放課後、オレは図書館へ足を運んだ。
今日は幸村たちとの勉強会がない。堀北たちの方にも一度顔を出しておこうと思ったのだ。
中へ入ると、教科書を広げた生徒たちの姿が見えてきた。
クラスメイトに混じって、思っていなかった顔がある。
一之瀬もいるのか。
彼女の周りにはBクラスの生徒たちも座っていた。Dクラスの生徒と同じ教材を覗き込んでいる者もいる。
「あ、綾小路くん。今日はこっちで勉強?」
こちらに気づいた一之瀬が顔を上げた。
「ああ。一之瀬たちも一緒にやってるんだな」
「うん。昨日、ここで堀北さんたちと会ってね。都合が合う日は一緒にやろうって話になったんだ」
「そうだったのか」
こちらの勉強会に参加するのは初めてだ。
堀北たちだけでやっているものと思っていたが、すでにBクラスとの協力まで取りつけていたらしい。
「分からないところがあったら、こっちにも聞いてね」
「助かる」
堀北もノートから顔を上げた。
「来たのね。空いている席を使ってちょうだい」
「じゃあ、ここにしよ。綾小路くん、そっちね」
空いている席を探しかけたところで、佐藤が椅子を引いた。
隣の席を示してこちらを見ている。
どうやらオレの座る場所も決まっているらしい。
腰を下ろすと、向かいでは綾瀬と櫛田がノートを開いていた。須藤は部活で欠席していた。
少し離れた席にいた松下が佐藤へ小さく手を振る。
佐藤も小さく手を振って応じたあと、こちらへ向き直った。
「今日、急に私も参加するって言っちゃって......迷惑だった?」
席を選んでいた時とは違い、返事を待つ間だけ少し不安そうな顔になっていた。
「いや。来られる人は参加していいって話だからな」
「......そっか。よかった」
佐藤の表情が緩む。
「今日一緒にできるの、楽しみにしてたんだ」
「ああ。できるところを進めておこう」
「うん。......私もちゃんとやらないとまずいし」
佐藤が中間試験の答案を出した。
解答欄には間違いを示す印がいくつもついている。
「特に数学。解説を読んでも途中から何してるのか分かんなくなるんだよね」
答案を見せる時だけ少し顔が曇った。
中間試験の成績からしても余裕を持って今回の試験を迎えられる相手ではない。
「まずはどこから分からなくなったのか確かめた方がいいだろうな。ここなら堀北たちにも聞けるし」
「......うん。じゃあまずはここからね」
佐藤は参考書を二人の間へ広げた。
それから自分の椅子をこちらへ寄せる。
椅子の脚が擦れる音がして、彼女の肩がすぐ隣に来た。
オレはノートを置きかけたまま動きを止めた。
座った時にはもう少し間があったはずだ。
「こっちの方が一緒に見やすいでしょ?」
「......ああ。そうだな」
返事をするまでに少し間が空いてしまった。
同じページを見るにしても、ここまで詰める必要はあるのだろうか。
椅子を離そうかと思ったが、足を動かしかけてやめる。わざわざ距離を取れば、それも露骨すぎる気がした。
かといって、この距離で何も気にせず勉強を始めるのも難しい。
佐藤に以前かけられた言葉まで思い出し、余計にどうすればいいのか分からなくなった。
「綾小路くん?」
「......悪い。どこからだったか?」
「ここ。印つけてきたんだ」
佐藤が分からない問題を指した。
オレは自分の腕を少し引き、空いたところへノートを置いた。
「池くん、山内くん。今日は問題を進める方に集中してちょうだいね」
「分かってるって。今日はちゃんとやるからさ」
池が参考書を引き寄せた。
「俺も昨日よりは進めるつもりだし」
山内もノートを開く。
堀北は二人の手元を見て頷いた。
「解説を読んでも分からないところはそのままにせず聞くこと。分かるところから進めてちょうだい」
いくつかの席から返事が上がった。
オレもノートを開く。
「これ、どうして次がこの式になるの?」
佐藤が解説の途中を指した。
