタンを使って操作するところだが、綾瀬は機械を両手で掴み、グラグラと揺らし始めた。おかげで積み上がったお菓子たちがバラバラと崩れてゆく。落とした商品を取る取り出し口も崩れたお菓子たちでパンパンになっていた。

 

「だだだだ、駄目ー!それはクレーンゲームではご法度ものですぞー!!」

 

「え?駄目なの?」

 

「ゲーム性が崩壊しちゃってるからな......というか重くないのか?それ」

 

「んー......全然」

 

 と言いつつも綾瀬が機体を下ろすとズドン、という重々しい音が聞こえた。改めて恐ろしい馬鹿力だ。

 

「これ、どうしよう」

 

「こ、今回は目を瞑りますが、こんなことがバレたら出禁間違いなしですぞ......」

 

 それもそうだ。こんなことがまかり通れば店側は大赤字だ。

 オレたちは店員に袋を貰い、とりあえずお菓子を詰め込んだ。先ほどの綾瀬の行いはなんとかバレていないようだ。

 

「こほん!気を取り直して......次は対戦ゲームでもやりますか。とはいってもほぼ遊びでござる」

 

 次に向かったところにあったのは卓球台ほどの大きさのボードに下の部分が空いているネットが中央に敷かれているもの。そのネットが二つの陣地を分断している。そして四隅にはそれぞれ手で持てる器具がある。そして得点板のようなものまである。

 

「これはエアーホッケーと呼ばれるゲームですな。ちなみにその器具の名は拙者もよく分からんが、マレットと聞いたことがありますぞ。2人、もしくは4人で遊ぶゲームであるが故、拙者もそこまで経験はないが、せっかくだから遊んでみたいでござる」

 

「3人しかいないから1対1か。じゃあ博士と綾瀬で遊んでくれ」

 

「お気遣い感謝!」

  

 オレは付き添いだから今回は見学だ。

 博士と綾瀬はそれぞれ互いの陣地に足を運び、手にマレットを持つ。

 博士が携帯をかざすと、台の横から横幅はマレットと同じぐらいで薄い円盤が出てくる。それは博士の手元でちょうど止まった。材質的にもボードの上をよく滑る。得点板が光を灯し、タイマーらしきものも動き出す。制限時間は5分。

 

「これで円盤をはじき、相手のゴールに入れれば得点を得られるのだ」

 

 よく見てみると博士と綾瀬の手元は中央のネットと同じように下の部分が空洞になっていた。これがゴールというわけか。

 

「それじゃあいきますぞ~」

 

 博士が軽くコン、と音を立てながら円盤をはじくと、ゆっくりとボード上を滑っていく円盤。それに対し、綾瀬は横にマレットを強くなぎ払った。 

 

「────え?」

 

 カン!と甲高い音を鳴らした円盤は一直線に博士の手元を通り過ぎていく。あまりの早さに博士も反応出来ずに固まっている。そして空洞に吸い込まれてく円盤。つまりゴールだ。

 

「これで1点、だよね?」

 

「あ、あれー?今のはなんだろうなー?多分よそ見しちゃってたかなー?」

 

 口調がおかしくなった博士からはハッキリと動揺しているのが伝わる。

 得点板には綾瀬側に1と刻まれている。そして円盤はまた博士の手元に放出された。ゴールされた側に放出されるようになっているようだ。

 

「よ、よーし、もう一回いくぞー!それー!」

 

 今度は先ほどよりも強く円盤をはじく博士。だがそれ以上に強く綾瀬が打ち返す。

 

「ひー!」

 

 博士は打ち返そうともせずに情けない声を上げて避けた。当たったら怪我してもおかしくないな......。

 

「綾小路殿!すまん!代わってくれ!」

 

「え?いいのか?」

 

「いい!全然いい!拙者の命が持ちませぬ!」

 

 普段は武士みたいな口調のくせに命は惜しいらしい。武士の風上にも置けないな。

 まぁそこまで言われたら仕方ない。

 オレは綾瀬と向き合う。ゲームとはいえ、こうして綾瀬と対戦するのは初めてだな。

 普段なら手を抜く場面。だが綾瀬の実力を試してみたい。

 

「────綾瀬、本気でいかせてもらう」

 

