綾小路と博士の二人と遊んだ次の日。ゲームセンターって面白かったな。見たことないものがいっぱいだったし、お菓子もいっぱい取れた。
そして今日はひよりと遊ぶ約束をしていた。約束の時間は午後の2時から。
ひよりには部屋を教えてある。
後は待つだけ────。
「頼もぉー!」
いきなり部屋の扉が勢いよく開けられてびっくりした。
扉を開けたのは伊吹、そしてひよりもいる。伊吹がどうしてここにいるのか分かんない。
「伊吹さん。それは道場破りをするときに使う台詞だと思います。それにチャイムを押さずにいきなり扉を開けるなんて失礼ですよ?」
「うっさいわねぇ。綾瀬にそんな遠慮はいらないわよ」
「うん。私は全然大丈夫。それよりも今日は伊吹も遊びに来たの?」
「違うっての!今日はあんたに私を強くしてもらうために来た。あれよ、修行」
「修行......トレーニングのこと?でも今日はひよりと遊ぶ約束してるから......」
「私は大丈夫ですよ。というのも、伊吹さんは心音さんを探してたみたいですけどなかなか見つからずに女子寮をウロウロしていたらしいんです。それを私がたまたま見かけて、丁度よく私が心音さんと遊ぶ約束をしていたのでそれなら一緒に遊びましょうと誘いました。だから今日は3人で遊びましょう」
「だから遊びじゃない!」
伊吹はこの前の橘みたいに怒ってた。
私は伊吹たちを部屋に入れる。そして3人とも座った。
「ていうかあんたらって下の名前で呼び合ってるんだ」
「うん。船の試験で同じグループだったから仲良くなった。伊吹も下の名前で呼ぶ?」
「絶対に止めて。そんなキャラじゃないし」
「せっかく素敵なお名前なのにもったいないですね」
「何ももったいなくないから」
伊吹の名前は澪。伊吹が嫌がるなら私は呼ばない。
「それにしても外暑すぎ。なんか涼むものないの?」
手でパタパタしながらテーブルに肘をついた伊吹。
「アイスあるけど食べる?」
「食べる!」
伊吹が勢いよく立ち上がった。
私は冷凍庫からカップ型のアイスを取り出して二人にあげた。スプーンを渡して皆で食べる。
「ありがとうございます。美味しいです」
「はむっ......はむっ......やるふぁねあやへ。ひっかりあいふをよういしてるなんて」
「そんなにかき込んだら頭痛くなっちゃいますよ?」
二人の食べ方は全然違った。ひよりには品があって、伊吹には品がない。多分使い方あってる......よね?
アイスを食べ終わった私たちはカップとスプーンを片付けてまた座った。
「ふぅ......それにしてもようやくあんたに会えてラッキーだったわ」
「ごめんね。伊吹と連絡先交換してなかったね」
「私だって無駄に連絡先なんか増やしたくないから別にいい。連絡来てもだるいし」
「でも今後こうならないように連絡先は交換した方がいいとおもいますよ?」
「......まぁ、それは確かにそうね」
伊吹は嫌そうにしながら携帯を私に差し出した。
「はい。勝手にやって」
「伊吹、携帯を渡したら駄目って知ってる?チャットが来たら私も見れるから危ないんだって」
「あぁ。そう言えばつい最近そんなこと言われましたね。もし伊吹さんにお付き合いしてる方がいて、このタイミングで愛のメッセージなんて来たら大変なことになっちゃいます」
「は?ない。ないから」
「お付き合いって男の子と女の子が凄く仲良くなることだよね。伊吹ってそんなに仲のいい男の子いるの?」
平田と軽井沢みたいな人たちのことを付き合っているって言うんだって。この学校に来てから知った。
「そう言われると回答に困りますね......あ、龍園くんや石崎くんでしょうか。よく楽しそうに話していますから」
「じゃあ伊吹は龍園か石崎と付き合うんだ」
「もしそんなことになったら私たちでお祝いしましょう」
「勝手に人で変な妄想しないでくれない!?誰がアイツらなんかと!そもそも仲良くないし!」
伊吹は本気で嫌がってた。皆が仲良しなら楽しいのになんで嫌なんだろう?
