ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第50話 体育祭開幕

 二学期も始まり学校生活も再び始まった。

 混雑するカフェ『パレット』にてオレは平田と軽井沢、そして綾瀬と堀北というメンバーで昼食のテーブルを囲んでいた。

 当然楽しい昼食が目的などではなく、オレたちは船上で行われた試験、優待者探しの答え合わせをしていた。

 

「干支の動物の順番と割り振られた生徒たちの名字が、優待者を探す鍵だったんだね」

 

「ひよりがね、鼠がその干支ってやつで1番だから私が優待者だって教えてくれたんだ」

 

 『あ』から始まる綾瀬は出席番号で1番になる確率が高い。実際に鼠グループでも他に『あ』から始まる名字のものはいなかった。

 

「綾瀬さんと同じグループにいたCクラスの椎名ひよりさんだね。彼女はいつからこの法則に気付いていたんだい?」

 

「3回目の話し合いって言ってたよ。だから2日目の朝?」

 

「うそ......!それ早すぎない......?」

 

 優待者の法則自体はシンプル。

 しかし、その答えにたどり着くためにはまず自クラスの優待者が誰かを把握しなければならない。

 

「Cクラスは龍園くんの独裁政権によって優待者の把握なんて容易かったでしょうね。ただそれでもその段階で法則にたどり着く椎名ひよりさんは侮れない。Cクラスにも頭のキレる人間はいることが分かっただけでも収穫だわ」

 

 ただ3回目の話し合い時点とは軽井沢の言う通りあまりにも早すぎる気はする。もしかしたら他の要因もあるしれないな。

 椎名ひより。綾瀬の友達。確かに今までオレが知限りではCクラスにはなかなかいないタイプだ。本を読む少女とも綾瀬が教えてくれたからな。覚えておこう。

 

「ん?ちょっと待って。それならどうして綾瀬さんのグループは結果1なわけ?」

 

「えーと......ひよりが......その、プライベートポイントを優先したから私は裏切らなかったんだって。私にCクラスへ来ませんかって言ってたよ」

 

「引き抜きのために2000万プライベートポイントを溜めることを優先した......ってことかな?」

 

「それは初耳ね......まさかCクラスになんていかない......わよね?」

 

「うん。私はDクラスの皆のために頑張りたいの」

 

「そう......」

 

 その答えを聞いて堀北は胸をなで下ろす。

 綾瀬がCクラスになんて行ってしまったら厄介極まりない。

 龍園の取る戦略に綾瀬が加われば滅茶苦茶さが跳ね上がる。

 

「Cクラスと言えば......綾瀬さん、あなた龍園くんに協力してもらっていたのよね。大丈夫なのかしら......?」

 

「......?大丈夫だよ?」

 

「本当?ポイントを要求されたりしてない?」

 

「うん。要求『は』されてないよ?」

 

「僕も確認したいんだけど、契約とかを迫られてはいないかな。もし一人で抱えていることがあるなら相談してほしい」

 

「契約とかもしてないよ。紙......契約書もいらないって言ってたし」

 

「協力を持ちかけたときに龍園から何か言われなかったのか?」

 

「んー......なんだっけ、お前のやり方も興味がある......とかだっけ」

 

「それなら単純に龍園くんが面白がって綾瀬さんに協力しただけなのかもしれないね......」

 

 ......本当にそうなのか?

