Blue Kenshi【旧作】   作:外道カヤノ

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 ゆっくり進行


第十四話:行き先は?

 先日は集まって会議ともいかず、かといって柴関ラーメンに行くムードでもなかったため、日を改めた翌日の朝。

 何故か怒り気味なアヤネと先生が一緒に到着した後、校門前にて、今月の利息の返済が行われた。

 “カイザーローン”とペイントされた車。見てきた限りでは随分と安物の車で、運転手でもあったカイザーローンの職員が、後部座席を無理やり取っ払ってできた荷物置きにバッグを置いていく。あの中には、アビドスが支払った今月分の利息──788万3520Cat(カタン)*1……ではなく円──分の現金が詰め込まれてある。私たちがせっせと集めた大金が、こうもあっさりと消えてなくなるとは。

 

「おい、律儀に“カイザー”とあるじゃあないか。これ本当に借金に当てられるのか?」

「それをこれから確かめるのよ。悟られちゃダメだから静かに!」

 

 セリカ、そうは言うが昨日の今日でカイザー関係のものを見たら本当にストレスが溜まるようになってきた。日々、シロコが銀行を見る度に強盗計画をシミュレーションするように。私も日々、カイザー系列の建物を見たら爆破解体計画をシミュレーションするべきだろうか。

 

「はい、今月分の利息の確認が取れました。これからもカイザーローンをご贔屓に、よろしくお願いします」

 

 我慢できねぇ〜!殺すぞ〜!!

 

「ブリキ野郎の癖にキノコみたいな頭しやがって!!(※キヴォトスNワード)!!」

「ちょっ!?トウハ抑えてっ、ああもう!誰か手伝って!」

「ん、関節キメる」

 

 ガキィンッ!!

 

「ぐごお゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」

「私も参加しま〜す♢」

「あっおっぱあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!すいません許してください何でもしますから!シロコ様ノノミ様オクラン様!!」

「……と、ところで、そちらの方は大丈夫なのでしょうか?」

「あー、今ウチじゃあプロレスごっこが流行ってるんだよね。気にしないで」

「で、では私はこの辺りで……」

 

 ブロロロ……と無情に姿を消す現金輸送車。しかし、その車体と車のナンバーはしっかりと控えてある。今では、先生が独自のネットワークで追跡中だ。

 本当は荷物置きのところに隠密して入り込みたい気持ちでもあったが、流石に昼間に、しかも人目の多いこの状況で隠密行動はできない。それに、昨日こってりノノミに絞られたばかりだからな……

 

"追跡は今のところできてるけど、電波や街頭カメラが行き届かない場所に行ったら、その辺りを調べようか"

「本当に便利ですね、その端末」

"うん。優秀な子がいるからね"

 

 実は先程のプロレスごっこだが、ただの演技。私が死にかけているのと同時に、ホシノが私でなければ見逃してしまう程の速度で、車体の底辺りに発信機(ビーコン)を取り付けた。あの様子からして、バレてはいないだろう。ビーコンから割り出された位置情報は、リアルタイムで先生の端末に表示されている。先生の言う通り、電波が続く限り、あるいは車を替えられない限りは追跡できるはずだ。

 ちなみにビーコンは安心と信頼のミレニアム製である。エンジニア部製ではない。

 

 本当は現金を入れたバッグに仕掛けたかったが、バッグに金属探知機をかけられる可能性があったため車にした。そのため、上述の懸念もあって上手くいく確率は少し低い。

 

 ……ところで、義肢だから関節部分は人体よりも可動域は広い設計なのだが、それを踏まえた上で関節をキメられた時にかなり痛かったのはやはり神秘のせいか???

 

 にしても、

 

「309年返済か。3度老後まで人生を送れるな」

"……普通は無理だよね?"