「いいからさっさと連絡先交換してよ」
「いいよ」
携帯を操作して連絡先を交換する。最近やることが多いからちゃんと覚えた。
「心音さん。私にも伊吹さんの携帯を貸して下さい。私も伊吹さんと連絡先を交換したいです」
「いやいいって」
「いいえ、きっと必要になりますよ。
携帯を受け取った伊吹は複雑そうな顔をしてた。
「伊吹とひよりって仲良かったんだね」
「はぁ?そんなじゃないって。なにかと一緒になる機会が多いから話はするけど仲良くはないし」
「そうなんですか?私は結構伊吹さんのこと好きですよ。クールに見えて実は全然そうじゃないところが見ててとてもかわいいです。考えていることも丸わかりだったりしますから」
「私も伊吹のことは私と同じで勉強出来ない人だと思ってるよ。だって鈴音とかと全然違うから」
「馬鹿にしてんのかあんたらぁ......!」
同じ仲間だから嬉しいって伝えたつもりなんだけど伊吹がまた怒っちゃった......。
「伊吹さんはどうして綾瀬さんに修行をつけてもらいたいんですか?」
「そんなの決まってるでしょ。私は誰にも負けたくない。だから強くなりたいのよ。どうして綾瀬なのかは単純ね。綾瀬は馬鹿だから敵だろうと簡単に強くなる方法を教えてくれると思ったからよ」
「あんまり人を馬鹿だなんて言ってはいけません。それに伊吹さんもあまり賢い人だとは......」
「ちょっと!さっそく人を馬鹿にしてんじゃないわよ!」
伊吹はひよりを指さした。それを見てひよりはよく分かってなさそうだった。
「じゃあ伊吹って勉強出来たりするの?」
「は?勉強なんてしてるぐらいなら身体動かしてる方がいいでしょ」
「そうなんだ......」
もしかしたら私の次に頭悪い人は伊吹なのかも。
「喧嘩をするぐらいなら勉強してた方が平和です。それに誰かを傷付けるために強くなりたいなんてあまり良いことではないと思います」
「うるさいなぁ......」
ひよりに注意されてる伊吹はなんか子供みたいだった。
「でもひより、自分の身を守るためにも力が必要になるときはあるかも」
「そーそー。龍園みたいなヤツが他のクラスにいないとも限らないでしょ。怪我しないためにも修行すんの」
「なるほど......身を守るための力ですか。それなら納得できます。もし伊吹さんが悪い人に襲われて勝てなかったりしたら大変ですもんね......伊吹さん、あんまり恨みを買うようなことをしちゃ駄目ですよ?」
「そうだよ伊吹。伊吹じゃ勝てない人っていっぱいいるから気をつけないと駄目」
「なんなのよさっきからあんたらは!?二人揃って喧嘩売ってんの!?」
「いえ......喧嘩なんて売ってませんよ......?」
「うん......伊吹どうしちゃったの......?」
私とひよりはよく分かんなくて、顔を合わせた後に首を傾げた。喧嘩って売り物じゃないよね。
「ぐぐぐっ......!絶対に私が正しいはずなのにぃ......!もういい!さっさと修行するわよ!」
「修行......何をすればいいの?」
「とりあえずアレを教えなさいよ。この前言ってたアレ。心の音を消すってやつ」
「それは......初めて聞いた言葉ですね」
「私も言葉の意味が合ってるかは分かんない。そう言われたことがあるから使ってるだけ」
私の
「意味なんてどうでもいいからどうやるか教えてよ」
「どうやるって言われても難しい......上手く言葉に出来ない」
そういうのがあるっていうのは教えられるんだけど、やり方って言われるとまた別。
「私がお手伝いしますよ。感覚でもいいのでどんな感じが教えて下さい。可能な限り言語化してみます」
「んー......じゃあ頭の中に何かしたいこと1つだけ頭に入れてみて。力を出したいとか、そんなの」
「頭の中に......1つ、だけ......」
「後は何も考えないようにする。そうしたら静かな世界にいる感覚になるから、後は深くいけばいくほど何も聞こえなくなるんだ」
「......まるで明鏡止水の境地、ですね」
「なんか聞いたことあるけど、それってどういう意味?」
それは私も分かんない言葉だった。
「明鏡とは曇りなき鏡、止水とは静かな水。これを心の状態に置き換えて、澄みきって落ち着いた状態を指す言葉を明鏡止水と言います」
「......いまいちよく分かんないけど、それでどうやって力を出すの?」
「えーと......そうすると頭に入れたことを身体が勝手にやってくれるんだ。そのときにいっぱい力出てる」
