救いのない世界で、君を救いたい   作:にぎり飯

2 / 21
 小さい頃はなんとも思ってなかったけど、ミサトさん手のひら返すの早すぎない?ということで後編どうぞ。


使徒、襲来(後編)

通路の側面のガラスは赤く、通路もなんとなく暗い。それが不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「んで、初号機はどうなの?」

「B型装備のまま、現在冷却中」

「それ本当に動くノォ?まだ一度も動いたことないんでしょ?」

「起動確率は0.000000001%…09システムとは、よく言ったものだわ」

「それって動かない…ってこと?」

「あら失礼ね、0ではなくってよ」

「数字の上ではね…ま、どのみち、動きませんでしたでは済まされないわ」

 

何しれっと不穏なこと言ったりシンジ君にプレッシャーかけてんだよ。私は初号機動くことは知ってるからいいけど、よくそんな動くか動かないかわかんないものに素人乗せようとするよな。ここにまともな大人はいないのか?…そりゃそうか。ここエヴァだったわ。隣のシンジ君は赤黒い部屋でもわかるほどの真っ青な顔をしている。

 

「大丈夫か?気分悪い?」

「まだ大丈夫…ただ不安で…僕が初号機を動かせなかったら、もし使徒に負けたらと思うと…」

 

こりゃだいぶ参ってるな。少し震えてもいるし。ミサトさんとリツコさんがこっちをみて何か言おうとする。が、余計な一言を言いそうな気がするので口を開いた。

 

「心配ないよ。どんな結果になろうとも私がそばにいる。苦しい思いは私が背負うから。シンジは自分の思うままにすればいい」

そうして手を握る。ほら、こうすれば

「もう手が震えてない…ありがとう。ナズナ」

 

 

 

私たちは真っ暗な部屋に通されていた。ついに初号機との対面に私は緊張していた。だってあの初号機だよ!?アニメで観るだけだったものが至近距離で見れるなんて興奮しない訳ないじゃん!!

そんなことを考えていると、部屋が突然明るくなり、紫色の巨大な見慣れた鬼が現れた。

 

「うわあ!」 

「これが…」

「葛城一尉から聴いていたと思うけど、これが人が作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、その初号機よ」

 

それからリツコさんが長々と説明をするが、知ってることばかりなので初号機に、いや、その中にいるシンジ君の母親の碇ユイさんに意識を向ける。

 

(初めまして、ユイさん。シンジ君とおつき合いさせていただいている村雨ナズナです。この先、シンジ君をどうか守ってあげてください。私は彼のそばにいるだけであなたのように守る力がないから。お願いします…)

 

ようやく話が終わったのかシンジ君が発言する。

 

「これが、父さんの仕事ですか」

『そうだ。久しぶりだな、シンジ』

 

頭上のスピーカーから声が響く。見上げるとガラス張りのブリッジにマダオが立っていた。

 

「父さん…」

 

シンジ君がか細く声を漏らすがマダオはうんともすんとも言わない。グラサン掛け機に改名したのか?このコミュ障。と思っていると、マダオがこっちを向いて喋り出す。

 

『なぜお前がここにいる?』

 

おっとぉ?そのセリフはまだ先だよ。展開早いよ。だがそっちがその気なら、こっちだってやってやるよ!

 

「お義父さん…私は碇シンジ君の恋人、村雨ナズナです!」

『…………………………お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはない』

 

私の言葉にショックを受けたのか、マダオは一歩後ろに下がって怯む。だがさすがは組織の長と言ったところか、持ち直した。私は少し見直す。

 

「あたし達、昼ドラ見てんのかしら?」

「いいから黙ってなさい」

 

リツコさん達はほとんど空気だ。

 

『保安部に連絡しろ。侵入者を拘束だ。抵抗するようなら射殺しても構わん』

 

え?っそうなるかー。そこまで想定してなかったわ。部屋に人が入ってきて私とシンジ君を取り囲む。ミサトさんが声を張り上げた。

 

「碇司令!これは彼女を連れてきた私に責任があります!ですから、ここは私に任せてもらえないでしょうか!」

「やめてよ父さん!ナズナは何もしていないじゃないか!」

『葛城一尉にはおって処分を下す。シンジ、こいつは職員でないのにも関わらず、正規の許可証もないままこちらにいて、組織の機密を見ている。この処置は当然だ』

「そんなのおかしいよ!」

『こんな時に時間を無駄にさせるな』

 

わーすごい。親子喧嘩だー。保安部の人がジリジリと拳銃を構えながら包囲網を狭めていく中、どこか麻痺している思考でそんなことを考える。だが、時間は待っちゃくれない。ケイジを地響きが襲った。立っているのもままならなくなり、何人もの人がL.C.L.のプールに落ちる。