自分のノートにも途中まで書いているが、そこから先は空白のままだ。
「前に習ったやり方を使ってるんだ。授業のノート、残ってるか?」
「あると思う。......ちょっと待って」
佐藤がノートをめくる。
該当する説明を見つけ、参考書と並べた。
「あ、これ? でも、どこで使えばいいか分かんなかった」
「この条件をこっちへ当てはめてみればいい」
指で示すと、佐藤がさらに身を寄せた。
思わず顔を上げかけ、途中で止める。今そちらを向けば、問題より先に彼女と目が合いそうだった。
オレは参考書へ視線を戻した。
「......じゃあ、ここから書き直すの?」
「ああ。途中を省かず書いてみた方がいいと思う」
「うん。やってみる」
佐藤はペンを持ち直した。
書き始める前に一度こちらを見て、少しだけ笑う。
「何だ?」
「ううん。綾小路くん、ちゃんと一緒に見てくれるんだなって」
「解説を一緒に読んでるだけだぞ」
「......うん。そうだよね」
佐藤はノートへ顔を戻した。
口元にはまだ小さく笑みが残っていた。
「なあ。お前ら、何か仲良さげじゃね?」
近くの席から池が小声で言った。
佐藤が顔を上げる。
「ペアなんだから、当然でしょ」
返事に迷いはなかった。
むしろ、どうしてそんなことを聞くのかと言いたげな顔だった。
「......そりゃ、そうだけどよ。俺と高円寺もペアなんだけどな」
池がオレたちを見比べ、肩を落とした。
「俺も女の子とペアがよかった......」
頬杖をつき、参考書へ目を落とす。
そのぼやきに答えることなく、佐藤はこちらへ向き直った。
「ね、綾小路くん。ここの続き見てもらってもいい?」
「ああ」
顔を戻すと、思っていたより近いところで目が合った。
オレが何か言う前に、佐藤はノートをこちらへ寄せてくる。
池への返事といい、その後の態度といい、彼女にはためらいがない。
オレだけがいちいち反応しているようで、どうにも落ち着かなかった。
勉強の相談には答えられる。だが、それ以外に何を期待されているのかを考えると、簡単な返事まで迷ってしまう。
とりあえず、今は問題を見よう。
幸村たちと勉強している時にはそんなふうに自分へ言い聞かせる必要はなかった。
佐藤の書きかけの式を確かめ、使うところをノートで示した。
彼女が続きを書き始めたところで向かいへ目を向けると、綾瀬は開いたノートを見つめていた。
ペンの先は解答欄の上で止まっている。
「桔梗。最初、何するんだっけ」
「昨日ノートに書いたところを見てみようか」
櫛田がページをめくる。
綾瀬はそこに書かれたものを指で追い、問題へ目を戻した。
「これ?」
「うん。それを見ながらもう一回やってみて」
綾瀬が頷く。
ようやくペンが動き始めた。
櫛田は自分の参考書へ目を落としたが、綾瀬の手が止まるとそちらへ顔を向けた。
すぐに答えを教えることはない。
どこで分からなくなったのかを聞いてから、ノートの前のページを見せていた。
「できた」
しばらくして、綾瀬がノートをずらした。
櫛田は途中に書かれたものも確かめ、最後の答えに丸をつける。
「うん。合ってるよ」
綾瀬はその丸を見た。
「桔梗の説明、分かりやすかった」
櫛田が顔を上げる。
「......そう?」
「うん。一人だったら、最初分からなかった」
「昨日のところ、ちゃんと見直せたもんね。次も分からなくなったところから一緒に見よう」
「うん。桔梗と組めてよかった」
櫛田は綾瀬を見たまま、少しだけ返事をしなかった。
やがて、ゆっくりと笑顔になる。
「私もだよ。心音ちゃん」
綾瀬がノートを引き戻してからも、櫛田はまだ彼女を見ている。
「桔梗の勉強は?」
「私はあとで大丈夫。今のうちに分からないところを一緒にやっておこうよ」
「いいの?」
「もちろん」
返事は早かった。
櫛田が参考書を二人の間へ置き直す。
「じゃあ次はこっちをやってみよっか」
櫛田が別の問題を指した。
