Blue Kenshi【旧作】   作:外道カヤノ

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第十八話:結果、結末と決心

 

 部室に戻ってから、手に入れた書類の確認が始まった。すると、出るわ出るわ、露悪的な金の使い道が。

 アビドスの利息は、カタカタヘルメット団の補助金に流れていた。788万のうち、500万が、だ。書面にある数値は、一桁一桁確かなもので、今日渡したもので間違いない。他にも、残りの金はブラックマーケットに流れており、その殆どが()()()()とある。……大方、口止め料か。

 

 にしても、まだヘルメット団は生きていたのか。いや、大方この補助金があったからこそしつこく生き延びていたに違いない。最近は奴らの襲撃が来なかったから、今度こそ滅んだかと思っていたが。

 

「ふっざけんじゃないわよ!!私たちのお金が、どうしてチンピラ共に流されなきゃいけないの!!」

 

 セリカが机を殴りつけるほどに怒る。その気持ちはごもっともだろう。

 

「で、ですが、これじゃあ借金は減るどころか増える一方ですよ?学校が破産したら、カイザーローン側も得しないのでは?」

「いいや、得している。私たちの借金は9億から動かない。だが、あちらは借金の利息で自分の手を汚すことなく目的を進められる。奴らにとって、私たちの借金は都合のいい足枷なのだろう」

「カイザーローンだけじゃない。”カイザーコーポレーション“ぐるみで、これをやってると思う。カイザーローンの親元はカイザーコーポレーション、カイザーコーポレーションは【カイザーグループ】の大元のはずだから」

 

 ……そうまでして、何を求めているかは未だに分からない。いや、着実に見えてはきている。

 

"カイザーローン、オクトパスバンク、八足銀行、ミカド信用金庫……他の銀行との取引明細も見てみたよ"

「……そっちは、どうだった?」

"真っ黒だね。君たちのお金を小刻みに“カイザーPMC”に流してる。それと、この間ヒマリから聞いた話と線が結びつきそうだ"

 

 先生はというと、ついでで手に入った取引明細を確認していた。こちらもまた、黒い情報ばかりが記されており、アビドスに関連したものはもちろん、企業間の後ろめたいやり取り、ブラックマーケットの運営、さらには零細学園へ違法な取引を行った跡まで様々だ。

 全てが書面で管理されているのは、ネット上から察知されないためだろう。古典的ではあるが、実際の効果はてきめん。ミレニアム最高峰のハッカーたるヒマリが調べきれなかったのも、情報そのものがコンピュータから物理的に隔離されていたためだ。

 

"ヒマリは、アビドス本校校舎のあった土地の地主が、カイザーPMCになっていると言っててね。アビドス周辺の地主情報を確認していたんだけど、本校校舎とその周辺だけがPMC所持になっていたんだ。で、書類とヒマリが提供してくれた資料を比べて見てみると、お金はカイザーPMCに終着してる"

「……PMC?」」

民間軍事会社(Private military company)の略だね。キヴォトスなら、傭兵の斡旋とかが主な仕事になるのかな。っと、話がそれたね。彼らの動機は未だに分からない。けど、数十年単位でアビドスから金を吸い取り、ここまで徹底した隠蔽を行なってでも求めているものは、注ぎ込んだリソースを全て覆せるほどのモノだと思ってる。──例えば"

 

 金銀財宝……『宝』とか、かな。

 先生は当てずっぽうで言ったようだが、何となくそれが、アタリなような気がしてきた。PMC──民間軍事会社が欲しい宝となると、ある程度は絞られてくる。

 宝。その単語に込められた、狙いとは。

 

「──古代遺産、あるいは()()か」

"PMCが血眼になって求めるものとしては、妥当だね。仮に古代兵器だったとしたら、一企業が学園にも劣らぬ兵力を持つことになる。……彼らにとっての仮想敵は、学園とかかな?こんなことをする企業だし"

