Blue Kenshi【旧作】   作:外道カヤノ

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第十五話:初心者にオススメはペロロ様!

 

 アビドス自治区からそれなりに離れた場所。古い建物や、ネオン装飾がされた店が立ち並ぶ、薄暗い商店街。ところどころ焦げていたり、半壊した建物が丸見えなここは、【ブラックマーケット】。休学、停学、退学等を喰らった生徒たちが集い治める、無法の売買地帯だ。

 

「結構多いね」

「平日の昼間のはずだが、随分と生徒が多いな」

「ここにいるみなさん、全員不良っぽい方のようですが……」

 

 シロコ、私ことトウハ、ノノミの順で感想をこぼす。

 ここにいる面々は、初めてブラックマーケットに来たメンツだ。噂では聞いていたものの、実物を見て圧倒されているようだ。かくいう私もそうなのだが、ここまで賑わいがある闇市は、かつての世界でも見たことがない。

 【連邦生徒会】ですら手出しできない、闇の自治区。そこに集うこの生徒たちの数こそが、ブラックマーケットが滅びず領地を広げ続ける所以なのだろう。

 需要と供給。これはどの世界でも変わらないか。

 

『確かに、すごい数ですね。それにお店も。ここから、武装の購入ルートを探さないといけないんですよね』

「そうだね。迷子にならないように、みんなで手繋ごっか」

「繋ぐほどではないだろうが……まあ気をつけるか」

 

 無いとは思うが、私もホシノも背が小さいからな。しばらくは、この中で一番背の高い先生か、ノノミが目印になりそうだ。

 ちなみに、アヤネは部室でオペレーター兼留守番だ。日頃の情報管理は彼女に任せているため、この時くらいは緊張感を持たずゆったりしてほしい。

 と思っていたのだが、

 

『あれ、先生!誰かが走って近づいてきます!』

 

 早速トラブルが来たようだ。

 

「逃さねぇぜ!久々の獲物だ!」

「ぜってぇ金持ってるはずだ!」

「もーっ!来ないでくださ〜いっ!」

 

 スケバン二人がいたいけな女子生徒を追っている。これはどこでも見れる日常風景の一つだ。しかし、その女子生徒の格好が、ここでは見慣れないものだった。制服の校章を見るに……何?

 

「トリニティ生だと?」

 

 ──【トリニティ総合学園】。

 【ゲヘナ学園】と【ミレニアムサイエンススクール】に並ぶ、キヴォトスにおけるマンモス校の一つだ。特にトリニティは、ゲヘナと並んで歴史深い学園であり、生徒は裕福なお嬢様が多く、比較的治安が安定しているとも聞く。

 それに比べ闇まみれなブラックマーケットとは、あまりにも無縁そうな光属性の学生が、何故ここへ?

 

『こちらに近付いてきますよ!』

「仕方がない、迎撃しよう」

「待てシロコ、下手に騒ぎを大きくさせると不味い」

 

 シロコがアサルトライフルを取り出そうとしたため、私はそれを静止させる。経験則だが、こうした闇市で騒ぎを起こすのは得策ではない。闇市には、必ず市場を築き上げた長がいる。周りは不良チンピラスケバンばかりだが、その中に長直属の部下がしれっと混ざっているものだ。そんなシマの中で騒ぎを起こす連中は、即座に闇市の住民伝で情報網が広がり、立場が狭くなってゆくものだ。最悪、指名手配もありうる。

 故に、あまり音を立てず、ボヤを消す必要がある。

 

「どうするの?」

「こうする」

 

 ──隠遁の術。

 素早く腰を低く下ろし、視界から消える。相手の視線はこちらを捉えていないため、隠れることは容易だ。足音を立てず、ハンミョウのように素早く駆け、スケバンの背後に回り込む。そして、

 

「当て身ッ」

「ぐほッ!?」ズシン!

 

 うなじに一発、徒手空拳。こうすれば堅牢なシェクであろうが、鋼鉄のスケルトンであろうが倒れる。ニンジャ仕込みの暗殺術だ。

 なお相手はキヴォトス人なので、誓って殺しはしてない。

 

「もう一発」

「だハッ!?」ズシン!

 

 ダブゥキィル!! 気持ちがいい。

 

「はぁ、はぁ……あ、あれ?」

"大丈夫?"

