あの後三馬鹿達に悪戦苦闘しながら勉強会を終えて寮への道を歩いていると、目の前をある人物が横切った。
───高度育成高校生徒会長、堀北学である。
「兄さん……」
思わず口に出すと、堀北兄はこちらに視線を向けてきた。
「鈴音……部活動説明会の時に顔を見て以来だな」
こちらを観察するように全身を見て学はそう言った。
「は、はい……」
正直とても緊張する。入学前の堀北鈴音を知っている人物であり、作中随一の傑物である堀北学だと全く気が抜けない。
万が一
初期は厳しい態度を取ることもあったが、作中全般を通して妹を心配している1人の兄だけに
「その髪型は……昔のものとはまた違うが、切ったのか?」
「はい、この学校に入学するにあたって今までの自分から変わる必要がある……そう思ったので」
「……そうか」
顔怖い……早く帰りたい……
「……あとで寮の裏手の所に来い。話がある」
不良みたいな呼び出し方するなお前な、と思ったが流石に口に出せる雰囲気ではない。
「……わかりました、兄さん」
そう口にするのが精一杯だった。
部屋に戻り、勉強道具を置いてから急いで部屋を出てエレベーターに飛び込み、1階を目指す。
こういう時上の方の階に部屋があると不便だ、ぼうっとそんな事を考えながらエレベーターに乗っているとゆっくりとエレベーターは動き出す。
腕掴んで壁に押さえつけられる原作の展開を知っていると正直あまり行きたくはないが……綾小路と学を引き合わせるためにも行かないわけにはいかないだろう。
「はぁ………」
ため息をついているとエレベーターが1階に到着した。
いよいよか、と覚悟を決めて寮の裏手に歩き出す。
「1ヶ月でDクラスからCクラスに上がったそうだな、鈴音」
寮の裏手に着くと、思いのほか優しい声音で学が話しかけてくる。
「これは学校始まって以来の快挙だ、少なくとも俺が記録にあたった限りではDクラスが上のクラスに上がった事例はないからな」
「……ありがとうございます」
「そしてその立役者は鈴音、お前だと聞いたんだが……事実か?」
ここは隠しても仕方ないだろう。
「はい、私が初日に担任の茶柱先生にポイントに関して質問して……それでクラス全体で努力していこうと」
「クラス全体で……か。鈴音、髪型のこともそうだが、大きく変わったようだな」
……「大きく変わった」の意味が「鈴音が成長しててお兄ちゃん嬉しいぞ」なのか「お前誰やねん」なのかわからないから反応しづらい!
「……この学校に入学するにあたって、過去の自分について考えていたんです」
「何か反省すべき点はなかったか……と」
「振り返ってみると私は、他者と関わろうともせず自分一人でずっと居ました」
「それじゃ駄目なんだ、と思って」
「だからクラスメイトの協力を得る為に動いたと?」
「はい」
「そうか鈴音、お前は───「堀北?何やってるんだこんな所で」
と、ここに原作通りの闖入者───尤も展開はだいぶ違うが───が入ってきた。
「あ、綾小路君?」
「コンビニでも行こうとエレベーターを待っていたらモニターに堀北が写っているのが気になってな。なにか深刻そうな表情をしてたから、後をつけてきたんだ」
「堀北、ところでこの人は生徒会長の堀北学……だよな?名字が同じってことは兄だったりするのか?」
「ええ、この人は私の兄よ」
そんなふうに話していると、学がこちらを見て興味深そうにこう言った。
「ほう、お前が綾小路清隆か」
「生徒会長がオレなんかの名前を覚えてるとは思いませんでした」
「いや、お前は自身が思っているより印象的な人物だぞ?入試と小テストで全科目50点を取り、体育の授業では未経験者とは思えないタイムで泳ぐ……何者なんだ、お前は?」
……今更だけどなんで一介の生徒会長に他生徒の成績とかその辺見れる権限あるんだろうなこの高校。
「……なんてことないただの高校生ですよ」
「……あくまでしらを切るか」
「面白いと言えばむしろ、そこのあんたの妹さんの方がよっぽど面白いですよ」
え?私?
「……鈴音が?」
「入学する時バスが一緒で、そこで知り合ったんですが、よくご飯食べに行ったりしますよ」
おい綾小路その言い方は誤解生むだろ。普通に一緒に昼学食行ったりコンビニ行ったりしてるだけじゃねえか。
「……まさか鈴音にも男子の友人ができるとはな」
学さん凄い驚いてはる……
「堀北……堀北鈴音さんとは仲良くさせてもらってます。男子の友人……ボーイフレンドってやつですかね」
だからさっきっから言い方よ!というか「男子の友人」と「ボーイフレンド」は完全に別物だろこの
「……そうか。ところで綾小路」
「なんですか堀北生徒会ちょ───」
と、いきなり学が目にも留まらぬ速さで拳を動かした。
原作でもお馴染みの裏拳の構えだった。
無言で綾小路がこれを回避すると、前蹴り、突き、回し蹴り……とどんどん打ち込んでいく。
「───っぶね」
その全てを最小限の動きで躱し続ける綾小路。
「何のつもりなんだ、あんた」
と、ここで綾小路が反撃に出た。
綾小路の方もジャブ、ストレートと言った手技からロー、ミドル、ハイキックに更には組み付いてクリンチからの肘打ちや膝蹴りを仕掛けようとしたりかなり本格的に打撃を打ち合っている。
当然、学も自身の実力───空手5段、合気道4段と高校生とは思えない腕前である───を発揮して打撃をブロックしたりクリンチを解除して逆に投げ飛ばそうとしたりといよいよ格闘戦の様相を呈してきた。
───そう言えばアニメ2期12話って総合格闘技のジムの監修が入ってて、そこの代表の専門はレスリングとキックボクシングだったっけ……たしかにホワイトルームで格闘もみっちり仕込まれた綾小路の再現にはそういう監修も要るよなー……と半ば現実逃避気味に眺めていたが、そろそろ止めないといくらカメラがないこの場所とは言え大怪我でもしたら大問題になる。
「2人とも、何してるの!?」
私が大きな声を掛けるとようやく2人が動きを止めた。
「綾小路……お前、明らかに何か格闘技を習っていたな?」
「……書道とピアノなら」
いや無理があるだろ。
「最初はその体力と運動神経を測るために寸止めで反応できるか試そうとしたんだがな……予想以上の反応をされてつい熱くなってしまった」
お互い無傷だから良いけど何してんだ。
「鈴音の友人だと聞いてな……つい試したくなった」
ほらやっぱりさっきの発言が原因じゃねえか綾小路。
「鈴音。どうやらお前の友人は相当な実力者のようだ……上のクラスに上がる為に必ず必要だろう、大事にしろよ」
そう言うと学は制服のネクタイを直して去っていく。
「堀北……お前の兄さん、相当強いんだな」
「空手5段に合気道4段なのだけど……綾小路君、本当に格闘技の経験はないの?私も武道の経験はあるけど、明らかに貴方素人じゃないでしょう」
「………書道とピアノのおかげだな」
どこがだよ。
よう実に全く関係ない話になるんですが、Amazonで配信してるFalloutのドラマがとても面白かったので皆さん是非見てみてください