「……皆は既に知っているようだが、現在CクラスとDクラスの間にトラブルが発生している……このクラスの須藤とDクラスの4名が喧嘩を行った件だ」
ホームルーム開始直後、茶柱先生はこう発言した。
尤も茶柱先生も言ったように既に事件については全員知っているので、特に大した反応はない。
「この事件に関しての事実確認や処分が確定するまで7月のポイント支給は差し止めになる。当事者と教員・生徒会を交えての審議の後、その処分によって変動した最終的なクラスポイントが7月分として支給される予定だ」
「ええ~マジかよ!?俺先月のポイント使い切っちゃったんですけど!」
しかしポイントが支給されない、となると話は別だ。一気に騒がしくなる教室内。
と言うか今さらっとポイント使い切ったって言ったやつ誰だよ。中間テストの分がまだ反映されてないとは言えそれでも55000ポイントあっただろ。
「皆、すまねえ!Dクラスで同じバスケ部の奴らに呼び出されて行ったら、いちゃもんつけて殴りかかってきて……俺のせいだ」
須藤が立ち上がって頭を下げる。
昨日事情説明をした時にクラスチャットでは謝罪させておいたが、こうして目の前で改めて謝罪させておいた方が心象が良いだろう……と説き伏せて教室内でも謝罪をさせた。
見た目にもわかりやすく怪我をしているだけにより受け入れられやすくなるはずだ。
「須藤君は悪くないよ!4人がかりで殴りかかってくるなんて酷いと思う」
「あたしも櫛田さんに同意~。4人で1人襲うのはヤバ過ぎでしょDクラス」
櫛田と軽井沢がそれを受け入れる姿勢を見せたため、須藤に同情的な意見が多くなる。
「現在学校側では目撃証言を探しているが……誰かこの事件の目撃者は居ないのか?」
しかし茶柱先生の問いかけには沈黙する教室内。まあ事件現場である放課後の特別棟なんて普通誰も行かないよな……
尤も私はこの教室内に目撃者が居ること、意図せずして証拠写真を撮ってしまった事を知っているんだが。
その上
この目撃証言を挙げることは彼女の秘密であるグラビアアイドルであることを明かしてしまうことに加えて、4月からストーカー被害に悩まされていてそれどころではないのを考えると仕方ないよなあ……
まあ、佐倉の持ってる証拠写真はこのまま行けば後で回収できるしな。まずは自分で仕掛けた隠しカメラの方を回収しないと……
万が一龍園や一之瀬達に回収されたら面倒なことになる。
「須藤の件、大事になったな」
……などと考えていると隣の席から綾小路が声をかけてきた。
「ええ、全くその通りね。まさかDクラスがこんな事を仕掛けてくるなんて」
「……その口振りからするに、堀北は須藤が喧嘩を始めた側だというDクラス側の主張を全く信じていないんだな」
「昨夜クラスチャットにこの事件の事を書く前に須藤くんと直接通話したのよ。彼の慌てぶりと説明を聞いて、これは間違いなく須藤君の主張が正しいと思って」
「なるほどな……たしかに昨日、クラスチャットで須藤が事の次第を書いた後色々補足したりしてたもんな。ところでこの後はどうするんだ?」
「私は放課後に喧嘩が起きたっていう特別棟に向かってみるわ。なにか証拠が残ってるかもしれないし」
「そうか。ならオレも一緒に───」
「申し訳ないけど綾小路君は櫛田さんと他のクラスで目撃者が居ないか聞き込みに行ってきてもらっていいかしら?当事者のDクラスは除外するとして、それ以外のクラスであれば誰か証言してくれる人が居るかも知れないもの」
「櫛田と……か」
綾小路に隠しカメラの存在を知られたくなかったのでとりあえず原作同様Bクラスに向かわせようとすると、綾小路が渋る様子を見せた。あれ?