私がまだ小っちゃい頃はずっとそんな感じだったと思う。知識なんて一切頭に入れない。頭に入れるのは何かを壊す、それだけだったときもある。
「......もしかしたら心音さんは無意識をコントロールしているのかもしれませんね。人間は筋肉や骨に大きな負担をかけないよう無意識に力をセーブしていると言いますが、その無意識を自在に操れるなら......」
「それって火事場の馬鹿力ってヤツ?でもそんなのコントロール出来るもんじゃないでしょ」
「自分で言っていて矛盾しているとは思うんですが......」
「うーん......ひよりの言ってること、あってるような気がするけど、何か違うような気もする......」
自分の中で何かがモヤモヤしてる。でもそのモヤモヤを上手く伝えられない。
「ちょっとやって見せてよ。こういうのは見てみるのが早いでしょ」
「でも今は力を出したいって思えないかも......とりあえず今は頭に何も入れないでやっていい?」
「それは......まぁ一回やってみて」
「分かった」
私は目を閉じた。
頭には何も入れなくていい。
感覚が沈んでいく。
深く、深く。
冷たくて、静かな世界。
私はただ、沈んでいく─────。
目を閉じた綾瀬を見て私は思わず息を飲んだ。
まるでそこだけ世界が違う。綾瀬の周りだけ空気が静かに感じる。
「凄い......まるで心音さんが本に出てくる達人のようです......」
漫画とかに出てくる瞑想みたいだなとは私も思った。
「......綾瀬の話が本当なら綾瀬はいま何も聞こえてないってことでいいんだよね」
私は綾瀬の部屋にあったお菓子を一つ手に取って綾瀬の前にぶら下げた。
「伊吹さん?一体何を?」
「見れば分かるでしょ。確かめてんのよ。綾瀬が本当に何も聞こえてないか。ほーら、あんたの大好きなお菓子よ」
「......」
......反応がない。
「綾瀬ってお菓子ばっか食べてるって聞いてたんだけど違うの?」
「違くないと思います。よくポケットにいっぱいお菓子を入れている心音さんを見たという話を私でも聞くぐらいですから」
もちろんそんなことしてるやつは綾瀬ぐらいしかいない。
「椎名。あんた何かお菓子持ってないの。綾瀬があんまり食べたことなさそうなやつ」
「今は持ち合わせていないですが......和菓子なら部屋にいけばあります。これでも茶道部ですから」
「それよ!聞いたでしょ綾瀬。椎名の部屋にいけば和菓子が食べられるわよ」
「わぁ......いいですね。自分の部屋に人を招くのは初めてです。皆で色んなお菓子を食べましょう」
「......」
これも空振り。
「......これってただ寝てるだけだったりしないわよね?」
「どうでしょう......確か心音さんは寝ることが大好きだと言っていたような......」
「そう......」
それなら起こしてやらないとね......!それを口には出さず、私はさりげなく綾瀬の背後に回り込んだ。綾瀬の背中をはたいてやる。椎名に勘づかれたら面倒くさいからなるべく動作を最小限にする。音も念のために綾瀬には聞こえないぐらいで動く。
普段の綾瀬はボーッとしているのもあるけど、表情の変化が殆どないから一度は本気で驚いた顔が見てみたい。
そんな好奇心が私を動かす。
背中をはたく自分の右腕に力を込めたそのとき────。
「────駄目だよ。伊吹」
綾瀬が急に背後を振り返った。
それに私は驚いて身を引く。
「不意打ちするなら気配は隠さないと、駄目」
目を開けた綾瀬と目が合う。身動きが出来ない。
少しの間訪れる沈黙。この沈黙を破るように私の口がハッとしてようやく開いた。
「あんた、どうやって......」
「私を攻撃しようとした気配を感じた」
「......マジで言ってんの?それ......」
何も聞こえてないなんてあり得ないと思ったから私はバレないように動いたはずなのに見抜かれた。いざ攻撃をしようしたときに声を掛けられたから偶然振り向いたっていうのも考えにくい。
「心音さんは気配を感じられる人なんですね......そんな台詞、本の世界でしか聞いたことありません」
「とりあえずこれが出来るようになれば伊吹も強くなれると思う」
「......ようは感覚を研ぎ澄ませろってことね」
綾瀬との戦い、綾瀬が言っていたこと、さっきの綾瀬を通じて私はそう解釈した。
「よし、私もやるわ」
私も目を閉じる。
そして頭には何も入れないようにする。
「......」
「伊吹さんも同じように目を閉じましたね。伊吹さんは大丈夫でしょうか」
「伊吹は多分大丈夫。なんか私と似てる気がするから」
全然似てないわよ!