 

「シンジ!」

 

シンジ君も落ちそうになり、慌てて通路の中央に引っ張り込んだ。だがそれが不味かった。頭上で音がしたかと思うと、照明が降ってきたのだ。咄嗟にシンジ君を庇うが何も来ないので目を開ける。そこには初号機が落ちてきた照明からも、保安部からも私たちを手で覆うことで守っていた。

 

(ありがとうございます。ユイさん…)

 

私が心の中でお礼を言うと、彼女の後ろで空気が抜けるような音が鳴る。開いたエントリープラグがまるでここに逃げて!と言っているような気がした。

 

「ナズナ!こっちだ!」

 

シンジ君は私の手を引いてみんなの制止を聞かずに私をエントリープラグ内に引き込んだ。するとエントリープラグが何かに吸い込まれるような感覚がした。

 

『ちょっとシンジくん!?どうなってるの!?なんで初号機が勝手に動いてるわけ!?』

 

外部音声からミサトさんの声を拾う。発令所と思われるところからの通信も入った。

 

『原因不明!エントリープラグ射出の信号も初号機側から拒否されました!』

「あの、僕たちも乗り込んではみたものの、何も動かしていません!どうにかできないんですか!?」

 

シンジ君が返答しているが、多分ユイさんの意思だろうから無理だと思う。私が冷えた頭でそう考えている中、周りがあたふたとしていると、決して大きくない、けれど全員をだまらせるには充分な声が響く。

 

『出撃準備だ。我々には時間がない』

 

ミサトさんが何か言おうとするが飲み込む。余裕がないのはここにいる全員がわかっていた。

 

『…了解。出撃準備、急いで』

 

 

 

ゲンドウは発令所に向かいながらつぶやいていた。

 

「それが答えか、ユイ…」

 

 

 

発令所ではオペレーター達が情報を葛城ミサト達に報告していた。モニターの一つにはエントリープラグの様子が映っており、碇シンジは操縦席のインテリアに座り、村雨ナズナは後ろから座席を掴んで、彼にはなしかけている。

 

「2人とも、かなり落ち着いてるわね」

「というよりナズナちゃんがシンジくんを落ち着かせてるって感じね」

 

赤木リツコの言葉にミサトが答える。

 

「ほんと、しっかりしてるわ」

「エヴァとパイロットとの接続準備」

「精神汚染値は許容範囲内」

「エントリープラグの固定、すでに完了しています」

 

リツコが指示を出す。

 

「第一次コンタクト開始!」

「了解。L.C.L.を注水します」

 

エントリープラグ内にオレンジ色の液体が入れられる。

 

『なんですかこれ!?ちょっtごぽぽぽ』

『うお!?なんかヌメヌメする!っていうかちゃんと説明sぶくぶく』

「安心して。その液体が肺を満たせば直接酸素を供給してくれます」

「特にシンジくんは男の子でしょ!我慢しなさい!」

 

ナズナが声をあげる。液中での呼吸に慣れてきたようだ。

 

『じゃあ先に説明してくださいよ!結構これしんどいんですから!』

 

 

 

ほんっとここの大人は説明しなさすぎる!後出しにも程があるわ!

 

「シンジ大丈夫?」

「うん。なんともないよ。ちょっと血の匂いが気になるけど」

 

緊張しているようだが、それほどでもなさそうだ。シンジ君の肩に手を置く。

 

「大丈夫。きっとうまくいく」

「ありがとう」

『第二次コンタクトに入ります。A10神経接続、異常なし』

『思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス』

『双方向回線開きます。シンクロ率43%』

 

自分の存在があやふやになるような感覚がする。思ってたよか高いけど私も集中しよう。

 

(改めまして村雨ナズナです。ユイさん、どうか、シンジ君に力を貸してあげてください)

 

『シンクロ率上昇、43%から54%になりました』

『初めてでこの数値…興味深いわ』

 

リツコさん…思ってたよりもかなりこの人マッドかも。笑顔怖い…。

 

『ハーモニクス、すべて正常値、暴走、ノイズ、どちらもありません』

『葛城一尉、問題ありません』

 

リツコさんがミサトさんに報告する。

 

『了解。碇司令、構いませんね』

『構わん』

『了解。発進準備!』

 

初号機の発進準備が進められる。この間に誰も何も言わないので質問する。ミサトさんよりリツコさんの方がちゃんと答えてくれそうだ。

 