おかしいな、
櫛田さん指紋べっとり事件の日*1は綾小路の動向をそれとなく気を付けていたけど
別の日に発生してたんだろうか?でもそんな
「……綾小路君?」
「堀北がそう言うならオレはそれでいい。Dクラス以外だとAかBクラスがあるが、どっちに聞きに行けば良い?」
「Bクラスが良いんじゃないかしら。以前図書館でDクラスの男子と須藤君達が勉強会の途中で口論になったことがあったでしょう?あの時仲裁してくれたBクラスの一之瀬さんなら何か力になってくれるはず」
Aクラスに今の段階で行かれるとちょっと困ったことになりそうだからな……具体的には坂柳とか坂柳とか坂柳。
「
「Bクラスの一之瀬……ああ、あの美人の」
どんな覚え方してんだ綾小路。いやたしかに原作でも地の文でそう評してた*2けど。
「覚えていたなら良かったわ。それじゃよろしくお願いするわね」
それから数時間が経過した放課後、私は1人で特別棟に立っていた。もちろん隠しカメラを回収するためである。
しかし暑いなこの特別棟……この学校制服の夏服がないからブレザーの制服を一年中着ることになる訳だけど、7月に冷房効いてないところでこれは無理があるだろ…
そんな事を考えつつもここにこのタイミングで来る可能性がありそうな龍園や佐倉が居ないことを確認して隠しカメラの設置場所に向かう。
……よし、ちゃんと設置した場所にあったな。他の誰かに回収されてたらどうしようかと思った。しっかり鞄に仕舞って……と。
映像の確認は部屋のパソコンでするとして、あとはさっさとここからオサラバ───「堀北、まだここに居たか。ちょうど良かった」
声に驚いて振り返るとそこには綾小路が居た。
───何故ここに?櫛田と聞き込みに行かせたはず……
「櫛田達と聞き込みに行ったんだが、あいにく一之瀬が教室に居なくてな。他の生徒に聞き込みはしたんだが結局特に成果もなかったからな」
そ、そういうことか……心臓止まるかと思ったわ全く。
「……ところで堀北、ちょっといいか?」
「何かしら綾小路君、目撃証言の事だったら別にそんなに急がなくても───」
「櫛田と堀北は中学時代に何かあったのか?」
は?
なんでこの段階で綾小路がそれを質問してくる?
「……急にどうしたの綾小路君、なんでそんな事───」
「この前櫛田が堀北の……愚痴を言っている所にたまたま遭遇してな。その時に中学時代の話をしてたから気になってな」
……あー、こりゃやっぱ
「それに堀北が櫛田の知られたくない過去を知っているようなことも言ってたからな。何か過去に因縁でもあったのか?」
この段階でそこまで言ってたのか。これはちょっと意外だ。綾小路がこれを知るのはもっと先の話だと思ってたんだが。
「……そうよ、私と櫛田さんは同じ中学校の出身……尤も3年間ずっと違うクラスだったし、
「なるほどな……じゃあなんで初対面のフリをずっと続けてるんだ?それは堀北が知っている櫛田の隠したい過去に関係しているのか?」
まいったな、やっぱりそこ聞いてくるか……こんなに早い段階で伝えて良いものか悩むな。
「いくら綾小路君相手でも人の過去を吹聴する事なんて私には───「櫛田が堀北を退学させたいほど嫌っていてもか?」
……マジかー………いや堀北鈴音が同じ学校出身な時点でこっちがある程度態度を変えて接しても避けられない事ではあったが、こうして目の前にそれを突きつけられるとちょっとクルものがあるな……
「……そう、彼女がそんな事を………」
「明らかにその秘密が堀北を退学させる事に関係してるんだ、教えてくれないと
「対策?」
「オレは友人に退学してほしくはないからな。それに堀北だって目標があるんだろ?」
……そこまで心配してくれてるとは。
「そうね、私の目標の為には退学させられるのは困るけど……」
「なら教えてくれ」
「……そこまで言われたら仕方ないわね」
結局私は櫛田の過去について綾小路に打ち明けた。あくまで「他クラスの噂」という体で、特に当事者でもない私が知ってたらおかしい事は言わないようにしたが……知ってることを知らないように演技するのって結構大変だな。
「櫛田にそんな過去が……それを知っているとなると退学させようと考えるのも当然か」
「私としては正直そんな過去のことを暴露する気もないし、仲良くしたかったのだけど……残念ね」
「それで堀北はどうするんだ?」
「どう、って?」
「櫛田を説得するのか、それとも……逆に櫛田に退学してもらうのか」
……思ったより過激な選択肢出してきたなこれ。
「……今すぐには決められないわね。出来れば説得したいけど……」
「そうか、わかった……堀北がそう決めたならオレはそれに従うだけだ」
特別棟にカメラを回収しに来ただけなのにとんでもない事になってしまった……