Blue Kenshi【旧作】   作:外道カヤノ

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第九話:BEE BEE BEEEEEEEEEP!

 「神秘」。軽く聞いた言葉を自分なりに解釈すれば──その者が持つ“特別な力”だろうか。

 例えば、セリカが怒りに燃え上がった際に放つ銃撃。単純に怒り任せの乱射にも関わらず、その威力は見てわかるほど威力が高まっていた。

 例えば、シロコのドローンミサイル。アレの威力は、どう見てもシロコが調合した火薬量と比例していない。あまりにも威力が大きすぎる。

 

 彼女たちは、そこになんの疑問を持っていない。いや、むしろ疑問を抱いたとしても、気にはしないだろう。

 それこそが「神秘」。神々が秘めているからこそ、通常ではありえざる事象を引き出すことができる。理論的に説明のできない、不思議な力。

 

「私には、"(いかずち)ちゃん"という相棒がいてね。その子は私が個人的にカスタムした椅子なのだが」

「椅子」

「たまに、設計や想定以上の性能を引き出したり、知らない動作を行ったりする。ああ、もちろん良い意味でね。コトリは一番わかりやすいだろう。なんとなく、思いつかないかな?」

「……説明や解説だろうな。本当に知識量が凄まじいが、アレほどの知識量は全知にも等しいだろう」

 

 どこかで白い天才美少女ハッカーがくしゃみをした気がするが、気のせいだろう。

 

「割とこじつけに近いけどね。だけど、どこか説明のつかない事象、あるいは力が、私たちの中にあるのは確かだ」

「それを、「神秘」というのだな」

「あぁ。それが君の場合──」

「──"かつての世界の技術"、ということか」

 

 だとすると、不思議なものだ。

 かつての世界の技術とは、ほとんどが【第一帝国】と【第二帝国】が残した、失われた機械技術だ。全て、"設計図(ブループリント)"か、第一帝国と第二帝国が造った"技術書"と"AIコア"を研究することで、()()()()()()()()()()()、当時の機械技術を習得することができた。もちろん、科学への理解力が必要となるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、バカでも覚えられる。

 いわば、誰にでも覚えられるし、運用も可能な技術なのだ。

 それが、この世界では私だけの「神秘」となっている。──いや、まさか。

 

「研究──そうか、ウタハたちエンジニア部は、義肢の製法に関して研究しなければ運用できない、ということなのか?」

 

 だとしたら、それは……あまりにも残酷なことだろう。

 必要な知識の大本である、技術書とAIコアは、生産不可能な資源だ。技術書を執筆しようと思えばできなくもないが、果たしてその時間、作るためのリソース、道具はアビドスにあるのか。

 

 答えは明白だろう。かつての世界の技術──否、かつての世界の神秘は、私の中にだけ存在しうる。

 時間をかければ「神秘」たりうるその技術を解明するのも可能だろう。だが、それは何日後だ?一ヶ月後、あるいは一年後か。仮に一年だとすれば、その時のウタハは──

 

「……すまないな。私の「神秘」とやらが、こんなところで足を引っ張るとは」

「ハハハ!文字通り、君の義足に引っ張られてしまった気分さ。けどね、それも悪くないと思えるのさ」

 

 ウタハは空になった缶を手に取り、立ち上がる。その眼差しは空の向こうにあり、挑む者の目つきをしていた。

 

「君に与えられた宿題、必ず解いてみるさ。なに、ミレニアムにだって“千年難題”なんて、今の技術では解けない七つの難題が存在しているんだ。もし分からなければ、君の神秘が八つ目の難題に入るだけだよ」

 

 技術者として、物作りのマイスターとして、譲れない熱意。朱く染まりつつある日差しに照らされた彼女の姿は、まさしく燃え上がっていた。

 

「──強いな。君は」

「君こそ」

 

 互いに、笑みを交わす。それが面白かったのか、喉から笑い声が出てきた。

 

「さて……盗み聞きとは。先の奴ではなさそうだが、出てきたらどうだ?」

 

 ロビーから見える、通路へ続く出入り口辺り。そこからずっと、何かの気配を感じていた。ウタハもそれは分かっていたようで、同じ方向を見る。

 すると、隠れて見ていた存在は、素直に姿を現した。

 

 草色のポニーテールの少女だった。背丈はアヤネくらいだろうか、若干ヨレヨレなミレニアムの制服を纏っており、その……デカいなぁ!その胸は!?……なんともトランジスタグラマーな体格をしており、オドオドと気弱そうな様子を見せる。パッチリと開いた目、純粋無垢な黒い瞳がこちらを見つめており、彼女は恐る恐る口を開いた。

 

「な、なぜバレたのですか……」

 

 バレバレだったぞ。何せ体の半分が、というか見るからに突き出たソレが壁越しからも見えていたが。

 

「なんだ、ビープくんか。こちらはアビドスから来た客人だよ」

「なるほどビープ……Huh?

