『作戦を確認します。初号機は陽動。兵装ビルは自由に使ってくれて構わないわ』
「「はい!」」
僕らの返事を確認するとミサトさんは今度は綾波に声をかける。
『零号機は45分間の修理と再充電の後、二子山陽電子砲を発射。使徒をこれで殲滅』
『…了解』
ミサトさんが全員の顔を確認するように見回す。
『以上。使徒に一矢報いてやるわよ!作戦開始!』
初号機のG装備をパージすると使徒に向かって駆け出した。ナズナはラミエルの視界を遮るために兵装ビルを起動させる。初号機はそこからパレットライフルを受け取るとビルの後ろに隠れた。誤射をされるのを防ぐために要塞システムの停止と同時に飛び出すつもりだ。
「ナズナ、カウントお願い!」
「3、2、1…スイッチ!」
システムが止まるのと同時に初号機がビルから顔を覗かせて弾をばら撒く。当然、ラミエルの標的はこっちに向いた。
「来るぞ!」
「くっ!」
初号機がビルから飛び出るのと隠れていたビルが荷粒子砲を受けて融解するのが同時だった。
「止まるな!的になるぞ!」
「わかってるよ!」
ラミエルを中心に円を描くように綾波達に攻撃が向かない反対側に向かって走っていく。僕らが走っているすぐ後ろをラミエルの荷粒子砲が追尾してきた。一度屈んでやり過ごし、残弾を斉射する。銃弾はATフィールドに弾かれた。
「次は!?」
マガジンが空になったライフルをラミエルに投げつけてナズナに聞く。
「A-17!」
その時、荷粒子砲が足元に飛んで来たので飛び退る。しかし、うまく避けきれずにアンビリカルケーブルが切れてしまった。
「電源ビルに向かえ!」
起動した一番近い電源ビルに向かうとすぐ近くの兵装ビルも起動していて、そこから新しいライフルを受け取る。
「ありがとう!」
ラミエルに破壊されないためにすぐにその場から移動してヒットアンドアウェイを繰り返す。できるだけ物資的にも体力的にも消耗しないように。できるだけ戦闘を長引かせるために。だが、ラミエルは発射方向を自在に変えられる軽い攻撃とATフィールドでは防ぎ切れない威力のものを巧みに使い分けて僕らを翻弄してくる。
「対応が早くなってるな…このままじゃジリ貧だ」
ナズナが小声で言った言葉が耳に入る。使徒は僕らの動きを学習しているのかフェイントにも引っ掛からなくなってきて、たまに先読みをしているような動きを見せる。その時はナズナのATフィールドで防いでいるけど、いつ防げないレベルの攻撃が来るのかわからない。僕らを焦燥感が駆り立てる。そのとき、ラミエルの正面から撃ってきた荷粒子砲に一瞬反応が遅れ、衝撃が来る。次に見えたのはさっきまで立っていた地面だった。
「当たって…ない?」
混乱しながら胴体のあった空中をみるとそこにはATフィールドの光の残滓があった。
「え?どういう…」
混乱しているとナズナの怒鳴り声が飛んでくる。
「考えてる場合か!そこから逃げろ!」
見るとラミエルが攻撃体制に入っている。僕は弾かれるようにその場から動いた。次の瞬間、そこが荷粒子砲でえぐれた。僕は初号機を走らせながナズナに問いかける。
「さっきのは何!?」
「ATフィールドで初号機をつき飛ばした!」
どうやら避け切れないと見て咄嗟にやったらしい。いや、どゆこと?
