Blue Kenshi【旧作】   作:外道カヤノ

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第四話:大人と子供の心

 

 

「とにかく私は認めない!認めないんだからッ!」

 

 

 そう言って走り去った彼女を、誰が止められただろうか。

 私はただ、居心地悪そうに苦笑いする先生と、顔に暗い影を落とす残った皆を見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタカタヘルメット団だが、補給ができたことにより、この勢いで敵の前線基地を潰すことを提案された。相手は戦車という大きな戦力を持ち込んできたのだ。なけなしの弾薬で戦ってきたアビドスだったが、立場が逆転した今こそがチャンス。先生も同意したことにより、作戦実行。──結果は、成功に至った。これで毎日のように来ていた奴らも、しばらくは大人しくなるだろう。

 

 ひと段落つき、自己紹介の時間となった。先程はタイミングが悪かったので、改めてということに。一通り全員の紹介を終えると、先生は疑問に思ったのか、わざわざ手を挙げて質問をしてきた。

 

"アロ……少し調べてみたんだけど、アビドスの在校生は五人のはず、だよね?"

 

 アロ……?

 確かに、先生の言うことは()()()。何せ、

 

「その通りだ、先生。私はつい数日前に、アビドスに拾われただけの者。生徒として正式に登録できていないんだ」

 

 正確には、登録する暇もなければ、手続きもできなかったというべきか。

 【連邦生徒会】の長たる生徒会長が失踪した話があってから、あちら側も色々と忙しかったのだろう。電子の申請はほぼほぼ無視され、電話が繋がることも稀だったらしい。そんな中、個人情報も、この世界で生まれた経歴もない私の生徒情報を登録して欲しいという願いは、まあ無理だった。

 アヤネがわざわざ便箋を使って届けたかったヘルプコールと比べれば、私の情報の優先度は下がるだろう。

 

"つまり、君は……"

「その辺にいるチンピラや不良の一体と見て貰って構わない。ただ、私が【アビドス対策委員会】であることは、ここの皆の総意だ。……照れ臭くなるがな」

 

 本当に、私は恵まれている。だから、いつこの幸運が切れるか、怖くもある。

 

"だったら、こっちで登録を行うよ?"

「なにっ?」

"色々あったけど、連邦生徒会も今は多少落ち着いてると思うし、多分シャーレの権限で君の入学手続きもどうにかなると思う"

 

 マジか。と思う反面、何でもアリか?と思うところもある。そんな万能感よりも怪しさを感じ始めた私を他所に、先生は自前のタブレット端末を使い、すぐさま画面を見せた。

 

"入学手続き書だね。こういうのは書いたことある?"

「……一応は」

"アビドスの様式があるなら、そっちでもいいけど"

「あ、でしたら私から送っていいですか?実はもう用意はしてあったんです。いいですか?トウハさん」

「構わない……???」

「なんで疑問系なんですか……」

 

 いや、今まで滞っていたものが、こうも単純に進むと急に何も考えられなくなるというか。ドアを押しても押しても開かないと思ったら、実は引きドアでしたというオチを喰らったかのような呆気なさ。

 ともかく、アヤネにあらかじめ書いていた入学手続き書を先生に送って貰う。暇な時に書いたものだ。一応形としては、“転入”になるらしいが、書類が入学手続きなのはまあいいだろう。学年はセリカとアヤネと同じ一年生となる。

 年齢は……忘れてしまったからな。

 

「よし、これでトウハも正式にアビドスの一員ね!これで借金問題もちょっとは楽になるといいのだけど……」

"……借金?"

「……あ」

「あっ」

 

 セリカが漏らした単語を、先生が拾った。シロコとアヤネも、それに気付いてしまう。

 

"借金って、どういうこと?"