綾瀬はそちらを見てから自分のノートを開く。
「その前にこれ聞いてもいい?」
「どれ?」
「ここ。鈴音が、分からないところは印をつけておいてって。これ、まだ分からない」
ページの端に小さな印がついていた。
櫛田はその箇所を見たあと、一度だけ堀北の方へ目を向けた。
堀北は離れた席で別の生徒の質問を聞いている。
「......そっか。じゃあそこから見ようか」
「うん」
綾瀬はノートを櫛田の方へ寄せた。
櫛田も椅子を少し近づけ、問題文に目を通す。
「まず心音ちゃんがどこまで分かったか教えてくれる?」
「ここまでは昨日のと一緒だと思った」
「うん。そこは合ってるよ」
やり取りを聞いているうちに、佐藤が書き直したノートを差し出してきた。
教わった説明を横に置き、途中の式を省かず書き直していた。
今度は最後の答えまで合っている。
「これでいい?」
「ああ。合ってる」
「よかった......」
佐藤は答えを確かめてからオレの顔を見た。
「次も同じようにやればいい?」
「似てるが、条件が少し違う。そこを確かめてみろ」
「そっか。......じゃあやってみるね」
先へ進もうとしても、そのたびに確かめることが出てくる。
今日少し教わっただけで、安心できる状態になるわけではなさそうだ。
オレも自分の参考書を引き寄せた。
向かいのペアばかり気にして、自分の相手を待たせているわけにもいかない。
それからも佐藤に聞かれた問題を一緒に確かめているうちに時間が過ぎた。
佐藤は何度も手を止めたが、分からないところを曖昧にしたまま先へ進もうとはしなかった。前の説明を見返し、それでも分からなければまたオレへ声をかける。
ただ、質問するたびにノートだけでなく本人まで近づいてくる。
オレは何度か姿勢を変えながら参考書へ目を戻した。
「じゃあ今度は自分でやってみるね。ちょっと待ってて」
佐藤が問題へ向き直る。
その間に近くへ目を向けると、Bクラスの女子が松下へ声をかけていた。
「その参考書、今使ってる? 解説、ちょっと比べてみたくて」
「うん。大丈夫だよ。どの辺り?」
女子が教科書を見せると、松下は該当するページを探し、開いて渡した。
「ここでいいかな」
「ありがと。さっき教えてもらったところなんだけど、こっちの問題だと分かんなくなっちゃって」
松下は渡した参考書と女子のノートを見比べた。
女子は解説を読み始めたが、途中でまた手を止める。
近くに戻ってきた一之瀬を呼び、同じ箇所を指した。
「ここも見てもらっていい?」
「うん。どこまでできた?」
一之瀬がノートを覗き込む。
松下は自分の教材を少し寄せ、二人が見やすいように場所を空けた。
そのまま説明を聞いている。
「さっきの問題とはここの条件が違うんだよ。だから、同じところから始めると途中で合わなくなるの」
「......あ、そっか」
女子が答えを消す。
一之瀬は最初から解き方を教え直すことはせず、どこを確かめればいいかを示した。
今度は女子も自分で続きを書き始める。
「次もやってみるね。分かんなくなったらまた聞いていい?」
「もちろん」
一之瀬は笑って答え、別の席へ向かった。
松下も自分のノートへ目を戻す。
貸した参考書は女子の手元に置いたままだった。
しばらくして、女子が参考書を閉じた。
「ありがと。こっちの説明も分かりやすかった」
「もう大丈夫そう?」
「うん。次のもできた。先に条件を確かめればよかったんだね」
開いたままのノートにはさっきとは別の問題の答えが書かれていた。
松下はそちらへ一度目を向け、頷く。
「そっか。よかったね」
参考書を受け取り、元の場所へ置き直した。
教えてもらっても途中で止まったことも、その後は自分で解けたことも、松下は隣で見ていた。
堀北はその間も席を回り続けている。
説明を終えたところへ別の席から声がかかる。ノートを持ったまま彼女の手が空くのを待っている生徒もいた。
