ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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ごめんなさい!別のコンテンツに浮気していたので投稿が遅れてしまいました!



第59話 意識

 ついにその日がやってきた。長い一日になるであろう体育祭。全校生徒による行進、そして開会式では3年A組の藤巻が開会宣言を行う。

 

「ちゃんと大人しくしてるんだぞ?」

 

「うん」

 

 隣にいる綾瀬にはしっかり釘を刺しておく。

 

「すっげー、カメラまであるぜ。あんなの体育祭で見たことねぇよ」

 

 真後ろにいる池が驚いたように言う。

 最初の100メートル走に備えてかゴール地点と思われる場所にカメラが見受けられた。

 徹底的に誤審などを避けるためだろう。

 

「綾小路は今回どれぐらい頑張るの?」

 

「まぁぼちぼち頑張るさ」

 

「そう......」

 

 ジッとこちらを見つめる綾瀬を少し不気味に感じたが、とりあえず今はこれでいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「最初は男子の100メートル走からね」

 

 鈴音が紙を見ながら男の子たちを見る。私もそれを隣から見た。

 最初は私たち1年生の男の子からで、その次の競技は少し休憩した後に女の子からっていうのを繰り返す。

 100メートル走は各クラス二人ずつ選んで全部で8人で走る。1年生はそれが10組。

 

「1組目が走るみたいよ。ここで勢いをつけたいところだけれど」

 

 1組目は須藤と幸村。他のクラスはあまり運動が出来なさそうな人たちだった。

 

「これなら須藤が一番だね」

 

「どうせならある程度足の速い生徒が相手だった方がこちらとしてはついてたわね」

 

「仕方ないよ。運だし」

 

 こればかりはどうしようもない。他のクラスで誰がどの順番で走るかなんて今日初めて知ったんだから。

 スタート位置でクラウチングスタートの体勢を取る須藤からは遠くから見ても自信を感じる。

 そして合図が鳴ると同時に須藤が飛び出した。

 

「須藤くん速っ!?」

 

「スタートからもう頭一つ抜けてんじゃん......!」

 

 須藤は凄く差を広げてた。そしてそのままゴール。

 

「やったぁ!1位だよ!」

 

 須藤の1位を皆が喜ぶ。幸村は最下位だったけど......仕方ないよね。

 

「これぐらいはやってもらわないと困るわ」

 

「須藤のこと、もっと褒めてあげたら?」

 

「学年で1位を取ったときは褒めてあげるわ」

 

「それ最後......」

 

 須藤は鈴音に褒められると凄く嬉しがるから褒めてあげればもっと頑張ると思うんだけどな。

 2組目も終わって次は3組目。

 

「神崎くんと葛城くんね。あの2人がぶつかったらどちらが勝つのかは気になるところね」

 

「......あれ?高円寺は?」

 

 同じ3組目で5コースを走る高円寺がいないけど100メートル走は始まる。結果は神崎が1位で葛城が3位。

 

「予想通りサボりのようね......」

 

 鈴音の視線の先にはコテージが見える。あそこはクーラーとか水飲むやつとかがあって休める場所。

 

「高円寺は体調が悪いんじゃないの?」

 

「そんなのは嘘に決まってる。彼には何度も参加するように伝えてはいたのだけど無駄だったみたいだわ」

 

 高円寺は皆と体育祭するの嫌なのかな。

 

「どうしたら高円寺は参加するんだろうね」

 

「そうね......もし綾瀬さんが高円寺くんを説得するとしたらどう説得するか聞いてもいいかしら」

 

「私が?んー......説得っていうのは出来ないかな。私じゃ何を言ってもまともに伝わらないから。それに私は高円寺が嫌なら無理矢理やらせたくない。だけどどうしても参加させなきゃいけないなら────力尽くで言うこと聞かせるしかないかもね」

 

 私に出来るのはこれくらい。

 

「あなたは......高円寺くんにすら勝てるとでも言うの?」

 

「戦闘なら負けないよ。誰にも」

 

 それは私の、失っちゃいけない存在価値。

 

「......ごめんなさい。この話は忘れて」

 

「ん、分かった」

 

 そう言われたからこの話は忘れる。今は高円寺のことよりも目の前の体育祭を頑張らなきゃだしね。 

 1年生の男の子たちの100メートル走は半分を超えて7組目。

 

「次は綾小路と平田だね」

 