「ふむ、結構アタリに近いのでは?普通、企業がそんなロマンめいたものを求める理由が思い当たらん。実在が怪しいと思えるモノなら尚更だ。となれば、何か()()と確信できる情報を手に入れた上で、ここまで金と時間を注ぎ込んできたに違いない」

"なるほどね、そういう見方もあるね"

 

 そんなやりとりをしていると、「何それ聞いたことがない」という顔を向ける人物が出てくる。元からアビドスに居た五人と、オマケで部室に入らせて貰っているファウスト……ではなくヒフミだ。

 ホシノは、恐る恐る手を挙げる。

 

「……先生」

"どうしたの?"

「一応、おじさんはこの中じゃ、長いことアビドスに居るんだけど……『宝』があるなんて話、聞いたことがないな」

"そうなんだ……やっぱり当てずっぽうだったかな"

「んや、それはないと思うよ。むしろ、納得がいったというか……」

 

 椅子に身を預けていたはずのホシノが、ぐったりと背もたれに体重をかける。目元を腕で覆う彼女の表情は読めない。しかし、どこか重いものが取れたような様子に、先生はそれ以上声をかけられなかった。

 

「ははは……参ったなぁ。そんな、たかが『宝』のために……」

 

 ──見ていられなかった。

 彼女が、このまま消えてなくなってしまいそうで。声がか細く、それ以上出なくなってしまいそうで。けれど、私には何も投げかける言葉が出ない。

 

 

 

「やっぱり、大人は嫌いだ」

 

 

 

 ────

 

 ホシノ、君は。

 

 その時、先生が突如立ち上がり、

 

 頭を下げた。

 

 

 

 

"ごめん、ホシノ"

 

 

 

 

「……え?」

 

 誰の声だったかはわからない。だがこの瞬間、一斉に皆の視線が、先生に向けられた。

 

"先生として、【シャーレ】として、アビドスを助けるために動いてきた。けど、全然力不足だった……たった今、それを痛感したよ"

「え、い、いや!先生は、今でも私たちの助けになってくれていたじゃないですか!」

"ありがとう、アヤネ。だけど、それじゃあ足りなかったんだ。私は、生徒の味方でなければならないのに、()()()()()になっていなかった"

 

 アヤネの声をやんわりと退けてまで、先生が眼差しを向けたのは、ホシノ。彼女の目は大きく開かれ、伏せる。ホシノは、顔を隠すように俯くと、くしゃっとした笑顔を向けた。

 

「……ははは、先生にはなんでもお見通しかぁ。すごいね」

"君は、私のことが……ううん。大人が、嫌いなんだね"

「まあね。さっきも言っちゃったし……私は、何度も悪い大人に騙されたから」

 

 ホシノが遠い目で見るのは、日が暮れ始めた外の景色。懐かしむように、悔やむように、彼女はポツリと語る。

 

「おかげで、他人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってね。()()()ってことをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよ……ううん、アビドスだけじゃない」

 

 私の先輩も、いなくなっちゃったんだ。

 

 か細く、誰にも聞こえないほど小さな声で漏らした、ホシノの懺悔。

 少しだけ、聞いたことがある。かつてホシノが一年生だった頃。まだ、アビドスに”生徒会“が存在していた頃の話。当時、二人だけだったアビドス。その一人が、ホシノにとっての先輩であり──今はもう、どこにもいない、と。

 聞いていた限りでは、卒業したか、あるいは。そう思っていたが、今の話を聞いて、確信した。

 

 ──彼女にとっての“先輩”は、死んだのだ。

 ホシノを、アビドスに遺して。

 

「……だからぶっちゃけ、最初に先生が来た時にさ、セリカちゃんが飛び出ちゃったじゃん?あの時の想いはね、実は私にもあったんだ。「どうせコイツも、アビドスを見捨てるんだ」って。けど、まあ予想をいい意味で裏切ってくれたかなぁ」

