ようこそ理想郷へ   作:ナムさん

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第66話 蝕む変化

 うるさいアラームの音で起きる。

 

「......」

 

 眠気は相変わらず続いてる。体育祭が終わってからまた少し酷くなった。

 ベッドに寝転んだまま身体に力を込める。入学したときよりも力の流れをはっきり感じ取ることが出来た。『こっち』は大丈夫そう。

 私はぼんやりする頭のこと置き去りにして制服に着替えた。

 体育祭が終わって10月。今日は生徒会の人たちが替わるらしいから皆で体育館にいる。

 生徒会はこの学校を纏める偉い人たちのことだ。でも下の学年の人たちに替わる必要があるんだって。世代交代って言うみたい。

 

「約2年、生徒会を率いて来られたことを誇りに思うと同時に感謝します。ありがとうございました」

 

 学が頭を下げて後ろに下がった。橘たちのいるところと南雲のいるところの2つに分かれてる。そして南雲のところには一之瀬がいた。

 

「堀北生徒会長、今までお疲れ様でした。それでは次に、新しい生徒会長に就任する2年A組、南雲雅くんよりお言葉頂戴いたします」

 

 そう呼ばれた南雲がさっき学のいた位置に立つ。

 

「2年Aクラスの南雲雅です。堀北生徒会長、本日まで────」

 

 南雲雅。体育祭で知った人。

 私は体育祭最後のリレーが終わった後のことを思い出していた。

 ゴールし終えた後、Dクラスのところに向かおうとしてたときだった。

 

「待て綾瀬」

 

 南雲が私に声を掛けてきた。

 

「俺と堀北先輩に勝つとは大したもんだぜ。まさか女子に身体能力で負ける日が来るとは思いもしなかったな」

 

「安心して。私にはそれしかないから」

 

「それしかないにしてもここまでのレベルなら誇ってもいい。ただ身体能力だけで生き残るのが難しいのがこの学校だ。今後は学力が求められる試験も出てくるからな」

 

「うっ......」

 

 学力と聞いて少し気分が重くなった。

 

「南雲の言う通りだが、お前の場合は着実に知識を身に付ける必要がある」

 

 そんな話をしてると学も会話に加わってきた。

 

「いくら焦ったところで学力は急激に向上しない。日々の積み重ねを怠るな」

 

「案外冷たいですねぇ。堀北先輩」

 

 南雲は学をチラッと見て笑った後に、私の方を見た。

 

「このままだと綾瀬は近いうちに退学してもおかしくないですよ?勉強が出来ないのならそれだけでいくらでも退学するための策略も組めるというものですから。今後綾瀬は強く警戒されるでしょう」

 

「随分と回りくどい話の組み立てをするんだな。お前の目的はもう読めている」

 

「へぇ......さすが堀北先輩ですね」

 

 二人だけが分かってるみたいだけど私はついていけなかった。

 

「綾瀬。俺はお前の身体能力は保護されるべきものだと思っている」

 

「保護?そんなこと出来るの?」

 

「あぁ。退学を回避するためのプライベートポイント、それぐらいなら出してやってもいい......って悪い、この情報は知らなかったことだったか?」

 

「いや、橘に聞いてる。確か橘に聞いた話だと退学を回避するためにプライベートポイントだけでも2000万ポイントは必要......私に使うのはもったいないよ?自分の友達に使ってあげた方がいいと思う」

 

「おっと、案外お人好しなんだな。だが俺からしてみればそんなポイントは簡単に用意できるんだ」

 

 2000万プライベートポイントが......簡単?そういうものなのかな......。

 

「もちろん無条件ではないだろうがな」

 

「そう。綾瀬、お前には生徒会に入ってもらう」

 

「私が、生徒会?」

 

 生徒会って頭のいい人たちにしか出来なそうだけど。

 

「生徒会に入るだけでお前の退学を回避する手助けをしてやる」

 

「んー......どうしてそこまでするの?私は別に退学することになったらそのまま退学するけど」

 

「ほう?退学が怖くないのか。ただ本音を言うなら俺がお前に残ってほしいんだ。お前みたいな刺激のある後輩なんてなかなかいないからな。それにお前はたった一回の体育祭で英雄になっちまった。そんなやつがもしあっさり退学するようなことになったら実にもったいない」

 

「へー......」

 

 南雲が私に何を求めているのかよく分からなかった。

 

