ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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前の話で橋本が「兎グループ以来だな!」とか言ってて記憶が改ざんされていました。




第52話 探り合い

 その日の授業を終えても、オレは一人教室に残り続けていた。

 この体育祭で求められるのは定期的に行われる筆記試験と同じで本番前にしっかり準備をすること。そして本番で結果を残すこと。

 堀北と綾瀬はどこまでやれるか。

 この二人がどこまで成長するかで今後のオレの動きも変わってくる。特に綾瀬には細心の注意を払わなければいけない。

 オレはそのことを再確認しつつ、寮へ戻るために教室へ出る。

 

「あれ?綾小路くんじゃない」

 

 廊下で1年Bクラスの担任、星之宮先生と出くわす。

 

「こんな時間まで残ってどうしたの?」

 

「部活動に励む生徒たちを見てました。体育祭が迫ろうとしているのに忙しいんだなと思って」

 

「部活動も立派な青春だからね~。ちなみに私だって忙しいんだよ?体育祭だからやることがいっぱいでさ~......」

 

「はぁ、そうですか」

 

「む、綾小路くん冷たーい。そっちは体育祭の準備は順調?」

 

「順調なんじゃないでしょうか。オレは深く関わっていないのでそこまで詳しくありませんが」

 

「えー、本当かなぁ?」

 

 星之宮先生は下から覗き込むようにオレの顔を見た。まるでこちらを試すような視線。

 

「本当です」

 

「ふぅん、私はそうは思わないんだけどなぁ。綾小路くんって案外、陰の立役者だったりしない?」

 

「しません」

 

「そっか~。私の勘違いなのかな?」

 

 なぜ星之宮先生はオレが陰の立役者だと思ったのだろうか。

 丁度良い機会だ。気になっていたことを聞いてみよう。 

 

「星之宮先生。一つ質問してもよろしいでしょうか」

 

「なぁに?」

 

「どうして一之瀬は兎グループだったんですか?」

 

 これはずっと気になっていたことだ。

 竜グループを見れば生徒たちが意図的にグループ分けされていることは一目瞭然。各クラスのリーダー的なポジションの人間は竜グループに集められていた。

 そんな中、何故か一之瀬は兎グループ。これは明らかにおかしい。

 

「へぇ、気になる?」

 

「気になるのはオレだけではないと思いますよ。誰だってこのことは知りたいはず────」

 

 オレが言い切る前に、星之宮先生は両手で自分の口を塞いだ。

 

「むぐむぐ......」

 

「......何をしているんですか?」

 

「ふぇ?あやへぇふぁんのまへ~」

 

 翻訳すると綾瀬さんの真似、らしい。

 綾瀬が両手で口を塞ぐとき、それは秘密があるときだ。

 星之宮先生は塞いだ手を離し、今度は人差し指を交差させて×を作った。

 

「ごめんね~綾小路くん。『一応』それは喋っちゃいけない決まりになってるんだ。だからそのことは教えられませーん」

 

「そうですか。それならもう大丈夫です。そろそろ帰らなければいけないので」

 

「え!綾小路くんつれなーい!」

 

 オレはわざとらしくほっぺたを膨らませて拗ねてるアピールをする星之宮先生を無視して帰ることにした。

 一之瀬が兎グループにいた理由は大体分かった。オレを探るためだ。

 無人島試験ではリーダーを堀北から綾瀬に変更したからあの時点ではオレが探られる理由はない。

 だがそれは違った。星之宮先生はあの時点よりも前からオレのことを探ろうとしていたのだろう。綾瀬の真似。あれはオレへのメッセージだ。

 星之宮先生は綾瀬からオレのことを何度か聞こうとしたはずだ。そして綾瀬がオレのことを秘密にするために口を塞ぐ。そんなやり取りがあったに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。私────松下千秋は橋本くんと待ち合わせをしていた。

 なるべく人目のつかないところを選んだから周りに人はいない。

 

「よ、待たせたな」

 

「別にそんな待ってないよ」

 

「なんだか付き合ってるみたいだな、俺たち」

 

「あ、ごめん。橋本くんって全然私のタイプじゃないから」

 

「手厳しいぜ......」

 

 わざとらしく橋本くんは肩を落とした。

 

「そんなことよりも綾瀬さんの参加順を知りたいって言ってたことだけど」 

 

「あぁ、まだ参加票なんて出来てるわけないよな。俺も少し焦りすぎた」

 

「いやそうじゃなくてさ、そもそも綾瀬さんの参加順なんて教えられないって」

 

「まぁそう簡単にはいかないか」

 

 綾瀬さんの参加順なんて教えれば当然運動が出来ない生徒をぶつけてくるに決まってる。

 

「綾瀬がどの順番で出るかなんて全クラスが知りたいだろうなぁ。もし綾瀬と同じ競技に出ることになったら絶望しかないぜ」

 