くそっ......さっそく集中が乱れた。
もう一回頭を空っぽにする。
「ところで心音さん。そちらのお菓子が大量に入った袋はご購入されたのですか?」
「これはゲームセンターで取ったの。ゲームセンターって面白いんだよ」
「ゲームセンターですか......ゲームとは無縁の生活を送ってきたので興味はありますね」
「今度一緒にいこうよ。伊吹も誘って3人で」
「基本図書室ばかりしかいかないので楽しみです」
無視無視。
「そうだひより。今度本読んで」
「いいですよ。どんなジャンルがいいですか?」
「......よく分かんない。簡単そうなやつ」
「分かりました。それならこちらで選んでおきます」
「眠くなっちゃったらごめんね。本読んでると眠くなるんだ」
......それは私もわかる。じゃなくて聞こえない聞こえない。
「興味を惹かれれば眠くなったりなんてしませんよ。本を読むのが苦手な人は最初から苦手意識を持ちすぎていることが原因だと思います」
「そっか......私は最初から眠くなるって諦めちゃってるからいけないんだ。きっと勉強でも同じだよね」
「伊吹さんや石崎くんも心音さんと同じで文字を読むと眠くなるとよく言います。ですがそれも意識の問題なのですぐに改善出来ますよ」
「じゃあ今度皆で本読もう。そう言えば伊吹と石崎って仲悪いの?さっき伊吹が全然仲良くないって言ってたけど......」
「そんなことはないと思いますけど......あ、そういえば石崎くんが伊吹さんのことをこう言っていましたね。脳みそまで筋肉で出来た女......とか」
「────石崎ぃぃぃ!!」
「あ、反応してしまいましたね」
「......ハッ!」
石崎をしばきたくなってつい反応してしまった。
「これは伊吹さんが習得するのに時間がかかりそうですね......」
「んー......いつか出来るようになると思う......多分」
「ぐっ......」
悔しいけど全然感覚が掴めなかった。
だけど熱くなるな。綾瀬がこの前言っていたことを思い出せ。
身体を冷ます。とりあえず落ち着くことを覚えれば綾瀬には近づける。
それから何度か挑戦してみたけどいまいち感覚が掴めない。
「伊吹。今日はここまでにしよう」
もう一度挑戦しようと目を閉じたとき、綾瀬がストップをかけた。
「え?なんでよ?」
「あなたがあなたじゃなくなる。だからやり過ぎは駄目」
「......どういうこと?」
正直綾瀬の言っていることはよく分からなかった。椎名なら何か分かるかと思って視線を向けてみるけど椎名もよく分かってなさそう。
「それに伊吹が強くなりたいならもっと身体を鍛えた方がいいかも。そっちの方が今の伊吹には大事」
「何事も基礎からと言いますからね。身体を鍛えたことがないのであまり詳しくないのですが、やはり部屋でトレーニングするのが一番なんでしょうか?」
「私はジムに行ってるけど」
「え?この学校にあるの?ジムって鍛える場所だよね」
「私も知りませんでした......伊吹さんはいつから通っていたんですか?」
「......まぁ、最近からよ」
実は昨日からだけどなんとなく言い辛かったから少し濁した。
「私、ジムにいきたい」
「あんたが?別にあんたは鍛える必要ない気がするけど」
「鍛えるっていうよりは......調整のために行きたい」
「調整......?」
その発言は引っかかったけどあんまり追求はしなかった。
「ジム......私も行ってみたいです。これから一緒に行きませんか?」
「はぁ?椎名まで何言ってんの。あんたには絶対向いてないって」
「試しに体験してみます。これから身体能力が試される試験もあると思いますので、足を引っ張らないように頑張りたいですから」
「伊吹、案内して」
「うっ......」
3人でジムとか行きたくないんだけど......
