「!?」
右腕から弾けるように飛ぶ銃。それだけではない。手足、義手義足が突如動かなくなり、走っていた際の速度が慣性となって、私の体を強引に前へと動かす。その結果、受け身すら取れず、アスファルトに全身が叩きつけられた。
「ぐがッ!?だッ!~~~~っっ!!」
"トウハ!?"
『トウハさんの反応が、
ゴロゴロと慣性に従って転がるが、止まる気配がない。そりゃそうだ。手足が動かないのだから。全身がやすりにかけられるかのように削られ、やっと止まったのは、先ほど撃ち抜かんとした
コイツが何かしたのか?いや、見る限り、あちらも驚いたような顔のままだ。
「げぶっ、くそ……勝手に殺すな!生きているだろ!」
『へっ!?い、いえ!本当にあなたの反応が消えているんです!今、どこにいるのかわかりません!』
「それこそおかしな話だ!私はまだ、ここにいるだろう!?」
「……いえ、ありえないです。
アヤネも、チナツも、まるで死人が動いているのを見たかのような目で私を……
ヘイローが、無い?
私の頭の上には、鉄色のヘイローがあったはずだ。それが今、ない。少し目線を上にあげればあったはずの、歪な天使の輪が。
「な、あ……?どういう、ことだ?」
毎日鏡を見れば、確かにそこにあったものが消えている。そんなはずは。
そう思っている間に、カチャリと後頭部に硬い物が付きつけられる。
「動くな。
「…………」
おそらく風紀委員の一人だろう。しかし、動くもなにも、義手義足が沈黙しているため、動かずとも指示には従う。
瞬間、
ドドドドドドッ!!
「っぐぁ!?」
「っ!」
聞き慣れた連射音が、私の周りにいた風紀委員らを薙ぐ。秒間約百発もの弾丸をばら撒く、暴力的な武装の持ち主は、知る限りでは一人しかいない。
呆然としていると、グイッと首根っこを掴まれる感覚。アスファルトに動かない手足が引きずられながらも、強引に私を回収した人物を見る。
「大丈夫!?」
「大丈夫ではないがッ、助かった!安置になら投げ捨てても構わん!」
ギャリギャリギャリ!!と、私を片手にバイクを漕ぐシロコに引っ張られ、先生が居たであろう場所へと連れ戻される。そして、シロコは律儀にも、店があった場所へと私を投げ捨てつつ旋回した。
「ッ!てッ、ぐぅぅ……」
"トウハ、生きているよね!?"
「見ての通りだ……っ、思った以上に痛い」
投げ捨てられた時の痛みが尋常じゃない。ついさっきまで、痛み止めでも効いていたかのような気分だ。じくじくと、全身が砕けて軋む感覚がする。
だが、状況を見ればまだマシな方か。
「トウハちゃん、遅れてごめんなさい!」
『ノノミ先輩、たった今現地到着しました!支援物資の投下も完了……後は、ホシノ先輩さえ来てくれれば……』
アビドス、ホシノを除いて全員集合。
「チッ、しぶとい……ッ!?」
かなりのダメージを負ったものの、まだ動ける範疇にいるイオリ。しかし、彼女に向かって放たれた凶弾──熱波と衝撃の薔薇を咲かせる『神秘』が直撃し、吹き飛ぶ。この弾丸を撃てる生徒は、この世に一人のみ。
"……アル、協力してくれるのかな"
「いいえ、
スナイパーライフルを片手に、冷酷な表情で告げる彼女。陸八魔アルは、ここで共闘を申し出る。そんなリーダーの発言に、部下の反発はない。むしろ、「ノった」と言わんばかりに皆立ち上がる。
「私も協力するよ。こんなに風紀委員がいるのに、まだあの委員長が来てないのはおかしい」
「いいじゃんいいじゃん。私もさぁ、舐められっぱなしは嫌だし……!」
「わ、私も……微力ですが、い、いえ……私のことは無いものとして扱ってください……」
"ありがとう、とても頼もしいよ。それにハルカ、私も、あのことは大将も怒ってないからね。アレは私がやったの、いいね?"
