ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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タイトルの意味はケーキの一切れ、ではなくケーキを一切れ食べるなんて簡単だよって表現になります。楽勝だぜ、とか朝飯前といった感じです。よく某音速のハリネズミが使うセリフですね。


第57話 Piece of cake

 カゴを持ちながら私はコンビニを歩いていた。お菓子はすぐになくなるからよくコンビニには行く。

 お菓子があるところにいくと、コンビニのお姉さんが私に気付いた。

 

「あら、綾瀬ちゃんじゃない。また来たんだね」

 

「こんにちは。コンビニのお姉さん」

 

 お買い物をするときは学生証を出すから人の名前をよく名前を覚えるんだってコンビニのお姉さんが言ってた。

 

「うぅ......いつ見ても初めてのお使いを見てるみたいで可愛いわぁ......それで、今日もお菓子?」

 

「うん」

 

 私はお菓子をカゴに入れていく。

 

「そろそろ体育祭なんでしょ?順調?」

 

「順調だよ。体育祭楽しみ」

 

「うんうん。しっかり楽しむんだよ。体育祭なんて学生のうちだけだからね」

 

 コンビニのお姉さんは懐かしそうにそう言って、棚からお菓子の袋を取った。

 

「綾瀬ちゃんが取ろうとしたのは『コレ』でしょ?」

 

「凄い。なんで分かったの?」

 

「綾瀬ちゃん、よく買ってるからね。私も小っちゃい頃よく食べてたなぁ」

 

 それは、私が小っちゃい頃に食べたかったけど食べれなかったもの。

 

「体育祭頑張ってね。応援してるよ」

 

「うん。お姉さんも頑張ってね」

 

 私はレジに向かってお会計を済ませた。今のプライベートポイントは124,346。

 本当はもっと少ないはずだったポイント。

 

「よぉ心音。奇遇だな」

 

 声を掛けられた。龍園の声。石崎とアルベルトもいる。

 

「どもっす!綾瀬さん!」

 

「どもっす」

 

「......」

 

 石崎が挨拶しながら頭を下げたのを真似してみると、アルベルトが何も言わずに頷いた。

 

「ねぇ龍園。ポイント、よかったの?全部あげれてないけど」

 

 私は龍園に100万プライベートポイントをあげる約束をしてた。それなのに龍園は10万ポイントを私にくれた。

 

「それは綾瀬さんを思っての龍園さんなりの優しさですよ!」

 

「馬鹿かお前は。んなわけねぇだろ。心音は100万ポイントを手に入れた女だ。そんなやつのポイントがないとなったら誰だって怪しむに決まってんじゃねぇか。何かしらの取引をしたことは馬鹿でも気付く」

 

「ハッ!確かに!」

 

 私も確かにって思った。本当は100万ポイントあるのにないって分かったら『ポイントどうしたの?』って聞かれる。

 

「まぁそれはそれで面白いとは思うが、こっちにも事情ってのがあるからな。ただし、このことがバレても咎めはしないぜ?」

 

「え?いいの?」 

 

「なるべく秘密にしてくれってことだ。10万ポイントもあればすぐにバレることはないだろ。それでもバレたら仕方ねぇよ」

 

「だけど龍園さん。龍園さんみたいに持ってるポイントを見せろって綾瀬さんが言われたらすぐにバレるんじゃないですか?」

 

「おい石崎。易々と内部情報を喋るのは止めろ。心音だから許すが、他のヤツの前で同じようなことを言ったら殺すぞ」

 

「ハ、ハイ!すんませんでした!」

 

 どうして私はいいんだろう。

 

「それにDクラスにそこまでするようなヤツはいねぇよ。なぁ、心音?」

 

「うん。鈴音も他の人にポイントを見せるのは止めなさいって言ってた」

 

「ハッ、鈴音のヤツまだ保護者面してんのか。あいつもそろそろ気付いた方がいいぜ。自分じゃ心音には敵わないってな」

 

「ううん、私も鈴音には敵わないところいっぱいある」

 

