襲撃は程なくして終わったらしい。様子からして、勝利で終わったのだろう。
用務室という部屋に押し込められた私は、またノノミに俵のように持ち上げられ、“対策委員会”と強引に変えられた名札の付いた部屋へと入れられた。
やはり、文明が違い過ぎる。白い黒板(?)には絵や文字、写真が貼られており、様々な情報が書かれている。それに、メガネの少女が触っている機械や、黒い方の獣の耳少女が持っている小さな端末。銀髪獣の耳少女が手入れしている、羽の付いた小さな砲台らしき物体は、どう見ても私が知る科学力を超えたものだ。
それらをさも当たり前のように扱っているのだから、おそらく基準文明レベルも違うのだろう。あるいは、このアビドスという地域固有のものなのだろうか。
あるいは、
「というわけで、じゃ〜ん⭐︎改めて自己紹介、お願いしますっ」
「
衣服は……ノノミに着せられた。なんだかここにいる少女たちと同じ組織に入ったような気分だ。おそらくその徽章であろう、名札はないが。
「ふーん?おじさんは、
「ん、
「……
「
ピンク髪がホシノ、銀髪がシロコ、黒獣耳がセリカ、メガネっ子がアヤネか。覚えられるか……?名前の様式はノノミと同じなのだな。
「ところでさぁ、トウハくん」
「なんだ?」
「死に場所を求めていたって話、詳しく教えて貰えるかな?」
ホシノの表情は、真剣だ。
まあ、襲撃で言った以上、こちらについての言及は逃れられなかっただろう。だから、今度こそ全てを話そう。
「私は、おそらく異なる世界から来た者だろう。その証拠に──」
私は袖を捲ると、人肌に似せたカバーを被せた左腕の義手を外す。
異なる世界の象徴。異なる文明の遺産の証。剣と力だけが全てを支配する、諸行無常の大地。
泣き別れした手足が転がる、滅びゆく世界の話をしよう。
話を終えた頃には、すっかり夕方になっていた。反応は、様々だ。
ホシノの表情は変わっていなかった。むしろ、眉間に入る力が強まったようにも思える。シロコは……わからん。ただ、どこか恐怖に染まっているように感じた。セリカとアヤネは途中退室したためわからない。アヤネに至っては、ギブアップが丸わかりだった。ノノミは、悲しげに私を見ていた。
「──すっかり長くなってしまったが、以上だ。私は、あの世界から吐き出されたのだろうな」
やり過ぎたな、とひとりごちる。だが、語らなければホシノは納得いかなかっただろう。
私がここに至った経緯は、正直わからない。世界から吐き出されたというのも、感傷から生まれた憶測に過ぎない。結局、どうしてここにいるのか。どうして目の前の少女と似た姿に変わってしまったのか。自分でも分かっていない。そうなった理由はちゃんとあるのだろうが、それを憶測混じりに話しても無意味だ。
「かつて私は、あの世界では左腕を無くした男だった。だが、今はちょっと四肢が外れるだけの
パイプ椅子にもたれ、天井を仰ぐ。
何もかも滅んだ大地でできたことは、結局何もかもを滅ぼしただけだった。そうして自分の首を絞めることしかできなくなった私が、今更もう一度生きてみると?馬鹿馬鹿しい。
「……悪いな、こんな話をして。気分を悪くさせてしまっただろう」
やはり、私はこの場所に居るべきではない。
話している中で、ある程度ここと元の世界の差異を聞いた。“キヴォトス”。幾千もの学園が集う都市であり、皆その中で生活をしているという。アビドスもその学園の一つだが、ある事情で廃校寸前だとも。
彼女らは、廃校寸前のこの場所に、私では計り知れない思い入れがある。いわば、この学校こそが彼女らの
ならば、私は余計に異物だ。
「ノノミと、ホシノと言ったか。恩を返せず去ることになるが、許して欲しい。服はこの後ちゃんと返す。貰うわけにはいかないからな」
また裸一貫になってしまうが、別に構わない。慣れたものだから。
「あと、シロコだったか。私を砂漠で拾ってくれたらしいな。正直、嬉しかったよ。だが、すまないな。先ほどの通りだ」
私の体はあまりにも重たかっただろう。助けてくれた恩義には、素直に応えたい。ただ、それを叶えることはできなさそうだ。
「セリナとアヤネには、謝っていたことを伝えてくれないか──」