「そんなことできるの!?」
「なんかできた!」
「よくわかんないでやったの!?」
なんじゃそりゃとナズナにしては珍しい説明になってない説明に思わず笑ってしまう。ラミエルが間隔の短い攻撃を僕らの進行方向に連続で放ち広い弾幕を張る。明らかに僕らの動きを予測してきた攻撃に初号機を反転させようとするが間に合わない。
「そのまま走り抜けろ!」
当たるかに見えたそのとき、地面よりも高い位置でなぜかあったATフィールドを踏み、体が前に押し出された。
「うわあああ!?」
初号機は被弾せずに一瞬で弾幕の張っていない向こう側に着地する。
「今度は!?」
「ATフィールドの斥力を利用したんだ!調節次第じゃ足場にもなる!」
そう言ってラミエルが足元に打ってきた攻撃を今度は吹き飛ばされる事なくATフィールドの上を駆け抜けることでやり過ごす。
「すごい…!これならもっと時間を稼げる!」
僕はラミエルをきっと睨みつけ、あちこちが煙を上げている戦場で初号機を縦横無尽に駆けめぐらせた。
作戦開始からどれだけたった?神経がすり減るような攻防に集中が途切れてくる。ラミエルの狙撃は精度が上がって確実に攻撃を僕らに当ててくるようになって初号機はすでにボロボロになっている。僕はこれまでにない長時間の戦いで、ナズナも度重なるATフィールドの使用とフィードバックでかなり疲弊していてもうあまり持たないことを感じる。戦いの中で壊れた武器や兵装ビルの数は7を超えたところで数えるの余裕がなくなった。
(後どれくらい耐えればいい?そもそも、どうして僕らはエヴァに乗る必要があるんだ?僕らばっかり怖い思いをしてミサトさん達は後ろで指示を出すだけで…)
回避を続けながらも疲れのあまりそんな意味のない考えが次々と頭に浮かぶ。
『あと5分よ!お願い、それまで耐えて!』
突然、ミサトさんの悲痛とも言える叫びにハッとする。同時に頭を狙った攻撃を屈んでやり過ごし、また今までと同じようにひたすら回避を続ける。
(ミサトさん達だって本当は怖いはずだ。僕らが戦いに負けたらミサトさん達だって死んじゃう。これは僕らだけの戦いじゃない、みんなで戦っているんだ)
もう何度目になるのか分からない攻撃体勢に入ることを示す変形と光を発する姿を見る。
「!?」
だけど体力や精神力は僕らはとっくに迎えていて反応が遅れてしまう。それが命取りになった。
「うっ!…」
ナズナの張ったATフィールドは簡単に壊されて、それを見た僕は一度仕切り直しをするために連続で来る攻撃を右手でガードしながらなんとか近くのビルの影に逃げ込んだ。見ると初号機の腕はズタズタになって体についていられるのが不思議なくらいの有様になっている。きっと彼女は相当痛い思いをしたはずだ。心配になって声をかける。
「ナズナ、大丈夫?ごめん、僕がちゃんと避けられていれば…」
「仕方ないよ。私は大丈夫だから。シンジがガードしてくれて助かったよ」
僕を心配させないようにと努めて明るい返事の中に痛みを耐えているような声色が入っているのを感じて僕は唇を噛んだ。と急にナズナが焦り出した。
「やばい!ラミエルが!」
ビルからこっそり除くと初号機の存在に気づいているはずのラミエルが別の方向に強力な荷粒子砲を打つためにヒトデ型に変形しようとしている。その先にあるのは…
「陽電子砲の修理が終わるのがバレたんだ…」
「綾波!ミサトさん!」
ラミエルが今にもみんながいる双子山に攻撃を放とうとしていた。どうしよう、ここからだと二子山まで距離があるし間に合わない!いや、待てよ?
「ナズナ」
「チャンスは一回、微調整は任せた」
「ありがとう」
短い話し合いが終わると、僕は全力で二子山方向に走らせた。初号機のスピードがどんどん早くなっていく。音速を越えるか否かになったとき僕は大きくジャンプした。
「今だ!」
初号機は空中にあったまるでスタート板のように角度がついているATフィールドに着地すると大きく体を曲げる。
「「うおおおおおおお!」」
初号機の全力のジャンプ力と全力のATフィールドの斥力により莫大な力が発生する。僕らは弾丸よりも早く前へと飛び出した。
司令部ではミサト達が慌ただしく作業を進めていく。彼女は焦りと苛立ちでつい怒鳴るように聞いてしまう。
「あとどれくらい!?」
「残り1分です!」
1分。普段なら短く感じるそれがミサトにはひどく長く感じさせていた。モニターに映る初号機は右腕を除いて大きな損傷はないものの、もう満身創痍でいつ倒れてもおかしくない状態。パイロットにはひどい負担がかかっているだろう。彼女は作戦指揮官として、彼らと一緒に暮らしている家族として心配でたまらなかった。
「目標に高エネルギー反応!発射方向は…こちらです!」
「…!ここまでか…」