「......へぇ、いいよ。じゃあ私ももう少し力を出してあげるね」 

 

 綾瀬の雰囲気が変わった。やはりさっきは手を抜いていたか。

 まずは先手。オレは綾瀬がマレットを持つ右手とは反対の方に円盤を叩きつけた。

 高速に滑る円盤。だが当然この程度ではあっさり綾瀬も打ち返してくる。そしてしっかりとこちらを仕留めるようなスピードで向かってくる円盤。

 いいだろう。まずは正直に強行突破を試みようか。

 息をつく間もないラリーの応酬。やはり綾瀬を倒すのは簡単じゃない。

 

「あ、あのー......2人とも?」

 

 強行突破では無理だな。それは分かっていたこと。それなら趣向を変えるか。

 一直線にゴールを狙うのではなく、壁に向かって叩きつけて反射を活かす。

 これで先ほどよりも予測のつかない軌道になった。このスピードでは対応するのは至難の業のはずだ。

 だが────。

 

「さっきよりも遅くなっちゃったね」

 

 これもあっさり打ち返してくる。この程度のスピードでは駄目か。

 それならもっと工夫がいる。

 さて、どうしたものか────。

 

 ブー!

 

 突如、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

「......終わり?」

 

「もう5分経ったのか」

 

 もう少し続けたかったがここまでだな。オレもついつい夢中になりすぎてしまった。博士が驚きのあまり固まっている。

 

「あー......普段はあまり運動出来ないが、ゲームなら多少動けるみたいだな......」

 

 などと言い訳をしてみたが、これはさすがに苦しすぎるか。普段ダメだと思っていたヤツがここまでの動きを見せたらさすがに違和感を持たれてもおかしくない。

 などと思っていたが、意外にも博士の顔は明るい。

 

「そうなんでごさるよ!拙者も綾小路殿の気持ちは分かるぞ!」

 

 あれ?何故か乗ってくれたぞ。

 

「どうやら......これは拙者も本気を見せねばならぬなぁ......次は拙者が一番得意なゲームでござる!」

 

 次に向かったのは機体から騒がしい音楽が流れているコーナー。博士曰く音ゲーと呼ばれるものらしい。

 色々見てみると、太鼓を叩いたり、自分の手でボタンを押したりと手段は違うが大体の概要は同じようだ。

 ようは流れる指示に合わせて対応したボタンを押すゲーム。

 

「久しぶりにコイツで遊んでやるか......」

 

 キャラの変わった博士が選んだのは比較的押すボタンの少なそうなもの。ボタンは5つだ。

 

「おっと、忘れてたぜ」

 

「なんだそれは?」

 

 博士はポケットから指先の部分がないグローブを取り出した。そんなものどこで売ってるんだ。

 

「マイグローブさ。これがあるとないとじゃ気合いの入り方が違うんだよ」

 

 なんだかよく分からんが、とにかく気合いが入ってるのは伝わる。

 このゲームには難易度が分けられており、博士が選んだ難易度は恐らく最高難度のものだった。そしてその中でも更に難しさの度数を表すような☆もある。博士の曲は10個中7個☆がある。

 曲を選択した後に画面が暗転し、画面が切り替わったと同時に曲が流れる。

 

「うおおおお!!!」

 

 高速で流れる指示に合わせてボタンを押していく博士。

 オレが想定していたよりも遥かに早く、指示も多数。これは初見ではまず不可能だ。最初は押すだけだと思っていたが、同時押し、しばらくの間押したままなど、ややこしい指示もあって混乱する。

 博士は少しミスもあったが、それでも8割以上は正確に出来ている。

 

「フッ......まぁこんなものだな......」

 

「おー......博士凄い......」

 

「いやー!こんなもの大したことないでござるよー!」

 

 パチパチと拍手を送る綾瀬に続いてオレも拍手することにした。

 これは素直に感心する。普段あまり運動が出来ない博士でもここまで早く動けるものなんだな。これなら先ほどの博士の様子も納得できる。

 

「綾瀬殿もやってみるといいですぞ!最初は易しめのにした方がよきかと」

 

「いいよ、博士と同じ難しさのやつで。とりあえず画面に出てるボタンを押せばいいんでしょ?」

 