「赤木博士、いくつか質問が」

『何かしら?』

「まず、エヴァの操縦方法は?」

『機密よ。あなたが居るのに言えるわけないわ』

 

は?今の状況分かってんの?んなこと言ってる場合じゃないでしょ。

 

「…シンジは一度も訓練したことのない素人です。その状態で勝つのは難しいと子供でも分かります。ですから、シンジが生き残るために、人類の明日のために、必要な情報をください。お願いします」

 

あえて『子供』という言葉を使うことで良心に訴える。これが通用するかは知らんが。

 

『リツコ、シンジくん達に説明してあげて。責任は私が負います』

『ミサト!もし情報が流出したらどうするの!?』

『ここで負ければ全てが終わるわ。なら、勝つために出来る限りのことをするだけよ』

 

マダオ達の計画ではここで暴走させるつもりなのだから教えるわけにはいかないのだろうが、ここで答えないのは不自然だと思ったのだろう。それに、私がいる以上、暴走するとは限らないと考えたのかもしれない。

 

『…分かったわ。操縦は強くイメージすれば出来るわ。例えば、手を握ることをイメージすればその通りになります』

「二つ目、武装はなしですか?」

『肩のウエポンラックにプログレッシブナイフがあるわ。ただし、あくまで護身用だからあまり期待しないでちょうだい』

「三つ目、使徒の能力や弱点は?」

『目からの荷粒子砲、手からの光のパイルが現在確認されているわ。弱点は胸にある赤い球、コアよ。それと気をつけなければならないのはA.T.フィールドね』

「四つ目、それはなんですか?」

『詳しいことはわかっていないわ。言えることは、バリアのようなもので、破るには、強い攻撃か、エヴァのA.T.フィールドで中和するしかないわ』

「ありがとうございます。葛城一尉、いくつかお願いがあります」

『何?』

「初号機の射出位置を使徒から少し離した場所にしてください。近いと操作に慣れる前に潰される可能性があります。それから、逃げ遅れた人がいないかの確認をお願いします」

 

とりあえずトウジに殴られイベントはなんとしてでも回避したい。

 

『分かったわ。こっちで何とかする』

「シンジ、何か聞いときたいことある?」

「ううん。気になってたこと、全部ナズナが聞いてくれたからないよ」

 

それはよかった。オペレーターの報告が入る。いよいよだ。

 

『発射準備完了』

「ありがとうございます。何か連絡事項はありますか?」

『今から地上に出します。作戦部長の私の指示に従うこと。いいわね?』

「「はい!」」

 

しっかりとインテリアの背もたれに捕まる。そういやフィードバックについての説明がなかったな。あれこそ説明すべきだったんじゃないの?いや、それでパイロット降りられちゃ嫌だからってことだろうな。ほんと汚い大人達だよ。私から言うと怪しまれるだろうし。

 

『発進!』

「うぅっ」

「ぐっ」

 

想像以上のGにうめく。よくシンジ君達こんなので出撃できたよな。下手したら舌噛むぞこれ。地上に出ると、少し遠くに使徒が見えた。出会い頭に潰されるとかじゃなくてよかったよほんと。アニメでもこんなふうに余裕出すべきだろ。

 

『安全装置解除。エバンゲリオン初号機リフトオフ!』

 

ついに行動を遮るものがなくなる。操縦ができない分、私ができることはないのか、何か…

 

『シンジくん、今は歩くことだけを考えて』

「歩く…歩く…」

 

シンジ君がつぶやくと、紫の鬼は前に右足を踏み出した。

 

『動いた!』

 

発令所で歓声が上がる。ほんとなんで歩いたぐらいで盛り上がるもんにいきなり実戦させようと思ってんの。ミサトさんも呆けてないで指示くれよ。私がちゃんとしないと。

 

「シンジ、歩くのはストップ。次は腕を動かしてナイフを取り出そう」

「う、うん」

 

初号機は緩慢な動作で手を肩に伸ばす。使徒が近づいてきているが、焦りは禁物だ。その時、使徒の目がチカっと光る。まずい!