友達とワイワイやってるヤツらもいるけど、私は黙々と独りでやりたいタイプ。
ただ椎名はともかく綾瀬がジムに来る......。
「......分かったわよ。これからジムに行く」
「ありがとうございます。楽しみです」
それから私たちはケヤキモールの2階に向かった。
少し歩いてジムの前に到着して私は学生証を取り出す。
「あんたら学生証は持ってきた?」
「うん。あるよ」
「はい。大丈夫です」
ジムの中に入ると受付の女性スタッフに学生証を見せる。そして綾瀬たちも同じように学生証を見せた。
スタッフは綾瀬たちに名前とかを記入する紙を渡して無料体験の説明をする。
その後は女性トレーナーに代わり、ロッカー室やシャワールームの説明。私は既に聞いてるから一足先に着替えてトレーニングルームに入った。昨日はそこそこ人がいたけど今日はあまり人がいない。
「......いないのか」
私は辺りを見渡して目当ての人物を探したけど見当たらなかった。その目当ての人物とは高円寺。昨日たまたま見かけて規格外の動きを見せていた。だから綾瀬をぶつけて勝負させたらどうなるか見たかったけど目論見が外れたわね。
「伊吹さん。お待たせしました」
声を掛けられて振り返ると、トレーニングウェアに着替えた綾瀬たちが現れた。
「......似合わないわね。あんたら」
長い髪を結んでポニーテールにした椎名、そして綾瀬。
椎名は分かっていたけど綾瀬も運動が出来そうな風貌をしていなかった。
色白な肌、発達していなさそうな筋肉。見た目だけで言えば二人とも変わらない。それなのに綾瀬は私よりも動けて力もある。まるで綾瀬だけ
女性トレーナーがやってきて器具の説明を始めようとしたけど、綾瀬がそれを断った。
「心音さん、断って大丈夫なんですか?」
「大丈夫。ここら辺にある道具は大体分かる」
「あんた初めてじゃないの?」
「この学校に来る前に使ったことあるから」
そう言いながら綾瀬は椎名に器具の使い方を説明していた。その口ぶりからして相当慣れているらしい。やっぱり綾瀬もジムとかで鍛えていたんだ。
「最初は何から始めたら良いのでしょうか......」
「最初はルームランナーからで良いと思う。ひよりは全然スピード出さない方がいいよ」
私たちはそれぞれルームランナーの上に立った。私が左、椎名が真ん中、右に綾瀬と並んでいる。
綾瀬が椎名にやり方を教えているのを横目に私は先にルームランナーを設定して動かした。
ルームランナーでは色々な設定が出来る。もちろん同じスピードで走るのも良いけど、私は基本6キロで走って定期的に30秒間スピードが13キロぐらいになる途中でスプリントを挟む設定にしていた。
隣で走る椎名はほぼ歩いているのと変わらないスピード。
「これは......不思議な感覚ですね。これなら私でも続けられそうです」
「そりゃそのスピードなら当然────」
椎名に話しかけている最中、その更に隣から機械が物凄い唸りを上げている音が聞こえてきた。そして高速で足踏みする音。
「ちょ......綾瀬!あんたどんだけスピード出してんのよ!」
「20キロ......となっていますね」
「はぁ!?って、ヤバッ......!」
綾瀬に視線を向けていたところにやってくる13キロ。これでも相当キツいのに更にそれよりも早い20キロ。しかもどうやらインターバルとかなしにそのスピードでやっているらしい。
「この......」
私も20キロに上げてやろうか......そう思いながら綾瀬を見る。
「いや無理無理!」
あんなので走ったら絶対に怪我をする。一瞬でも足を止めたら終わりだ。
「はぁ......はぁ......もう、無理......!」
設定していた30分よりも10分早い20分で切り上げた。綾瀬の方ばかり気になってペース配分も滅茶苦茶になった......
