救いのない世界で、君を救いたい   作:にぎり飯

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瞬間、心、重ねて(前編)

とある日の校舎裏では教師やおろか、生徒の一部にしか知られていない取引が行われていた。取引をするものたちはお互いの利益のためにお互いを利用する。そのため、取引相手を売る心配はなかった。

 

「あーあ。猫も杓子もアスカ、アスカか」

 

ケンスケはそうぼやくと目の前にいる男子生徒からお金を受け取り、茶色の封筒を手渡した。

 

「写真にあの性格はあらへんからなあ」

 

答えるのはトウジ。最近転校してきたアスカは初対面の時の苛烈な性格は鳴りをひそめ、可愛らしい少女というキャラクターをクラスの中で確立させている。そして彼女の演技は本来の性格を知らない男子中学生の心を掴み、下駄箱をラブレターで満たすほどだった。その影響はケンスケが行なっている取引にも関係していた。

 

「儲かってる?」

 

やってきたのは彼らの同級生、村雨ナズナだ。

 

「村雨!?いや、これはその…」

「おかげさまでね。アスカの素が知られたらどうなることやら」

 

ケンスケの悪事の現場が抑えられてしまったと狼狽えるトウジを尻目にケンスケはそう返すと、ナズナが渡したお金と茶封筒とを交換した。

 

「やっぱりシンジより村雨の方が一枚上手か。まさか止めさせられるならまだしも、利用されるとはね」

「その代わり協力してるでしょ?」

 

ナズナが茶封筒の中身を確認する。中に入っていたのはガギエルが出現した日に撮られた彼女のプラグスーツを着て恥じらうシンジや日常で笑顔を浮かべるシンジやレイ、アスカの写真だった。ケンスケはトウジに彼女の写真を販売する許可をする代わりに格安でエヴァパイロットの写真を手に入れる取引を結んでいることを説明する。トウジはようやく2人がこそこそ話していた内容を理解したのだった。

 

「ん。確かに。じゃあ程々にしときなよ」

 

そう言ってナズナは立ち去る。彼女の写真の売り上げは彼女が写真の要望にある程度答えていることからケンスケの懐事情を少なからず支えていた。トウジはしみじみと呟く。

 

「エヴァパイロットって変わり者が選ばれるんちゃうか?」

 

 

 

生徒たちが登校してくる朝、アスカはナズナがふらっと教室から出て行ったことを確認すると、シンジとレイに話しかけた。

 

「Hallo!シンジ、レイ。Guten morgen!」

「グーテン、モルゲン…?」

「おはよう」

 

シンジが戸惑って、レイが無表情で返すとアスカは不満げに鼻を鳴らす。

 

「朝から辛気臭い顔して〜。この私が声かけてんのよ、ちったぁ嬉しそうな顔しなさいよ」

「は、はぁ…」

「まあ、いいわ。それよりもフォースのことで聞きたいことがあるんだけど」

 

そう言って周りに聞こえないようにするためか、声を顰めるアスカ。

 

「あいつの右腕、なんでないわけ?」

 

彼女がそのことに気がついたのは初対面の時だった。だが、トウジやケンスケなどの一般人や保護者役であるミサトの前で聞くのは憚られ、今まで聞けずにいたのだ。

 

「ラミエル、アスカが来る前に来た使徒との戦いで大怪我をしたんだ。その時に…」

「でもエヴァがダメージを受けたら痛いで済むぐらいじゃない。零号機の起動実験の時のレイみたいな状況ならともかく。それに、一緒に乗ってたなら何でアンタが同じ怪我してないのよ」

 

その問いにレイが答える。

 

「碇君と村雨さんが2人でエヴァに乗った時、フィードバックは何故か村雨さんに影響が強く出ているわ。右腕をなくすほどのダメージを受けた時、シンクロ率が100%を超えていた。そうなるとエヴァのダメージがそのままパイロットに返ってきてしまう。」

 

ふーん。と興味なさげに返事をするアスカだったがその真意はシンクロ率が自分より高いことによる不満か、はたまたそれ以外か。

 

 

暗いパソコンルームで作業していたリツコは突然後ろから抱きつかれ体をこわばらせる。だが、後ろから響く艶っぽい声にすぐに緊張を解いた。

 

「少し、痩せたかな?」

「そう?」

 