「えー!?易しいのにした方が......」

 

「曲は......なんでもいいや」

  

 綾瀬はボタンの感覚を確かめつつ曲を選ぶ。

 綾瀬が選んだのは最高難度の中でも☆がマックスまであるもの。つまり一番難しい曲ってことだ。

 

「その曲は......!数多の音ゲーマーを挫折させた悪魔の曲!やめるんだ綾瀬殿!心を折られるぞ!」

 

 博士の怯えようからして相当難しいらしい。

 先ほどと同じく画面が暗転した後に、曲が始まる。

 画面に表示された指示は先ほどよりも密集していてもはや何がなんだか分からない。

 しかし綾瀬は、恐ろしいほどに高速かつ正確に指示の通りボタンを叩き始めた。

 

「ななななな、なにー!?」

 

 す、凄いな......オレでも目で追うのがやっとだ。

 画面を捉える綾瀬の視線はまるで獲物を捉える獣のように据わっている。だが手元は一切見てない。

 これを成し遂げているのは綾瀬の卓越した身体のコントロールのおかげだろう。サッカー選手がボールを見ずとも華麗なリフティングが出来るように、綾瀬も手元など見なくても自在に身体を動かすことが出来る。

 ......それにしても凄すぎるが。

 

「......ん?」

 

 綾瀬ばかり見ていて気付くのが遅れたが、いつの間にか人が集まってきている。

 

「おい!あの曲に挑戦してるやつがいるぞ!しかもまだノーミスだ!」

 

「おぉ......俺たちの仇を取ってくれ......!」

 

「そうだ!頑張れー!」

 

 1年だけでなく上級生までもが綾瀬を応援していた。これは心を折られた音ゲーマーたちか。

 

「あと少しだ!」

 

「いけるいける!」

 

 ちょっとした騒ぎになり、あまりゲームに興味なさそうな生徒たちも不思議そうにこちらを見ている。

 そして最終局面に差し掛かると一層難しそうな指示になったが、結局綾瀬はノーミスでクリアした。それを見て音ゲーマーたちが歓声を上げる。

 

「パ、パーフェクト......馬鹿な......この曲をノーミスでクリアした者なんて今まで誰もいないのに......」

 

「その話が本当なら綾瀬が一番上手いってことなんだな。凄いじゃないか」

 

「凄いなんてものじゃないですぞ!この曲をSNSでノーミスクリア報告なんてしようものなら神として崇められてもおかしくない!」

 

 博士の言う通り周りの音ゲーマーたちは綾瀬に神でも見るかのような視線を向けていた。

 

「あ、あの......!お名前をお聞きしても......?」

 

 上級生までもが畏まりながら綾瀬の名前を聞いた。それほどまでに綾瀬の成し遂げたノーミスクリアというのは凄いらしい。 

 

「私は綾瀬。綾瀬心音」

 

「ありがとうございます!失礼ですが、そのクリア画面を背景に写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか!」

 

「写真......ピース?」

 

 まるで写真慣れしているアイドルのようにポーズを撮る綾瀬。普段から佐倉とか色んな女子に写真を撮らせて欲しいと言われているからな......。

 

「うおー!」

 

「綾瀬!綾瀬!」

 

 なんだかここまで来ると宗教じみていて怖い。いつかファンクラブなんてものまで作ってしまいそうだ。

 興奮した熱が冷めるまで時間は掛かったが、綾瀬が別のゲームで遊びたいと言うと音ゲーマーたちは素直に引いた。

 

「あ、拙者少しだけトイレに行ってくる。それまで遊んでいてくれ」

 

「分かった」

 

 博士が一時離れてしまった。

 綾瀬と2人きりか。オレはあまり夏休み中は話題にするのを控えてた件について話すことにした。

 

「そういえば船上試験、聞いたぞ。結果1にしたんだってな。さすが綾瀬だな」

 

 携帯を握り潰したことも聞いたが、無事に直っていたことはチャットの返信からも分かっている。

 

「私は別に大したことしてない。私はただ、出来ることをしただけ」

 

 綾瀬はいつだって自分の功績を誇ったりなんてしない。それがとても普通らしくなかった。これが池や山内だったら大はしゃぎしていてもおかしくないのに。

 