一之瀬たちも質問を引き受けていたが、全員を待たせずに見ることは難しいらしい。
しばらくして、堀北が綾瀬たちのそばへ来た。
「綾瀬さん。分からなかったところは聞けている?」
「うん。桔梗が教えてくれる」
「そう。ほかにも困ったことがあれば、声をかけてちょうだい」
綾瀬が頷く。
櫛田も顔を上げ、堀北へ笑顔を向けた。
「心音ちゃんのところは私が見ておくよ。堀北さんもほかに待ってる人がいるよね」
「ええ。ありがとう。助かるわ」
堀北は二人のノートを確かめる。
それから綾瀬へ少し声を落として尋ねた。
「自分で見直す時も、この説明のページは見つけられそう?」
「......ここ?」
「ええ。分からなくなったらまずここを開いてみて。見ても分からないところはまた聞いてくれていいから」
「うん」
綾瀬が示されたページの端を指で押さえる。
櫛田が付箋を取り出した。
「ここにつけておこうか。次にやる時すぐ開けるように」
「ありがとう」
綾瀬は一度ノートを閉じ、端に出た部分を目印に開き直した。
「分かる」
「うん。じゃあ次はそこを見るところからやってみようね」
櫛田が答えた。
堀北も小さく頷き、別の席へ向かった。
時計の針が午後6時に近づく頃、質問する声も少なくなってきた。
堀北が各自で区切りをつけるよう伝え、何人かが教材を揃え始める。
櫛田は綾瀬が答えを書き終えるのを待ち、ノートを確認してから顔を上げた。
「堀北さん」
通りかかった堀北が足を止める。
「この後も、問題を作るんだよね?」
「ええ。まだ候補を考えているところよ」
「そっか......勉強会もあるし、大変だよね。私にも何か手伝えることはないかな?」
堀北は少し考えてから、櫛田の前に置かれた参考書へ目を落とした。
櫛田自身が使っていたものは脇へ寄せられたままだった。
「ありがとう。でも、問題の方は大丈夫よ。あなたには勉強会でも十分助けてもらっているもの」
「それなら、問題が出来た時に先生のところへ持っていくくらいはできるよ。それだけなら時間もかからないし」
櫛田が言う。
堀北はその申し出にも首を横に振った。
「提出は私がするわ。最後に確認したものを直接渡しておきたいから」
「そっか。分かったよ」
櫛田は頷いた。
勉強会では櫛田の助けを借りていても、提出については譲らないらしい。
「夜の勉強会もあるでしょう。そちらもお願いすることになるけれど、大丈夫かしら」
「うん。それは大丈夫だよ」
「ありがとう。私も作成の方を進めておくわ」
堀北が手元のノートを閉じた。
櫛田は自分の教材を揃えながら、もう一度口を開く。
「じゃあ、前に話を聞いた先輩に参考書のことだけでも聞いてみようかな。去年問題を作る時にどんなものを使ってたのか。勉強会の方でも役に立つかもしれないし」
「ええ。教えてもらえるなら、お願いするわ」
「うん。分かったら伝えるね」
堀北は礼を言い、まだ質問が残っている生徒のところへ向かった。
櫛田も自分の参考書を閉じる。
「桔梗」
綾瀬がノートを持っていた。
「これ、もう一回やってくる」
「うん。今日みたいに説明を見ながらで大丈夫だからね」
「分かった」
「できなかったところもそのまま残しておいて。また一緒に見ようね」
綾瀬は頷き、ノートを鞄へしまった。
櫛田が自分の勉強を進めていた時間はほとんどなかった。
それでも綾瀬がノートをしまうまで、先に帰り支度を終えようとはしなかった。
「綾小路くん」
佐藤に呼ばれ、顔を向ける。
「次も一緒に来ようよ。今日できなかったところ、また見てもらいたいし」
「......これからは幸村たちの方に参加することが多くなると思う」
「この前話してた勉強会?」
「ああ。幸村に全部任せるわけにもいかないからな」
「そっか......」
佐藤の手が参考書を開きかけたところで止まった。
「じゃあ次はいつ来られるか分かんないんだ」
「今のところはな」
「......分かった。向こうの約束もあるもんね」
