「いい?彼女は客人としてここに来ているのよ?それに設計図通りにと言ったのは聞いていたはずよね?で、何故私から見ても明らかに度を超えた改造がされてる義肢が山盛りになっているのかしら!?」
「全て、良い出来だと自負しているとも。実際、彼女も褒める部分は褒め称えてくれたさ。ミレニアムの技術と異世界の技術、この組み合わせによって私たちの常識と知識は悉く描き変わった。見てくれこの集大成を!我々ではなし得なかった浪漫あふれる作品たちを!!」
「分かりました。では、セミナーとして次回からエンジニア部の予算を90%削減致しますね」
「「「本当にすみませんでした」」」
ユウカの説教でエンジニア部の三人が床に正座をしている中、コロコロと微かに車輪を転がす音が聞こえて顔を上げる。
同じデザインの車椅子に乗った、雪のように白い髪の少女。薄明の如き美しさと気品を感じさせる彼女は、私を一瞥してから口を開いた。
「──失礼します。あなたが、荒砂トウハさん?」
「……いかにもそうだが」
「なるほど、なるほど……確かに、これは全知たる私ですら知りえない、“外”とは異なる世界の人間ですか」
じっくりと見つめる訳でもなく、一目見て脳内で分析を始めている。なるほど、そういうタイプか。それと、彼女が、か。
「自己紹介は必要なさそうだな」
「……これは失礼しました。私は、”ヴェリタス“部長、ミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーの
「…………」
Huh?
「すまない、もう一度聞いても?」
「はい。私は超天才清楚」
「それはいい」
「……明星ヒマリと申します」
個性が強過ぎる奴しかいないのかこのミレニアムとやらは……あ、そんな本気で残念そうな顔はしないでくれ。悪かったから……ハッ!?何故私が謝っている……?これも彼女が自身を病弱と言ったが故の効果か!*1やり手だな、彼女は。
「一応名乗っておく。アビドス高等学校一年生、対策委員会の荒砂トウハだ。何か私に用があるのか?」
「はい。私と同じ車椅子をお使いになられた方は、あなた以外に居りませんので。乗り心地は如何でしょうか?」
「ふむ……聞くが、この車椅子は君が?」
「はい。と言っても、設計だけですが。エンジニア部が
「……君もこの変態技術者に踊らされたことがあるのだな」
わかるよ。私も四肢がビックリドッキリメカに変えられたもん。無論、今は依頼通りの改造……修理中だ。
ただ、エンジニア部が追加しようとした機能や性能については、一部を取り入れることにした。これに関してはウタハと気が合ったというか、ヒビキの芸術性に惚れ込んだというべきか、コトリの解説を聞いて私ですら思いつかなかった発想ができたというか……まあ、紆余曲折あったが、全部が全部悪いものではなかったのだ。
ただし、チリソース、耳かき棒、カラースプレー……テメーらは駄目だ。
「車椅子だが、良い乗り心地だ。今も乗っているが、不思議と座っていると思えない。四肢が取れた状態でも楽な姿勢を維持できる。立ち上がり機能と、座高操作機能も中々だ。搭乗者の意思に寄り添う、とても優しい車椅子だ」
実際、義足が完成済み(なお余計な機能付き)な今でも、右腕以外の義肢を外して車椅子に乗っている。義肢の修理ができなければ、このまま車椅子生活でもいいなと思うほどにだ。流石にそれは不便だが、大口ではなく、素直にそう思えるくらいには、良いものなのだ。
「……ふふっ、そうでしょう。えぇ、貴方のお体に合ったのであれば、この上なく嬉しいことはありません」
彼女には、しっかりと足がある。キヴォトス人だから、ちゃんと人の足なのだろう。しかし、車椅子に乗り、自身を病弱と名乗り出たのだ。自らが車椅子を設計した背景も、察することができる。
居なかったのだろうな、同じ者が。それは、とても寂しいことだろう。
「……モモトークの連絡先を交換しないか?私はアビドスだが、スマホでなら繋がれるだろう」
「あら、お気遣い……いえ、そうではありませんね」
「私は君の
「それをするなら、モモックスですよ。ですが、そのような関係もいいですね」
ピロリン♪と、差し出したスマホから音が鳴る。ヒマリがスマホを取り出した様子はなかったが、私のスマホには彼女の連絡先が載っていた。
……まあ、連絡先を交換したのは、それだけでの関係に留まらない。