「え……で、でも」
"今は戦うこと優先だ。重傷者もいる。……君たちも、アビドスもピンチだからね"
……ふむ。まあいい、私が居ない間に柴関ラーメンで何があったかは、後でも聞ける。
便利屋68、アビドスと共闘開始。
アビドスに普通に対抗できる強さを誇る彼女らが、こちらに着いてくれたのは頼もしい。これに加えて先生の指揮力があれば、風紀委員会相手でも圧倒できるだろう。
しかし、カヨコの発言で気になってはいたが、確かにこの状況で風紀委員会の長が見えないのはおかしいな。キヴォトス最高の戦闘力の持ち主が、どこでたむろしている。
「……っ、厄介な奴らめ!」
「イオリ先輩、今治療を行います……先生、まさかこのような形でお会いすることになるなんて」
"久しぶり、チナツ"
状況は膠着。数的な戦力差は風紀委員に分があるものの、士気はこちらが高く、戦術的にはこちらが有利という奇妙な状況。
そんな中、先生とチナツは言葉を交わす。
「先生がそこにいらっしゃることを知った瞬間、勝ち目はないと判断して後退すべきでした……私たちの失策です」
「んなッ、そこまで言うのか!?」
「はい。先生のシャーレ着任前に、先生の指揮を受けて各学園の生徒と急造の部隊を組みましたが──とても、急造とは思えない連携力を私たちに発揮させました。あの人の指揮は、素早く的確な指揮力だけではありません」
"……買い被り過ぎだよ"
後方支援ということもあり、指揮にも一つ知見のあるチナツの言葉に、イオリは押し黙る。
確かに、先生の指揮はチナツの言う通り指揮力だけではない。初めてアビドスに訪れた際の、対“カタカタヘルメット団”戦では、まるで私たちのことを隅々まで知っているかのような、的確な戦略を組んで圧倒した。今回のもそうだ。ライダースーツ姿のシロコ、巫女袴のセリカ、普段とは違う格好の二人の『神秘』を上手く使いこなしているようにも思える。
今になって思う。先生とは、何者か。
『話の途中すみません。こちらは【アビドス高等学校】一年生、“対策委員会”の
「……それは」
『それは私がお答えしましょう』
突如、通信に介入した者が一人。
ホログラムでイオリとチナツの側に現れたのは、群青色の髪と、同じく群青色の三日月型のヘイローが特徴的な少女。風紀委員会の腕章を嵌めているのを見るに、上官か。
……何故、横に乳がはみ出ているデザインの制服を着ているんだ。
『私は【ゲヘナ学園】三年生、ゲヘナ風紀委員会、行政官の
『!?』
アヤネの顔に動揺が走る。行政官ともなれば、かなりのビッグだろう。
"カヨコ、何か知ってる?"
「風紀委員会のNo.2……それだけ」
『実際にはそんなに大したことはありません。あくまで、風紀委員長を補佐する秘書のようなものです』
チラリとカヨコの様子を見る。若干の嫌悪感を露わにしているようで、先生もそこが気になったのか、彼女に聞いていた。
『さて、アビドスの方々。そちらに確認したいことがあります』
『……何でしょうか』
『アビドスの生徒会は六名いると聞きましたが、現在の代表である
『今は居りません。そして、生徒会ではなく“対策委員会”です』
『奥空さんでしたか?それでは、この場に生徒会は居ないということでしょうか?私は、生徒会の方とお話したいのですが』
「アビドスの生徒会はずっと前に解散したわ!事実上、私たちが生徒会の代理みたいなものよ!」
「こんなに包囲されたまま、「お話しましょうか〜」なんて言うのは、お話の態度としてもどうかと思いますけど?」
『ふふ、そうですね……』
……面倒なことになってきたな。ん?ハルカがどこかへ行っているようだが……まあいいか。先生は気付いているようだし。
アコは笑みを崩さず、手に持っているタブレット端末を触り、指を鳴らす。すると、臨戦態勢だった風紀委員らが、一斉に武器を下ろした。イオリも、チナツもだ。
『さて……先程までの愚行は、私から謝罪させていただきます』
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?」
『命令に「無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?』
「そ、それは……いや、発砲はしたが未然に防がれたから……」
『セーフなわけないでしょう。ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