「嘆かわしいことだな。お前は付いていく相手を間違えている」

 

 龍園は面白そうに笑って、こう言った。

 

「心音────Cクラスに来い」

 

「おぉ!龍園さんと綾瀬さんの最強タッグですね!」

 

 ひよりにも言われたこと。だけど私の答えは決まってる。

 

「いかない。私はDクラスの皆を勝たせるって決めたの」

 

「えぇ......!?そんなぁ......」

 

「Dクラスに希望を持つなんて止めた方がいい。あんな不良品の巣窟じゃ今後勝ちの目はないぜ」

 

「違うよ。不良品だからこそ、希望があるの」

 

「その考え方は理解できないな」

 

 理解されないのは、分かってるつもり。

 

「お前がCクラスに来ればAクラスなんざ余裕でいける。それでもか?」

 

「うん、それでも」

 

「意思は固いようだな。クク、残念だ」

 

「全然残念そうに見えないけど......」

 

 また龍園は面白そうに笑ってる。

 

「ところで心音。お前は坂柳と何を企んでやがる?」

 

「企む......企むって悪いことだよね?悪いことなんて何も考えてないよ」

 

「悪いことじゃねぇ。坂柳と何をする気なのか聞いているんだ」

 

「......?何もしないよ?」

 

「お前が気付いていないだけで坂柳はお前を利用しようとしているかもしれないぜ」

 

「んー......それはないと思う。坂柳と話しててもそれっぽい会話もないし......」

 

 頭の悪い私でも分かるぐらいに坂柳から私を利用しようという気配は感じない。

 

「あの、綾瀬さん。坂柳と体育祭について話し合ったりとかしてないんですか?」

 

「全然。坂柳とはカフェの話とか、休みの日何してるとか、そんな話をしてるよ」

 

「そ、そうなんですか......?龍園さん、これはあんま警戒する必要もないんじゃ......?」

 

「............」

 

 龍園は難しい顔をしながら考えてる。何をそんなに考えてるんだろう。

 

「坂柳はこの体育祭で何もする気はないのか?」

 

「うん。坂柳はそう言ってた」

 

「お前の認識はまともじゃない節があるから素直に信じていいものか分からないが、一先ずは信じてやる。それに坂柳が出てこようが俺が勝つことは決まっているからな」

 

「龍園は勝つ方法、分かってるの?」

 

「まぁな。だがお前に本気を出されるとどうなるか分からねぇ。なぁ心音、お前も自分が負けるわけないと思ってんだろ。それなら手加減しろよ。そうじゃなきゃお前も張り合いがなくてつまらないだろ?」

 

「手加減?いいよ?」

 

「......なに?」

 

「えぇ!マジすか!?」

 

 多分龍園は冗談で言ってたと思う。だから私がいいよって言ったときに動きを止めた。

 

「元々そのつもりだったから。あなたに頼まれなくても。私が本気を出しちゃったら皆が面白くないでしょ?体育祭は、楽しまないと」

 

「や、やりましたね龍園さん!綾瀬さんが手を抜いてくれるならもう怖いものなんてないですよ!」

 

 喜んでる石崎とは違って龍園は私をじっと観察している。そして、笑った。

 

「......クク、クククク!違ぇよ石崎。心音はこう言ってるんだよ。手加減をしたうえで俺たちに勝てるってな。大した自信だぜ」

 

「え......?」

 

「......」

 

 アルベルトが龍園と石崎を横切って私の前に立つ。

 

「Go ahead, make my day(やれるものならやってみろ)」

 

 なんて言ったのか、私にはまだ分からなかった。

 でも感じる。殺意とは違う、威圧。

 

「手加減はしてあげる。だから皆は本気で私を────倒しに来てね」

 

「おもしれぇ。改めて確かめさせてもらうぜ。お前の実力をな」 

  

 龍園が私を睨みつける。

 そのことが、少し嬉かった。




最近は短めです。4章見返してて思ったんですけど、1話1話が長くて見辛かった......。
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