NERV本部作戦部の暗く狭い部屋には多くの人が唯一の灯りで照らされた資料やプロジェクターに映された映像を見ていた。
「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと思われます」
スクリーンに一瞬で蒸発するダミーや自走砲の映像が流れる。
「エリア侵入と同時に、荷粒子砲で100%狙い撃ち。エヴァによる近接戦闘は危険すぎます」
「A.T.フィールドの方は?」
ミサトさんがマヤさんに尋ねる。
「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど、強力なものが展開されています。それに加え位相パターンが常時変化しているため、中和は困難だと思われます」
自走砲の弾丸がラミエルのオレンジ色のATフィールドで弾かれる様子が映される。そこに日向さんが付け加える。
「MAGIの計算によると、目標のA.T.フィールドをN2航空爆雷で貫くためにはNERV本部ごと破壊する分量が必要です」
「攻守ともにほぼパーペキ。まさに空中要塞ね」
リツコさんも口を開く。
「松代のMAGI2号も同じ結論よ。それを受けて日本政府と国連軍がNERV本部ごとの自爆攻撃を提唱中」
「人ごとのようにいってくれるわね〜。ここを失えば全て終わりだってのに」
日本政府と国連はこの方法が確実だからってわけじゃなくて、人類の脅威を唯一倒せるNERVが面白くないから力を少しでも削ろうとしてこの作戦を提唱したんじゃないだろうかと最近は思う。
「現在目標は我々の直上に進行、直径17.5メートルの巨大穿孔機がジオフロント内、NERV本部へ向かい穿孔中です」
「敵はここ、NERV本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」
「洒落臭い。到達予想時刻は?」
「明朝午前0時06分54秒。その時刻には22層全ての防御を貫通してNERV本部へ到達するものと思われます」
ラミエルはアニメより強化してるといっても新劇版程度で少し安心する。
「敵シールド、第一装甲板に接触」
使徒はそんなことはお構いなしにこちらにゆっくり、確実に向かってくる。私たちに残された猶予は、約10時間。
「初号機の状況は?」
「問題ありません。先のシャムシエル戦での修理も完了しています」
「了解。零号機は?」
「問題ありません」
ミサトさんは少し考えると、私を見る。
「エヴァパイロットの様子は?」
「全員、心身ともに問題ありません」
私はいつもとは違う雰囲気に緊張しつつもそんなことはおくびにも出さないように答える。作戦を考えるにあたってパイロット側の意見も必要だと言うことで、私がパイロット代表として会議に出る事になっていた。人類存続に危機だっていうのに、その会議に14歳の子供が参加してるんだから笑える。
「敵シールド到達まで、あと9時間55分」
「最悪ではないけど決定的な手がないのも事実ね」
「白旗でもあげますか」
メガネをかけている日向さんがおちゃらけたように言う。それに対しミサトさんは少し悪い笑みを浮かべた。
「その前にちょっちやってみたいことがあるのよねえ…」
総司令執務室では3人の人間が話し合っていた。
「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃かね」
冬月が資料を見つめて言う。
「そうです。目標のA.T.フィールドを中和せず、高エネルギー収束隊による一点突破しか方法はありません」
ミサトは確信を持ったように言う。
「MAGIはなんと?」
「スーパーコンピューター、MAGIによる回答は賛成2、条件付き賛成が1でした」
「勝算は13.2%…」
「最も高い数字です」
冬月がさらに懸念事項を口にする。
「A.T.フィールドを貫くエネルギー量は最低1億8000万kwか。これだけの電力量をどうやって集めるつもりだね?」
「もちろん日本中です」
ゲンドウがようやく口を開く。
「やってみたまえ、葛城一尉」
その各所の連絡をする羽目になる冬月は面倒が増えたとばかりに頭を抑えた。
「どうして陽電子砲の徴発に反対したの?」
ミサトさんと私はNERVの出口に向かって歩いていた。目的地は今回の作戦のキーである戦略自衛隊の研究所だ。
「そんな荒っぽいことをすれば反感を買うじゃないですか。ただでさえあっちはNERVをよく思ってないのに」