そう言って笑ったが、さっきまでより声は小さかった。
開きかけた参考書を閉じ、鞄へしまう。
綾瀬がその様子を見ていた。
視線が佐藤からオレへ移る。
「またこっちにも参加してくれるよね?」
「......予定が合えばな」
「うん。じゃあまた一緒に勉強できるね」
綾瀬が頷く。
その言葉を聞いて、佐藤も嬉しそうに顔を上げた。
「来られる日があったら、教えてほしいな。少しだけでもいいから」
二人の視線がオレへ向く。
綾瀬は、佐藤がオレと勉強したがっているから声をかけたのだろう。
だが、そこでオレまで「また一緒に」と答えていいのか迷ってしまう。
「......来られる時は連絡する」
「うん。待ってるね」
佐藤の表情が少し緩んだ。
綾瀬もそれを見てから鞄を持ち直す。
幸村たちの方が多くなるとは伝えたはずだ。
なのに、次はこちらへ来る日を待たれている。
オレは参考書を鞄へ入れながら、もう少しうまく説明する方法はなかったのかと考えていた。
向かいでは櫛田が自分の教材をまとめていた。
綾瀬に見せていたノートを閉じ、その下へ参考書を重ねる。
自分で解きかけていた問題に続きを書き込むことは、その後もなかった。
◇ ◇ ◇
「堀北さん、今日はありがとう。また一緒にやろうね」
帰り支度を終えた一之瀬さんが近くの席から声をかけてきた。
「ええ。こちらこそ助かったわ」
Bクラスの生徒たちを見送り、私も鞄を手に取った。
それから櫛田さんへ目を向ける。
彼女を呼び止めるなら、今だった。
勉強会が終わったあとで少し時間をもらおうと思っていた。
その前にもとこかで話し合えないか相談したけれど、予定があるからと断られている。
「桔梗、もう帰る?」
声をかけたのは綾瀬さんだった。
櫛田さんが顔を向ける。
「うん。心音ちゃんも、一緒に行こう」
そのやり取りを見て、私は開きかけた口を閉じた。
櫛田さんが私だけを相手にするとは限らない。
今ここで話を切り出せば、綾瀬さんを頼るかもしれない。
これから話そうとした内容はそれぐらい危険なものになる。
しかも、私と話した内容をそのまま伝える保証もなかった。
堀北さんに困らされている。助けてほしい。
そう言われた時、綾瀬さんはどうするだろうか。
私と櫛田さんの間の問題を彼女に引き受けさせるつもりはない。
話をするなら、その可能性への備えもしてからだ。
「堀北さん?何かまだ話すことがあった?」
こちらを見ていた櫛田さんが尋ねる。
「いいえ。夜の勉強会もよろしくお願いするわ」
「うん。任せて」
櫛田さんは笑顔で頷いた。
「鈴音、またね」
「ええ。お疲れさま」
綾瀬さんにもそう返し、二人が出ていくのを見送った。
寮の部屋に戻ると、私は鞄から封筒を取り出した。
中に入っているのはCクラスへ出題するために考えている問題の原稿だ。
まだ完成には遠い。問題文を書きかけたものもあれば、使えるかどうか決めかねている案もある。
作成を進めているのは、私と平田くん、そして幸村くんの三人だった。
ほかの生徒に協力を頼むことも考えたけれど、原稿を目にする人間が増えるほど、内容を外へ持ち出される機会も増える。
問題作成に関わる人数は絞っておきたかった。
図書館でも原稿は広げず、参考書や説明用のノートとは分けて持ち歩いていた。
今はそれを机へ並べて読み直す。
幸村くんが挙げた候補の一つでペンを止めた。
問題文にある条件だけでは、想定した答えとは別の答えも成立してしまう。
不足している条件を書き足し、もう一度解き直す。
解答の方にも途中の説明を加えておいた。
ただ難しい問題を作るだけでは足りない。
問題文の聞き方も解答も、まだ確かめることは多かった。
修正した箇所に印をつけてから、平田くんへメッセージで連絡した。
『幸村くんが出してくれた案に少し条件を加えてみたの。明日、二人にも見てもらえるかしら』
『もちろん。幸村くんにも伝えておくよ』
