続きじゃないよ。
以前のものは整合性チェックにつき消滅しました。
吹き荒れる風。頬を叩く砂粒。いつもの光景。
砂漠のど真ん中。どれだけ見渡しても黄色く、草木の一本もない。澄み切った青い空の下、全裸の少女が佇んでいた。
──全裸である。下着もなければ隠すものも一切ない。そんな全裸少女は、空を見上げてぼーっとしていた。
「どこだここ……」
少なくとも、ここは少女が知る場所ではなかった。
空を見上げれば青く、澄み渡っている。ここまでは一緒だ。しかし、まるで魔法陣めいた幾何学模様の光の円。ここからでも見える、天まで伸びる白い光の柱。こんな
「手持ちは、ない。性別は……変わっている。義手義足は残っているのに、か?オクラン*1の仕業か……いやこの場合はナルコ*2か?器用なことをする……頭になんか変なのもあるし」
そんな少女だが、自身の体をペタペタと、鋼鉄の腕で触れる。鋼鉄なのは腕だけではなかった。両足の太ももは途中から鋼鉄の装甲に覆われており、隙間から油圧シリンダーや分厚いケーブルが見える。それは両腕も同様であり、彼女の両手足は機械化していた。
「だが、まあいい」
少女は問題を先送りにする。この程度、いつものことだ。
いつも、こうだった。
「どう生きようか」
頭の上に浮かぶ、鉄色のヘイロー。それを揺らしながら、少女はふらふらと砂漠を歩き始めた。
見たことのない、コンテナ状の家を見つけた。
“アビドス砂漠”の周辺調査を託された第B部隊から入った通信。そんな彼女らが属する、『カタカタヘルメット団』の頭目たるヘルメット少女は、アビドス砂漠で見つけた家とやらの調査を、そのままB部隊に任せた。これから【アビドス高等学校】を襲撃するにあたって、わかりやすいイレギュラーは排除しておこう。という真っ当な命令。
だが、その命令を下してから二日経った。
第B部隊は、未だに戻って来ていない。
そんなB部隊の調査を託された第C部隊。B部隊と同じく四人と少数で固められた彼女たちは、最後にB部隊から通信があった、家がある場所らしいポイントへと赴いていた。全員同じ格好で、同じ兵装。しかし中身まで皆同じではない。砂漠の中で、個性豊かな声色が交わされる。
「なあ、こんなところに本当に家があるってのかよ?」
「一応ここはアビドス自治区の郊外だ。住宅街でもねぇし、砂漠のド真ん中だ。そんなところに家が建つはずがねぇだろ。プレハブだったとしてもよ」
「お腹すいたなー」
「我慢しなよ。最近のボス、張り切ってるみたいだし。おかげでご飯が貧相なのがむかつくけど」
バイクにでも乗るのかと思わせる、黒いフルフェイスヘルメットと、校章のない黒いセーラー服に身を包んだ、四人の少女たち。彼女らには例外なく、頭の上に白色のヘイローが浮かんでおり、それぞれアサルトライフルを手にしている。
この世界──学園都市【キヴォトス】において、彼女ら『ヘイローを浮かべた少女たち』の存在は当たり前のものである。
キヴォトスに生きる学生たちは、皆可愛らしい少女であり、頭にヘイローなる輪っかを浮かべている。極め付けに学生たちは例外なく一挺以上の銃器を所持しており、当たり前のように亜音速で飛び交う鉄弾で喧嘩する。ちょっとの小競り合いや、道端に落ちた百円玉の取り合いですらも銃撃戦で解決しようとする。何故なら彼女らは銃弾一発でデコピン程度のダメージしか喰らわない、タフな人類種だからだ。