「ちょいちょいちょいストーップ」
「──何だ?ホシノ」
「そんな、これからまた遭難しますって顔されてもねー。おじさんは許さないよ」
いや、そうなんするつもりはないが……
ホシノは怒った様子で、私の元へ近づく。すると、ガラガラッと同じタイミングで、対策委員会の部屋の扉が開いた。
「そうよ!なんか消えそうな感じにしちゃって、そういうのはアビドスの外でやってくれる!?」
「せ、セリカちゃん、それは酷い言い方です……けれど、このままあなたがどこかへ行くのは、見過ごせません……っ」
「セリカ、アヤネ」
ぐったりとしたアヤネを抱えるセリカ。二人とも涙を浮かべており、セリカは恨むように私を睨んでいた。おおよそ、部屋から出た後からも話を聞き続けていたのだろう。聞いて心を痛むくらいなら、聞かない方がいいというのに。
「トウハちゃん」
ノノミに声をかけられ振り返ると、ぎゅっと温かい感触が全身に伝わった。ふんわりと果物のような香りがし、体を包む温かさに、私は戸惑う。
「ノノミ……?」
「ん、トウハはわたしが拾った。だから、アビドスのもの」
「シロコ、それはちょっと違っ……」
「ううん、違いません。トウハちゃんは、アビドスの制服を着ていますし、私たちの生徒です」
ぎゅぅ、と強く抱きしめられ、ノノミに髪を撫でられる。
温かい。このまま身を預けていたくなるような、優しい心地よさ。この感触を最後に感じたのは、いつだったか。
あぁ、懐かしい。懐かしい思い出だ。けど、けれど、この思い出もまた、
「おじさんねぇ、ちょーっと君について悩んでたんだけど、話を聞いてたらさ〜昔を思い出しちゃった」
ホシノは私に指を近付けると、パチンとデコピンを放った。
正直、打たれ強さだけは人智を超えている私にとって、全く痛くない。何も感じないレベル。だが、
「いたっ」
「なんだか、最初の頃のシロコちゃんに似てるよ。君は知らないと思うけど、さ……」
シロコに?実際に彼女に視線を向けると、顔を隠すように水色のマフラーを持ち上げていた。……熱烈な視線を感じて顔を向ければ、困ったような笑みを浮かべたホシノが、また私にデコピンを放った。痛い。
「こうなったら誰も、君を手放さないよ」
皆の顔を見れば、なんてことのないように私を見つめていた。もう、仲間だと言わんばかりに。
「だからさ、良かったらアビドスに来なよ。きっと、それが君が”
……おそらく違う。きっと、もっと論理的で、しっかりとした理由が、あったはずだ。私がここにいる理由。私という存在があり続ける理由。私がこの世界の
私は居てはいけないんだ。
だけど、こんなにも温かく、私を迎えてくれる手を、それでも振り解くことはできなかった。
『行かないか?伝説のリヴァイアサンとやらを見に』
『生き残ったことが恥ならば、生き残った理由を探して、納得するまで生きてみればいいだろう』
『ビープ……?いや、君がそう名乗ったのかと』
『ちょうど、君のような頭脳を必要としていた。雇わせてくれ、頼む』
『喋れない?私は気にしないさ。そんなヤツに従わされるくらいなら、ウチに来ないか』
『臆するな、来いッ!機械のくせに仲間に入りたそうな目を向けて、かわいいところがあるじゃないか!』
あぁ、私があの時誘った奴らは、こんな気分だったのだろうか。
私はホシノの手を取り言った。
アビドスの仲間になる、と。
この世界は狭い。
スカウトレッグ*1を両脚に取り付け、世界を横断した時、私は思った。
名前のない大地。もはや感じられる歴史も、考察程度にしか残されていない、滅びゆく世界。
この世界に生まれて、何度目だろうか。
「……煙たいな」
”グレート・デザート“のど真ん中。もう数百を超えてから数えてないくらいには見た景色。いつもここから始まり、いつもここに突っ立っている。
最初に世界が繰り返されたと感じたのは、初めて死んだ瞬間だった。
砂漠を彷徨いていると、飢えた野党の集団に遭った。なすすべもなく囲んで叩かれた。痛い痛いと叫んでも、棍棒で全身を滅多打ちにされ、やがて痛みも感覚もなくなった頃に、自分が同じ場所に立っていることに気がついた。