「そう、ですね。けど、こうして課せられてしまった以上、返せばいつかは……って、思っていました」

 

 アヤネの呟きに、皆が視線を落とす。

 冷静になってみれば、返せる訳がない。仮にこれが本当に309年続いたとして、誰がこれを支払い続けるのだろうか。仮に三年生のホシノが単位満了によって去り、次の年にシロコとノノミが去ったとしよう。新しく一年生が入ったとして、彼女らはこの問題に真面目に取り組むのだろうか。その後も、その次の代も、その次の次も、学業の大半を借金返済に注ぐ人生など、誰が好き好んでやるのだろうか。

 

 きっと、本当ならとっくにアビドスという土地は砂に埋もれて消滅していたに違いない。けれど、それを首の皮一枚で繋ぎ止めていたのは、たった五人の生徒たちだ。特に、ホシノは──

 

「まあ、分かりきってたことだよ」

 

 ホシノは、どこか凪いだ様子で、車が行った先を見ていた。

 

「だけど私は、アビドスを何としてでも守りたかったから」

 

 分かっていたことだが、ホシノは今のアビドスの最年長だ。今日に至るまで、どれだけ借金のために苦心していたかは、幾千と世界を繰り返した私ですら理解と共感は難しいだろう。

 どれだけ歩み続けたのだろうか。どれだけ捨てたくないものを切り離してしまったのだろうか。

 あの目は、取り返しのつかないものを、失った目だ。

 

 全てを切り離そうとした私と比べれば、どれだけ身を削ろうとも在るものを守り抜かんとした、ホシノの方が断然に強い。けれど、今の彼女は、指先一つで折れてしまいそうなほどに儚い。

 大き過ぎたのだ。ホシノにとって、【アビドス高等学校】という守るべき場所は。故に、自分でも気付けないほどにボロボロになる。どれだけ、平然を装うとも。

 私には、それがホシノの本当の姿のようにも見えて、胸が苦しくなった。

 

"──わかった"

 

 だから先生、

 

"私は、アビドスを助けるよ"

 

 絶対に、彼女から目を離さないでくれ。

 

 

 

 

 あの目は、覚悟を決めた目だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 利息の返済が終わってから少しして、いつも通り会議が始まった。

 今回の内容は、カイザーグループがアビドスの地で暗躍していることについてだ。カイザーグループがアビドスを目的としていることが判明したものの、何を目的にアビドスを攻撃しているのか、何故土地の大半がカイザーの手に渡っているのか、借金との繋がりは本当にあるのか……調べなければならないものがいくつもある。どれも優先順位の高い情報だが、そうなるとどこから調べるべきか迷いが出るものだ。

 

 借金については、現在進行形で利息の移動ルートを追っている。先生の端末経由でアヤネに情報が渡っているので、二人体勢で監視している状況だ。見落としがあれば先生の端末の子が教えてくれるとも。……おそらくAIの類なのだろうが、子と付けるほどに愛着があるのか。

 となれば、並行して調べられるものに手を付けるべきだろう。そうして挙がった案は、

 

「一番調査しやすいのは、【ブラックマーケット】の件でしょうか」

 

 会議進行を務めたアヤネの呟きに、全員が頷いた。

 と言っても、私と先生は詳しくブラックマーケットについては知らない。軽く調べてみたものの、名前通りアンタッチャブルな場所という知識だけだ。

 

"ヘルメット団や、傭兵団の武装が、そこから流れていたんだよね"

「はい。先生の言うとおり、襲ってきた人たちの武装は、軒並み禁制品ばかりでした。これらを調達するとなると、ブラックマーケットを頼る他ありません」

 

 アヤネが差し出されたタブレットの画面を見る。簡素にだが、銃や戦車の種類と数がまとめられていた。そして、おおよその額も。

 

「これまでの襲撃者の人数と、武装の数と種類を洗い出してみました。その総額も計算してみましたが、どう考えても、チンピラ集団だけで確保するのは難しい額です」

「毎日くらいの頻度で来ては、撃退してましたからね」

「指名手配者とかは、武器ごと突きつけたこともある。けど、あっちの数は減るどころか増えてた」

「よくもまあ、毎度ボコボコにしたのに、懲りずに私たちを狙えたわね……」

 