そんな彼女たち、C部隊は、そろそろ第B部隊が報告した家を目にしようとしていた。
確かに、砂漠のド真ん中にポツンと家があった。まるでかたつむりにも似た形状の、二階建ての巨大家屋。ベランダであろう場所には小型の風力発電機があり、家の周辺には何かの野菜を植えているであろう畑。井戸があり、水を貯めるタンクがあり、巨大な柱を回転させる工業機械*3がごうんごうんと動いている。その横には全裸に剥かれて泣きじゃくっている、公衆電話ボックスサイズの檻にそれぞれ分けて入れられた第B部隊の三人の姿があり──
「いやいや待て待て待てェ!!」
C部隊の隊長格は思わず叫んだ。おかしい。報告では、B部隊が見つけた家はコンテナ状ではなかったか。家は立派な姿をしており、周りには畑。しかも井戸までご丁寧に掘られている。こんなに目立つ風貌をしているのなら、「コンテナ状」なんて報告はバカでもしない。
しかも、探していたB部隊の三人は、それぞれ全裸に剥かれて外に置かれた檻に閉じ込められているという状況。ヘルメットどころか制服も、パンツの一枚も残さず剥がされ、生まれたままの姿で閉じ込められているその有様は、見せしめにしてはあまりにもやり過ぎている。
「ぐず……ぁ、た、助けて!お願い早く!」
「終わりだ……ハハハ、アタシの人生……」
「もう無理……お嫁に行けない……」
「お、おう!助ける!助けるから待ってくれ!流石にこれは想定外だッ!?」
見ていられなかったのか。それともあまりの光景に我を忘れていたのか。C部隊の皆は顔を青ざめさせながら、三人の助けに向かう。
それが、罠とも知らずに。
「当身ッ」
「コ゜ッ!!」ズシン!
──気がつくと、C部隊の四人は、彼女らと同じくして、全裸に剥かれて檻の中へ入れられていた。
目が覚めると、古い電球で照らされた木造の部屋の中。おそらくあのかたつむりみたいな巨大家屋の中なのだろうが、中は様々な机だらけだった。色々な色の布地や裁縫道具が置かれた白い机*4に、妙に古臭い機械だらけの台*5、熱された石が詰め込まれた釜と金床が組み合わさった施設*6……様々なジャンルの創作を行える、工房の中のような場所に、C部隊の隊長は訝しむ。
(ここは、あの家の中か?美術室みてーな……ウソだろ、アタシも全裸じゃねぇか……!)
最後の記憶は、頸の後ろに強い衝撃が来たことだけ。そこから目覚めるまでの間、自分も仲間も皆全裸と化している。パンツ一枚も残さず剥がされたが、隊長を任命された彼女は、泣きたい気持ちを堪えて冷静に周囲を観察する。
(……ウチの仲間もいるな。伸びてるし、まあこっちも全裸か。血も涙もねぇ)
局部を両腕で隠しながら見渡すと、すぐ側に同じように檻に納められた仲間の姿があった。当然全裸にされており、まだ気絶したままのようで、変な体勢で眠っている。できればそのままこの悪夢を見ないで欲しいと思った隊長だが、それは叶わないだろうと考えてしまう。
(……アタシが迂闊に助けに行かなきゃ、いや、アレは正しい判断だろ。流石に全裸で外晒しは、こう……ワルでもやっていいレベルの行為じゃあねぇだろ!やった奴マジで許さねぇ……ん?)
突如、遠くからガラガラガラッ!と引き戸を開ける音がした。慌てて隊長は寝たふりをしつつ、耳を立てる。
コツコツと足音。それは徐々にこちらに近づいて来ており──机が並ぶ部屋に顔を出した。
(……こんな奴いたか?)