陽電子砲の準備ができていない、初号機からも距離がある。もうどう足掻いても間に合わないと誰もが諦めたその時、零号機の前に紫の巨人が現れた。それは地面を大きく抉るほどの急ブレーキをかけたあと、向かってくる荷粒子砲の正面に立ち、身を挺して零号機、ひいては陽電子砲を守る。
「シンジくん!?ナズナちゃん!?」
きっと彼らには、特にナズナには甚大なダメージを受けているはずだと慌てて呼びかけるが、こちらを心配させないためであろうか、通信が切断されていて彼らの声を聞くことができない。
「初号機の装甲融解!もう長く持ちません!」
マヤが悲鳴をあげて言う。見れば初号機の装甲は機能を果たしていないと断言できるほど融解するかエヴァの生体パーツの表面に癒着していて、右腕に関しては肩口から先がなくなっている。パイロットには身を焼かれるような痛みが発生しているはずだ。ミサトは頬を全力で叩くと、周りに喝を入れる。
「子供達が体張ってるって言うのに私たちが頑張らないでどうするのよ!1秒でも早く準備を終わらせるわよ!」
「はい!」
それから10秒、20秒と時が経つ。大人達にはだんだんと焦りが募ってきていた。なぜならばそれだけ初号機のパイロットが痛みに耐えているということだからだ。だが、焦っているのは彼らだけではなかった。
『…葛城一尉、私が初号機と変わります』
「レイ!?」
慌ててモニターに映る彼女を見る。レイは赤い瞳に彼女を守る初号機を写しながら続ける。
『私には代わりがいるもの。だから…』
「だめよ!そしたら砲手がいなくなってしまうじゃない!」
レイの感情的な発言にミサト達が驚くがきつく止める。零号機までもが防御に入ったらどうやって陽電子砲を撃てると言うのだろうか。
「あとどれくらい!?」
シゲルが答える。
「あと10秒!目標の発射終了もそれと同時との予測が出ています!」
レイは生まれて初めての悔しさを感じ操縦桿をきつく握りしめる。気づけば小一時間前のシンジと同じ言葉を繰り返し繰り返し呟いていた。
『早く…早く!』
ミサトがカウントダウンを始めた。これで世界の命運が決まる。
「発射用意!5、4、3、2、1、発射!」
初号機が力無く倒れると同時に発射された陽電子砲からの光はラミエルの荷粒子砲が辿った道をまっすぐ進む。
キャアアアアアアアァァァ!
再びラミエルが悲鳴をあげながらウニ状になったかと思うと、元の正八面体に戻る。
ズガーン
そして後方に火を噴き出してガラガラとその場に崩れ落ちた。
「パターン青、消失しました!」
様々な場所でNERVや戦自研関係なく歓声が上がって一気に騒がしくなる。発令所でもみんながほっとしたような顔を浮かべた。ミサトは初号機に救護班を急いで向かわせる。そんな中、零号機は走り出した。
どうして私が今初号機に駆け寄っているのか分からない。どうしてこんなに自分が遅いと感じるのかも分からない。それでも私は足を止めることができなかった。
「碇君、村雨さん…!」
すぐに2人の安全を確かめようとエントリープラグを取り出そうとする。しかし装甲が癒着していてそう簡単にはできそうもない。私はウェポンラックからナイフを取り出し初号機の肩口に突き刺した。ぐちゃぐちゃとナイフを動かす。しばらくしてようやく目的のエントリープラグが現れた。それを壊してしまわないように慎重に地面に置くと私は零号機から降りてエントリープラグのハンドルを掴んだ。
「ううっ、くっ…」
ラミエルの荷粒子砲に長時間晒されていたせいだろう。プラグスーツ越しに高音になったハンドルが私の手を焼いていく。それでも私は何かに突き動かされるように手を動かし続けた。そしてようやくハッチが開く。エントリープラグから熱湯のように熱くなったL.C.L.があふれ、水たまりを作った。私は中を覗き込む。
「あ、やな…み?」
正面にいた碇君がうっすらと目を開ける。私は碇君の体をざっと眺め、大きな怪我がない様子に何故かほっと息が出る。
「…碇君」
「ハハッ…なんて顔してるんだよ…」
どこか痛いところがあるのか苦しそうに碇君が笑う。私はどうして彼が笑っているのか分からなかった。
「…ごめんなさい。こんなとき、どんな顔をすればいいのか分からないの」
「笑えば、いいと思うよ」
そう言って私に笑いかける碇君。私は見様見真似で笑顔を作った。
「綾波は怪我はなさそうだね。よかった…」
「…碇君達が守ってくれたから。碇君は大丈夫?」
私は碇君の顔を覗き込む。
「うん。あちこち痛いけど何とか…ナズナは?」
「…」
碇君が村雨さんに呼びかける。だけど返事がない。
「…?どうしたの?」
「…村雨さん?」
私たちは不審に思って後ろを覗き込んだ。
「…!」
「ナズナ!?」
私たちは衝撃で言葉をなくす。コパイロットの操縦席では、村雨さんがL.C.L.と血の混ざった赤い水溜りの中で倒れていた。