6時間目のホームルームが始まった。
オレが教室の前へ目を向けると、茶柱先生は教卓から離れ、そのまま扉へ向かい、何も言わずに教室を出ていった。
何人かの生徒が不思議そうに閉じた扉へ目を向けていた。隣の席と顔を見合わせる者もいる。
堀北が席を立つ。
平田も、すでに教室の前へ出ていた。
「みんな、今日はこの時間を、ペーパーシャッフルの準備に使わせてもらうことになったんだ。茶柱先生にも許可をもらっているよ」
平田の説明を聞いて、扉に向いていた視線が教室の前へ集まった。
「何人かで話し合ったことを、みんなにも伝えたいと思ってるんだ」
「その前に、私から1つ話しておきたいことがあるわ」
平田が頷き、堀北へ話を譲った。
堀北は教室を見渡す。
「体育祭ではクラスの力になれなかった。それどころか、私のことで周りに負担もかけてしまったわ」
そこで一度、言葉を切る。
「ごめんなさい」
堀北が頭を下げた。
教室のあちこちで、話し声が止まる。
須藤が、顔を上げた。
「鈴音だけのせいじゃねえだろ」
綾瀬も、ノートを開く手を止めている。
堀北は顔を上げ、須藤を見た。
「......それでも、私の傲慢な態度が皆に迷惑をかけたのは事実よ」
堀北が、自分からクラスの前に立って頭を下げる。
入学した頃には、想像しにくかった光景だ。
言い訳をせず、顔を上げたあとも、クラスから目を逸らさなかった。
「今回は、1人で何とかしようとは思っていないわ。あなたたちにも、協力してほしい」
平田は、その言葉を待ってから口を開いた。
「僕も、堀北さんと一緒に進めていきたいと思ってる。まずは分かったことを聞いてもらって、その後で、みんなの意見も聞かせてほしいんだ」
「分かったことって?」
池が尋ねた。
「小テストの結果から、どうやってペアを決めるかよ」
堀北が答える。
「得点が1番高い人と、1番低い人。その次は、2番目に高い人と、2番目に低い人。そうやって組ませる方式だと考えているわ」
「先輩も、1番点数の高い人と低い人が組んだって言ってたよ。その次も、同じように決まっていったんだって」
櫛田の補足を聞いた池が、身を乗り出した。
「え、じゃあ俺、頭のいいやつと組めんの?」
「今年も同じ方式なら、そうなるね」
平田が頷く。
「めちゃくちゃ助かるじゃん、それ!」
さっきまで黙っていた生徒たちも隣の相手と話し始めている。
「それ、堀北ちゃんが見つけたのか?」
池が教室の前へ顔を戻した。
「うん。堀北さんが組み方に気づいてくれたんだ。櫛田さんにも先輩へ確認してもらって、準備を進めることにしたんだよ」
「すげえじゃん!よく分かったな、そんなの」
「ほんと助かったわ。誰と組むのかずっと気になってたし」
山内も頷く。
堀北は少しだけ目を伏せ、それから2人へ視線を戻した。
「役に立ったのなら、よかったわ」
「いや、マジでありがたいって」
池の声に、からかうような響きはなかった。
「なら、小テストの得点調整にも協力してもらえるかしら」
「調整?」
「学力に合った組み合わせになるよう、目標点を決めるの。点を取る人と取らない人をこちらで考えるわ」
「俺たちは点を取らない方ってことか?」
「中間試験の成績を参考にして決めるつもりよ。あなたたちには、0点で提出してもらうことも考えているわ」
「それなら任せろって!」
「俺も、それでいい!」
答えを書かなくていいと聞いて、2人はすっかり乗り気になっていた。
「ただ、誰と組むかまで約束できるわけではないの。同じ点数の人がいれば、その中の順番までは読めないから」
「でも、頭いいやつと組めるんだろ?」
「その組み合わせになるように調整する、ということよ」
「なるほどなぁ......」
池が頷く。
そこから先の質問を引き取ったのは平田だった。
「目標点はそれぞれに伝えるよ。うまく合わせられるか心配な人は、その時に相談してほしい。僕たちも一緒に確認するから」
「勉強会の時間はどうするんだ? 部活がある日は遅くなるんだけどよ」
須藤が尋ねる。
平田はすぐにそちらへ顔を向けた。
「参加できる時間を聞いてから決めようと思ってる。途中からでも大丈夫だよ」
「分かった。なら俺も出る」
「......やっぱ、勉強はするんだな」