 

 先程までにこやかだった先生の表情が変わる。しかし待て。その様子だと、

 

「アヤネ、もしや借金のことは要請に書いていなかったのか?」

「っ、そ、それは……」

 

 ちらりとセリカの顔を見ると、何となくだが把握できた。話が進まなさそうだと思ったホシノとノノミが、先んじて先生に事情を語り始めた。

 アビドス高等学校は借金を抱えている。その数、9億6千幾らか……想像も絶するほどの借金だ。原因は数十年前、アビドス自治区で起きた“大規模な砂嵐”。現在も不定期で発生し、自治区を砂漠化させて傷を広げている大災害。

 結末から言うと、大災害は大きな不幸を齎した。

 砂漠化で地域が過疎化し、環境の悪化で学校を離れた者は多い。

 

 無論、アビドスが何もしなかったわけではない。住宅街や市街に舞った砂を取り除くための工事や、校舎の改修工事を行うために尽力した。しかし、滅びが見え透いている街に大金を貸す企業や銀行などどこにもない。頼れる先は、悪徳金融機関のみだった。

 最初は返せる算段であったが、不定期で発生する砂嵐は砂漠化を進め、前述に繋がる。借金は砂漠化に比例して膨れ上がり、現在に至る。

 

 何とも、不幸な話だった。

 だが、それでも彼女らの意志は真っ当なものだった。

 まじめにコツコツ、自らの力で返す。

 

 これがアビドスの意志であるならば、新参の私が口を挟むのも野暮だろう。私の場合、恩義を返すためもあって同じ意志に乗った。しかし、先生の場合は……

 

"それなら、私も協力するよ。シャーレとしても見過ごせないからね"

「…………や」

"え?"

「嫌よ私は!今まで私たちだけでどうにかしてきたのにっ!今更、大人が首突っ込んでくるなんて!」

 

 やはりか。と、私は思った。

 

「今までの大人たちが、この学校の現状になんか見向きもしなかったのに!なんで今になって……!」

 

 噛み付くセリカの言葉に、先生が言葉を失う。それがただの癇癪ではなく、滲み出た古傷の痛みであることは、誰にでも明らかだった。

 だが、それでも言うべき言葉が私にはあった。

 

「だったらセリカ、なおさら先生を頼るべきだろう」

「ッ、トウハまで!?」

「私もつい数日前まで同じ部外者で、一応大人ではあるのだが……」

「あんたはどう見ても私と同じくらいじゃない!それに、確かに部外者ではあったけど、今のあんたは私たちの仲間でしょ!?」

「……だったらより強く、先生の、シャーレの助力を受けることを勧めるぞ。中途半端に援助して貰っておいて、「はい君の役目終わり」で彼を放り出すほど、君は薄情なのか?」

「それは……ッ」

 

 セリカの言い分もわからなくもない。私の知らぬところで、アビドスは大人たちに無視され続けた。そして、()()()()()()()()()()()。そんな感傷を抱かなければ作れない意地だ。アビドスの硬い意志の根幹に、そんな経験が詰まっているのだろう。

 アヤネも、シロコも──意志は固いらしい。

 

 だが、それでも私は助力を受けるべきだと思った。支援してくれたからには、相応の恩義を返すのが当たり前だろう。それに相手は連邦生徒会傘下の組織。連邦生徒会長が直々に指名した人材。超法規的機関と言ったか。であれば、そんじょそこらの企業の大人よりは、幾分か信頼はできる。まあ、その連邦生徒会やらが最近騒ぎを起こしてたことは今は差し置いておく。

 それに、経験則上、先生はビープっぽいところがあるんだよな。あそこまでアホではないが、なんだか放っておけない。いい意味でな。

 

「弾薬と補給品は受け取る。だが学校の問題には関わらせない……線引きするにも、もう遅すぎるだろう」

 

 既にヘルメット団の迎撃、拠点襲撃にも関わっておいて、帰れは無理がある。

 私がそう告げると、セリカはうつむき……それでも、意志は固く、変わらなかった。

 そうして、冒頭に戻る。

 

 取り残された私と、先生。そしてアビドスの面々。一気に空気が重たくなった空間の中、最初に口を開いたのはノノミだった。

 

「私、セリカちゃんを追いかけます」

 

 ノノミは一言告げて退室。続けて口を開いたのは、ホシノだった。

 

「……正論ばかりだと、嫌われちゃうよ。おじさんの経験則」

「…………すまない。感情的になってしまった」

「言うほど感情的だったかな〜?ま、それはそれとして」

 

 彼女は私から先生に顔を向ける。何か言いたそうに口を開こうとしたが、じっと先生の表情を数秒ほど見て、告げた。

 