加持はリツコを抱きしめる腕を少し緩める。

 

「悲しい恋をしてるからだ」

「どうしてそんなことがわかるの?」

 

全てを見透かしたような加持と全てを見透かされたようなリツコの視線が絡み合う。

 

「それはね、涙の通り道にほくろのある人は一生泣き続ける運命にあるからだよ」

 

加持の手がリツコの頬に添えられる。

 

「これから口説くつもり?」

 

そして唇がー

 

「でもダメよ。こわーいお姉さんが見ているわ」

 

2人が正面を向くと怖いお姉さん、もといミサトがガラスにへばり付いて鼻息を荒くしていた。彼女がずんずんと部屋に入ってくる。

 

「お久しぶり、加持くん」

「やっ、しばらく」

「加持くんも意外と迂闊ね」

「こいつのバカは相変わらずなのよ!」

 

ミサトは先ほどの光景に気が立っているようだったが、3人は気心知れた中なのか会話が弾んでいる。

 

「あんた弍号機の引き渡し済んだんならさっさと帰りなさいよ!」

 

加持はニヒルに笑う。

 

「今朝出向の辞令が届いてね。ここに居続けだよ。また3人でつるめるな。昔みたいに」

 

この3人は大学の同級生で当時はよく一緒にいたのだ。だがミサトはそれをよく思っていなかったようで、

 

「誰があんたなんかと!」

 

その時、警報が鳴り始める。ミサトの頭は瞬時に戦闘へと切り替わる。

 

「敵襲!?」

 

 

 

発令所ではもう数度目になる確認作業が行われていた。ロン毛が特徴的なシゲルが報告する。

 

「警戒中の巡洋艦『はるな』より入電。『我、紀伊半島沖にて巨大な潜航物体を発見』」

 

眼鏡のマコトも声を上げる。

 

「受信データを照合…波長パターン青、使徒と確認!」

 

これらの報告から冬月は判断を下す。

 

「総員、第一種戦闘配置!」

 

 

 

ミサトさんが無線機から私達に呼びかける。

 

『先の戦闘によって第3新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、現在までの復旧率は20%。実戦における稼働率は0と言っていいわ。したがって今回は上陸直前の目標を水際で一気に叩く!初号機並びに弍号機は目標に対し波状攻撃、近接戦闘で行くわよ』

 

その言葉に初号機に乗っていた私とシンジ君、そして弍号機に乗っているアスカが応える。

 

「了解!」

 

そしてすぐにアスカが不満を言い始めた。

 

『あーあ!日本でのデビュー戦だっていうのに、どーして私1人に任せてくれないの?』

「葛城一尉だってアスカの実力は認めてるよ。ただ、何かあった時の備え。弍号機が前衛、初号機が後衛でいこう。それなら文句ないでしょ?」

 

そう言うとすぐに噛みつかれる。

 

『あんたが仕切るんじゃないわよ!言っとくけど、くれぐれも足手纏いになるようなことはしないでね!』

「はいはい」

 

そしてエヴァ2機は使徒の前に降ろされた。

 

『2人がかりなんて卑怯でやだな。趣味じゃない』

『私たちに選ぶ余裕なんてないのよ。生き残るための手段をね』

 

アスカとミサトさんが会話を始めたその時、使徒が動き出した。私は切り上げさせようと声を挙げる。

 

「来るよ!」

『攻撃開始!』

 

その声に初号機はパレットライフルを斉射して、勾玉が二つ合わさったような顔が肩の間に直接ある使徒の気を引く。その間に後ろに回り込んだ弍号機が持っていたソニックグレイヴという名の薙刀を振り上げた。

 

『ぬわああああああ!』

 

大声と共に振り下ろされたそれは使徒を一刀両断した。それを見たシンジ君が感心する。私もこの景気の良さに気分がスカッとした。

 

「おお〜」

「戦闘技術はアスカが1番か」

 

私たちの反応に気分を良くしたアスカが弍号機も手を腰に当てさせて自慢げに言う。

 

『戦いは常に無駄なく美しくよ!』

 

すると弍号機の後ろで使徒が動き始めた。私はアスカに警告を出す。

 

「離れて!使徒が動いた!」

『なんですって!?』

 