 

 そんな彼女は、チラリと私を一瞥し──何故私を見た?──一息つくと、いつもの目に戻って先生を見た。

 

「それで、先生。貴方はこの場で私に謝罪をして、何をするつもりなのかな」

"決まっている。アビドスを──君を救う"

「ふぅん……それは、どうやって?」

 

 先生は、持っていたタブレット端末を、机に置く。パワーポイントの編集画面が映されたそこには、【アビドス高等学校】と、【ミレニアムサイエンススクール】の二つの名前。

 自信満々にホシノの目を見て、彼は言った。

 

 

 

"──私はね、【シャーレ】の『先生』……なんて、重た過ぎる肩書きを背負った身なんだ。だから存分に、その役職を利用させて貰うだけだよ"

 

 

 

 私は、わるーい大人だからね。

 彼の表情は、まるでイタズラを思いついた小学生みたいな邪悪さを持ちながら、純粋な心で夢を見つめる、キラキラとした輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時。一般的な学園であれば、放課後に入りつつある時刻にて。

 アビドス高校の校門前で、私たちはヒフミを見送っていた。

 

「今日は、色々とありがとうございました。なんだか、一日で収まらないくらい大変でしたけど……」

「こちらこそ、色々と、変な事に巻き込んでしまってごめんなさい……」

「あ、あはは……けど、楽しかったですよ。いつもの日常と、違う感じがして」

 

 ここまで縛り付けてしまったことに負い目はあるが、まあ楽しかったと言ってくれるならいいか……いや銀行強盗に加担させておいていいわけないだろう。*1

 

"いつか、トリニティに来ることもありそうだし、その時はよろしくね"

「はい!もしトリニティでも何かあれば、先生を頼りますね!」

 

 何というか、本当に笑顔が眩しい。モモフレンズのためだけにブラックマーケットに訪れていることを除けば、本当に普通の少女なんだなと、思わせてくる。人の悪意を知らぬ──私たちには眩し過ぎる笑顔だ。

 

「おじさんも、今度遊びに行くからよろしくー」

「私も、時間あれば行ってみたいと思う」

 

 ふと思ったことがある。ミレニアムに訪れた際、ビープが居たように。もしかしたら、キヴォトスに訪れたかつての世界の人々が、ここに来ているのかもしれない。アビドスの問題がある程度落ち着いてから、彼ら……もしくは彼女らを探しに行くものいいかもしれない。

 

 きっと、こことかつての世界の違いに、辟易しているかもしれないからな。……学園側が。

 

「はい、もちろんですっ!……それと」

 

 ヒフミは先生の方へ向く。

 

「今回のカイザーの件と、先生が立てた“作戦”……こちらについては、“ティーパーティー”に報告しようと思います。もちろん、アビドスのことも」

"ありがとう、ヒフミ。ただ、悪いけどアビドスのことは省いてくれないかな"

「えっ!?ど、どうしてですか!?」

「ティーパーティーはウチのことを、もう把握してるだろうから、だね」

 

 ホシノの言う通り、三大学園の一つである【トリニティ総合学園】の首脳──トリニティの生徒会たる“ティーパーティー”──が、アビドスの現状を知らないわけがないだろう。おそらく、あちらにとっては対岸の火事並みの認識だろうが。

 あちらは現在のマンモス校。一方、こちらは生徒が六名だけの廃校寸前の学校だ。助けるという名目で、足を引っ張ってくる可能性だってあるのだ。

 このキヴォトスにおいては、学園というものは一つの国なのだ。一つでも自身の敵たりうる他国を消せるのなら、やりかねない。

 

「アビドスがこんな状況だからね。おじさんたちでトリニティやゲヘナみたいな、マンモス校をコントロールする力はないんだよね。戦力差だって圧倒的でしょ?」

「うぅ……政治って、難しいです」

「ホシノ先輩……」

 