隊長が見たのは、ボサボサ気味の茶髪。セミロングヘアの少女だが、くりくりとした大きな目に宿る瞳は黄金色。思わず宝石のようだと思える綺麗さのある瞳だが、そんな綺麗さを打ち消すように、ハイライトが無く死人めいて覇気がない。
背丈はおおよそ150センチほどか。胸はそんな背丈に見合う小ささだった。服装はカタカタヘルメット団の制服。しかし見ての通りヘルメットは被っていない上に、彼女の顔は初見だ。
手足は鋼鉄で出来ており、いわゆる義手義足。そうだと気付いたのは、さも当たり前のように機械の手足を動かしているのを見てから。何故なら、キヴォトスで義手義足の生徒など、百人中百人が「見たことない」と言うくらいには、キヴォトスの生徒は四肢を切断するほどの負傷に縁がない。動く鋼鉄の手足を目にすれば、嫌でも義肢だとわかるだろう。
そんな彼女は、大きめのボストンバッグを肩に下げており、スナイパーライフルを背負っている。スナイパーライフルは団の中でも見たことのない型式であり、おそらく良い店で買ったのだろうと思った。
(うらやま……)
「起きたか」
「っ!?」
「気絶させた時とポーズが全く違えば、阿呆でも
義手義足の少女は、ボストンバッグを下ろしてこちらに近付く。
「えーっと、お前は……
「……あぁ」
何故、自分の名前を?隊長──エリは静かに頷くことしかできない。
「まず、お前に聞きたいことがある。二日前だったか、ヘルメットの集団が私の家に襲撃してきた。これはお前の命令か?」
「…………」
「ふむ、違うようだな。もっと上位の者がいると見た」
「……っ!?」
黙るという選択肢を取ったのが、間違いだったか。反応から情報を読み取られたエリは、キッと目の前の義手義足の少女を睨みつける。しかしそれは少女には効かない。
興味を無くしたと言わんばかりに視線を外し、背中を向けて床に下ろしたボストンバッグを漁る。ガサゴソと取り出したのは、白色の下着セット。それも七人分だ。
「二日前に来た四人だが、一人は指名手配だったから『矯正局』とやらに売った。文無しだったものでな、服も銃もお前たちが持っていた携帯機器も売らせて貰った。「えっ」財布にあったカード類と身分証は売れなかったが……まあ身分証程度なら返そう。ついでに」
「待てや!!」
「なんだ?」
エリは強引に彼女の話を止める。聞き捨てならない言葉が並んでいたからだ。
「う、売った……って、アタシらの服売ったのか!?ヘルメットも!?」
「あぁ」
「スマホもポイントカードも!?!?」
「スマホ……?」
「携帯機器つっただろ!スマートフォンだよ!スマホ!売ったってマジ!?」
「あぁ、アレスマホと言うのか。売ったよ。八台分。内容データも合わせて良い金になった。ポイントカードは一部だけやけに高値で売れたな」
「…………その、スマホって、どこで売った?」
「『ブラックマーケット』」
──絶望するしかなかった。
ブラックマーケットで物を売られる。すなわち闇市に自分の持ち物が出回ってしまったとなれば、取り返すことはほぼ不可能。既に売られたか、あるいは法外な値段で売られて手をつけられなくなったかのどちらか。スマホのデータとなれば、なおのこと高値で売られただろう。
「お……」
「お?」
「お前本当に血も涙もないのかよ!!」
「いや、これくらい普通では?」
「普通な訳あるかボケ!パンツも残さず剥ぎ取って全部売るとか乞食でもしないだろ!!」
「は?乞食な私はこうしてでも金を稼がねばパン一つすら買えないが」
「は?」
「え?」
沈黙──
「……い、いやそんなわけねーだろ。こんだけやって買えるのがパン一つとか、キヴォトスの物価そこまで高くねーだろうが」
「……それもそうか。うん、すまない。君たちを剥いでゲットした金は30万くらい*7だから……パンが413Cat*8……いや、この世界だとパンが100円程度だったから300個パンが買える!なんてことだ!?」
「お前どういう環境で育ってきた???」