 

「横に飛べ!」

「えっ、うわあ!」

 

反応がまにあわず、もろに荷粒子砲をくらう。

 

「うぁあああああああ!?」

「ナズナ!?」

 

フィードバックダメージを受けたのは、私だった。うっそなんでそうなるの!?てか、サキエルのビームだけでこんなに痛いのかよ!ラミエルとかゼルエルみたいなボス級だったらもっとやばいじゃん!そりゃシンジ君逃げ出したくなるわ。ってそんなこと考えてる場合じゃない!サキエルが初号機の腕を掴み握力を込める。待て待てそれは…

 

 ボキン

 

「ぐわああああああああああああああああ!」

 

初号機の骨が折れる音に少しして左腕に激痛が走る。あまりの痛さに思考が鈍ってると。

 

『どうしてナズナちゃんにフィードバックが言ってるわけ!?』

『分からないわ!シンクロ率35%カット!』

『駄目です!信号受け付けません!』

「ミサトさん、リツコさん!どうにかならないんですか!?」

「シン…ジ…うぐっ、距離を…とるんだ」

「わ、分かった!」

 

初号機はサキエルの脇腹に蹴りを入れると後ずさった。発令所でシンクロをカットしてくれたのか、痛みがマシになった左腕をさする。サキエルはこちらの様子を伺っていて、膠着状態になった。ようやく働いてきた頭で考える。私にフィードバックが来たってことは私もシンクロしてるってことだよな…だとしたら…

 

『目標、初号機に急接近!』

『シンジくん!ナズナちゃん!』

 

サキエルが腕をあげてこちらに向かって来る。ええい、もう一か八かだ!

 

 キィィイイイン!  

 

眼球目掛けて放たれたパイルがオレンジ色の六角形に阻まれる。

 

『まさか、A.T.フィールド!?』

 

A.T.フィールドの意味を知っているおかげか、なんとか強度のあるものを出せたものの、攻撃を受け止めると精神的な負荷がかかり、顔を顰める。

 

「うっ…これあんま持たないかも!」

『ナズナさんがA.T.フィールドを張ってるっていうの!?』

 

リツコさんが驚いた声を上げるが、返事をしてる余裕は無い。

 

「シンジ!攻撃の準備を…ミサトさん、やつの気を少しでも逸らしてくださいっ!」

「『分かった(わ)!』」

 

初号機にナイフを持たせ、兵装ビルも展開して攻撃しようとしたそのとき、

 

『初号機の足元に民間人がいます!』

 

見ると、女の子が恐怖で腰が抜けたのか、へたり込んでいた。彼女が鈴原サクラちゃんだろう。

 

『すぐ保護に向かって!ナズナちゃん、しばらく持たせられる!?』

「やってみます!」

 

そう言って、今にも突き立てられようとしているパイルに集中する。するとサキエルの目が光った。

 

「こんちくしょおぉぉぁあああああ!」

 

A.T.フィールドをエヴァとサクラちゃんを覆うように広げ、荷粒子砲を防ぐ。ただ、そのぶん強度はいまいちなのか、サキエルが打ち終わる頃にはところどころヒビが入っていた。

 

「はぁっはぁ…っやば!」

 

すでに精神力を使い果たしていたせいで、組みついて来るサキエルに反応が遅れる。

 

「ナズナは休んでて!」

 

シンジ君がサキエルの手首を掴んで組み合う。と押し込んでサクラちゃんのいた場所から距離をとった。さらに顔を蹴って荷粒子砲を撃たれないようにしている。朗報が入った。

 

『女の子を保護出来たわ!思いっきりやっちゃいなさい!』

 

作戦部長としてその指示はどうなの?ざっくばらんすぎない?

 

「コアに攻撃を!」

「うおおおおお!」

 

掴んでいたサキエルの手を振り払って体勢を崩させた後、取り出したナイフをコアに突き刺した。私も大分回復していたので、ナイフの先にフィールドを纏わせる。サキエルは負けじとA.T.フィールドを出すが、私のフィールドによって中和していく。止めるものが無くなったナイフは赤い球をあっけなく割り、光を失うかに見えたそのとき、サキエルが初号機にまとわりつき腕がボコボコと膨れる。ミサトさんと私は同時に叫んだ。

 

『まさか自爆する気!?』

「上に投げ上げろ!」

「ええええい!」

「A.T.フィールド全開!」

 

サキエルを上にぶん投げて、爆発から街を守るためにフィールドを全力で張る。一回言ってみたかったんだよねこれ。しばらくすると報告が入る。

 

『パターン青消滅。勝ちました!』

 

初めて使徒に勝ったことで発令所は軽くお祭りのようだった。私は苦笑しながらも指示を乞う。

 

「回収ポイントの場所をお願いします。シンジ、おつか…あれ?」

 

シンジ君は戦いの緊張から解き放たれたからか、それとも疲れからか寝ていた。私は微笑んで彼の頭を撫でる。シンジ君はくすぐったそうに頭を動かした。

 

 

その様子を見ていた男達は

 

「いいのか、碇。あの少女といい、シナリオと違うぞ」

「問題ない。アレはしばらく使えそうだ。それに、いざとなれば処分すれば良い」

 

老人は不快そうな顔をした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。