 

 スケバン二人が白目を剥いて倒れたのを、トリニティ生が振り向いて見つける。近くには見慣れぬ姿の大人と、アビドスの制服集団。そこで、彼女は自分が助けられたとわかったらしい。

 

「は、はい!えっと、助けていただいて、ありがとうございました……?」

「ん、お礼ならあっち」

「気にしなくていい。この程度、茶飯事(チャメシインシデント)だ」

「うわぁっ!?」

 

 ……隠密状態を解いたら驚かれた。まあ当然か。

 改めてトリニティ生を見る。プラチナブロンドのおさげが特徴的な、可愛らしい子だ。くりくりとした黄色い瞳と、丸い顔立ちがとてもキュートだ。なんだかひよこっぽさを感じる。実際、瞳と同じ色のヘイローは、二重の円からちょこっと翼が生えている意匠になっており、本当にひよこかもしれない。かわいいな。

 そんな彼女だが、意外にも身長はシロコとノノミの中間辺り。……私の身長はなぜこんなにも低くなったのだ。*1

 

「流れで助けてしまったが、野暮だったか?」

「い、いえ!助けてくれてありがとうございます!」

 

 そして礼儀正しい。ペコリと礼をした少女──阿慈谷(あじたに)ヒフミと名乗ったトリニティ生と、私たちはそれぞれ名前を交わす。

 何だか()()()()()だ。お嬢様学校のトリニティ生という点を除いても、どこにでも居て、普通の学生生活を送っている。いわば、キヴォトスではありふれた、少女の一人のように思えた。

 私たちが羨むような、そんな雰囲気。けれど、憎むことはない。私たちには無くて、この子には有る。それだけの話なのだから。

 

『少し聞きたいんですけど、どうしてヒフミさんはこちらに?』

「それはですね、えっと」

 

 ヒフミはポケットからスマホを取り出すと、数秒ほど操作し、画面を見せた。

 

「これです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定ぬいぐるみを探しに来たんです!」

 

 …………

 

 キッッッッッッッッショ!!!!

 

 何の冗談だ、これは……ビークシング*2でもこんな顔はしないぞ。

 

「限定生産で百体しか作られていないんですよ。ね?かわいいでしょう?」

「あ、あ……それは……」

 

 言うなれば、デフォルメした鳥だろうか。一頭身の白い鳥といえばそうなのだが、丸い目は死後数秒辺りか、あるいは頭が狂ったかのように上を()いており、口は開きっぱなし。鳥とは思えない長すぎる舌が丸出しになっており、そこにアイスクリームが死体蹴りの如く捩じ込まれている。

 一応聞くが、これはアイス屋さん……つまり企業との協賛グッズ、のはずだよな?こんなものを、かつてはアイス屋さんが限定グッズとして販売していたということになる。正気か???

 

「わぁ☆【モモフレンズ】ですね!私も大好きです!ペロロちゃん、かわいいですよね!」

「!!あなたも分かるんですね、このかわいさ!」

「はい♡私は特に、ミスター・ニコライがお気に入りで……」

「ニコライさん!哲学的なところがいいですよね!最近出たニコライさんの本、“彼方の善悪“も読んで……」

 

 え、ノノミ、嘘だろう?アレの、モモフレンズというのか……?ソレのファンだったりするのか……?私の感性が、やはり違うというのか……???何故だ。何故かノノミが遠くに行っているように見えて……なんかキモい鳥が私の目の前を遮って、いやキッッッッッッショ!!やっぱり何なんだよこのペロロって奴は!!ビークシング希少種か!?ビークシングの進化の果てなのか!?来るな……来るんじゃあない……!い、生きたまま食われる!

 

「あ、あ、あ、あ、あ」

「ホシノ先輩、トウハが壊れた」

「ありゃ、珍しいね。大方、脳みそを破壊されちゃったのかな」

「アレ見て頭がおかしくなっちゃったんじゃないかしら」

『も、モモフレンズは、結構人を選びますから……』

"おーい、戻って来てー"

「ア゜ッ!!(絶命)」

「あーあ、先生が揺さぶったから……」

「駄目だこりゃ」

"えっ嘘でしょ?トウハ、しっかり!トウハーーーッ!!"

 

 ということもあって。

 

 探し物があるという点では同じだったので、彼女の護衛も兼任して一緒に同行することとなった。何でも、ヒフミはここへ一人で来たらしい。……何故か彼女の歩き方を見ていると、妙に場馴れしているというか、何度もここに来たことがあるように感じる。普通を撤回すべきか?