山内が今度は少しだけ声を落とした。
「当然でしょう。ペアの相手に全部任せるつもりでは困るわ」
堀北の言葉に池が山内を見る。
「お前、もう任せる気だったろ」
「お前だってそうだろ!」
「2人とも、相手を助けるつもりで参加してくれると嬉しいな」
平田が間に入ると、2人は顔を見合わせたあと、曖昧に頷いた。
「得意な教科と苦手な教科、それから参加できる日を、後で僕か櫛田さんに教えてもらえるかな。今、予定が分からない人は確認してからで大丈夫だよ」
平田がクラスへ話を戻した。
「私も、みんなの予定を聞いておくね」
櫛田が申し出ると、軽井沢も続いた。
「櫛田さん、女子の方はあたしも聞いとく。洋介くんと櫛田さんだけじゃ、まとめるの大変でしょ」
「ありがとう。助かるよ」
平田が礼を言う。
近くの女子たちも、それぞれの予定を話し始めた。
堀北は声が落ち着くのを待ってから説明を続けた。
「高円寺くん。あなたにも確認しておきたいのだけれど」
堀北の視線が高円寺の方に向かった。
高円寺は小さな鏡を覗き込み、前髪に指を通している。
「何かな?」
「あなたは高得点を取る側で考えているわ。小テストには真面目に取り組んでくれるかしら」
「試験の仕組みは把握したよ。君たちの方針に合わせるかどうかは検討しておこう」
高円寺が鏡から顔を上げる。
堀北を眺め、ゆっくりと口元を吊り上げた。
「もしあなたが意図的に0点を取れば、想定した組み合わせが崩れるわ。その点だけは理解しておいてもらえるかしら」
「それも承知しているさ。考えておくよ」
そう言って、再び鏡へ目を戻す。
堀北は1度だけ息を吐いた。
「......分かったわ。考えておいてちょうだい」
返事は保留のままだ。
堀北もそれ以上は話を続けなかった。
「ほかにも、気になることはあるかな?」
平田がクラスを見渡す。
小テストで点数を合わせる方法や、勉強会への参加について、またいくつか質問が出た。
得点の調整については、堀北が答える。
参加できる時間の相談になると、平田が引き取った。
どちらか1人が話し続けることはない。相手へ話を預けても、もう1人は黙って待っている。
堀北が方針を示し、平田がクラスの協力を引き出す。
これまでは別々に動いていた2人が同じ方向を向いていた。
堀北と平田。
Dクラスを表から引っ張るなら、最強のタッグと言っていいだろう。
今まで実現することのなかった組み合わせが、ようやく形になった。
「僕たちだけで決めてしまうつもりはないよ。まだ気になることがあったら、話してほしい。堀北さんと相談しながら進めていくから」
「私からもお願いするわ」
堀北がもう一度クラスを見渡した。
池と山内が頷き、須藤も短く返事をする。
説明が終わると、平田のところへ何人かの生徒が集まった。
席に戻った堀北はノートを開く。
綾瀬も自分の席でペンを持ち直していた。
「......思ったより、すんなりいったな」
オレが言うと、堀北は教室の前へ目を向けた。
平田はまだクラスメイトの相談を聞いている。
「彼が一緒にいてくれたからでしょうね」
それから、ノートへ視線を戻した。
6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
鞄を持って立ち上がる生徒もいれば、そのまま平田たちのところへ残る生徒もいた。
小テストは明日。
その日のうちに、中間試験の成績を基にした目標点がそれぞれに伝えられた。
高得点を取る生徒、0点で提出する生徒、その間の点数に合わせる生徒。
オレも、その指示を受けた1人だった。
翌日の6時間目。
小テストを前に、いつものように話し声を上げる生徒は少なかった。
「小テストを始める前に、攻撃対象について伝えておく」
茶柱先生が教卓の前から教室を見渡した。
「各クラスが提出した攻撃対象の指定に重複はなかった。お前たちの攻撃対象は希望通りCクラスに決まった」
堀北と平田が、短く視線を交わす。
相手が変わらないなら、問題作りもこれまでの方針で進められる。
「そしてDクラスに問題を出すクラスはCクラスだ。こちらも指名が被ることが無かった結果によるものだ」
つまり今回の戦いはDクラス対Cクラス、Bクラス対Aクラスということになる。