 夏休み前に綾瀬さんが高速で走る姿を見たと軽く噂になったことがある。他にも最近では私も直接その目で見たけど携帯を握り潰したことだって噂になっている。携帯を握り潰すような女子に同じ女子が力で勝てるわけもない。

 綾瀬さんの身体能力をまったく知らない人なんて同じ学年ではほぼいない。とにかく目立つ綾瀬さんは今回の体育祭で徹底的にマークされているはず。

 

「綾瀬さんの参加順を教えましたなんてことが漏れたら私は間違いなく裏切り者として責められる。下手したら迫害されるかもね。だから無理」

 

「バレなきゃ問題ないだろ?それに綾瀬の参加順に匹敵するほどの情報を教えてやるっていったらどうだ?」

 

「へぇ、橋本くんは何を教えてくれるの?」

 

「────Aクラスの参加票」

 

 その言葉を聞いて一瞬驚く。だけどすぐに私の頭は冷静になった。

 

「......さすがにそこまでいくと何がしたいの?って聞きたくなっちゃうんだけど」

 

「おかしかったか?」 

 

「だってそうでしょ。それってただの自殺行為じゃない?」

 

 いくら綾瀬さんが脅威だからと言って自クラスの生命線とも言える情報を渡してしまったら本末転倒じゃないかな。

 

「確かにそう見えるかもな。だが実は俺、というよりは坂柳派からすれば得なことも多いのさ。俺たちが派閥争いをしてるのは知ってるよな?」

 

「まぁね。体育館でもよく見えたよ」

 

 今日見た感じだと葛城くん率いる葛城派の勢力はだいぶ衰退しているように見えた。

 夏休みでAクラスはとても良い結果を残せたとは言えない。言ってしまえばこれは葛城くんの失態だよね。

 それでもまだ葛城くんの周りには戸塚くんと数名の男子と女子がいたことからまだ少しだけ力を残しているとは思う。

 

「まず今回の体育祭は葛城が中心となって動く。俺としてはもう姫さん......あぁ、坂柳のことな。姫さんが動き出してもいいとは思っているが、まぁ今回は一切運動の出来ない姫さんよりも葛城が仕切る方がいいだろう。だがそれでまたボロ負けなんてしたらどうだ?」

 

「......葛城派はいよいよ終わりだね」

 

「そう。葛城派に止めを刺すのにこの体育祭はうってつけなのさ」

 

 この学校の仕組みで自分たちのクラスに裏切り者がいればまず間違いなく勝てなくなる。 

 無人島では『自クラスのリーダー』、船上試験では『優待者』、今回は『参加票』。他クラスに漏れたら致命的なものが多すぎる。

 

「......まさか、今までの試験でもこうやって......」

 

「さぁな」

 

 そう言って橋本くんはニヤッと笑った。

 どこまで橋本くんが絡んでいるか分からないけど、これは葛城くんが可哀想だ。

 だけどこれで坂柳さんがAクラスを支配すればいよいよAクラスは盤石になるってことかな。

 

「そして坂柳派である俺が綾瀬の参加順を入手していたとなれば後は言うまでもないだろ?」

 

「確かに橋本くんが言いたいことはよく分かったよ。でも申し訳ないけどその交渉には応えられないかな。だって私がAクラスの参加票を手に入れたところで私にはそれを伝えることが出来ないから。そんな立場じゃないし」

 

「なんだって?意外だな......俺はてっきり松下がDクラスの参謀か、もしくしはそれに近いポジションにいると思っていたぜ」

 

「それはさすがに私を買い被りすぎだよ」

 

 いまいちパッとしない私がAクラスの参加票を手に入れましたなんて言ったら確実に注目を浴びる。

 まず私の場合はどうやって手に入れたのかを根掘り葉掘り聞かれてそこから橋本くんとの繋がりがバレてしまうことだってある。

 残念ながら私の立場では上手く誤魔化す方法もない。これが櫛田さんだったら友達に教えてもらったとか言えるかもしれない。まぁ櫛田さんがそんな秘密を公表するとは思えないけど。

 なり振り構ってられないかもとは言ったけど、さすがにこれは限度を超えているよね。

 

「まぁ綾瀬の参加順は諦めるしかないか。じゃあ綾瀬のことでもう一つ知りたいことがある」

 

「もしかしてさっきの綾瀬さんと坂柳さんのやり取りについて、かな?」

 

「......やっぱり鋭いぜ、お前」

 

「そんなことないって。分かりやすく驚いてくれてたからね。Aクラスの皆」

 

「姫さんが他クラスの人間に興味を持つことなんてあんまりないからな。それに綾瀬もなんで姫さんに近づいて来たんだ?」

 

「そんなの私が知りたいよ」

 

 無人島にも船にもいなかったから気になってる......とかなのかな。

 でも龍園くんとのこともあるし不気味だ。今回は坂柳さんと組んで何かとんでもないことをやろうとしているんじゃないかと勘ぐってしまう。

 

「なぁ、俺たちであの二人を探ってみないか?」

 