戦略自衛隊とは国連軍に加入した自衛隊の代わりに日本を守るために作られた組織だ。だから結果的に日本を守っているNERVとは何かと折り合いが悪い。人類存続の危機だってのにその人類で争ってどうすんだよ。
「そんなの正式な書類で黙らせればいいじゃない」
「余計な敵を作りたくないんですよ。使徒と戦ってる途中で後ろから刺されるなんてごめんです」
彼らはセカンドインパクト後の動乱を経験しているため、練度はかなり高い。ちなみに旧劇でネルフに侵攻してきたのもここ。非戦闘員相手に火炎放射器使ってきたりチルドレンの射殺をしようとしたりと結構えげつない。
「なるほどね…でも一緒に行くのはなんでなの?技術部から人をよこすって聞いてたからてっきりリツコかマヤちゃんだと思ってたのに」
「今回は挑発ではなくあくまで交渉です。初回はそれなりのうまみを相手に示す必要があるでしょう?」
するとミサトさんはすぐに答えを導き出した。
「だから『パイロットの情報』ということね。あちらにとっては確かに喉から手が出るほど欲しい情報でしょうね」
そうやって関係を改善して行けばNERV侵攻を避けることができるかもしれない。
「そういうことです。だから葛城一尉は強い態度を取りすぎたらダメですよ」
「わかってるわよ」
私たちはミサトさんの車に乗り込んだ。味方にできれば御の字だけど相手はSEELEの息がかかった組織だ。あまり期待しないでおこう。
戦略自衛隊兵器開発研究部では研究室の責任者達と私たちNERVが交渉を行なっていた。
「以上の理由より、自走電子砲を本日15時より特務機関NERVへ借用してください」
「そんな無茶な…あれの開発をするのにどれだけ苦労したと思っているんですか!?それをみすみす放棄しろと!?」
困惑したり怒りを感じたりしている面々にミサトさんは冷静に言う。
「あくまで借用です。可能な限り原型を留めてお返しします」
「しかし…」
「そちらの陽電子砲は発射の反動を受け止める部分はありませんが、こちらのエヴァで代用可能です。また、持ち運びが可能なので壊れる可能性が低いと考えられます」
研究責任者が言う。
「そういうことではありません!その使用データをあなた方はこちらに渡さないつもりでしょう!陽電子砲も設計情報も徴発して!」
かなり印象が悪いな。NERVは戦自に何したんだよ。私はここでリツコさんからの伝言を言うことにした。
「技術部としては使用データを共有するつもりです。もちろん設計情報等もお返しします」
「…さっきから思っていましたがこの子は誰なんですか?NERVは子供を動員するほどの人手不足なのですか?」
ミサトさんは挑発にも取れるその言葉に額に青筋を浮かべて私とアイコンタクトを取る。私は椅子から立ち上がると一礼した。
「申し遅れました。わたくし、エヴァのパイロットを務めている村雨ナズナと申します。普段はしがない中学生をしています。以後お見知り置きを」
その言葉にこの場にいた研究員が驚愕し、その場がざわつく。
「な…!こんな子供が操縦を?」
「ありえない!」
都合よく初号機の操縦を私がしていると解釈してくれたらしい。ミサトさんは平静に、だが彼女をよく知るNERVのメンバーからは自慢げな様子で言う。
「彼女は私の戦略の補佐もしています。技術面にも長けているのでNERVの大きな戦力となっています」
研究員達は信じられないのかしばらく黙り込んでいたが、そのうちの1人がおずおずと話しかけてきた。
「どうして君はそんなに危険なことをしているんだい?戦闘記録を見たがあれは完全に素人の動きじゃないか」
私は少し考え、口を開く。
「私には何に代えても守りたい大切な人がいるからです」
全員が私を見つめる。
「人類を救うためだとか聞こえのいい言葉を私は持っていません。ですから単刀直入に言います。…かけがえのない人を守るために陽電子砲を貸してください」
私は深々と頭を下げた。
全国のテレビ、ラジオなどでは同じ情報が伝えられていた。
『本日、午後11時30分より明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いします。繰り返します…』
NERV本部では作戦の準備が進められていた。
「敵シールド、第7装甲板を突破」
「エネルギーシステムの状況は?」
「現在予定より1.2%ほど進んでおり、本日23時にはできます」
「そう。陽電子砲はどう?」