「キャー!平田くん頑張って~!」

 

 女の子たちが一気に平田を応援し始めた......ちょっとびっくり。

 

「綾小路くんは誰にも応援されてないわね」

 

「綾小路可哀想......」

 

 私は綾小路を応援してるよ。

 綾小路が走る7組目には弥彦とかもいる。

 スタートの合図。綾小路はゆっくりめだ。平田は先頭だけど後ろの4人が近い。追い抜かれるかもしれない。

 

「平田くん負けないで!」

 

 ギリギリで平田が1位のままゴール。綾小路は5位。

 

「やった!平田くんが1位だよ!」

 

「さすが洋介くんね!」

 

 女の子たちは大盛り上がり。平田って凄いよね。

 

「綾小路くんは相変わらずね......」

 

「あ、帰ってきた」

 

「不甲斐ない結果ですまない」

 

「一生懸命やって負けたなら納得出来るのだけどね」

 

「これがオレの一生懸命だ。ところで須藤はどこにいったんだ?」

 

「あれ......そういえばいないね......どこにいったんだろう」

 

「......嫌な予感がするわね。おそらくコテージじゃないかしら」

 

「まさか......」

 

 2人とも何かを感じてるみたい。私にはさっぱり。

 

「とりあえずコテージに行けばいいの?」

 

「駄目よ。私たちはそろそろ出番なんだから。綾小路くん、ちょっと平田くんと様子を見に行ってきてくれないかしら」

 

「分かった」

 

 須藤のことは二人に任せるしかない。

 次は私たちの番。

 1年生の女の子たちはそれぞれ決めた組とコースに並ぶ。私はみーちゃんと一緒に1組目。

 

「うぅ......緊張します......」

 

「えーっと......そんなに緊張しなくても大丈夫、多分」 

 

 緊張してるみーちゃんにはそんな言葉しか掛けれなかった。

 1組目を走る人たちはさっきの須藤と一緒であんまり運動が出来なさそうな人たちばっかりだ。これならみーちゃんでももしかしたら最下位にならなくて済むかも。

 私はクラウチングスタートの体勢を取った。そしてスタートの合図と同時に走る。重心をコントロールしてスタートはスムーズに。

 あれ、もう誰もいない......まぁいいや。今回は皆をびっくりさせなきゃいけないから結構速めに走る。練習よりも少しだけ速めにしよう。

 もうゴールが見えてきた。100メートルは短いね。私はゴールして邪魔にならないようにみーちゃんを待つ。みーちゃんはギリギリのところで勝てなくて最下位になっちゃった。

 

「はぁ......はぁ......あとちょっとでした......」

 

「惜しかったね」

 

 みーちゃんは練習よりも疲れてそうだった。

 

「すぐに戻らなきゃいけないんだよね。おんぶしてあげよっか?」

 

「えぇ!?そ、それは恥ずかしいのでお気持ちだけ貰います......」

 

 嫌がられちゃった......残念。

 

「そんなにしゅんとされるとちょっと罪悪感が......と、とにかく戻りましょう!」

 

「うん」

 

 一緒に皆のいるところに戻ると、皆から声を掛けられる。

 

「綾瀬ちゃんお疲れー。凄かったなぁ。他クラスのヤツ度肝を抜かれてるぜ」

 

「そう?平田や須藤みたいに盛り上がってる感じしなかったけど......」

 

「いやいや、もう速すぎで声も出ないっていうか......なぁ?」

 

 山内がそう言うと男の子たちは首を縦に何回か振った。

 んー......難しいね、色々。

 それから何組か走った後、次は9組目。100メートル走もそろそろ終わりだ。

 9組目は佐倉の番。一生懸命走ってるのが分かる。頑張って走った佐倉は最下位じゃなかった。

 佐倉の番が終わるのと同時に綾小路と平田、そして須藤が来た。須藤はイライラしてる。

 

「糞が!あの野郎マジで今度ぶっ飛ばしてやる!」

 

 皆は須藤を怖がって誰も近づこうとしなかった。どうして須藤は怒ってるんだろう。

 

「おー健、やっと戻ってきたか。お前のお気に入りの試合が始まるぜ」

 

「うるせっ」

 

 池が須藤に声をかけると、須藤は池の首に手を回した。

 

「ぎゃ!何すんだよ!」

 

「ストレス発散だ」

 