「私はまだ坂柳さんのことそこまで知らないんだけど、ただ単純にあの二人が話してみて馬が合ったっていう可能性はないの?」

 

「どうだろうな。綾瀬はともかく姫さんには裏があるようにしか思えない」

 

「橋本くんって坂柳さんに近いポジションなんでしょ?その裏とやらは教えて貰えないの?」

 

「結構俺たちには何も言わずに事を進めることも多いからな。それに姫さんが綾瀬に興味を持ってるなんて初耳だったんだぜ。俺が綾瀬のことを話したときは全然興味なさそうだったのに。姫さんは他人のことなんて信用してないだろうからな」

 

「へぇ......何か意外かも。橋本くんたちを側近みたいな感じで信頼してるものかと思ってたよ。なんかそれこそ本当にお姫様って感じだから」   

 

 私がそう言うと、橋本くんは苦虫をかみつぶしたような顔になった。

 

「姫さんには悪いが俺もまだ姫さんを信用しきれていない」

 

「それはどうして?」

 

「確かに学力はトップクラスだし、求心力もある。策略家としても一流だ。今のところAクラスを纏めるには()()以上の存在はいない。だが......いや、悪い。これはお前さんに話しても仕方ないことだな」

 

 橋本くんは坂柳さんのことを姫さんじゃなくて坂柳と呼んだ。

 最後は濁したけど、思わぬところで坂柳さんの情報が聞けたかも。

 

「でも何だか綾瀬さんは坂柳さんをどこか気にかけてたって感じはするんだよね。それがどうしてなのかはよく分かんなかったけどさ」

 

「綾瀬、か。よくもまぁ坂柳にあそこまで恐れずに話しかけられるもんだ」

 

 口調こそ穏やかで見た目も人形のように可愛らしいけど、坂柳さんには近づき難いオーラがある。

 でもそんなものは綾瀬さんにとってお構いなし。相変わらず恐れ知らずな子だなって思う。

 綾瀬さんって未だに実態が掴めないというか、謎なんだよね。

 人の心を読むのはある程度慣れてると思っていたんだけど、綾瀬さんだけは本当に何を考えているのかさっぱり分からない。自信をなくしそうだ。

 

「あの二人次第では体育祭どころか今後どう転がっていくのかも分からなくなりそうだぜ」

 

「それを探るためにも私は綾瀬さん、橋本くんは坂柳さんを探るってことでいいのかな」

 

「あぁ。何もなければいいんだがな」

 

 儚げに見える美少女二人。

 だけどどちらもその内側には強大な武器がある。

 綾瀬さんは身体能力。坂柳さんは頭脳、かな。

 対極の力を持つ二人。

 それがどんな化学反応を起こすかはまだ予想がつかない。

 どうか私の考える『最悪のケース』にだけはならないでほしいけど。

 もし坂柳さんがDクラスにいて最初から味方同士だったらこんなに悩む必要もなかったのかな。橋本くんも綾瀬さんが最初からAクラスだったらって思ってるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ坂柳。カフェにいこ」

 

「えぇ。その約束でしたからね」

 

「......あのさ、坂柳。なんで私も付き合わされてんの」

 

 ムスッとした顔で立っているのは坂柳の友達、神室。無人島でちょっとだけ話したことある。あんまり話したくなさそうだったけど。

 

「せっかくですから真澄さんのことも紹介しておこうと思いまして」

 

「別にいいって。私も暇じゃないんだけど」

 

「まぁそう言わずに。今日は楽しいお茶会になりそうではありませんか。ねぇ?堀北鈴音さん」

 

「......随分余裕なのね。Aクラスのリーダーとも呼ばれているあなたが体育祭も始まるというのにお茶会だなんて」

 

 声を掛けられた鈴音も何かムスッとしてる。

 私たちはケヤキモールで待ち合わせをしてた。

 

「別におかしなことではないと思いますよ?今回AクラスとDクラスは仲間同士。こうして交流を含めるのも体育祭に向けての準備と言えるでしょう」

 

「葛城くんは互いに邪魔し合わないレベルの協力関係で問題ないと判断していたはずだけれど?」

 

「仲間と言えど今後競い合っていく関係であるから適切に距離を取っておく方が無難で堅実。フフ、実に葛城くんらしいですね」

 

「でもせっかく仲間なら仲良くやりたいよね」

 

「はい。そうですね」

 

 仲良くやった方がきっと皆幸せ。

 

「ここで立ち話も疲れますのでカフェにいきましょうか。紅茶が美味しいところを知っています」

 

「紅茶?何それ?お茶?」

 

「おそらく綾瀬さんが想像しているお茶とは別物だと思いますよ」

 

「へぇ......楽しみ」

 

「はぁ......なんで私まで......」

 

「どうしてこんなことになっているのかしら......」

 

 鈴音と神室は片手で頭を抱えていた。

 




お茶会は次回に

星之宮先生のところはバーの描写を完全に忘れていたので入れたという感じです。

四方綱引きは男女混合だと思いますか?

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