「あと2時間50分ほどで形にはなるでしょう」
ミサトの作戦にNERVメンバーが次々と答えていく。
「防御手段は?」
「盾しかないわね」
リツコが画像をモニターにだす。マヤは驚いた。
「これが盾ですか?」
「そう。SSTO、通称スペースシャトルのお下がり。見た目は悪くとも、元々底部は超電磁コーティングされている機種だし、あの攻撃にも17秒は保つわ」
そこにはスペースシャトルに持ち手をつけただけの簡素な代物だった。
「結構。狙撃地点は?」
「目標との距離、地形、手頃な変電施設を考えると…やはり、ここです」
そういって地図を指差した場所を見ると、ミサトは頷いた。
「確かにいけるわね。狙撃地点は二子山山頂。作戦開始時刻は明朝0時。以後、本作戦をヤシマ作戦と呼称します」
「了解」
「あとは…パイロットの問題ね」
その問いに別のNERVスタッフが答える。
「全員問題ありません」
「そう、では作戦通りに」
「はい!」
皆が返事してそれぞれの持ち場に散っていき、ここに残っているのはミサトとリツコだけになった。ミサトが話しかける。
「でもあの子達、乗ってくれるかしら?」
「どういうこと?」
「ラミエルと呼ばれることに決まったあの使徒…これまでのものとは別格よ。その能力を見て怖気付かない方がおかしいわ」
「ナズナさんがいるのだから問題ないでしょ?」
「問題ない、ねえ…」
リツコの言葉にミサトが眉をひそめた。
「どうしたの?ミサト」
「ナズナちゃんだってまだ14歳なのよ。彼女にばかり押し付けるわけにはいかないわ」
「…そうね。私も作業に戻るわね」
リツコは足早に去っていった。
私の前に幼少期の、ちょうど前世の記憶を思い出した頃の私が座っていた。その顔は後ろから差し込む強い西日で陰になって見えない。周りを見回すとどうやら観覧車の中のようだ。私と『私』を乗せたゴンドラはゆっくりと上昇している。
「滑稽ね。何もできずにL.C.L.になって溶けるだけのただのモブが、シンジ君の恋人でエヴァンゲリオンのパイロットだなんて」
「…そうだな。本当に笑える」
「そのうえストーリーを改変しようだなんて烏滸がましいと思わない?」
そうでしょ?というように『私』が同意を求めてくる。
「ああ」
『私』がさらに私を問い詰める。
「おかげで話がめちゃめちゃじゃない。あなたがサキエルを原作よりも簡単に倒したから使徒も進化が早くなって強くなってるし。ラミエルなんて新劇仕様よ?ゼルエルやアルミサエルがどうなってるのか考えたくも無いわね」
やれやれと彼女が首を振る。
「量産機の開発も遅れさせたし、シンジ君の過去も変わっている。これじゃあ未来を知っていても役に立たないわね。あなた、エヴァに乗って何がしたいの?こんなの、意味がないじゃない」
私は咄嗟に反論をしてしまう。
「私はただシンジ君を守りたいだけで」
すると『私』はフフフと笑いだす。幼女が大人のような振る舞いをしているのはアンバランスでどこか気持ち悪さを感じた。
「守りたい?笑わせないで。あなたはシンジ君のためっていうのを名目にしてその実、自分のために行動しているのよ。あれもこれもぜーんぶ。あの日からずっとそう。『私』に嘘をついても無駄。本当に守りたいならあなたは居なくなるべきだったのよ」
陰になって見えないが、彼女が私を睨みつけているのを感じる。
「あなたはエヴァに乗りたかったんでしょ?大好きなアニメの世界に転生したんだもの。そう思うのは当然よね。転生者っていうありきたりな設定で物語をハッピーエンドにして英雄ぶりたくなるわよね?」
「…否定はしないよ」
窓に視線を移す。ゴンドラはまだ上昇を続けている。
「シンジ君の気持ちを利用して隣に立つあなたの気がしれないわ。本当に理解ができない」
『私』は座席から立ち上がり私の目の前に来る。
「そんな資格が無いのはわかってるわよね?」
「わかってるよ」
「フフフ。そうよね、だってあなた…」
『私』は忘れもしないその顔で、その声でこちらを見上げた。
「人殺しだからなあ?」
「ナ…!…き…起きて!ナズナ!」
「…村雨さん、起きて」
「う…ん…」
私は重い体をのっそりと起こしてまだよく働いていない頭を振る。まさか精神世界イベントを私が見るとは思わなかったな。
「仮眠時間が終わったのか…起こしてくれてありがとう」
戦自研から帰ってきたあと、パイロットは作戦に向けて休むように言われていた。
「それは別にいいんだけど…」
「…?どうした?」