私が切り上げたのを見て綾瀬と椎名もマシンを止めた。綾瀬はまだまだ余裕がありそうだ。
「心音さん凄かったですね......色んな人が見てますよ」
「あん、た......マジで化け物すぎ......」
「大丈夫。伊吹もいつか出来るようになるよ」
「できる、かぁ......!」
精一杯絞り出してそう叫んだ。
しばらく休憩した後、私たちはトレーニングを再開した。
椎名は途中からほぼ見学みたいになっていたけど、綾瀬は変わらず規格外の動きを見せ、私も周りも毎回度肝を抜かれている。
「そろそろ1時間半ほどになりますね」
「今日はもう帰る?」
「そうする......さすがに疲れたわ......」
昨日はもっとやれたけど、綾瀬といると体力がいつも以上に持ってかれる。
私たちは適当に雑談しながら帰ろうとしていると、1人の大人が近づいてきた。
「途中から見ていたが......綾瀬、お前は凄まじいな......」
「あ、真嶋だ」
「先生をつけなさい」
Aクラスの担任だ。担任とかもジムに来るんだ。この人、ガタイがよくて如何にもジムに通ってます感が半端ない。
「こんにちは真嶋先生」
「......うす」
「うむ。お前たちはCクラスの生徒だったな。夏休みにジムに来るとは感心だな」
「今日は初めて来たので体験になります」
「それなら分からないことも多いだろう。俺が初心者にもお勧めの器具を教えて......」
「あ、大丈夫だよ。多分真嶋より私の方が詳しいから」
「............そうか」
Aクラスの担任は少し複雑そうに頷いた。
「綾瀬。お前の身体能力が素晴らしいことは俺の耳にも入っていたが、実際にこの目で見ると想像以上だった。だから参考までに聞かせてもらいたいんだが、綾瀬は普段から鍛えているのか?ジムでは一度も見かけなかったが......」
大人しくどっか行くと思ったら綾瀬に質問を投げかけてきた。
「うーん......この学校に来てからは全然鍛えてない」
「それなら何故ジムに?」
「最近力を抜いてるのに出し過ぎちゃうときがあるんだ。前はもっと上手くやれたんだけど......だから力のコントロールを練習しようと思って」
「そんな目的でジムに通おうとする生徒は初めてだな......いや生徒に限った話ではないが」
まぁ確かに綾瀬は今さら鍛える必要はなさそう。これ以上化け物になられても困る。
「ちなみにベンチプレスはやったことあるか?」
「うん。いっぱいやったことあるよ」
「どこまで上げられるんだ?まさか100kgを上げられるなんてことはないよな?」
「100kgならいけるけど......」
「なん、だと......!?最高記録は......最高記録は何kgなんだ!?それに一体どうやってそこまで鍛えたんだ!?」
「えーと......」
「真嶋先生、心音さんのこと気になって仕方ないみたいですね。もちろん変な意味ではないでしょうけど......」
椎名がこそっと耳打ちしてきた。
確かにこの人どんだけ綾瀬に食いついてんのよ。なんか自分を見てるみたいで嫌だわ......。
「ごめんね。今日はもう帰るんだ。だから今度真嶋にも色々教えてあげるね」
「......そ、そうか。引き留めて悪かったな。その......よろしく頼む......」
Aクラスの担任はまた複雑そうに頷いた後、自分のトレーニングに戻った。なんか堅物のイメージしかなかったけど、意外な一面を見れたかも。
「綾瀬ちゃん、だっけ。凄かったね」
ジムで受付をしていた人が綾瀬に声をかけた。
「真嶋さん、このジムに来てる高円寺くんにも同じように声をかけてたんだけど全く相手にされてなくてね。綾瀬ちゃんは話を聞いてくれたから少し嬉しかったのかも。そう言えばあなたたちは無料体験だったよね?」
「はい。今日は楽しかったです。ですが私は体力がないので加入するかは迷っています」
「私は加入する」
「私も」
「そっか。じゃああなたたちのことは覚えておくね」
「ありがとう。バイバイ」
綾瀬が手を振ると、その人も手を振った。
私たちは着替えも終わらせ、後は帰るだけになった。