使徒は弍号機に切られた場所からさらに分かれ、皮がめくれたかに見えるとオレンジ、グレー、ブルーに分かれた。まあ、予想通りか。するとミサトさんと繋がっている通信機からとてつもない音が鳴って通信が切れた。

 

ミサトさん…通信用の受話器を握りつぶしたな…きっと向こうで『ぬゎんてインチキ!』と叫んでることだろう。

 

「アスカ下がって!シンジは退却の援護」

『これくらい、私1人で行けるわ!』

「あっ、おい!」

 

3対1はまずいので前線を揃えようと下がるように言ったが、弍号機はむしろ前へと突っ込んでいった。これだと初号機の撃ったライフルの弾が弍号機に当たるかもしれない。

 

「ナズナ、僕らも前に行こう。このままだとアスカが不利だ」

「仕方ないか」

 

初号機はプラグナイフを取り出すと使徒に向かっていった。

 

 

暗い作戦会議室で私たちはイスラフェル初戦の反省会を行なっていた。プロジェクターから犬神家になった初号機が映し出される。私はその時の痛みを思い出して後頭部をさすった。

 

「本日午前10時58分15秒、3対に分裂した目標甲、乙の攻撃を受けた初号機は、駿河湾沖合2キロの海上に水没」

 

次にこれまた地上の犬神家になった弍号機が映される。

 

「同20秒、弍号機は目標乙、丙の攻撃により活動停止。この状況に対するE計画責任者のコメント」

「無様ね」

 

同意。

 

「もぉ!アンタたちのせいでせっかくのデビュー戦が滅茶苦茶になちゃったじゃない!」

「何言ってんだよ!アスカが間抜けなことしただけじゃないか!」

「間抜けぇ〜!?どうしてアンタがそんなこと言えるのよ、図々しいわねぇ!」

 

帰ってきてから2人はずっとこの調子だ。間にいる私の身にもなってくれ。

 

「何だよ!焦って倒そうとするから大変なことになるんだろ!」

「何よあれ、海の中でドザエモンみたいに。だっさぁ〜」

 

アスカはその言葉はどこで仕入れたんだ。2人を置いて話は進む。

 

「午前11時3分をもってNERVは作戦の遂行を断念」

 

流石に注意するべきか。

 

「自分だって人のこと言えないくせに!」

「2人ともやめな。まずは反省会に集中しろ」

「だいたい、アンタも上からばっかりで偉そうなのがムカつくのよ!」

 

止めようとしたが失敗したみたいだ。

 

「国連第2方面軍に指揮権を譲渡」

「全く恥をかかせおって!」

 

冬月先生の大声でようやく2人の動きが止まる。さすがだぜ、元教授。

 

「同05分、N2爆雷により目標を攻撃、抗生物質の28%を焼却に成功」

 

巨大なクレーターと焼け爛れたイスラフェルが映し出される。冬月先生が苦言を呈す。

 

「やれやれ、また地図を書き直さなきゃならんな」

「やったの?」

 

アスカが尋ねるが、それで倒せたら苦労はしない。

 

「足止めに過ぎん。再度進行は時間の問題だ」

「ま、立て直しの時間が稼げただけでも儲けもんっすよ」

 

釘を刺す冬月先生と楽観的な加持さん。と、冬月先生がこちらに顔を向ける。

 

「いいか君たち、君たちの仕事は何だかわかるか!?」

「エヴァの操縦」

 

ユイさんに会うための生贄。

 

「違う!使徒に勝つことだ!このような醜態を晒すために我々NERVは存在しているわけではない!そのためには君たちが協力しあっt」

「「何でこんなやつと!」」

「はぁ…」

「もういい…」

 

2人の息ぴったりな文句に冬月先生と私は同時に呆れる。そしてこの場はお開きとなった。アスカがほおを膨らませて不満げに言う。

 

「どうしてみんなすぐ怒るの?」

「大人は恥をかきたくないのさ」

「あの、ミサトさんは?」

 

ミサトさんは実はこの会議には一度も顔を出していなかったのだ。本来なら絶対来るであろう彼女が不在だと、誰だって不審に思う。

 

「後片付け。責任者は責任取るためにいるからな」

 

加持さんはやれやれと笑った。

 

 

その頃、執務室の机に齧り付きながら積み上げられた書類仕事をしているミサトの元へリツコがさらに書類を持って現れた。

 