「いたたたた!!ギブキブ!」

 

 須藤が八つ当たりしてる。それで一応少しは落ち着いたみたい。ありがとう池。

 とりあえず戻ってきた綾小路たちに話を聞いてみる。

 

「何があったの?」

 

「高円寺がコテージでサボっていてそれを須藤が問い詰めたんだが、まったく参加する素振りを見せない高円寺に須藤が怒ってしまってな。とりあえず今は大丈夫だが......」

 

「そっか......やっぱり私も高円寺が参加するように何かした方がいいのかな?」

 

「いや、本人がやりたくないなら仕方ないよ。説得するにも時間が足りないし、彼の場合は無理矢理参加させようとすれば何が起こるか分からないからね」

 

 説得は鈴音もしてた。それでも高円寺は参加しない。

 皆を邪魔しないのであれば高円寺のことはいい。その分私が勝てばいいんだから。

   

「はぁ、はぁ......く、苦しい......」 

  

 須藤を眺めていると隣には息を切らした佐倉が戻ってきた。

 

「お疲れ佐倉。頑張ったね」

 

「辛そうだな。呼吸を整えた方がいいぞ」

 

「ふ、二人とも......見てくれた?」 

 

 佐倉は目をキラキラさせながら私と綾小路を見上げた。

 

「うん。佐倉がギリギリで勝ってたところ、見てた」

 

「頑張ったな」

 

「綾瀬さんが走り方を教えてくれたおかげだよ!綾小路くんも見ててくれてありがとう!」

 

「お、おう......」

 

 こんなに喜んでくれるなら教えて良かった。

 

「次で最後だな。堀北と......伊吹か。綾瀬、どっちが勝つと思う?」

 

「伊吹」

 

 迷わずにそう答えた。

 

「即答だな......堀北じゃないのか?」

 

「二人とも足の速さで言ったらそこまで変わらないと思うけどね。でも今の伊吹なら鈴音には負けない」

 

 スタートの合図と同時に7人の女の子たちが走り出した。先頭を走るのは伊吹。いいスタート。しっかり感覚を研ぎ澄ませてる。走るフォームも悪くない。

 うん、それでいい。そのまま意識を集中させて。

 

「ヤバいか......?」

 

 鈴音も負けてない。ギリギリの勝負。

 だけど先にゴールしたのは伊吹。

 

「うわー!おしい!」

 

「でも凄ぇ勝負だったな!」

 

 周りが盛り上がってる。やっぱりこういうギリギリの戦いだと盛り上がるんだね。伊吹も嬉しそうにしてる。

 

「堀北が負けてしまったか。1位を逃してしまったがこればかりは責められないな。まだ序盤だし全然取り戻せる範囲だ」

 

「あ」

 

 そっか。私が伊吹を鍛えるとこういうところでDクラスが負けちゃうんだ。

 

「ごめん鈴音......」

 

「何で謝ってるんだ?」

 

 これが敵に塩を送るってことだ。やっと分かった。

 とりあえずこれで私たち1年生の100メートル走は終わり。1位を取ってた人もいたけど最下位に近い人たちの方が多かった感じ。

 私と綾小路は戻ってきた鈴音に声をかける。

 

「えと......お疲れさま」

 

「おしかったな」

 

「......ここは勝っておきたかったわね。ごめんなさい。想像以上に伊吹さんが速かったわ」

 

 鈴音は悔しそうだ。今度一緒にトレーニングしてあげよう。

 2年生も終わって3年生の競技に目を向ける。

 

「学がいるね」

 

 2組目でスタートを切った学は1位を取っていた。でもちっとも嬉しくなさそう。

 

「イメージ通り速いな」

 

「兄さんは完璧だから。何をやらせても一番だもの」

 

「完璧......一番......」

 

 その2つの言葉が一瞬私の意識をどこかにやった。 

 

 

 私は今、体育祭をやっている。  

 

 

 うん、これで大丈夫。

 意識はすぐに戻った。

 100メートル走が終わって赤組と白組の点数が表示されてる。

 赤組1991、白組1921点。

 私たちの方が少しだけ優勢。まだまだ始まったばかりだからどうなるか全然わかんないや。 

 

 




本人の視点だと凄さがイマイチ伝わらないですね。特に綾瀬となると。そのため次回は視点がぐるぐるしちゃうかもです。
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