 あまりにも見方は悲観的だが、現実的な意見でもある。国同士の友好を結ぶのは、非常に難しい。確か『エデン条約』の締結がもう少しで行われるとかだったか……トリニティはそちらの方面でも忙しかったはず。そんな時期に、アビドスがヘルプコールを求めたところで、無視されるのがオチだろう。

 最悪、条約締結の妨害と見做される可能性もある。

 

「……けどまあ、もし本当に助けてくれるのなら」

 

 チラリと、ホシノは先生に顔を向ける。

 

「んや、やっぱ何でもないよ」

 

 しかし、すぐに戻った。そんな様子に少し悲しそうにしつつも、ヒフミは自身の頬をぺちぺちと叩き、いつもの笑顔を向けた。

 

「それじゃあ、今日は本当にありがとうございました。みなさん、またどこかでお会いしましょう!」

「うん、またね」

「よっ、水着覆面団のリーダー!」

「ファウストちゃんにはお世話になりました☆」

「そっ、その呼び方はやめてください!?」

 

 今度こそ、夕日に向かって。

 このまま、ヒフミはトリニティ自治区へ帰ってゆくだろう。彼女の性格を見るに、真面目に今回のことはティーパーティーに報告されるだろう。どう捉えられるかはともかく、先生の作戦について、果たして食いついてくれるか。

 お嬢様学園らしい、丁寧な礼をして、ヒフミは背中を向けて走り出した。顔だけは見えなくなるまでこちらに向け、手を振りながら。

 

「……行った、か」

"うん"

 

 ヒフミが帰ったことで、アビドスの面々も校門から離れてゆく。流れ的に、このまま解散といったところか。

 私と先生は、夕日の景色を眺めながら話す。

 

「あの作戦、本気か?」

"本気だよ"

「超法規的機関の権力というものは、危険なものだな」

"そう捉えられるだろうね"

「だったら、尚更止めておけ」

"それは、ごめん。できない相談かな"

「…………はぁ」

 

 止まる気は、ないらしい。

 

「……先生は、どうしてここまでするんだ?」

 

 ふと思ったことを言う。

 先生の人柄は、一目見てある程度理解できた。極度のお人よし、褒め上手、善人、書類業務に苦手意識がある、話を聞くのが上手い──そして、この世界に生きる『生徒』たちが好きな人。

 もうこの時点でわかるだろう。先生は、「助けて」と言われたら、とことん助けてしまう人間だ。そんなお人よしが……いや、お人よしだからこそ、【連邦生徒会】から【シャーレ】の顧問に任命されたのだろう。

 

 だが、彼は一人の人間だ。『外』から訪れた、ヘイローを持たぬ只人。特殊な端末を持ち、戦術指揮に長けているようだが、それ以外の特徴はこれと言って無い。強いて言うならば、前述の通り善人であることくらいだろう。本当にそれだけで、普通の人間なのだ。

 

 銃の一発で致命傷になる。そんな銃を必ず持っている生徒たち一人一人の、味方になろうとする。

 ──恐ろしく、ないのだろうか。

 

 このキヴォトスには、幾千もの学園がある。その数に比例して、幾万もの生徒がいる。

 ──それら一人一人の味方など、重過ぎるのではないか。

 

 犯罪は平気で起こす。倫理観のズレは『外』で見てきた子供たちよりも酷い。毎日銃弾が横行する世界で、そんな銃弾をばら撒いているのは幾万もの生徒たちだ。

 ──それでも。

 

"私が『先生』だから──"

 

 先生は屈んで、私に目線を合わせる。

 ()()()()()。けれど、優しさに溢れた瞳でしっかりと私と目を合わせ、口元に人差し指を立てた。

 

 

 

"それ以上は、大人(オトコ)の秘密かな"

 

 

 

 かわいらしくウィンクする先生の姿に、私は思わず「ぷっ」と笑ってしまった。

*1
良心






 次回、『先生』


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