平田くんからはすぐに返信が来る。
『ほかにも使えそうなものがないか、探してみるね。今ある候補ももう少し比べてみたいし』
『お願いするわ。こちらでも考えておくから』
それぞれ勉強会を抱えている。問題作成だけに時間を使えるわけではない。
互いに見直しながら少しずつ形にしていくしかなかった。
『勉強会の方はどうだった?』
『昨日よりは進んでいると思うわ。ただ、説明を聞いた時には解けても、一人になると手が止まってしまう人もいるの』
綾瀬さんもそうだった。
櫛田さんに教わった箇所は見直すための目印もつけていた。次はそれを使って、どこまで自分で進められるかを確かめたい。
『その場で分かったかどうかだけではなく、時間を置いて解き直すところまで見た方がよさそうね』
『分かった。夜の方でも気をつけてみるよ。ペアでも確かめ合ってもらおうかな』
『お願いするわ。教わった直後と同じ問題だけでなく、少し条件が違うものもやってもらえると助かる』
『うん。試験では別の問題を解くことになるからね』
問題作成に時間を使っても、私たち自身が点を取れなければ意味がない。
勉強会の進め方も、参加しているというだけで安心させないようにしておく必要があった。
メッセージでのやり取りを終え、原稿へ目を戻す。
明日二人に見てもらう分をまとめ、まだ書きかけの案とは分けておく。
書き直す前のものが混ざらないよう、修正を頼む箇所にも印をつけた。
問題が揃う前から、そこは曖昧にしない方がいい。
提出は、私がする。
今日、櫛田さんにもそう伝えた。
彼女は綾瀬さんの勉強を見ながら、ほかの生徒の質問にも答えてくれていた。夜の勉強会でも助けてもらうことになる。
それでも、問題を先生へ渡すところまで任せるつもりはなかった。
茶柱先生に確認しておくべきことは、
問題が完成したら、最後に自分で確かめたものを直接渡す。
途中で別の原稿と混ざったり、確認前のものが提出されたりする余地をわざわざ作る必要はない。
もちろん、提出すればすべて終わりというわけでもなかった。
提出された問題はほかの生徒も確認できる。原稿を大事に保管しているだけで、その内容まで守り切れるとは考えていない。
Cクラスへ何も伝わらないことを前提に、勝てると決めつけるつもりはなかった。
出題の準備とこちらが点を取るための準備。その両方を進める。
原稿の端に今日の日付を書き入れる。
「10月20日......」
書き終えた数字を見て、ペンを止める。その少し先に日付に目がいった。
目印を頼りにノートを開き直していた彼女の姿が浮かぶ。
少し考えてから時計へ目を向けた。
少しだけ、ケヤキモールを覗いてみようか。
何を選ぶかは、見てから考えればいい。
櫛田さんとの話は明日以降にする。
どう切り出すかももう少し考えてからでいい。
今日のうちに済ませておきたいことはほかにもあった。
書き直すべきところはまだ残っている。
戻ったら、そこから再開しよう。
原稿を封筒へ戻し、鞄を持って部屋を出た。
学年別最優秀選手の報酬は何ポイントだと思いますか?
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それ以下
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5万ポイント
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10万ポイント
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50万ポイント
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100万ポイント
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それ以上