救いのない世界で、君を救いたい   作:にぎり飯

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瞬間、心、重ねて(後編)

トウジとケンスケは学校のプリントを持って連れ立って歩いていた。

 

「しかし、シンジ達はどないしたんやろ?」

「学校を休んでもう3日か。多分NERV関係だろうけど」

 

2人がアパートの前に行くと、見知った2人が話していた。

 

「あれ、イインチョと村雨か」

「ん?2人も見舞いか」

「俺たちもってことは委員長もか。誰の見舞い?」

 

ケンスケの質問にヒカリが首を振る。

 

「私は惣流さん。そこでナズナに会って惣流さんと同じアパートらしいから代わりに届けてもらおうって」

「と思ってたんだけど2人も来たならせっかくだし…上がってく?」

 

彼らはその言葉に甘えて家に上がらせてもらうことにした。そこで見た光景は色だけが違う同じ衣装に身を包んだシンジ、アスカ、レイの3人がいた。ヒカリが真っ先に反応する。

 

「ふっ不潔よ!」

「「「誤解だよ(わ)!」」」

「誤解も6階もない!」

 

3人同時の否定にも負けず、ヒカリは即座にセンスのいい切り返しをする。

 

「今回の使徒を倒すために3人同時攻撃が必要なんだよ。これはタイミングを合わせるための練習」

 

そうナズナが答え、全員分の麦茶を用意しようとすると、ヒカリが慌てて麦茶の重いピッチャーを受け取ってコップに注いでいく。

 

「じゃあナズナは?」

「私は3人の家事とかの身の回りのサポート。と言ってもできることは限られてるけど」

 

その時、玄関のドアが空いてミサトが顔を覗かせた。

 

「あら、いらっしゃい」

「あ、お邪魔してます。それでユニゾンは上手くいっとるんですか?」

「それがね…」

 

と言ってもう何度もこの家で繰り返されている3人のツイスターを見せる。このツイスターゲームは従来のルーレットで手足を置く場所が決められるのではなく、3人がそれぞれ立つマットが同時に同じ場所が光り、そこを押すタイミングを揃えようと言う訓練であった。しかし、そのスコアは目標点には程遠い。

 

「はぁ…」

 

それを見たミサトとトウジたちがため息をつく。

 

「当たり前じゃない!このシンジに合わせてレベルを下げるなんて上手くいくわけないわ!土台無理な話なのよ!」

「じゃ、やめとく?」

「他に人、いないんでしょ?」

 

確かに、正確さはシンジが3人の中では課題である。しかし、プライドの高いアスカは自分の能力の高さを証明するために周りに合わせることを極端に嫌う。それが今回の作戦において一番の障害でもあった。彼女の意識をどう変えさせるか、それが指揮官であるミサトや転生者であるナズナの頭を抱える問題だった。

 

「ナズナちゃん、やってみる?」

「この体でどうしろって言うんですか」

 

ミサトのアスカに発破をかけるための苦し紛れの提案もナズナの現実的ではないと言う考えのもと、やんわりと否定される。その時、ヒカリが発言した。

 

「それなら、2人とも綾波さんに合わせればいいじゃない」

「私?」

 

全員が驚いて彼女の方を向く。彼女はそれに狼狽えつつも考えを述べていく。

 

「多分、誰かに合わせた方がいい気がする。綾波さんなら動きは正確だから碇君のいい見本になるし、アスカのかっこいいアレンジが見れないのは残念だけど、そんなにレベルを下げることはないと思うわ」

「そうやな、それがいいかもな」

「ええ、それならなんとかなりそうね。それでいきましょう」

「なんでこんな奴にっ…」

「アスカ、もう時間はないのよ」

「この作戦ならあと3日で間に合うかもな」

「…」

 

みんなが口々にヒカリの意見に賛成の意を示すので、アスカは渋々と納得を見せた。

 

 

 

「いい?レイの動きに合わせられるのは当たり前。ミサトたちもそう思ってこの難易度にしたんでしょう。でも、それじゃあ足りないわ!最終的にはアンタたちは私の動きに合わせるようにしなさい!いいわね、あいつらに実力を舐めたことを後悔させてやるわよ!」

 

その夜、私たちを集めたアスカは胸を張って宣言する。ヒカリの言葉に私は感心する。

 

(ヒカリはやっぱり周りをよく見てるな。私が今までアスカを褒めるようなこと言っても大抵皮肉としてしか受け取られないし、上手く誘導してくれて助かる)

 

「後悔させてやるなんて…」

「…」

 

シンジ君とレイが消極的な姿勢を見せるが、アスカは重ねて言う。

 

「じゃあ、こんな言い方はどう?使徒はどんどん厄介になっているわ!新しい能力を身につけている可能性がある以上、私たちもさらに力をつけている必要があるのよ!フォースの好きな『何かあった時の備え』よ!」

「「…」」

 