「それに生徒会に入ることでお前にもポイントが支給される。なぜその身体能力で部活に入っていないのかは不思議だが、部活動で貢献すればボーナスとしてポイントが支給される。そしてそれは生徒会でもだ。ポイントはあればあるほど優位に働くからな」

 

「だけど私には生徒会の仕事なんて出来ないと思う」

 

「いや、いい。お前にはそこまで難しい仕事なんて求めない。もちろん最低限集まりには参加してもらうが、ただいるだけでもいいんだ」

 

「え......そんなのでいいの?」

 

 どうしよう。今回は代役を立てるためにポイントが必要だったし、また同じようなことが起きるかもしれないからポイントは欲しい。

 

「────止めておけ綾瀬。南雲はお前を利用する気だ」

 

「人聞き悪いですね堀北先輩。綾瀬を勧誘したい理由は先ほどお伝えしましたよ?」

 

「俺も言ったはずだ。お前の目的は読めている、と」

 

 学と南雲の視線がぶつかる。あんまり仲良しじゃないのかな。   

 

「わかりましたよ。今回はここまでにしておきましょう。綾瀬。生徒会の件、考えておいてくれよな」

 

 何だかよく分からないまま私はDクラスの方に戻った。

 これがあのとき話したこと。

 

「────どうぞよろしくお願いします」

 

 意識を戻すと南雲が頭をさげていた。全然話を聞いてなかったな。そう思った瞬間、2年生の人たちが大きな声を出した。

 南雲は生徒会長になった。それを皆が喜んでる?南雲って結構凄い人なのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堀北」

 

 今朝に新旧生徒会の交代式が終わり、昼休みを迎えていた。

 昼食を食べ終えて読書をしているところに名前を呼ばれ、振り向くとそこには綾小路くんがいた。

 

「綾瀬はどこにいったんだ?」

 

「お菓子を買いにコンビニに向かったわ。あまり外に出ない方がいいと伝えたのだけれどね」

 

「しっかり止めてやれよ......」

 

 ただコンビニに向かっただけなのにそんなことを言われるのもおかしな話しだけどこれには理由がある。

 噂をすれば綾瀬さんが教室にやってきたことが分かった。

 

「綾瀬さん綾瀬さん!ぜひ我が部に!」

 

「いやいや!綾瀬は絶対に陸上部だ!」

 

「綾瀬ちゃーん。お菓子あげるー」

 

 がやがやと軽い騒ぎが起きている。綾瀬さんの周りに多数の運動部と見られる生徒たちが集まっていたのだ。

 

「今日も相変わらずだな」

 

「そうね......」

 

 体育祭が終わってから綾瀬さんには多くの部活動の勧誘が来ていた。当然上級生の姿もある。

 綾瀬さんは人混みをなんとか掻き分け、教室に入って自分の席にたどり着いた。

 

「毎日大変だな」

 

「ふぁ......部活動には入らないって言ってるのに......」

 

 大きなあくびをしながらさすがに参った様子で項垂れる綾瀬さんはぶら下げていたレジ袋を机の上に置いた後、ポケットに入っていたお菓子を袋に詰めた。ポケットに入っていた分は声を掛けられたときに貰ったものらしい。

 

「もういっそのことどこか適当に入ったらどうだ?」

 

「......やだ」

 

 綾瀬さんは頑なに部活動には入ろうとしなかった。運動部ならどこにいっても間違いなく活躍出来るだろうに。

 

「別に文化系の部活でもいいのよ?何か興味のあるものはない?」

 

「......茶道部、とか?」

 

 意外な名前が出てきたことに驚いた私と綾小路くんは思わず目を合わせた。

 

「和菓子が食べれるんでしょ?」

 

 ふざけた理由に綾小路くんと二人でガクッとこけそうになる。そんな動機で入部は認められないでしょうね。まぁ勧誘が煩わしいから身を置かせてほしいなんて理由も駄目だと思うけれど。

 

「でももう1つだけ気になってるのはある」

 

「一応聞いてあげるわ。教えて」

 

「生徒会。南雲に入らないかって言われた」

 

 それもまた意外なところだった。

 

「南雲って今日挨拶していた新しい生徒会長だろ?凄いじゃないか、生徒会長直々にスカウトされるなんて......って、あっ」

 

 綾小路くんがしまったとでも言いたげな顔をした。

 

「そういえば綾小路も────」

 