二回目は、スキマーに首を刈られて死んだ。自分の視界がごろんと転がり、何が起きたのかさっぱりわからないまま、気がつくと自分が間抜け顔を晒したまま砂漠に突っ立っていた。あの時だけ、通りがかった奴隷商に捕まるまで、自分が死んでいたことにも気づけなかった。
三回目は、強制労働施設の中で、過労死で死んだ。おそらく。
四回目はスキマーの死骸に縋りつき、何とか生き延びることが出来た。ただ死んだ。栄養失調だったと思う。
五回目、六回目、七回目……多分十回目辺りだったか。ようやく、マトモな生にありつけたのは。
【
数十回目、仲間を作った。
死んでもなお、自分のできることが以前と同じように引き継がれていることに気付けた私は、ゴリ押しで【都市連合】と【ホーリーネイション】の領地を横断し、ようやく腰を落ち着かせることに成功した。その時、ホッブズなる老人を仲間にした。
彼の言う話は全てホラだった。だが、当時の私は、そのホラ話が全て本当に思えた。だから、「リヴァイアサンを見に行こう」と、誘ったのだと思う。
だから私は誘った。「きっと自分が生き延びた意味はある」と。
他にも三種三色という多様な生態をしている
一人よりも、仲間がいる方が心強かった。それに、徒党を組んでおけばチンピラに舐められないのもある。
ただ、旅は途中で終わった。
”ヴェイン峡谷“という赤い雨が常に降り続ける大地で、ビークシング*3の群れに見つかり、生きたまま喰われた。四肢をツルハシ状の口で刺突され、もぎ取られながら死んでいった。私も、アイツも、ビープも。
その日から、生き返る度に四肢が既に飛んでいた。義手義足だけは引き継げるようで、少し安堵した。
北へ行けば、
南は、魔境だった。特に南東のサザンハイヴ──殺人に特化したピンク色のハイヴ集団──に、私は仲間共々機械の生贄にされた。
西は、案外住み心地が良かった。だが最終的にどうやって滅んだのか、覚えていない。多分、何かの襲撃を受けたのだと思う。
東は砂漠だ。もう分かっていることだろう。あそこはカスだ。
スケルトンの街を歩いた。あの地は酸性雨が酷く、全身が焼け爛れるかと思った。
人の皮を被ったかのような、肌色の蜘蛛の巣へと行った。そこに、宿敵がいると聞いて。
北東の地で巨大な草食竜を見た。彼らの存在は、私たちの存在など矮小なものだと言わしめた。
拠点を作り上げた。最初の数回は税を取られ、次第に怒り狂って来る者全てを迎撃した。ほんのちょっと爽快だったのは秘密だ。
拠点が充実して、仲間も増えた。もはや街と言っても良かった。これから、ここが自分の国になるのだろうなとも思った。誰を王様にするか、論議が白熱した。
遠征に何度も行った。研究したいもののために、古き時代に造られた技術書が必要だった。
研究を続けた結果、私の四肢は目敏い者にしかわからないほど精巧な、人間の腕を模した義手義足にチェンジした。実際は人肌を模したカバーを付けただけの代物だが、手触りや感触は人間と全く同じ。
この時は、大いに感動した。そして、絶対に大切にすると、仲間たちにも告げたものだ。
南東の攻略に進んだ。この大地における南東は、魔境だ。酸性雨の地は多く、憎きサザンハイヴが原生している場所でもある。【第一帝国】、あるいは【第二帝国】という、かつてこの大地に存在していた古の国の機械が、現存している場所でもある。【テックハンター】が夢見る“
私たちは、進軍した。新たなる技術、失われた技術を求めて旅立ち──ついに古の王、キャットロンを打破した。
アッシュランドを攻略した成果は大きかった。拠点の科学力は強まり、生活はさらに豊かに。製造できる武器も、防具も、衣服も食料も医療品も雑貨も家具も建物も……その時ほど、嬉しかったことはなかった。楽しかったこともなかった。
夢から覚めるように、砂漠のど真ん中に突っ立っていたことに気づくまでは。
おかしいな。私は、まだ死んでいないのに。
おかしい。私たちは、まだこれからだったというのに。
“ハブ”へ向かった。今までよりも最高速度で。ホッブズに話しかけたら、初めて声をかけた時と同じホラ話を言い出した。
ルカと顔を合わせた。そんな性格ではなかったはずだ。私は激昂して、その場を去ってしまった。