「……いいの?正直、かなり面倒だし、引くなら今だよ?」

"うん。シャーレも、対策委員会の一員として助力するよ"

 

 元より、引くつもりはなかったらしい。先生の言葉に、皆の顔が緩んだ気がした。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ひとまず、協力を取り付けれただけ万々歳だろう。補助だけでなく、借金問題が一歩でもどうにかなるのであれば、それだけでもありがたいことだ。

 

"ところでトウハ、ちょっといいかな"

「何だ?」

"少し、君と面談したいかな。入学手続きのことも含めてね"

 

 ただ、私自身の問題は、ここから生まれそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕暮れ時。放課後の時間、ホシノに許可を貰い、空き教室で面談となった。先生は軽い雑談と言っていたが、実際は事情聴取に近いものだろう。

 そんな重苦しい雰囲気を──今は感じていない。何故なら、

 

「質問がある、先輩方。何でいるんだ」

「そりゃ、かわいい後輩を一人にするわけにはいかないからねぇ〜」

「そうですよ〜。それに、トウハちゃんのこと、気になります♠︎」

「ん、スペック確認」

「あ、あはは……先生からはちゃんと許可を頂いているので」

"うん、だから気にしないで"

「私は気にするが?????」

 

 先生が座る机の後ろに、ズラッと並ぶ四人。おかしいだろ、面談なのに一対五は。これが俗に言う圧迫面接か?

 ともかく、先生との面談が始まった。

 

"じゃあまず、年齢を教えてくれるかな"

「忘れたよ。そもそも生まれた年月を知らないからな」

 

 いきなり空気が重たくなった。……私のせいか、これは。

 

"……よし、質問を変えよっか。好きなこととかある?"

「好きなことか。そうだな……冒険とか、物作りとかが好きだ」

 

 特に、物作りは今でも好きだ。

 かつての世界では、物を作れるというのは大きなアドバンテージであった。武器、防具、衣服、医療品、ロボット製品、料理、機械……滅びゆく世界において、こういった生活や生存に需要のある品々は、どの地域でも貴重品であった。特に武器と防具。目を合わせたら戦いが始まるあの地では、最も重要な品物と言えるだろう。

 私はあらゆる武器と防具の製法を熟知しており、裁縫に関しても下手な縫い子より技術があると自負できる。医療品にも理解はあるし、料理も一流を名乗れる程度には腕に自信がある。ロボット工学は、何なら私が最も得意とする物作りスキルだ。四つの義肢を運用している以上、どうしても必要な技術だったからな。

 

「先生は連邦捜査部、つまりはアビドス以外の学園にも足を運ぶことがあるのだろう?だったら、他の学園も見て回ってみたいな。特に【ミレニアムサイエンススクール】、あそこは数理と機械、コンピュータに力を入れていると聞く。有識者と意見交換をしてみたいものだ……!」

"ふふっ、すごい自信だね。今度、君がミレニアムに見学できないか、ユウカに話してみるよ"

「なるほど。では、アビドスの問題が終わってからでも良いから頼みたい。ユウカとやらにもよろしく頼む」

 

 うん、ものすごく楽しみだ。ワクワクする。

 そんなこんなで、次の質問が来た。

 

"セリカが元々部外者だとか言ってたけど、アビドスに入学を決めた経緯を教えて貰ってもいいかな。あぁ、言いたくないことは省いて貰っても構わないよ"

 

 まあ当然の質問だろう。私はアビドスの事情も知らずに入ってきた身だが、先生が来る前からちゃんと事情は聞いて、それでもなおここに居続けている。

 事情はホシノから教えて貰ったのだが、きっとあれは先輩なりの優しさだったのだろう。この問題に巻き込ませてしまったことへの、謝罪か、あるいは……ただ、私の意志は変わらない。忘れていた温かさを思い出してくれたのは、彼女たちだから。

 

「私はこの世界の“外”から来ている」

 

 そして、先生。彼は経験則上、信頼してもいいタイプの人間だ。かつての世界では、奪うことに慣れた賊か、権威を振り翳す貴族(カス)共か、話が全く通じない狂人、何故生きているのか分からないゴミクズ共、やけに自分を狙ってくる害獣、思想にまみれた能無し共、頭のイカれた第二帝国の皇帝(中古のポンコツ)…………ともかく、目の前の人物のような“善いヤツ”はほぼ居なかった。人口の0.1%以下くらいと言っても過言ではなかった。だからか、話し方や仕草、性格や行動からある程度人柄が読める。