「次はどこにいく?」
「運動したらお腹が空きましたね。早めの夕食なんてどうですか?」
「はぁ?もう帰るけど」
二人を置いて帰ろうとしたら綾瀬に腕を掴まれた。
「伊吹、ご飯食べに行こ」
「いい。適当になんか買って食べるから」
「運動した後のご飯は大事。適当は良くないんだって」
「お菓子ばっか食べてるあんたが言うと説得力ないんだけど......はぁ、分かった分かった。行くから離してよ」
綾瀬の手をほどけそうになかったから大人しく観念することにする。
「うん。ありがとう」
「誰かとご飯を食べるなんていつぶりでしょう......楽しみです」
椎名は楽しそうに笑ってそう言った。
そして私と目が合うと、椎名は何故か頭を下げた。
「伊吹さん。今日はありがとうございました」
「何よ、改まってそんなお礼だなんて」
「本来なら心音さんと2人で遊ぶ予定だったんですが、本当は自信がなかったんです」
「自信って?」
「心音さんを楽しませることが出来るか、そんな自信です。私はどちらかというとあまり他人とは交流してこなかったタイプですから」
そう言えば椎名ってなんだかんだ言って一人でいることの方が多かったような気がする。だから今日一日通して椎名がよく笑っている姿は意外だった。
「偶然ではありますけど、伊吹さんと楽しく遊べたことを感謝します。もちろん心音さんにもです」
「私も楽しかった。伊吹は?」
「......別に」
ぶっちゃけただトレーニングしただけだから楽しいのかはよく分からなかった。でも楽しくなかったと言うのは控えた。何となくそうした方がいいと思ったから。
「それじゃあ皆でご飯にいくことで決まりですね。どこにいきましょう────」
「あれ?綾瀬さんと椎名さんじゃないですか!それに伊吹も」
どこに行こうか決めている私たちに声をかけたのは......
「石崎......!」
「え?どうしたんだよ伊吹?」
私は石崎を睨み付けた。
「よくも私を馬鹿にしてくれたわね......!」
「は?お、おい......?」
石崎に蹴りをお見舞いする......けど一旦落ち着く。
今このときこそ綾瀬に教えて貰ったことを実践する良い機会だ。
私は目を閉じる。
そして石崎をしばくことを頭に入れる。
石崎をしばく。石崎をしばく。
石崎しばく石崎しばく石崎しばく────────
石崎くん睨み付けていた伊吹さんが急に目を閉じて大人しくなりました。
心音さんに教えられたことを実践しようとしているのでしょうか。
「今日はやっちゃ駄目って言ったのに......」
「......なんだ?突然怒ったかと思ったら今度は急に静かになりやがって......」
少しの間訪れる静寂。
そろそろ動き出してもおかしくない。私が固唾を飲んで伊吹さんの顔を見たそのとき────伊吹さんは突然口をポカンと開けてボーッとした顔になりました。それを見て石崎くんは吹き出してしまう。
「ぶははは!!伊吹お前なんて顔してんだ!!すげぇ間抜けな顔してるぞ!!」
「フンッ!」
「ゴハッ!!」
伊吹さんが石崎くんを蹴る。痛そうです。
「これは......成功したんでしょうか」
「んー......多分全然駄目だと思う」
「そうですよね......」
どうやらまだまだ伊吹さんには修行が必要になりそうですね。
心音さんに修行をしてもらっている伊吹さんは私の目にはどこか楽しそうに見えたので、これからも続けて欲しいです。
試験的にアンケートをやってみたいと思います。
本当はカードごとの役割を記載していたのですが、20文字以内じゃないと駄目ということでした。この後書きに役目は載せておきます。
ジョーカー:最強
2:ジョーカーの次に強く、ジョーカーと違って4枚ある。
1:ジョーカーと2より弱いが比較的出しやすく強い
J(11):一時的に強さを反転させる
8:場を強制的に流す
3:最も弱いが、革命中は最強。ジョーカーに打ち勝てる。
綾瀬心音を大富豪に例えるとどのカードになりますか?
-
ジョーカー
-
2
-
1
-
J(11)
-
8
-
3
-
その他の数字
-
わからない