 そのためか、ヒフミの探し物は案外すぐに見つかった。……実在したのか。

 

「ありました!デザインも、製造型番の識別子三桁も同じ!見つけましたよ!」

「あ、あぁ……ヨカッタネ」

「大丈夫です。モモフレンズはペロロ様だけじゃないんですよ!きっとあなたにも気にいる子が見つかるはずです!」

 

 鏡を見なくても分かる程度には嫌な顔をしているはずなのだが、ヒフミはとてもキラキラとした表情で私にモモフレンズを推そうとしている。純粋な心で詰め寄って来ているので、断りづらいのが何とも言えない……駄目だ、限定ペロロぬいぐるみが死にかけのビークシングに見えてきた。

 初心者にオススメはペロロ様!……いやガットより最悪だろうそれは。

 

「ところで、アビドスのみなさんの探し物は……」

「うーん、歩いてる最中もざっくり探してはいたんだけどねー。ぜーんぜん見つからないや」

「うん。戦車とかヘリとか、分かりやすいモノの購入先も見当たらない」

「せ、戦車?かなり物騒なものをお探しなんですね……けど、大丈夫です。ブラックマーケットは広いですから、探せばきっと見つかりますよ!」

「ヒフミ、やっぱり貴様何度もここに来たことあるな?」

「あ、あはは……」

 

 ヒフミはお目当てのものが見つかったが、こちらは一向に見つからず。しかしヒフミが案内してくれるということもあって、ブラックマーケットの大半を効率的に回ることができた。

 が、肝心の探し物は見当たらなかった。

 

「全然駄目ね。禁制品の取り扱い店は結構回ったはずなんだけど、どこも目的の物は売ってなかったわ」

「そうですね。不思議なくらい見つかりません……」

"流石に歩き疲れたかな……ひとまず、休憩を挟みたいけど、みんなどうかな"

「賛成だ……ヒフミ?」

「えっと、考え事をしてました。ブラックマーケットで、そんなことってあるのかなって」

 

 やはり有識者の目を以ても、この状況はおかしいと思うか。

 ブラックマーケットの大半を回ってもなお、ここまで目当ての禁制品の情報が、一切出てこないというのは逆に不自然だ。販売ルート、売買記録、全てが意図的に隠蔽されているように思える。

 

 ──カイザーめ。ブラックマーケットすらも容易く情報規制を行えるか。それほどまでに、本当にアビドスに何を求めている?

 

「話は後にしよう。今は、一休みする時」

「あっ、あそこにたい焼き屋さんがありますよ!買って来ますね!」

 

 シロコとノノミは、近くにたい焼きを売っているキッチンカーを見つけたようで、そちらに向かって行った。休憩にはちょうど良いだろう。残った私たちも、たい焼きを求めて近くへ行く。

 

「アヤネ、起きているか?」

『んぐん、んっ!?……んく、はい!』

「……お菓子を食べていたか」

『あ、すみません……』

「別にいいわよ。ちょうど、私たちも休憩タイムに入ったしね」

「アヤネちゃん、一人で寂しそうだったもんねぇ。通信があるとはいえ、たい焼きは流石に共有できないし」

『いえ!別にいいんです!代わりに、ポテトチップスを一人で全部食べれますから!』

「はは、それはそれで良いな。ん?」

 

 先生とノノミが話し合っている様子の横で、シロコが手招きをしていた。何味にするか決めて欲しいようだ。ふむ、確か一般的な味が粒あんかこしあんのはず。で、バリエーションとしてクリーム味と、チョコ味と、カレー味……ツナマヨ味……カニ味???とりあえず、たい焼きは初めてだし、王道なこしあんにしてみるか。

 

「私はこしあん。ホシノとセリカは何味にする?あと、アヤネの分も持ち帰つもりらしいから、決めておくといい」

「じゃあ、おじさんカニ味に挑戦してみようかなぁ~」

「え、それ挑戦するの……あたしもこしあん味で」

『なら、私はクリーム味でお願いします!』

「ん」

 

 場所が場所ではあるが、こうした何気ない平穏な時間が、やっぱり一番好きだ。みんなで集まって、楽しく買い物に行く。騒がしくて、時に戦闘になってしまうが、同じ時間を一緒に過ごすというのは、やはり尊いものだ。ノノミがショッピングを趣味としている気持ちも、なんとなく理解できる。

 ……ヒフミは、毎日こうした楽しい時間を過ごせて、いるのだろうか。

 

「そういえば、先生とノノミは……先生?」

 

 振り返ると、先生の表情が険しい。彼の視線の先は、いつも手にしているタブレット端末に向かっていて──

 

『休憩中のところすみません!追跡中の現金輸送車の反応が、そちらに近付いています!』

 

 微かに、ブロロロという、今朝聞いたばかりの排気音が聞こえた。

*1
トウハ=150cm、シロコ=156cm、トリニティ生=158cm、ノノミ=160cm

*2
首長の四足歩行鳥類。名前の由来通り、くちばしがツルハシのような雑食畜生





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