「用紙に名前を記入しろ。私が指示するまで、問題には手をつけるな」
机の上には、伏せた問題用紙が置かれている。
「では、始めろ」
問題用紙を表に返す。
最初の数問に目を通したところで、今回の小テストの意図がよく分かった。
どの問題も難しい考え方を必要としないものばかり。後ろの方まで確認しても、急に難易度が上がることはない。
普通に取り組めば、池たちでも60点近くは取れそうだ。
この内容なら学力の高い生徒に満点を取らせる方針にも無理はないだろう。
オレは指定された点数になるよう、解く問題を選んだ。
普段なら解けるだけ解こうとする生徒たちも、今日は手を止めるのが早かった。
自分の点数を上げるより、決められた点数に収めることを優先している。
高円寺もしばらくペンを動かしていた。やがて書く手を止めると、答案へ1度視線を落とし、机の上にペンを置く。そのまま椅子の背へ身体を預け、目を閉じた。何問解いたのかまでは、ここからでは分からない。
残りの時間は妙に長く感じられた。100問の問題を前にしているのに、教室から聞こえるのは時折紙をめくる音くらいだ。
「そこまでだ」
茶柱先生の声で小テストは終わった。
解答用紙が後ろの席から順に集められていく。
茶柱先生は回収した枚数を確認すると、それを揃えて教卓へ置いた。
「答案は明日の4時間目に返す。その時にペアも発表する」
茶柱先生が答案を持って教室を出る。
扉が閉じると、池が大きく息を吐いた。
「いやー、こんな気楽なテスト、初めてだわ」
「俺も。普通にやっても、結構取れたんじゃね?」
「鈴音。これ、さっきの問題だけど合ってる?」
綾瀬がノートに問題を書き込んでいた。
余白に、答えが書き込まれている。
「ええ。合っているわ。しっかり覚えていたのね」
綾瀬は自分の書いた答えをもう一度見た。
「覚えてた」
「解答用紙には書いていないのよね?」
「うん。分かる問題があったから、やってみた」
「そう。ほかにも覚えているものがあれば、後で一緒に見てみましょう」
綾瀬は頷いた。
教室の反対側では、平田が何人かの生徒に、指示通りの点数にできたかを確認していた。
目標点どおりに答案を作れたか。
その確認が済めば、次は実際に誰と組むことになるかだ。
◇
翌日の4時間目、茶柱先生は答案の束を教卓に置いた。
「昨日の小テストを返す。自分の点数を確認しておけ」
列ごとに渡された答案が、後ろへ回されていく。
周囲では答案を受け取った生徒たちが顔を上げ始めている。
普段の試験なら点数を見比べている頃だが、今日は教卓の方を気にする者が多かった。
「全員、受け取ったな。続いて、これが期末試験のペアになる」
茶柱先生が黒板に紙を貼り出す。
そこには、小テストの点数とペアが記されていた。
高得点の生徒と、低得点の生徒。堀北が予想した通りの組み合わせだ。
堀北鈴音と須藤健。平田洋介と山内春樹。高円寺六助と池寛治。
高円寺はしっかり合わせてくれたらしい。まあ、あいつの場合はいつも高得点だから、いつも通りにやっただけなのかもしれないが。
そして、綾瀬心音と櫛田桔梗。
綾瀬が顔を上げた。並んだ名前を見てから、櫛田の席へ目を向ける。
「桔梗と?」
櫛田はその視線に気づき、小さく手を振った。
偶然なんだろうが......よりにもよって、この2人か。
満点も0点も、ほかにいる。得点を調整したとはいえ、その中から誰と組むかまでは選べない。
試験のことだけを考えれば、悪い組み合わせではない。
「残りの時間は、試験の準備に使って構わない」
茶柱先生の言葉を受け、平田が席を立った。
「みんな、ペアと話す前に少しだけいいかな。勉強会の時間も決まったから伝えておくね」
堀北も立ち上がり、平田と並んだ。
「勉強会は1部と2部に分けて行う。1部は授業が終わる午後4時から午後6時まで。こちらは私が担当するわ」
「2部は午後8時から午後10時まで。部活がある人も参加できるようにこの時間にしたんだ。こちらは僕が担当するよ」
「じゃあ、練習の後でも出られるな」
須藤が言った。
「須藤くんは午後8時なら間に合いそうかな?」
「ああ。飯も食ってから行けると思う。部活のない日は、4時の方にも出る」