「関係者確証からの抗議文と被害報告書。で、これがUNからの請求書、広報部からの苦情もあるわよ。ちゃんと目を通しておいてね」

「読まなくても内容はわかるわよ。喧嘩をするならここでやれって言うんでしょ?」

 

ミサトがうんざりしたように言う。リツコはそれに肯定した。

 

「副司令はカンカンよ。今度恥かかせたら左遷ね。間違いなく」

「碇司令が留守だったのは不幸中の幸いだったけどさ」

「いたら即刻クビよ。これを見ることもなくね」

 

そう言って目線で山のように積み上げられた紙の束を示す。ミサトは彼女の方に身を乗り出した。

 

「で、私の首がつながるアイデア、持ってきてくれたんでしょ?」

「一つだけね」

 

それを聞いてミサトの顔は綻ぶ。

 

「さっすが赤木リツコ博士!持つべきものは心優しき旧友ね〜」

「残念ながら旧友のピンチを救うのは私じゃないわ。このアイディアは加持くんよ」

 

彼女はふふっと笑った。

 

 

外もすっかり暗くなり、私たちは玄関のドアを開けた。

 

「ただいま〜って何だこれ!?」

「うーっわ、片付け大変だぞこれ」

 

そこには5人は住めるはずの家の廊下の天井近くまで積み上げられている段ボールの山があった。その奥から風呂上がりで牛乳を我が物顔で飲んでいるアスカが現れた。

 

「何で惣流さんがここに?」

 

レイが問いかける。

 

「アンタ知らないの?」

「知らないって何を?」

「アンタたちお払い箱よ。ミサトはあたしと暮らすの。まあどっちが優秀かを考えれば当然の選択よね。ほんとは加持さんと一緒の方がいいんだけど」

 

私は家に上がり込んで後ろの2人に入るよう促した。

 

「加持さんがお縄になるってのは置いといて、正気?」

「それくらいNERVの権力で…」

「いや、そういうことじゃなくてアスカは家事できるの?」

 

アスカが黙り込んだ。シンジ君も彼女に事実を言う。レイも後に続く。

 

「家の家事をしてるのは僕とナズナだけでミサトさんは…あんまり得意じゃなくて」

「料理ができるのは碇君だけよ」

 

その言葉にアスカが驚く。

 

「ミサト、29にもなって家事もできないの!?」

「好き勝手言ってくれるわねぇ?」

「「わぁぁ!」」

「「…」」

 

声をあげて驚くシンジ君とアスカに無言で声のした方を向く私とレイ。見ればミサトさんが笑顔で眉をひくつかせていた。

 

「おかえりなさ〜い。早速うまくやってるじゃない」

「「「何がですか?」」」

 

シンジ君とアスカ、そして私がわざと合わせて聞く。ミサトさんは気を取り直して答える。

 

「今度の作戦準備」

「「「どうして?」」」

 

ミサトさんは1にした指を高く上げた。

 

「第7使徒の弱点はひと〜つ!分離中のコアに対する3点同時の荷重攻撃、これしかないわ!」

「つまり、エヴァ3機でコアに同時攻撃ですか」

「そう!そのためには、特に操縦している3人の完璧なユニゾンが必要なの。そ・こ・で、あなたたちにこれから一緒に暮らしてもらうわ」

「「えぇ〜!?」」

 

シンジ君とアスカがこれまでで1番のシンクロを見せる。そして早速アスカが嫌がる様子を見せた。

 

「いやよ!昔から男女7歳にして同衾せずってね!」

「惜しい。それを言うなら男女7歳にして席を同じゅうせず。あと多分意味も間違ってるかも」

 

ミサトさんが私に威嚇するアスカをスルーして続ける。

 

「使徒は現在自己修復中。第二波は6日後、時間がないの」

「不可能では?」

 

不思議そうに尋ねるレイ。ミサトさんはよく聞いてくれたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

「そこで不可能を可能にする方法。3人の完璧なユニゾンをマスターするため、この曲に合わせた攻撃パターンを覚え込むのよ!」

 

そしていつ用意したのか端末を操作すると音楽が鳴り出す。

 

「6日以内に1秒でも早く!」

 

それをレイと同じく不可能だと思ったのかシンジ君とアスカはため息をつきながら顔を見合わせ、そして勢いよくそっぽを向いた。間に合うのか…?

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