 その点で言えば、コイツは信頼してもいい。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なので、正直に話すことにした。内容は、アビドスの面々に話したことと同じだ。

 異なる世界で育ち、その世界で何度も何度も生と死を繰り返してきたこと。

 いつの間にか”アビドス砂漠“のど真ん中を彷徨っていたこと。

 そこをシロコに拾われ、対策委員会の一員として迎えられたこと。

 

 今では生きることが少し楽しくて、これまでの恩を返したいと思っていること。

 

「……とまあ、こんな感じでな。見ての通り、私の四肢は義肢になっている。だから、スマホ代や、本来売るはずだった銃に合わせて、いつかは必要な義肢のメンテにかかる費用、あるいは義肢製造の費用、私の家になりそうな場所を考えると……恩のために借金返済に力を貸しているはずが、むしろ迷惑をかけてしまっている。だから、この迷惑分もお金にして返してあげたいと思ってるんだ」

 

 本当なら、私がいなくてもあの五人でならやっていけたのではないか。ふと、そう思った日があった。

 だからこそ、自分の力で、しっかりと恩返しがしたい。そのために、他人の力を使うのは違うのではないか。そう思うこともあった。

 

 ただ、私は知っている。一人で全てが完結できたとしても、それは──とても寂しいことだ。

 

 皆で足並みをそろえてこそ、得られるものだってある。助けが必要な誰かの手を取ってこそ、理解できるものもある。

 かつての世界で経験し、捨て、もう一度拾い直して、ようやく分かったものだって、あるのだから。

 やはり、どれだけ生きていても、まだまだ分からないことだらけだな。

 

「うぅ……おじさん、涙出てきちゃった……こんなに良い生徒に恵まれて、とっても嬉しいよ」

 

 何故かホシノがハンカチを片手に感激していた。涙をちょちょ切らしているところを見ると、こちらにも来るものが……ないな。目薬が見えているぞホシノ。ただ、悪い気分ではなかった。シロコとノノミ、アヤネと先生も微笑ましい表情でこちらを見ており、なんだか照れ臭くなる。

 

"トウハは、色んなことを経験してきたんだね"

「……あぁ」

 

 これでも話しきれなかったくらいに。いっぱい、話したいこと、知りたいことがあったんだ。

 

「ん、トウハはいつも武勇伝を話したがり」

「おいシロコ」

「はいは~い♡なので、ここで私がトウハちゃんをお泊りさせた時のお話をしようと思いま~す!」

「ファッ!?」

"うん、是非とも聞かせてくれないかな。いろんなトウハのこと"

 

 ノノミが突如席を立ったかと思えば、私が彼女の家に泊まっていた頃の話を暴露しようとしてきた。おそらく初めて来た頃、帰る家も宿に泊まる金もない私を、ノノミが自宅へ招いた時の話だ。その時ほど自分が女になったことを後悔したことはない。ってその話をする気かコイツ!!

 先生もノリノリそうだけど純粋な興味なせいで指摘できない!クソッ、こうなったらァッ!?

 

「ホシノ、シロコ!?何故私の腕を掴む!HA☆NA☆SE!」

「ノノミちゃ~ん、是非とも聞かせて欲しいなぁ。トウハくんのあんなことやこんなこと」

「逃がさないよ。ここは大人しく語られるべき」

「ふざけんな!やめろバカ!!やめっ、ヤメロォーーーッ!!」

 

 そうして始まった、ノノミによる私の恥ずかしい話は、下校時間ギリギリまで続いた。私の尊厳は死んだ。

 

 ちなみに、今はホシノに頼んで学校の空き教室で寝泊まりしている。そのため、彼女のちょっとした秘密を知ったのだが、それはまた今度語ることになるだろう。





 色々な確認のためにメインストーリー1章を見直しているんですけど、シロコはともかくノノミも最初から先生と距離近いんですよね。

 ノノミのヒモになりたい。紐でもいい。

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