「ええ。参加できる方へ来てちょうだい」
堀北が頷く。
櫛田も、クラスへ顔を向けた。
「私は、1部と2部の両方に出るね。分からないところがあったら、私にも聞いてほしいな」
「ありがとう、櫛田さん。助かるよ」
平田が礼を言い、参加する時間を後で知らせてほしいと付け加えた。
4時間目の授業が終わると生徒たちは早速、自分のペアのところへ向かった。
答案を持って話しかける者もいれば、昼食に誘う者もいる。
平田や須藤たちも、堀北のもとに集まった。
「心音ちゃん、よろしくね」
櫛田は綾瀬の席へやって来る。
「うん。よろしく、桔梗」
綾瀬は自分の答案を机の端へ寄せる。
空白の解答欄が櫛田の方へ向いた。
「私、分からないところが多いけど......」
「大丈夫。分からないところを教えてくれれば、一緒に勉強できるから」
「......うん」
綾瀬が頷く。
それから櫛田の顔を見上げた。
「私も、桔梗の役に立てるように頑張る」
「うん。頼りにしてるね」
櫛田は綾瀬へ笑顔を向けた。
綾瀬も嬉しそうに頷いている。
そのそばで平田がノートへ予定を書き込んでいると、別の声がかかった。
「平田。少しいいか」
平田に声をかけたのは、オレがほとんど話したことのない三宅明人だった。
その後ろには、男子の間で美人だと話題になる長谷部波瑠加もいた。
2人は中間試験の答案を手にしている。
「どうしたの、三宅くん?」
「長谷部とペアになったんだが、俺たち、得意な教科と苦手な教科が同じでな。それでちょっと困ってるんだ。何かアドバイスをもらえないか」
「どの教科が苦手なのかな?」
「文系の科目だ。解ける問題も、分からない問題も似ている。教え合おうにも、2人とも分からないところがあってな」
2人とも学力はほぼ同じ。
しかも得意不得意の傾向までそっくりだ。
「長谷部さんも文系が苦手なんだね」
平田が三宅の後ろへ目を向ける。
長谷部は少し離れたところに立っていた。
「まあね」
答えはしたが、輪の中へ入ってくる様子はなかった。
「よかったら、勉強会にも来てみないかな。分からないところを一緒に確認できると思うよ」
「勉強会、か......」
長谷部は手に持った答案を折り、集まる生徒たちへ目を向け、しばらくその様子を見ていた。
「ごめん。やっぱりこういうのはあたしには向いてないと思う」
「大勢で勉強するのは苦手かな?」
「周りに合わせてやるの、あんまり得意じゃないんだよね」
平田の返事を待つ間にも、長谷部は自分の席へ身体を向けかけていた。
「分かった。困ったらまた声をかけてね」
「うん。ありがと。みやっちー、先に戻ってるね」
「ああ」
長谷部が席へ戻る。
三宅はその背中を見送ってから、長谷部と同じように、集まった生徒たちへ目をやった。
それから、少し声を落とす。
「......相談しておいて悪いが、俺も女だらけの勉強会はパスだな」
「分かったよ。2人で進めてみて、困ったところがあったら教えてね」
「ああ。ありがとう」
三宅も自分の席へ戻っていった。
勉強会への参加は強制ではない。だが、2人とも同じところでつまずくのなら、教え合うだけでは難しいだろう。
どうしたものかと話し合っていると、幸村が近づいてきた。
「平田。今の2人のことなんだが」
「三宅くんと長谷部さん?」
「ああ。あの2人の勉強、俺が教えてもいい」
「本当かい? そうしてもらえると助かるよ」
まさに渡りに船。現状、教わる人間に対して教える人間が足りなすぎる。
「ただ、勉強を教えるのは引き受けるが、あの2人にどう話を通すかはそっちに任せたい」
「うん。そこは僕たちで考えるよ」
堀北も幸村へ顔を向けた。
「大勢で集まるのが苦手なら、別に少人数で勉強する形も考えられるわね。2人がどうしたいか、まずは聞いてみましょう」
「話がまとまったら、知らせてくれ」
幸村はそう言って、自分の席へ戻った。
引き受けたのは、あくまで勉強を教える役らしい。
「綾小路くん。あなたにも協力してもらうわよ」
堀北がオレを見た。
「教える方は期待しないでくれ」
「そちらは幸村くんにお願いするわ。あなたには2人がどういう形なら参加しやすいか、話を聞いてもらいたいの」
「オレが?」