 キヴォトスでは、筆記用具の隣に並ぶほど銃器は流通している。そんな量産されて当たり前のモノだが、当然ながら武器である以上、筆記用具とは比べ物にならないほど値は張る。量産品ではない、銃器職人(ガンスミス)が手がけたものであれば尚更だ。

 

 そんな銃器だが、量産品、型落ち等が混じっているとはいえ、リストアップされたものの数を合わせると、軽く半年は生活に困らない額が集まる。そんな額の金があるのならば、少数で戦闘力超高めなこちらの襲撃よりも、安定した生活に身を委ねるはずだ。

 最も、【飢えた野盗】*2や【ゴリロ盗賊団】*3、【カニバル】*4みたいな向こう見ずに戦闘を仕掛ける集団は除くが。キヴォトスのチンピラはアレらに比べると、理性はまだ残っている方だ。

 

「まあ確かに、この数はあんな三流チンピラたちで買える額じゃないね。それに、ブラックマーケットなら、なおさら法外な値段になるはずだよ」

「……カイザーグループが支援、あるいは多額の前金と報酬で依頼した、と?」

「絶対そうじゃない!前金で武装と人員を固めて、ウチを襲撃してたに違いないわ」

 

 じゃあ便利屋68は何故話を聞いた限りでは貧乏な様子だったのだ……ヘルメット団はもっと余裕があったように見えたぞ。まあ、宝くじを買って絶対当たっていると謎の確信しているような威勢だったが。

 ともかく、糸は繋がってきた。

 

"となると、本当にカイザーグループが支援しているのか、調べてみる必要があるね"

「はい。ついでになりますが、昨日襲撃してきたゲヘナ生──“便利屋68“なんですけど、こちらもブラックマーケットで暴れ回っていたという情報があります」

「ここでも便利屋が出るのね……」

「許さんぞ陸八魔アル……」

「……とりあえず、情報いいですか?」

 

 セリカと二人して殺意が湧いたところで。

 “便利屋68”。どうやら【ゲヘナ学園】においては有名な指名手配集団らしい。暴虐の限りを尽くしており、その強さはかの“ゲヘナ風紀委員会”から目を付けられるほど。

 社長の陸八魔(りくはちま)アル。

 課長の鬼方(おにがた)カヨコ。

 室長の浅黄(あさぎ)ムツキ。

 平社員の伊草(いぐさ)ハルカ。

 この四人で構成されており、肩書きのように、彼女らは無断で便利屋を企業している。……らしい。

 特に陸八魔アル。記憶の限りでは、とても社長の格とは思えない顔をしていたように思えるが。*5

 

「彼女らが受けた依頼と、傭兵団の雇い先、そして武装の購入ルートも洗い出すことができれば、情報は確固たるものになるかと!」

「……アヤネ、怒ってる?」

「お、怒ってません!とにかく、便利屋68は特に警戒してください!これほど噂に出るほど危険な集団だったんですよ!?」

 

 いやまあ、強さは噂の通りだったが、どこか気が抜けるというか、妙に話が合いそうな気がするというか……アヤネは彼女らに何かされたのだろうか。

 

 ひとまず、これらの情報を集めるという目的を設定し、私たちはブラックマーケットへ赴くこととなった。

 

「この世界の闇市か……落ちぶれた生徒が奴隷として売られていたりするのだろうか」

"さ、流石にそれはないと思うなぁ……"

 

 いや、考えてみろ先生。ここはキヴォトスだぞ。

 まあそんなことはなかったのだが、それはお次の話。

*1
Kenshi世界の通貨単位。猫ではない。

*2
飢餓状態の人間の集団。人権はない

*3
ムキムキバキバキの暑苦し過ぎる空手集団。人を見かけたら『ハグ』しようとする様子のおかしい者の集まり。人権はない

*4
名前の通り食人族。禿頭全裸全身ボディペイントで人肉嗜食というイカれた性癖の部族。人権はない

*5
「なっ、何ですってーーーー!!??」





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