 

 ビープ……?ビープ、え?ビープ……???

 

 ……彼女がァ!?!?!?

 

「ウッソだろお前!?!?」

「ん?知り合いだったのかい?」

「知り合いも何もっ、お、おまっ、お前がビープゥッ!?」

「え、ま、まさか……()()()!?」

「あぁ!アレサだ!今はトウハという名だが、お前っ!!」

 

 アレサ。その名前を知る者は、かつての世界で生きていた者しか知らぬだろう。

 私が男の時の名前。そして、かつての世界で共に過ごしてきた、仲間たちには馴染み深い名前のはずだ。

 それを、

 

 

「覚えて、くれていたのか……!!」

 

 

 思わず膝から崩れ落ちてしまったが、それでもビープの元へと駆け寄る。いや、もう彼女の姿が美少女に変わっていようが関係なかった。這うように走って、飛びついて、溢れ出た涙など気にも止めず抱きついた。

 

「ビープぅ……っ!」

「アレサ、なのか……ハハハ!ビープはここにいるぞ!サイバービープではなくなったが、今では最強無敵のプリティビープだ!!」

「すまなかった。本当に、本当に……ごめんっ、ごめんなぁ……っ!」

 

 ビープ。かつての世界では、霧に囲まれた街で孤立していた、幼い虫人(ハイヴ)。変な口癖と、最強に憧れる、少年心の強い子だった。当然、初めて会った時は私が即座に保護した。

 かわいい奴だった。働き虫人(ワーカードローン)だったから、とても働き者で、頑張り屋だった。最強になるために義手義足に憧れているというとんでもない思想*1の持ち主だったが、結局四肢がもげて義肢になった際には「サイバービィィィイップ!!」と喜ぶような奴だった。

 

 殺した。

 私が自暴自棄になった時。全てを滅ぼそうと決めた時、必ず殺した。

 彼は必ず、私に立ち向かったから。理不尽に絶対に負けない、強い心の持ち主だったから。

 

「ごめんよビープぅぅ……っ、わたしが、わたしがよわかったから、みんなを、まちを……全部こわして……!」

 

 あぁ、死人が目の前にいる。もう出会う事は無いと確信していたはずの親友が、微笑んでいる。私が悪いのに。私が弱かったから、君を殺したのに。どうしてそんなに、優しい笑顔を向けるの。

 

「……ビーは最強なんだ。だから、アレサの弱いところも、強過ぎて体を穴だらけにされたことも、全部許すのだ。それに、泣いてるアレサもかわいい」

「……ばかがよぉ」

 

 ……くそっ、本当に、かわいくなったなぁ。

 私が泣き止むまで、ビープの手はずっと頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイヴ。正確にはウェスタンハイヴのワーカードローンたるビープは、種族名の通り人類種ではあるが人間ではない。姿カタチは人間と同じだが、肌の色が草色で、手は指三本。脚は刀の鞘のようになっており、生まれる個体は全員牡である。何せ、彼らは“女王”と呼ばれる唯一の牝個体から生まれる生態であり、雌雄の概念を理解していても、性に対する意識の差異を知らない。

 

 頭部は特にハイヴの特色が強く出ており、それぞれ生まれた時の役職によって形状が違う。働き虫人(ワーカードローン)は長方形みたいな形状で、守衛虫人(ソルジャードローン)はカマキリめいたもの。最後に監督虫人(プリンス)は、丸みがあって一番人間の頭部に近い。

 彼らはプリンスを村長とし、ソルジャーとワーカーを配備して村を築く。もう察しが付いている者も多いと思うが、ハイヴはアリとハチのような社会性を持って生活をする人種だ。

 

 ビープもかつてはその一体だったらしい。しかし、ある時に自身の役割というモノの異質さに気付き、知らぬ間に霧に囲まれた街まで彷徨っていた。というのが、ビープの過去である。