「そういえば真鍋たちに何かあったか知らないか」

 

「......どうして真鍋たちの話をするの?」

 

「オレは真鍋たちと同じグループだった。あいつらは試験に積極的に参加していたわけではないが、それでも喋ることはあった。だが最終日には一言も喋らなかった。まるで何かに怯えているようにな」

 

 真鍋たちが最終日に喋っていたところで大した影響はないが、やはり違和感は残る。龍園からそういう指示を受けていた、なんて理由付けすることも出来るが、そうじゃないだろう。

 

「ごめんね。真鍋たちに何をしたかは言えない。これは私と真鍋たちだけの問題じゃないから」

 

 おそらく軽井沢のことを思って、だろうな。軽井沢は真鍋たちに虐められていたことを隠したがっていた。そのための秘密。だが何をしたか言えないと言っている時点で何かをしたのは分かってしまう。予想するなら『軽井沢を虐めたら許さない』とかそんな辺りか。

 

「綾小路。あなたは救いようのない不良品がいたら、どうする?」

 

 ────切り捨てる。

 

 それが迷わず出た本音。磨いてもどうもならない不良品などいても癌になるだけ。

 しかし、綾瀬の前でそんなこと言ってしまったらどうなるか分かったものじゃない。

 

「オレは────」

 

「おーい!すまない、待たせてしまったでごさる!」

 

 ちょうどいいタイミングで博士が帰ってきた。綾瀬もしつこく追求することなく歩き出す。

 それからオレたちは様々なゲームで遊んだが、掛かったポイントは1000ポイント。充分遊べた上に掛かるポイントも少なめで済む。なかなかに楽しかったからオレは大分満足した。

 そろそろ帰ろうかとしたとき、綾瀬が何かに興味を示した。

 

「......あれ、これって......」

 

 綾瀬の視線を追うと、形こそ派手で仰々しいが、オレも似たようなものを見たことがある。機械に繋がっているボクシンググローブなどから見ても間違いない。ボール上のパットが吊されているパンチングマシーンだ。

 

「おや......このタイプは珍しいですな。普通のパンチングマシーンはパンチする部分を下に叩きつけるものばかりなのだが」

 

「あれ、そうなのか?それなら純粋なパンチ力なんて計れなさそうだな」

 

「そうそう。体重を押し付けたりして記録を出す輩も多いですぞ」

 

 だがこのタイプなら殴られたボール型のパットか機械の上部にある計測装置にどれほどの衝撃度でぶつかったかを測る仕組みになっている。

 カンストの数値は999。プロの格闘家でも800いけば化け物と呼ばれるレベルだろう。

 

「綾瀬、やってみたらどうだ?」

 

「えー!?女子にこのゲームを勧めるのでござるか!?」 

 

「んー......ま、いっか。分かった。やってみる。綾小路、普通はどれぐらいでやればいいの?」

 

「......分からない。どうやら過去の記録を見ることが出来るみたいだ」

 

 記録を見るのはポイントを払わずとも出来るらしい。記録を見返してみると、この学校ではそもそもやっている人が少ない。数としては50人ちょっと。あまり人気がないようだ。ちなみに1位の記録は328と記載されている。男子高校生が出す数値としては高いな。さすがは実力者が集う高度育成高等学校ということか。

 綾瀬は機械に携帯をかざした。機械が点灯し、これで測定できそうだ。

 

「グローブは嵌めないのか?」

 

「いらない。直接じゃないと意味ないし」

 

「いやいや危ないでござるよ!?」

 

 殴り慣れていない素人ならグローブを嵌めないと手首を怪我してしまう恐れがあるが、綾瀬には無用の心配。なんとなく予想はしていたが綾瀬も初めてじゃないな。

 

「1位は328、だっけ。じゃあそれぐらいの力でやるね」

 

「へ?」

 

 博士が間抜けな声を出したすぐ後に、綾瀬が右腕を振り下ろした。

 重々しい衝撃がこちらにも伝わる。

 機械の数値はみるみる上昇していき、記録は435。100以上突き放して最高記録更新である。

 

「あれ......ちょっと多いね。んー......間違えた」

 

「ひえー!」

 