シンジ君が心配そうな、隣にいるレイが不思議そうな顔をする。
「うなされてたよ?大丈夫?」
「…顔、真っ青よ」
私はハッとして慌てて普段の表情に戻す。
「大丈夫だ。少し夢見が悪かっただけだよ」
「本当に…?」
「ああ。なんともない」
笑顔を作って問題ないことを示す。シンジ君はまだ心配そうな顔をしていたが、一旦納得をしてくれたようだ。
「あ、そうだ!さっきミサトさんが作戦を伝えに来てたよ」
「え?それなら起こしてくれたらよかったのに」
シンジ君の言葉に驚く。ヤシマ作戦のことは知っているけどタイムスケジュールのことは覚えておくに越したことはないし、あの夢から早く覚めることができた。
「その時は気持ちよさそうに寝てたし起こしたら悪いかなって思って。それに、作戦の準備で忙しかったんでしょ?綾波、ヤシマ作戦のメモしてあったよね」
「…ええ」
レイは手帳を取り出すとそれを読みはじめた。
「使徒の到達予想時刻は明朝0時。同時刻、発動されるヤシマ作戦で殲滅。碇、村雨、綾波の全パイロットは本日1730ケイジに集合。1800初号機、および零号機起動。1805発進。同30二子山仮設基地に到着。以降は別命あるまで待機。明朝、日付変更と共に作戦行動開始」
「わかった」
内容は原作とそれほど差異はなさそうだ。テレビで見たヤシマ作戦の光景を思い出す。アニメや序の近接での戦いとはまた違った緊張感のある戦闘は前世の私の心を踊らせたものだった。特にシンジ君がラミエルの反撃を喰らってから第二射を放って倒すところは胸が熱くなった。
「ナズナ、綾波、そろそろ移動した方がいいかもしれないよ」
時計を見て言ったシンジ君に私たちは頷くと、3人で連れ立って集合場所へと向かった。
日が沈んで暗くなった二子山には人口の明かりが煌々と輝いていた。技術者たちが忙しなく作業をしているその一角に私たちは集まってブリーフィングをしていた。
「本作戦における各担当を伝達します。シンジ君とナズナちゃんは初号機で砲手を担当」
「「はい」」
「レイは零号機で防御を担当」
「…はい」
「今回はより精度の高いオペレーションが必要とされるため、シンクロ率の高い初号機とそのパイロット2人を砲手とします」
ミサトさんが私たちの役割を伝え、リツコさんが補足説明をする。
「陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け直進しません。その誤差を修正するのを忘れないように。正確にコアを一点に貫くのよ」
「分かりました」
シンジ君が返事をし、私は軽く頷く。
「テキスト通りにやれば大丈夫よ。真ん中のマークが揃ったらスイッチを押してちょうだい。あとは機械がやってくれるわ」
「もし外したら次弾の発射までに何秒かかりますか?」
万が一、というか流れ的に絶対初弾は外すと思うので質問をしてみた。
「陽電子砲は一度発射すると冷却や再充填等で第二射までに20秒かかるわ。盾で防げるのも17秒の間だけだから第一射で殲滅することを考えて」
「はい」
そしてリツコさんはこうも付け加える。
「それから陽電子砲を使えるのも耐久力の観点から2回が限度よ。最悪、それまでに撃破してちょうだい」
「時間よ。3人とも着替えて」
「「「はい」」」
ミサトさんの指示で私たちはその場から動き始めた。
粗末なパーテーションで仕切られた更衣室で私たちは着替える。プラグスーツを着るために一度全裸になり、シンジ君のものとカラーリングが同じで女子用となっている自分のプラグスーツに腕を通そうとした時、ふと手を止めた。右腕を顔の前に置く。
(…手、震えてるな…怖いのか)
危険な目には何度かあっているが、その恐怖にはいつまで経っても慣れてくれないらしい。シンジ君とは対照的に傷跡もあざもない自分の体を見る。肉体年齢相応の体は生まれたままの姿なのも相まって自分が無力だと嫌でも感じさせる。私は左手で震えている右手を爪が食い込むほど握りしめた。
「ナズナ?どうしたの?」
シンジ君の呼びかけに物思いから覚め、急いでプラグスーツを着る。
「なんでもない。すぐ準備する」
(無力だから、怖いからといって私には逃げる選択肢なんて初めからない。わかってるはずだろ、村雨ナズナ)
私は自分に言い聞かせると、それまでの感情を覆い隠すように手首のフィットボタンを押した。
リアルの用事で遅くなり申した。あと、後編は多分長くなります。ヤシマ作戦が好きすぎてつい熱が入ってしまって。