「私が誘っても、長谷部さんを身構えさせるかもしれないでしょう」
ついさっき、こちらの勉強会を断ったばかりだ。
同じ相手から誘い直されれば、断りにくくなることもある。
「綾小路くんにも話してみてもらえると助かるよ」
平田までこちらへ顔を向ける。
気づけばオレも、その話に加わることになっていた。
「......分かった。やれるだけやってみるさ」
少人数で集まる形になるのか。それとも、分からない問題だけを幸村へ聞きに行くのか。
まだ決まっていないが、少なくとも勉強を教えてくれる相手は見つかった。
「幸村も勉強を教えるの?」
綾瀬がこちらへ顔を向けた。
「ああ。三宅と長谷部の勉強を見てくれるそうだ」
「鈴音たちと一緒に?」
「人数を減らして別に集まれないか相談してる。まだ、決まってないが」
「そっか」
その場の話し合いはいったん終わり、皆が席へ戻っていく。
オレが1人になったところへ、佐藤が綾瀬と一緒にやって来た。
この2人が一緒にいるのは少し珍しい。
「綾小路くん」
「2人、ペアなんだよね」
綾瀬がオレたちを交互に見る。
「そうだな」
「よろしくね、綾小路くん」
佐藤麻耶。
今回の試験で、オレとペアになった相手だ。
「ああ。よろしく」
「佐藤、お話ししたいって言ってたから。一緒に来た」
綾瀬がそう言うと、佐藤は少しだけ目を逸らした。
「......うん。勉強のことも、相談しておきたくて」
以前、佐藤にかけられた言葉が頭に浮かぶ。
あの時のやり取りがあるせいで、こうして声をかけられるだけでも返事を選んでしまう。
綾瀬まで一緒なのは少々予想外だった。
「せっかく同じペアになったし、放課後、一緒に勉強しない?」
「堀北の勉強会に出るのか?」
「それも考えてるけど......2人でやるのも、いいかなって......」
佐藤がオレの顔を見る。
その隣で綾瀬が頷いた。
「うん。2人で勉強したら、お話もいっぱいできるね」
「......そ、そうだね」
佐藤の声が少し小さくなる。
「私も桔梗と一緒に勉強する。分からないところ教えてもらうんだ」
綾瀬は自分たちのペアの話をする時と同じ調子だった。
試験の相手と一緒に勉強して、話す時間が増える。それをそのまま良いことだと受け取っているらしい。
「2人も、もっと仲良くなれたらいいね」
綾瀬がオレと佐藤へ顔を向ける。
その言葉に、佐藤は一度オレを見てから綾瀬へ小さく頷いた。
「......うん。そうなれたら、嬉しいな」
綾瀬は、恐らく恋愛の話をしているつもりではない。
佐藤が同じ意味で頷いているとも思えなかった。
2人の視線がオレへ戻ってくる。
「......放課後は幸村に三宅と長谷部の勉強を見てもらう話が出ていてな」
ひとまず、決まっていることを答えた。
「綾小路くんもそっちで勉強するの?」
「どういう形になるかはこれからだ」
「そっか......」
佐藤は少し考えてから、またオレを見る。
「じゃあ、決まったら教えて。休み時間でもいいし、少しだけでも、一緒にできたらいいなって」
勉強の相談としては何もおかしくない。
だが、さっきから佐藤がオレの返事を待つたびに、どう答えればいいのか迷ってしまう。
「分かった。予定が決まったら、連絡する」
「うん。待ってるね」
佐藤の表情が明るくなった。
「よかったね、佐藤」
「......うん。ありがと、綾瀬さん」
礼を言われた綾瀬は頷いた。
オレと佐藤が話せたことを、素直に喜んでいるのだろう。
佐藤は女子たちのところへ戻り、綾瀬も櫛田のいる席へ歩いていった。
しかし、疲れるな。どうしても佐藤に気を遣ってしまう。
ペアになった以上、これからも、こうしたやり取りをすることになるのだろう。
◇ ◇ ◇
放課後。今日から勉強会が始まる。
鈴音はもう少し準備をしてから行くって言ってた。だから私は桔梗と先に向かうことにした。
鞄を持って立ち上がると、佐倉と目が合った。
佐倉が私のところへ来る。
「あ、あの......綾瀬さん。少し......話してもいい?」
「うん。いいよ」
佐倉は口を開きかけて、隣にいる桔梗を見た。
また私を見たけど、何も言わない。
「もしかして、2人で話したいことかな?」
桔梗がそう聞くと、佐倉が小さく頷いた。