 博士が驚くのも無理はない。この数値は格闘家レベルだ。決して女子高生が出していい数値ではない。しかも綾瀬は力加減を調整しているだろう。あのときの筋肉を凝縮させたような音もなかった。一体どんな環境にいたらこんな力が......。

 

 

 

 程なくしてゲームセンターの外を出たオレたち。

 

「じゃあ私はこの後用事があるから先に帰るね。今日はありがとう。楽しかった」

 

 綾瀬はクレーンゲームで手に入れた大量のお菓子を詰め込んだ袋を手に取りこの場を去った。

 そして残されたオレと博士。博士の顔はどこか疲れていた。

 

「今日のデートはどうだった?」

 

「......改めて綾瀬殿と拙者では次元が違うことを痛感したでござる」

 

「まぁ、あれはちょっと特殊すぎる」

 

 無茶苦茶さだけで言えば高円寺に近い。常識の型に全く嵌まらない2人はオレの予想をいつも破壊してくる。

 

「でも、今日は楽しかったでござる。女の子と遊んだのなんて人生で初めてだったでござるからな」

 

「そ、そうなのか......」

 

 悲しい人生だが、それを馬鹿にすることなんてオレには出来ない。

 博士のような女の子と遊ぶことの出来ない人種は珍しいことではない。異性とは自分とは別の生き物。男では当たり前でも女では理解されないものなんて多々あるし、その逆もある。

 

「それに、友達も出来たでござる」

 

「え?」

 

 博士が携帯で見せてきたのはグループチャットの画面。

 

「まさか、さっきの音ゲーマーたちか?」

 

「トイレに行ったといって抜け出したが、実はあれは嘘なのだ。同士たちに声を掛けにいっていた」

 

 そのチャットを見せて貰うと、綾瀬のことやゲームのことで話し合っていた。

 

「綾瀬殿には感謝してるでござる。まさか違うクラスや上級生たちともこうして同じ仲間になれるだなんて夢にも思っていなかった」

 

「それは......貴重だろうな」

 

 特に上級生との繋がりなんてなかなか持てない。それは普通の学校でもそうだろう。

 博士にはそこまでコミュニティが広い印象がなかった。だから声を掛けるのにはなかなか勇気がいることだっただろう。

 

「でも綾瀬はいいのか?」

 

「今日のことでよく分かったでござる。綾瀬殿はあくまで推し。お近づきになれなくても陰から応援できるだけで拙者は満足なのだ」

 

「そういうものなのか」

 

 オレには推しなんてよくわからないが、本人が満足してるなら何も言うまい。

 

「そうだ。綾小路殿もこのグループに入るか?」

 

「え?でもオレはゲームなんてやらないぞ?」

 

「大丈夫でござるよ。別にやってなくても、興味があったら声を掛けてくれるだけでいいのだ。綾小路殿も今日は付き添ってくれて助かったでござるからな」

 

「......じゃあ、頼む」

 

 正直連絡が来ても困るが、オレは博士の誘いを受け取ることにした。きっとこれは博士なりの感謝なのだろう。それならば受け取ってやるのが礼儀というものだ。

 

「って、なんだこのグループ名は......」

 

 そのグループの名は『綾瀬心音たんマジ女神!』。こんなの見られたら恥ずかしさで死んでしまう。

 

「これは綾瀬殿を讃えるグループでもあるからな」

 

「ようはファンクラブか......」

 

 結局ファンクラブを作ってしまった綾瀬。このままいけばこの学校中を支配するんじゃないだろうかと軽く恐怖する。

 だがこのグループはいつかきっと役に立つ。他クラスとの繋がりはもちろん、上級生との繋がりを持つ生徒なんてあまりいないはずだ。それに綾瀬を崇拝したものばかりなら......。

 まぁこのグループの使い道はまた後で模索するとしよう。とりあえず通知がやかましいのでオフにしておく。

 

 

 




パンチングマシーンの平均はよく分からなかったんですが、動画を見ると強そうな人たちは800とか出していました。ゲーセン自体は僕も殆どいったことないのですが、よくあるパンチングマシーンとは違います。

ちなみに最初のタイトル案は『クラッシャー綾瀬』でした。パンチングマシーンも当初の案では破壊してました。

綾瀬心音を大富豪に例えるとどのカードになりますか?

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