ああ言えばこう言う、こう言えば……が続く。何度撃たれようとも戦う気力万歳だったイオリが尻に敷かれているようだが、アコに対する緊張感を見る限り、それだけではないのだろう。
ふむ。
『こほん、失礼しました。私たち”ゲヘナ風紀委員会“は、あくまで学園で校則違反をされた方々……“便利屋68”を捕えるために来ました。あまり望ましくない出来事もあったようですが、やむを得なかったということで──』
「──なるほど。貴様ら風紀委員会は、他所の学園に潜伏した校則違反者ですらも、土足で無断に他所に乗り込んで一般人も巻き添えにしてでも捕えようとする、血も涙もない集団であったのだな?」
『──何が言いたいのですか?』
そりゃそうだろう。おそらくコイツ、ここがカイザー所持なのを知っている。それを良いことに、アビドス自治区には入っていないとでも言いそうだったからな。便利屋の面々を捕えようとしている……いや、違うな。目的は本当に便利屋か?四人に対して兵の数が多過ぎる上に、まだ奴の顔を拝めていない。
まあ、おかげで街は滅茶苦茶。柴関ラーメンは……先生がやったということになってはいるが、一般人がまだいる店に向かって大砲をぶっ放した事実は揺るがない。
ここが閑古鳥の鳴く街だと思い込んでいたのが、大間違いだったな。
「アビドスの自治区で起きた事件は、アビドスで解決すると言っている。貴様らのような暴走機関車共に便利屋は任せられん」
『暴……ッ!?』
"ブッ"
既にアビドスの皆は、ここがカイザーの所持物だということを知っている。だが、今はここがアビドスの自治区だと主張しておく。相手は、こっちが知り得ていない前提で動いているようだからな。まあ知っていようが知っていまいが、この暴行は見ていられん。
どうせ、カイザーはここがどうなろうと知ったことではないのだろう。奴らが欲しいのは領地であって土地ではない。
『そうです!こんな状況になって、水に流しましょうだなんて、そうはいきません!』
「ん、徹底抗戦する」
「ウチの問題はウチで解決するわ!当然のことでしょ!?」
「便利屋の処遇は、私たちが決めます!」
全員の意思は硬い。何とも、眩しい勇ましさだ。私も立ち上がることができれば……いや、立ち上がれる?
グッと力が込められる。義肢に神経が通り、指の一本一本が動く。ヘイローも、戻ってきている。先の不調は一時的なものだったのか?まあいい、痛みも引いてきた。これなら、普段通り動ける。
"……! トウハ、大丈夫かい?"
「あぁ。応急手当、助かったよ」
銃は拾われていないため、風紀委員会らが集まる場所に置いて行ってしまっている。しかし、それが何だというのだ。私には拳がある。
『……ふふ、そうですか』
アコの表情は、変わらない。むしろこうなるのも想定内だったと言わんばかりに、タブレットを操作する。
……兵の継ぎ足しか。今この場が時間稼ぎに使われていることは、こちらも把握している。にしても、兵の数が多い。まるで大多数の敵との戦闘を想定していたかのような。あるいは、
『なるべく穏便に済まそうと思っていたのですが、便利屋もそちらに着いているようですので……』
「アビドスに着く理由は他にもあるよ。天雨アコ」
またも臨戦態勢になろうかという時、カヨコが前に出る。
『……カヨコさん、何でしょう』
「この状況は偶然なんかじゃない。最初からあんたが狙って作り出した」
聞きながらも、専用の回線から指示が来る。先生の指示に従い、私はここで隠密を行う。アビドスの皆も、それぞれ武器を構え、待つ。
「最初は、風紀委員会が他の自治区に足を伸ばす理由が理解できなかった。それも、私たちを狙って? 私の知ってる風紀委員会は、こんな非効率的な運用をしない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」
半壊状態の街中は、土煙や硝煙が漂っている。昼間にも関わらず、若干の薄暗さが生じるこの中は、視界を遮るポイントが多い。そこを、掻い潜るように進んでゆく。
「それに、私たち四人を狙うには多過ぎる兵力。他の集団との戦闘を前提に考えれば、少しは説明がつく。けど、アビドスは六人。一人ヤバいのがいるけど、それを考慮したとしても兵力が余分に多い。となれば──」
おい誰が”ヤバいの“だ。
っと、あったな。私の『
「──アコ、あんたの目的は【シャーレ】。先生を狙ってここまで来たんだ」
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