「さて、話を切り替えましょうか。貴方から──【アビドス高等学校】から提供された技術」
「これらを【ミレニアムサイエンススクール】が拝見し、検証、並びに過去の事例と照らし合わせた結果、全くの未知でした」
「すなわち、我々ですらも発見し得なかった“新技術”として認めましょう」
「して、貴方はこれを対価に、我々に何を要求されますか?」
私はただ、今日の会議を放り出してまで、義肢を修理しに来ただけではない。
「有意義なお時間でした。また貴方とはお話できればと思います。本日はありがとうございました」
「こちらこそ、良い関係が結べて良かったよ。これでアビドスの皆に良い報告ができる」
互いに手を握り、最後に礼をする。ヒマリは私に手を振り、そのまま車椅子を動かしてガレージを出ていった。
横でとてつもなく微妙な顔をしているユウカがいるが、ここは無視しておこう。
「……話は終わったかな?」
「あぁ、待たせて済まなかった。それで、ユウカ監修の義肢の出来を拝見したい」
「いいよ。まずは、コレだね」
テーブルにズラりと乗せられた、白磁色の義手義足。デザインは丸みを帯びた白い装甲で覆われており、形状は以前と比べて人体に寄せられたカタチとなっている。シンプルかつ近代的な見た目だ。
それぞれ二の腕と太ももの部分に、ミレニアム、ついでにアビドスのエンブレムを組み合わせたようなエンブレムを捺印して貰った。ピラミッドに登る太陽、その周辺に数式を思わせる雲、そしてミレニアムの象徴たる英字がピラミッドの下にある。縦長になってしまったところを線が囲んでおり、一瞬の垂れ幕にも見えるな。
「前の義肢には名前らしい名前がなかったんだよね?」
「あぁ。どういう機能を示す腕か、脚か、くらいの質素な名前だった。量産品だからな」
「じゃあ、これは唯一無二の義肢になるわけだね……!」
「ですので、せっかくならば我々で命名を!と言いたいところでしたが、この義肢を使われるのは、おそらくキヴォトスで唯一貴方だけです。なので、ここは一番義肢に理解のある貴方にこそ命名して頂きたいのです!」
「私にか?」
「勿論。そのために、色々単語帳や参考になりそうな本を取り寄せてきた。今からじっくり考えるのもいいだろう」
「いいじゃないか……!命名は後にしよう。まずは使用感からだ」
エンジニア部の三人に手伝ってもらい、それぞれ義肢を換装する。右脚、左脚、右腕、左腕と取り付けると、私は車椅子から立ち上がった。
「ふむ、うむ!馴染むな……凄いぞ」
手を握る、手を離す、脚を曲げる、足先をパタパタと動かしてみる。人間であれば当たり前の動作。しかし、その動作の一つ一つが、私は義肢なくしては不可能なものだ。指先の一本一本。足先が床を踏み締める感触、腕を曲げれば筋肉がしなる感覚。ぐるりと水平に腕を捻ったり、脚を踊るように動かしたり、確かめる。
心なしか、以前よりも可動域が広く、より
拳を握り、何もない場所へ正拳を放つ。次に手刀、ローキック、震脚の動作からのラッシュ、と軽く格闘を行なう。仮想敵を目の前にし、コンボを繋ぎ、感触を確かめる。
体が軽い。この心地よさはもう、以前のものでは味わえないだろう。
「──最高の出来だ。
その言葉に、ウタハは満足そうに頷いた。ヒビキとコトリはハイタッチを交わし、ユウカは安堵したのか一息つく。
「
満足げに、噛みしめるように何度も頷くウタハ。
さて、次は仕様について聞いてみるとしよう。私はヒビキに質問することにした。
「ところで、擬態用カバーをデザインするという話があったはずだが……」
「うん。それについてだけど、まずはスマホにこのアプリを入れて欲しい」
言われた通りに、ヒビキ経由でアプリをインストールする。試しに開いてみると、人型のシルエットの横に、いくつかの数値とゲージらしきものが見える。……何故だろう、初めて見るUIであるはずなのに、とてつもなく見覚えがあるようなこのUIデザインは。*2
「これが各義肢の状態を確認できるアプリ。それと、これはメンテナンス用のページだね。トウハちゃんの雰囲気に合わせて、修理前の義肢風にしてみた。……一応、現代風のデザインにも変えれるよ」
「い、いや……しばらくはこれを使ってみるよ」
一応現代風のデザインとやらも見てみるか……おぉ。*3