 あの男が何の見返りもなく協力するようには見えないが......。

 

「とにかく今度からそういうことをするときは相談してちょうだい。あなたの自主性に任せるとは言ったけれど、龍園くんは何してくるか分からないから危険よ。一人で何でもかんでもこなそうとするのは駄目」

 

「うん。分かった。でもそれは鈴音もだよ。何かあったら相談して」

 

「......そうね。あなたに心配をかけるようなことはしないわ」

 

 堀北は柔らかい表情でそう答える。

 そんな2人のやり取りを見て平田は優しく微笑んでいた。そして軽井沢が少し戸惑った顔でこちらを見てきたが、気づいていない振りをする。

 

「僕らのクラスはまだ一丸になれていないところがある。でもこうして堀北さんたちと話し合いを持てる関係になったことは一丸になるための一歩になると思っているよ」

 

「2つの特別試験はクラスでの協力が必要不可欠だった。今後もそれが予想されるとあれば繋がりは持っておくべきだわ」

 

「平田。私はあなたの力になる。身体を動かすことなら私は誰にも負けない」

 

「こんなにも心強い言葉はないね......ありがとう綾瀬さん。君の力は頼りにさせてもらうよ」

 

 Dクラスは他クラスに比べて纏まりがなく、組織だって動くことがない。故に綾瀬の力を最大限活かすことが出来ていない。今後それが改善されていけばいいがどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業は二時間ホームルームになっている。

 Dクラスの担任である茶柱先生はやってくるなり淡々と説明を始めた。

 

「今日から改めて授業が始まったわけだが、これから9月から10月初めまでの1カ月体育祭に向けて体育の授業が増えることになる。新たな時間割を配るからしっかり保管しておけ。それから体育祭に関する資料も配っていく」

 

 体育祭という言葉を聞いた途端一部から悲鳴が上がった。

 

「体育......さい?それって何?」

 

 もうすっかり慣れたが綾瀬はさっぱりピンと来ていないらしい。

 

「簡単に言えばあなたの得意分野ね。100m走や綱引きといった各競技を一日、もしくは何日かに分けて行うものよ。とにかく運動をするものだと思ってくれていいわ」

 

「へー......私、頑張る」

  

 体育祭なんてまさに綾瀬のために用意されたようなイベントだ。

 

「先生、これも特別試験の一つなんですか」

 

「どう受け止めるのもお前たちの自由だ。どちらにせよ各クラスに大きな影響を与えることには違いないわけ」

 

 クラスを代表して質問した平田に返ってきた答えは肯定とも否定とも取れない曖昧なものだった。これが普通の学校ではサボる事も出来るが、クラスの命運を左右するイベントとあっては苦手でも避けて通ることは出来ない。

 

「既に目を通している者もいるだろうが、今回の体育祭は全学年を2つの組に分けて勝負する方式を採用している。お前たちDクラスはAクラスと共に赤組として配属されることになった」

 

 BクラスとCクラスは白組となり、この体育祭の間はAクラスが味方ということだ。

 

「まずは体育祭がもたらす結果に目を通せ。何度も説明する気はないから、一度でしっかり聞いておくように」

 

 

 

・体育祭におけるルール及び、組み分け

 全学年を赤組と白組に分けて行われる対戦方式の体育祭。内訳は赤組がAクラスとDクラス。白組がBクラスとCクラスで構成される。

 

 

 

 ・全員参加競技の点数配分(個人競技)

 結果に応じて、1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。5位以下は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。

 

 

 

 ・推薦参加競技の点数配分

 

 結果に応じて、1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が与えられる。5位以下は2点ずつ下がっていく(最終競技のリレーは3倍の点数が与えられる)。

 

 

 

 ・赤組対白組の結果が与える影響

 

 全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。

 

 

 

 ・学年別順位が与える影響

 

 各学年、総合点で1位を取ったクラスにはクラスポイントが50与えられる。

 

 総合点で2位を取ったクラスのクラスポイントは変動しない。

 

 総合点で3位以下を取ったクラスはクラスポイントが50引かれる。

 

 総合点で4位以下を取ったクラスはクラスポイントが100引かれる。

 

 

「す、数字がいっぱい......」

 

 綾瀬は既に限界が近いようだ。まぁこの数字に関しては考えてもどうしようもないところがある。

 

「簡単な話、気を抜かず全力で競技に挑む必要があるということだ。負けた組が受けるペナルティは決して低くないからな」

 

「あの先生。勝った組はポイントは貰えるんですが?記載がないみたいですが」 

 

