ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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おまけ ガラスの向こう側

「私たち同じクラスだよ!一緒に教室にいこっ!」 

 

 バスっていう車の中で話してた人が私に指示をする。

 名前は櫛田桔梗。名前は2つに分けることが出来る。私もそう。

 1つめ、苗字で呼ぶことが普通らしい。だからこの子は櫛田。あの場所とは違うから気を付ける。

 

「Dクラスは......あそこだね」

 

 1年Dクラス。

 数字とアルファベット、そしてクラスというもの。そこには人が集まっていた。

 ガラス越しに見ていたあの場所に似ている。でも、ここにいる人たちは楽しそうだった。

 ここが私の新しい場所。  

 ここでは私は何をすればいいんだろう。

 それは誰も教えてくれなかった。あの場所に戻った方がいいのかな。でも戻り方も分からない。

 とりあえず私が座らなきゃいけない場所に座る。

 すぐ傍に窓がある。外を見た。色のある空。あの場所が使えなくなってからよく見るようになったもの。いつ見ても慣れない。

 外を見ていると、私の隣に誰かが座ろうとしてる気配を感じた。

 

「......ねぇ」

 

「......え、オ、オレ?」

 

「うん......」

 

 声を掛けて、その人の顔を見る。

 私はここで何をすればいいのかをこの人に聞こうと────。

 ......なんだろう。この人を見てると、何かを感じる。それを言葉には出来ない。

 

「えっと、どうした......んだ?」

 

「私は......何をすればいいの?」

 

「え?」

 

「私の役目、それは何?」

  

 私の感じたものはよく分からなかったから、聞きたかったことを聞くことにした。

 

「待機してればいいんじゃないか......?」

 

「......わかった」

 

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 それなら従う。

 

「そ、そういえば実はオレはお前と同じバスに乗ってたんだ。凄かったな、あそこでお婆さんをおんぶしようだなんていいだすなんて」

 

「......?何が?」

 

 凄いっていうのは褒められてるということ。

 その理由は分からない。

 

「いや、なかなか出来ることじゃないからな。あの場でああいうことができるの」

 

「ふーん......」

 

 聞いてもよく分からなかった。

 

「やっぱり結構力あるのか?」

 

「......そうなの?」 

 

 ここではどうなんだろう。全く分からない。

 

「いやそうなのって言われてもオレは知らないけど......」 

 

「へー......」

 

「あー......小さい頃運動部だったりするのか?」

 

「さぁ......?どうなんだろ......」

 

 運動はしてる。運動部っていうのは分からない。私は運動部なのかな......。

 

「えーと......」

 

「......?」 

 

「......」

 

「......」

 

 なんか困ってる。どうしてなんだろ。

 

「......自己紹介でもするか?」

 

「自己紹介?」

 

「オレたちお互いに名前も知らないだろう?これから1年間同じクラスなんだしせめて名前ぐらいは知っておかないとな。オレは綾小路清隆。よろしく」

 

 綾小路。聞いたことがある。

 

「......綾瀬心音。よろしく、綾小路」

 

『綾瀬心音』

 

 それが私の名前であり、識別番号。

 何度壊れても、それだけは変わらない。

 だから私は壊れても問題ない。いくら壊れたって、自分だけは失う事なんてないから。

  

 

 

 それが綾小路との出会い。

 そうして過ごしていくうちに、いつの間にか3ヶ月近くが経っていた。

 そして私は、綾小路にあることを聞いた。

 

「綾小路。私とあなたは違う、よね?」

 

 私はたくさんのものを壊してきた。 

 何となく、綾小路もそうなんじゃないのかと思った。

 

「......当たり前だ」

 

 否定。

 違うと言われなかったけど、それは分かった。それなら仕方ない。勝手に仲間なんじゃないかと思ってごめんね。

 私には皆のような『人間らしさ』なんてものは殆ど残っていない。

 嬉しいや悲しいは分かる。でも、笑えないし、泣いたこともない。恐怖が分かるのに恐怖を感じない。怒っている人は分かるのに私は怒ることが出来ない。

 生まれつき脳が壊れていた私は、感情をどうやって表現すればいいか分からなかった。  

 そうしてあの場所で過ごしていくうちに、もう感情そのものがいらないとすら感じた。

 いらないから、壊す。そんなものよりも『綾瀬心音』に求められているものの方が大事だから。

 ずっとそうしてきた。そのはずなのに、私はいつまでもあの場所でいなくなっていった、誰一人として名前も知らない子たちを思い出してしまう。

 どうして────『寂しい』という感情は私の中から消えてくれないんだろう。

 

 




なんで綾瀬は綾小路を『最高傑作』だと疑わないのか。自分とは違うと否定されたから、それだけです。

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