 こうした()()()が生まれることは稀にあることのようで、ちょくちょく自らの村を離れて旅をするハイヴを見かけることがある。ごく稀に村を捨ててまで家出したプリンスもいたが、今はどうでもいいだろう。

 

「ビープ、お前にもあるんだな」

「フハハハ!良いだろう、このヘイローは気が付いたらあったのだ」

 

 今のビープは、どこからどう見ても、キヴォトスの少女たちと同じだ。手足のないアリを模したような、黄色のヘイローを浮かべたプリティビープは、自慢げに胸を張る。

 

「この子は夏蚕(なつご)ビープ。数日前に、裸で倒れていたのをセミナーが見つけて保護したんだ。今ではみんなのアイドルさ」

「目覚めたらビーは帝国の奴隷になっていたのかと思ったぞ!だけど、気が付いたら人権を手に入れていたのだ!」

「数日前、か。それって、もしや──日前か?」

「そうだね。ちょうどその時だと聞いたかな……ところで、トウハとビープくんはやたら仲が良いと思っていたけど、もしやビープくんも?」

「そうか。そうか……あぁ。彼、じゃない。彼女は私がかつていた世界の住民であり、私の仲間でもあった。ただ、このような形で出会うとはな」

 

 この世界に、おそらく同じタイミングで訪れたのだろう。

 そして、ビープにはしっかりと記憶があった。私と出会い、私が永遠と繰り返し、最終的に何度も世界を滅ぼした時の記憶が。

 かつての世界にいた頃は、私以外は皆、何回繰り返ししても記憶を保持いていた者はいなかったはずだ。しかし、なぜ彼……じゃない、彼女は覚えている?あの時は何も覚えていなかったはずなのに。

 

「……頭が痛くなってきた」

「興味深いけど、残念ながらその手のオカルトは専門外かな」

「ビーは何も考えないことにしたぞ」

「クソッ、私が解かねばならない謎かこれは!」

 

 ケラケラと笑うビープの姿に、なぜかとてつもなく心配になった。

 先も述べた通り、ハイヴは雌雄を理解しているが、性別ごとの意識の差異を知らない。にも、関わらずだ。

 そんなデカいおっぱいを抱えた姿に、どうしてなってしまったんだ。絶対に、人間の女性になったことで、様々な()()が崩れて苦労しているのが目に見える。

 

「ビープ……私はいつでも相談に乗るぞ。連絡先を交換しよう」

「? ビープは連絡先を持っていないぞ」

「おいウタハどういう事だ」

「私に聞かれても……あぁ、今のビープはセミナーの意向でね、生徒登録はしたけどスマホは持たせていないんだ」

「……マジ?」

「大マジさ。まあ、セミナーの思惑は私に聞かれてもわからない。ここは現職のユウカに聞くべきじゃないかな?ほら」

 

 ウタハが指をさした方向に目を向けると、キョロキョロと辺りを見渡した後、こちらのを見て駆け寄るユウカの姿があった。

 

「ビープちゃん!やっと見つけた……もう、勝手に部屋から出ないでと言ったはずよ!」

「ビーは自由に動き回りたいぞ!軟禁は条約違反だ!」

「ほう、ユウカ。君はかわいいかわいいビープを軟禁していると?」

「ヒッ!?と、トウハさん!?待って、何が起きてるの!」

「ユウカ、ビープくんはトウハのかつての仲間だったみたいだ。早く事情説明をしてあげないと、恐らく新しい義肢のシミになるだろうね」

「うっそぉっ!?」

 

 慌てるユウカを肴に、ビープが笑う。そんなユウカは、私を暴走させまいと、ビープがミレニアムに訪れたあれやこれやを話始めるのだった。

 けど、それよりも。

 

 ビープが、楽しそうに生きているのを、もう一度見れて良かった。

*1
しかし最強への最適解だったりする。肉の手足は機械と比べると脆い。





 ウタハが「神秘」のアレコレを知っているのは、まあツッコミどころはあると思います。ただ、彼女が三年生であり、様々な物に触れ、作り出すマイスターであるので、彼女なら一部でも知っているだろうと思いました。

 むしろ、研究者思考の生徒が多く集うミレニアムだからこそ、ゲマトリアまでとはいきませんが「神秘」について探究するメンツくらい居てもおかしくはないと思っています。知ったら……どうなるのでしょうかね。




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 次回、陸八魔アル回

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