薄々感じてはいたが、この少女、何かが決定的にズレている。まさか本気で他人が身につけているものを一粒残さず売り飛ばすような人間だとは思わなかった上に、ところどころ口に出す単語から見えてくる、致命的な常識の食い違い。「この世界」と、まるでキヴォトスを知らないような口ぶりからして、彼女に対してとんだ田舎者だとエリは感じた。
「……なあ、おい。お前どこの学園のモンだよ」
「学園になど入っていない。気が付けばここにいた」
「んじゃ、いわゆる『外』ってヤツか?」
「あぁ、キヴォトスだったか。その『外』から来たのだろう……どうやって来たのかは、わからない。気が付いたら裸でここにいた」
だからいつも通り獲物を剥ぎ取って、いつものように金を稼いだ。
そう話しながら、淡々とボストンバッグから荷物を取り出してゆく彼女は、最初に取り出した下着セットをエリに、まだ眠っているB部隊の面々へと渡してゆく。
「……なんのつもりだ」
「最低限の衣類だ。服は……弁償はできないが、作れはする。構わないか?」
「そうじゃねぇ!アタシらを、どうするつもりなんだ」
二度目の沈黙。しかし、少女の作業の手は止まらない。下着セットの他に、身分証である学生証が配られる。学生証には『停学』の印が捺されているが、少女が捺したものではない。カタカタヘルメット団に入る以前から捺されたものだ。
ヘルメットは失われ、武器もない。様子からして下着はくれるようだが、それだけで自分は捨てられるのか。このキヴォトスで、このだだっ広い砂漠の中で、それだけはとエリは思った。
「……一つ聞きたい。この世界では、奴隷制度だったり、敗者は勝者に絶対服従といったシステムはあるか」
「んな物騒なシステムあるわけねーだろ!?」
「じゃあまあ、最終的に君たちの意思に従おう。その上で聞きたい。私と徒党を組まないか」
「……え?」
「ふぅむ……言い方を変えよう。私の仲間になってみないか?」
少女の言葉を聞き、エリの脳裏に浮かんだのは、これまでの人生。
ちょっとした小競り合いを起こしてしまい、結果停学の烙印を捺されてしまった自分。行く場所もなく、生きる糧もなく、なし崩しにヘルメット団に入ったその時を。今のヘルメット団は、裕福だ。だが、同時に地獄でもあった。大量の金が
この人生は、自分が望んだものだろうか。
否、そんなわけがない。停学だって、本当は嫌だった。
生きるために、仕方がなかった。
そう理由を付けて、ヘルメット団に入り、自らを捨てて生きているつもりだった。
だがコイツはどうだろうか。そういう性が染み付くほどに、コイツは生きるために足掻いている。人の服をパンツすらも剥ぎ取り、相手のあらゆる所持物を無慈悲に売り捌く。
血も涙も、手足も無くなるほどに、足掻かなければならない環境で育ってきたのだろう。
彼女に対して、同じ言い訳ができるだろうか。
「……なあ」
故に、エリの回答は明白だった。
「アタシはお前の下に着くわけじゃねぇ。ただ、アンタの非常識っぷりは見てらんねぇよ」
「……あい分かった。私は余所者だから、君たちから見て非常識なのは自覚している」
だから、よろしく頼む。
そう言われて、檻の隙間から差し伸べられた鋼鉄の手を、エリは握った。
「ところでお前、名前はなんていうんだ」
「名前か。んー……そういえばあっちでも聞かれたな。いやどう答えようか」
「……まさか名前もねぇってのかよ」
「いや、ある。あったんだが、今の私は生まれ変わったようなものだしな……うむ、決めた」
「決めたってオイ。まあいいけどよ」
「
「もしも彼……いや、彼女がアビドスに拾われなかったら」
「いや、彼女がかつての世界のように生きていくと決めたのなら」
「今頃、彼女は砂の王として君臨していただろう」
「……アビドスはどうなったのか?それは、まあ」
「なんとか、いい感じになっているんじゃないかな」
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