「それなら私は先に行くね。心音ちゃん」
「分かった」
「ありがとう、ございます......」
「ううん、気にしないで」
桔梗が教室を出ていった。
私は佐倉を見る。
「ここで話す? 廊下に行く?」
「......廊下でも、いい?」
「うん」
廊下に出ると、佐倉は教室から少し離れたところで足を止めた。
私もその隣で止まる。
「どうしたの?」
佐倉は手に持った答案を見た。
「今日、堀北さんたちと勉強するんだよね?」
「うん。鈴音と、桔梗もいるよ」
「そっか......」
「佐倉も一緒に来る?」
佐倉が教室の方を見た。
教室にはまだ何人もいる。あちこちから声がして、誰かが笑った。
佐倉は少しそっちを見てから、首を振った。
「私、人が多いと......分からないところがあっても、聞けなくて」
「聞けない?」
「みんなが話してると、いつ言えばいいのか分かんなくなっちゃうの。あとで聞こうって思ってるうちに、次に進んじゃって......」
佐倉の指が答案の端っこを押さえる。
「綾瀬さんとは、一緒に勉強したいんだけど......」
「じゃあ、人が少ない方なら聞ける?」
「......うん。たぶん」
「それなら......幸村も勉強を教えるんだって。今日、少ない人数でできないかなって話してたよ」
佐倉が顔を上げた。
私は教室の方を見る。綾小路はまだ席にいた。
「綾小路くんもそっちで勉強するの?」
「まだ決まってないって。佐倉も、聞いてみたら? 三宅と長谷部にも声をかけるんだって。2人とは話したことある?」
「話したこと、ない......」
「......一緒に行こうか?」
佐倉が私を見る。
何か言いかけて、ゆっくり首を振った。
「ううん。私から話してみる」
「うん」
佐倉はまだ私のそばにいた。
私は、そのまま佐倉の顔を見た。
「私......綾瀬さんがいてくれると、安心するの」
「そうなの?」
「うん。普段あんまり話さない人と話す時も、綾瀬さんが一緒だったら大丈夫かなって思って......」
小さな声。でも、ちゃんと聞こえた。
「でも、いつも一緒にいてもらうわけにはいかないし......分からないところも、自分で聞けるようになりたい」
佐倉が私を見た。
「綾瀬さんがいなくても......頑張ってみたいの」
「うん」
「あ、でも......一緒にいたくないとか、そういうことじゃなくて......!」
急に声が大きくなった。
佐倉は口を閉じて、それからまた小さな声で話す。
「綾瀬さんとは、これからも話したいから......」
「うん。私も話したい」
佐倉が答案を持ち直した。
「終わったら、どんなだったか教えて」
「......うまく話せなかったら?」
「それも教えて」
佐倉が、私を見て黙った。
私も、佐倉を見る。
「だって、佐倉の話、聞きたいから」
「......うん」
佐倉が笑った。
よかった。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
佐倉が教室へ戻っていく。
扉の手前でこっちを振り返ったから、手を振る。佐倉も頷いて、それから中へ入った。
綾小路の机の横で佐倉が止まる。
「あの、綾小路くん......」
佐倉の声が聞こえた。
佐倉のことは、綾小路に任せよう。きっと大丈夫。
学年別最優秀選手の報酬は何ポイントだと思いますか?
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それ以下
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5万ポイント
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10万ポイント
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50万ポイント
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100万ポイント
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それ以上