 平田の疑問はオレも気になった点だ。もし赤組が負けたとすればクラスポイントがマイナス100されるが、勝った場合の報酬が記載されていない。

 

「何もない。マイナスという措置を受けないだけだ」

 

「うげ、まじかよー。全然おいしくないじゃん」

 

 組が負けて学年別の成績でも最下位を取ればマイナス200。なかなかに厳しいことが予想されるが、一応特別ボーナスのようなものも見受けられた。

 

・個人競技報酬(次回中間試験にて使用可能)

 

 各個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与、もしくは筆記試験で3点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合、他人への付与はできない)

 

 

 各個人競技で2位を取った生徒には3000プライベートポイントの贈与、もしくは筆記試験で2点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合、他人への付与はできない)

 

 

 各個人競技で3位を取った生徒には1000プライベートポイントの贈与、もしくは筆記試験で1点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合、他人への付与はできない)

 

 各競技で最下位を取った生徒にはマイナス1000プライベートポイント(所持するポイントが1000未満になった場合には筆記試験でマイナス1点を受ける)

 

・反則事項について 

 

各競技のルールを熟読の上遵守すること。違反した者は失格同様の扱いを受ける。

悪質な物については退学処分にする場合有り。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。

 

 

・最優秀生徒報酬

 

全競技で最も高得点を得た生徒には10万プライベートポイントを贈与する。

 

 

・学年別最優秀生徒報酬 

全競技で最も高得点を得た学年別生徒3名には各1万プライベートポイントを贈与する。

 

 今までの試験には見劣りするものの、幅広い特典はしっかり用意されている。

 数字に混乱していた綾瀬も個人報酬の欄を食い入るように見ていた。

 

「え......?サエ、サエ。この1位とか2位とか取ったときに書いてるこの......」

 

「筆記試験の点数を与えるって何スか!?」

 

 早速、綾瀬と池が前のめりに茶柱先生へ詳細の説明を求める。その様子がおかしかったのか茶柱先生が珍しく少し笑った。

 

「お前たちの想像通りだ。入賞するごとに次回の筆記試験で補填できる点数を得る。お前たちは2人とも英語や数学が苦手だったな。得た点数は好きに使っても構わないぞ」

 

「うおおお!!そんなこともあるのか!」

 

「私、全部1位取る......!」

 

 綾瀬からは分かりやすく気合いが入っているのが伝わる。

 綾瀬の学力はまだまだ不安が残る。現段階では池たちですら下回っている可能性が高い。だがこの特典次第では次回のテストに限り最下位脱却は間違いないだろう。

 

「ん......?せせせ、先生!ちなみにこのペナルティっていうのはなんでございますでしょうか......?」

 

 報酬ばかりに目がいっていた池がその下の文面に気付いた。

 

 

・全競技終了後、学年内で点数の集計をし下位10名にペナルティを課す。

 

ペナルティの内容は各学年ごとに異なる場合があるため担任教師に確認すること。

 

「お前たち1年に課せられるのは次回筆記試験におけるテストの減点だ。総合成績下位10名の生徒は10点の減点を受けるから注意するように」

 

「げええええ!!?マジ!?」

 

「んー......10点引かれるってことは......いつもより10点多く取らなきゃ駄目ってこと......?そんなの絶対出来ない......」

 

 学力の低い生徒がペナルティを受けたら相当厳しいものになる。

 一通りの説明を受け終わると、次は体育祭の競技の詳細を確認していく。

 

・全員参加種目

 

① 100メートル走

 

② ハードル競走

 

③ 棒倒し(男子限定)

 

④ 玉入れ(女子限定)

 

⑤ 男女別綱引き

 

⑥ 障害物競走

 

⑦ 二人三脚

 

⑧ 騎馬戦

 

⑨ 200メートル走

 

 

・推薦参加種目

 

⑩ 借り物競走

 

⑪ 四方綱引き

 