「実に喜ばしいことだな。だって綾瀬が生徒会だぞ。うんうん。オレはいいと思う。いやー、立派になったもんだ。なっ、堀北」

 

「......何なの?」

 

 何かを誤魔化してるみたいな態度が癪に障ったけど今はいいわ。

 

「綾瀬さん......本当に生徒会に入るの?」

 

「ううん、今のところは入る気ない」

 

 そう返事をされて私は内心ホッとしていた。そんな私の様子に気づいたのか綾小路くんがこちらを見る。

 

「お前は綾瀬が生徒会に入ることが反対なのか?」

 

「反対よ」

 

「どうして」

 

「兄さんの下で生徒会に所属するなら許せたけどあの生徒会長の下なら駄目」

 

 今朝行われた新旧生徒会の交代式では新生徒会長がある宣言を掲げていた。

 

『近々大革命を起こすことを約束します。実力のある生徒はとことん上に、実力のない生徒はとことん下に。この学校を真の実力主義に変えていきますので、どうぞよろしくお願いします』

 

 それはこの学校の制度を更に極端にするということだ。私自身もそれが正しいのか正しくないのかは判断できない。だけどその前の演説では今までの制度を一から否定するかのようなものだった。それが兄さんの築き上げたものを否定しているみたいでどこか気に入らなかった。

 

「それに先ほど言っていたでしょう?任期中に不適格だと判断されれば除名する規約も作るって。そこで不適格だと判断されればもしかしたらペナルティまでついてくるかもしれないわ」

 

 同時に優秀な人材はいつでも受け入れると宣言をしていた。どちらも今までにないもの。これもまた革命ということなのかしら。  

 

「そんな話してたんだ。聞いてなかった」

 

「ちゃんと聞いておきなさい......」

 

「ふぁ......ごめんごめん」

 

 またあくび。もしかして立ちながら寝ていたんじゃないでしょうね......。

 

「いい?生徒会に入ったらやっぱりやめますなんて簡単には言えないのよ?それに頭を使うことだって多いはず。もしあなたが生徒会にでも目を付けられたりなんてしたら面倒なことになるわ」

 

「まるで綾瀬が途中で除名される前提で話をしてるな」

 

 せっかく言わないようにしていたのにこの男はいちいち余計な一言を......。

 ただ自由奔放な彼女には生徒会などとても向いてないと思ってしまっている自分がいるのは確かだ。

 

「んー......今のところは考えてないから安心して」

 

 とりあえずどこにも所属する気はないようね。とはいえ厄介な勧誘もどうにかしなければいけない。

 というのも最近の綾瀬さんはどこか疲れ気味に見えるからだ。もし勧誘が理由で精神的な疲労を引き起こしているなら対処する必要がある。

 

「というか綾小路くんの周りには綾瀬さんと違って誰も寄ってこないのね」

 

「ん?あぁ......」

   

「最後だけ驚異的な足の速さを見せた綾小路くんには部活動の勧誘はおろか、友達である池くんと山内くんでさえ綾小路くんを誘わなくなってしまったわ。これが普段の行いということなのかしらね。数少ない友達がいなくなって可哀想ね」

 

 普段わざと手を抜いている綾小路くんに対して若干の復讐をするように嫌味を込めた。

 

「綾小路、嫌われちゃったの?」

 

「うっ......!い、いや嫌われてはないと思うが......」

 

「どうでしょうね。あなたたちは全員ダメな生徒として集結していたのに実はあなたが高い身体能力をひた隠しにしていたのだもの」

 

「何が高い身体能力だ。たかが足が少し速いだけだろ」

 

「されど足の速さ、よ。それにあなたの場合はそれを今まで隠してきたのだ余計に質が悪いわ。池くんと山内くんがあなたを避けるのも理解出来るわね」

 

「そっか......綾小路は友達が減っちゃったんだね......でも大丈夫。私は綾小路と友達だよ」

 

「うぅ......綾瀬ぇ......」

 

 珍しく本気で落ち込んでそうね。でも彼ならこうなることぐらいとっくに分かっていたはずだと思っていたのに。

 

「それじゃ、私は用事があるから」

 

「どこかいくの?」

 

「ちょっとした野暮用よ。あなたは綾小路くんの相手でもしてあげなさい」

 