「それで、擬態用カバーについては、意思拡張インターフェースを導入してみたんだ。「義肢を隠したい」って強く思うとカバーが出てくるよ」
「ふむ、ふむ……うぉ!?」
試しに言われた通りに「義肢を隠したい」と思ってみると、突如二の腕の裏と、太ももの裏からバシュッ!と透明な薄膜が飛び出し、それぞれの義肢を包むように覆ってゆく。結合面から指先までぴっちりと包んだ薄膜は、ヌラリと表面を肌色へと染め上げた。
「え、えっ、何これ……?」
「何これと言われましたので説明しましょう!これはホログラム投影が可能な、特殊な粒子を練り込んだ合成ラテックス膜、"薄明膜*4"です!"新素材開発部"が新たに製作した、「ホログラムUIに見せかけた透明な膜」をコンセプトとしたものでして、素材の質感と使用用途的にもちょうど良いかと思いまして、トウハさんの義肢に搭載しました!射出する際の見た目はさながら餌を捕食するクリオネの如き様相ですが、ただ手足を隠すだけの機能ですので、怖くはありませんよ!ちなみに、長袖やニーソックス等を義肢の上から着用しても、問題なく義肢の隠蔽機能は使用可能です!」
「もうちょっと展開時の動作はどうにかならなかったのか???」
とはいえ、人肌に染まった時の義肢の感触は、確かに人肌に近い。若干ヌルッとしているが、まあ問題……ない、か。……保湿性が高いと思えばいいか。
他にもいくつか質問を交わし、使用感と機能説明を聞いた。やけにコトリがサムズアップしながら説明と解説をするが、六割が理解できずに終わってしまった。この辺りはその手の専門的知識を修学すれば分かりそうだが、あいにくアビドスにそのような専門の教育用BDはない。
質問が終わり、納品とその他エンジニア部間と、ミレニアム間の両者の契約を結んだ。その頃には、もう時刻は午後2時。昼を大きく過ぎてしまうほどに時間は経っており、せっかくなので、エンジニア部と一緒にミレニアムの食堂へと赴くことにした。
味は、まあ……ミレニアムらしいと感じた。*5
途中で乳白色のロングヘアの少女*6が盗聴機器を手にこちらを覗いていたり、歩いている途中にトレーニングが大々々々好きな少女*7と気が合ったり、私より身長の低いヤンキーめいたメイド少女*8に勝負を挑まれたがユウカに止められたり、様々なことがあった。
そんなこともあって、午後3時。
「さて、予定だとあと二時間か……」
思ったよりも早く義肢の修理……いやもうハッキリ言ってしまうと、新調になってしまったが。
先生が迎えに来るまで、しばらくの時間の余裕ができてしまった。エンジニア部の皆も、先の義肢の技術を研究しようと躍起になっており、まだ開発を続けている。一応、アレで完成はしたはずなのだが、あの後もまた新しい義肢が出来たりするのだろうか。
ミレニアム校舎のロビー。アビドスと違い、とても広く、透明感のある空間に一人取り残された私は、試しに購入してみた"妖怪MAX*9"とやらをチビチビ飲んでいた。普通ではありえないカフェインの量と、濃い味付けに舌を伸ばしていると、ウタハが近づいてくるのが見えた。
「……おや、どうした?」
「ここにいたのか。少し、君と話したくてね」
ウタハも同じく、妖怪MAXを手に私の隣に座る。彼女は飲み成れているのだろう。一口でかなりの量を飲みつつ、どこか陰りのある様子で続けた。
「君は、「神秘」というものを知っているかい?」
「……いいや、聞いたことがないな」
「私たちも中途半端な知識しかなくてね。字面の通り、これは極めてオカルティックで、数理の世界では証明しようがない概念的なものだ。ただし、そんな「神秘」を、我々キヴォトスに生きる少女たちは、必ず持っているものらしい」
例えば、コレのようにね。
そうウタハが指をさしたのは、自らのヘイロー。
「話が変わってしまうが、私たちは先ほどまで、君が着けること以外で義肢をテストできるよう、君の手足にあるソケットを複製し、コンピュータで動かそうとしたんだ」
だけど、
彼女は缶の中身を飲み干し、空になったものを空いた席に置く。夕日の兆しが見えつつある空を仰ぎ、彼女は言った。
「おそらく私たちが──いや、君が
それが、君が持つ「神秘」なのだろう。
ウタハが導き出した解を、私はただ、静かに聞いた。
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