⑫ 男女混合二人三脚

 

⑬ 三学年合同1200メートルリレー

 

「知らないのばっかり......」

 

「めちゃくちゃ多いじゃないですかこれ!普通1人がやるのって3つか4つですよ!」

 

 運動が苦手な生徒たちから悲鳴が上がるが変更は一切ないとのことだった。

 それから『参加票』についての説明が始まった。

 ようは各種目に誰がどの順番で参加するか、それを全て自分たちで記入するといったもの。締め切り時間以降は如何なる理由があっても変更は許されない。

 自分たちで計画を立て、考えて勝ちに行くことが求められる。

 その後は質問タイムが始まり、体調不良が出た場合の詳細も判明した。

 全員参加の競技で団体戦の欠席が出た場合は続行不能となり、騎馬戦などでは1騎少ない状態で挑むことにる。

 一方、推薦競技では10万プライベートポイントで代役を立てることが可能だ。

 

「他に質問はないようだな。まだ20分ほど時間は残っている。残りの時間は好きに使うといい」 

 

 教師の許可も出たことで、それぞれのグループが集まり好き勝手に体育祭について話し合い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「松下さーん。体育祭どうするか話し合おうよ」

 

 私の下に集まったのは篠原さんや佐藤さんたち。私が机から動いていなかったのを見てわざわざ来てくれたのかな。

 

「あ、ごめん。ちょっとメッセージを返してからでいい?」

 

「なになに~!?もしかして彼氏!?」

 

 そう聞いてきたのは佐藤さんだ。

 最近よくDクラスにはカッコイイ人が平田くんぐらいしかいないとぼやいてる。

 

「違う違う。友達」

 

 私は一応友達と言っておいたメッセージの送り主────橋本くんとのメッセージ画面を開いた。

 

『綾瀬の参加順を教えてくれ』

 

 そんなの当然教えられるわけがない。

 

『それはさすがに無理』

 

 返信するとすぐに通知が来る。

 

『後で直接話そうぜ』

 

 む、諦めないか。

 橋本くんだって綾瀬さんの参加順にどれだけの価値があるのかなんて分かってるはずなのに。

 まぁこのことについては後で話すとしようか。

 私は篠原さんたちと合流した。

 

「今回の体育祭ハードすぎるよねぇ」

 

「こんなの体力もたないって」

 

「でも報酬は結構捨てがたいかも......推薦競技とかでチャンスを拾えたりして......」

 

 篠原さんの身の程知らずな発言に驚きつつも平静を装う。お世辞にも運動神経が良いとは言えない篠原さんじゃ出たところで大した結果も残せないのが目に見えている。

 私はチラッと綾瀬さんの方を見た。綾瀬さんは堀北さんや綾小路くん、いつもの池くん、山内くん、須藤くんたちと一緒に話し合っている。

 本人次第ではあるけど綾瀬さんには全部出て欲しいところではあるよね。それぐらいなら綾瀬さんも余裕でこなせるだろうし、1位だってしっかり取ってこれる実力がある。

 

「推薦競技もそうだけど、全員競技の順番も結構大事だと思うよ」

 

「へ?松下さんどういうこと」

 

「あー......ほら例えば運動神経のいい人と運動神経のいい人が同じ組で100m走に挑むってなったらもったいないでしょ?」

 

「確かに!松下さん頭いい!」

 

 こんなことで褒められてもあまり嬉しくない。それに篠原さんたちは私のこの言い方だとまだ強い相手に弱い人をぶつけるってことには気付いていない可能性がある。

 さすがにこのことは次のホームルームで話題に上がるだろうから私は何も言わないことにした。

 私は改めてもう一度綾瀬さんたちの方を見る。

 この体育祭を勝つためには綾瀬さんと堀北さんの力は必要になる。だけどさすがに1人2人でひっくり返せるほど甘いものでもない。

 本気で勝ちにいくなら私もなりふり構ってられないかもね。

 

 

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