ビープは馬鹿だが、人の名前だけは必ず覚えるヤツだった。なのに、「なんで名前が分かったのですか」と言いやがった。
バーンだけは、サッドニールだけは、そう思った。全然私のことを知らなかった。
どうして。
グリフィンは訝しまれた。人間の手足に見えるといえど、やはり機械の手足。彼にはバレた。アイツはホーリーネイションの教えに疑問を持つ男だったが、その時は目を逸らされた。
イズミには、私が知っている古代の技術をいくつか教えてみた。目を輝かせてくれた。違うだろ。この技術は、君と一緒に学んだもののはずだ。
レッドには申し訳のないことをした。反射的に攻撃かと思い蹴り上げた時には、彼女を絶命させてしまった。そういえば、彼女と最初に会ったきっかけは、私にスリをしたからだった。
レイには、首を横に振られた。
ハムートとは、今回は気が合わなかった。私はもう、君が望んだ革命は起こした後だったんだ。
グリーンは、どの酒場を探し回っても、見つからなかった。
どうして。
なんで。
エリスとは喧嘩になった。暴力沙汰の矛先は彼に向けられ、彼は都市連合の檻の中へと入れられた。この領地で檻に入るということは、奴隷になるのと同等の意味を持つ。私には、助けられなかった。
アグヌは、とっくに絶命していた。スケルトン専用の破砕機に、彼の体が挟まっていた。
巨躯のレーンは、とっくに死んだと、酒場の店主から聞いた。クロスボウ使いでありながら、誇らしい死に方をしたと。
ドクター・チュンは捕まっていた。ハシシ*4商売に手を出し、失敗したらしい。
エスフェルを助けに行ってみたが、見つからなかった。とっくに、貴族に売り捌かれていた。
なんで私だけが、全てを覚えていて、心を共にしたアイツらは、そんな事など無かったかのように!!
違う。そんなことは知っていた。最初からそういう仕組みだった。ホッブズとルカに至っては、ヴェイン峡谷で一度私もろとも死んで、もう一度誘い直したはずだ。もうあの光景は知っていただろう!
忘れていたわけじゃない。忘れるはずがない。ただ、幸せな記憶の中に、浸っていたかっただけだったんだ。
だったら、どうして私だけずっと以前の力が引き継がれているんだ。
どうして私だけ思い出が残っているんだ。
どうして、皆何も覚えていないんだ…………
無意味だ。
無価値だ。こんな世界。
繰り返して得た力は、何もかもを蹂躙できる。仲間なんて要らない。
繰り返して得た知識は、この世界から目新しさを全て潰した。
繰り返して得た思い出は、忘れたくても忘れられない。呪いになった。
繰り返して、
繰り返して、
繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、死んで、死んで、死んで、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで──
幸せなひとときすらも、味わった瞬間には無慈悲に繰り返されていて、
私はもう、この世界で生きたくなかった。
全部知って、世界が私よりも小さなものに見えた。
大好きだった冒険も、大好きだった研究も、料理も、皆との生活も、見上げれば見える星々も、
全てがつまらない。
だったら、全て壊してしまおう。
死にかけのこの世界を壊して、壊して、全部無いものにして──
それでも繰り返すのなら、私はもう生きたくない。
あぁ、ようやく……全てが滅んだ。
「帰ろう。また、あの場所へ」
次回は対策委員会編三章の公開分読破後に投稿したいと思います。
ブルーアーカイブ、あるいはKenshiをプレイしたことがあるか
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両方ともプレイ中(済み)
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ブルーアーカイブだけプレイ中(していた)
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Kenshiだけプレイ中(済み)
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両方未プレイ