 そう言い残して教室を出た。

 そして私は本屋に向かう。

 個人的に読みたい本があるのと綾瀬さんのための参考書を揃える必要がある。

 彼女の場合はまだまだ基礎知識が足りていない。いくら参考書に費やしても学ぶべき事はたくさんある。

 それに先ほども言ったけどどこか疲れ気味、というよりは寝不足という言葉が近いのかもしれない。入学したての頃はずっと寝ていたとも言っていたし、生活習慣を変化させた反動が今になって来ている可能性がある。そもそも彼女がどういう生活を送ってきたのかは分からないけどね。

 そんなことを考えながら校内に戻ると、その途中Aクラスの戸塚くんに遭遇した。なんだかどこか不満げだ。

 彼とは大した接点もない。声をかける必要などないわね─────。

 

「待て堀北」

 

「......何?」

 

 まさか彼に足止めをされると思っていなかったので思いっ切り不満げな声を出してしまった。

 

「綾瀬は一緒じゃないのか?」

 

「そうね。それじゃ」

 

「待て待て!お前に話があるんだ!」

 

「はぁ......」

 

 戸塚くんとは無人島試験のときに話したきり。そのときの印象はお互い良くないはずなのに一体どういう風の吹き回しなのかしら。

 

「それで?話というのは?」

 

「綾瀬のことだ。いや、綾瀬と坂柳のことと言い直すべきか。あの二人は今でもたまに顔を合わせているみたいだな。その目的を知らないか」

 

「いいえ。私は何も知らないわ。というか目的なんて特にないと思うわ」

 

「何?危機感のないやつめ。身内が敵であるAクラスの人間と何かよからぬことを考えてるのかもしれないんだぞ。警戒していないのか」

 

 なぜAクラスの戸塚くんがそんなことを聞いてくるのか、それはAクラスの問題点、派閥争いに起因しているのだろう。

 

「一応本人には色々聞いてるもの。そんなやましいことはないわ。それに顔を合わせると言ってもたまにらしいからね」

 

 最近は綾瀬さんの言動をより注意深く聞くことを心掛けている。彼女の場合は認識の齟齬によって噛み合わないことも多々あるからだ。

 

「ところで葛城くんはどうしたの?」

 

「......綾小路と話している」

 

「綾小路くんと?」

 

 意外な組み合わせだと思った。

 なるほど。ご主人様を取られているからずっと不満顔ってわけね。

 本当ならさっさと帰りたいところだけど、私はあまりにも他クラスの情報を持っていなさすぎる。相手が戸塚くんだったとしても情報を得るいい機会と思うことにしましょう。

 

「いいか、葛城さんはDクラスを警戒している。綾小路と話しているのもその一環だろう。特別試験では上手くやったみたいだが今後はそうはいかないぞ」

 

「あら、わざわざ忠告してくれているの?」

 

「ふん、何を勘違いしているんだ。葛城さんの力ならお前たちを倒すことなど容易い」

 

 絶対的な忠誠心があるからこそ力を誇示したかっただけなのね。

 

「警戒してくれてありがとう。でもあなたたちの問題はもっと別のところにあると思うけれど?10月に公開されたクラスポイント表を見る限りだと目先の相手をどうにかするべきじゃない?」

 

「ぐっ......」

 

 Aクラスは無人島試験終了時点で1154ポイント。それが船上試験、体育祭で大きくポイントを落とし904ポイント。追い上げをみせるBクラスは737。下手すれば一回の特別試験でひっくり返りかねない数値。ちなみにCクラスは542、Dクラスは342となる。私たちもあと少しでCクラスに届く。

 

「坂柳派が葛城さんの邪魔をしていなければこんなことにはなっていない......」

 

 これはそれなりに有名な話だけど、Aクラスには坂柳さんを中心とする派閥と葛城くんを中心とする派閥がある。

 この学校の仕組み上、自クラスに裏切り者がいる時点で勝てなくなる。

 だけどそれはこちらも同じ。私たちには櫛田さんがいる。

 櫛田さんには体育祭で裏切られている。それに船上試験や無人島試験もきっと......。

 私は心の中で『お互い大変ね』と戸塚くんに対して呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




前回のアンケートのご協力ありがとうございます!やっぱり0巻は入手難易度高いですよね。
そしてまた引き続きになってしまいますがアンケートにご協力していただきたく......学年別最優秀選手の報酬がどれぐらいなのかで今後に響いてきそうなもので......

学年別最優秀選手の報酬は何ポイントだと思いますか?

  • それ以下
  • 5万ポイント
  • 10万ポイント
  • 50万ポイント
  • 100万ポイント
  • それ以上
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