アスカが皮肉混じりの言葉と共にフフンと自信ありげに笑う。2人はそれに押されてひとまずは納得したような表情を見せた。

 

 

それから3人、特にアスカは人が変わったように特訓に取り組んでいた。3人は普段からの生活リズムまでも徹底的に合わせるように意識し、私も含めてアイコンタクトで意思の疎通ができるようにまでなっていた。

 

「フォース」

「ほい」

 

食事中、アスカに呼ばれ、近くにあった醤油を手渡す。もう私と一緒のことも割り切っているのか、噛み付いてくることもあまりなくなった。人間嫌いな野良猫がだんだん懐いてくるみたいだ。そしてツイスターの方はというと、

 

「シンジはここの動き、ワンテンポ遅い。アスカはここは見本のままって話し合ったよね。レイはここのパートはリードする側だからアスカに合わせなくていいよ」

「シンジの動きのチェックはフォースとやって。私とレイは2人で動きを合わせる練習をするわ。3人で合わせるのはそれからよ」

 

私たちは端末を見ながら意見を出し合う。一連の動きを私が撮影し、その動画を見てできていないとこを適宜潰していく。残りの3日間で3人の動きは格段によくなっていった。そして決戦前日、

 

「「「ヤッタァ〜!」」」

「!」

 

華やかな効果音と共に映される100点のスコア。つまり、3人の動きが完全にシンクロしたのだ。これには普段感情を出さないレイも頰を紅潮させる。

 

「ようやく準備が整ったってわけね!」

「よかった。間に合った!」

「嬉しい」

「最初はどうなるかと思ったけど、安心した」

 

口々にそう言って喜びを分かち合う。そのとき、シンジ君が提案した。

 

「今日はご馳走だね!僕も腕を振るうよ!」

 

それにアスカが乗っかる。

 

「あたし、ハンバーグがいい!」

「そうしよう!綾波のは豆腐で作るから」

「ありがとう」

 

決戦に向けて勝負飯が決定した。

 

 

私は少しの違和感で目が覚めた。消灯して真っ暗な部屋。しんとしていて物音一つ聞こえない。最初はこの家に来て1週間しか経っていないからまだ慣れていないのかも、と私はベッドで寝返りを繰り返す。何度目かでようやく異変の正体に気がついて起き上がった。

 

「トイレ…いきたい」

 

ふらふらと起き上がって廊下に出ると、トイレの方から水の流れる音がして扉が開いた。そこから漏れる眩しい光に思わず顔を顰める。

 

「アスカ?もしかして起こしちゃった?」

 

逆光になってて顔は見えないけどフォースが入ってたみたいね。

 

「別に。ただトイレで起きただけよ」

 

こいつと暮らして最初はイラつくことばかりだった。どこか偉そうで、私が文句言っても余裕そうなのがムカついて。私が無駄な体力をつかてるみたいでバカらしくなってやめた。

 

「あ、そう」

 

フォースは私とすれ違うと自身の部屋を開けて電気をつけた。そのまま部屋に入るのかと思ったら私の方を振り返る。だから急に明るくされると眩しいのよ。

 

「明日は一緒に頑張ろうね。おやすみ」

「…フン!」

 

それを返事と受け取ったのか、フォースは部屋の中に入っていった。

 

 

私たちは緊張した面持ちで並ぶ。見つめる先には侵攻中の第7使徒、イスラフェル。

 

『目標は、強羅絶対防衛戦を突破』

『来たわね。今度は抜かりないわよ。音楽スタートと同時に初号機コパイロットはATフィールドを展開。あとは作戦通りに。みんな、いいわね?』

 

私たちは口々に返事をした。

 

『目標は山間部に侵入』

 

アスカが口火を切る。

 

『いいわね。最初からフル稼働、最大戦速でいくわよ!』

「62秒でケリをつける」

「誤差修正は任せな」

「わかったわ」

 

それからシンジ君、私、レイとそれぞれの戦意を確認し合う。

 

『目標、0地点に到達します!』

「外電源パージ、ATフィールド展開」

「発信!」

 

私とミサトさんの声が重なる。それと同時に内部電源のカウントダウンが始まった。

 

 

 音楽に合わせて流れるように動くエヴァ3機。そのロボットにあるまじき流麗な動きは敵を殲滅する、ただそれだけのために練られたもの。初号機がパレットライフルの斉射でイスラフェルの気を引く。イスラフェルのATフィールドはナズナのATフィールドによって中和しており、前段が命中する。マガジン全弾を打ち切り、わざと煙を上げてイスラフェルの視界を塞いだ。

 すると初号機の背を踏み台にして弍号機と零号機が飛び上がる。エヴァ2機はソニックグレイブを起動させると真上から振り下ろした。綺麗に三等分されたイスラフェルは三枚おろしにされた魚の切り身の様にくたりとした後、蠢いて3つに分裂した。

 それからはそれぞれが一体ずつ受け持ち、格闘する。その動きは完璧にシンクロしていた。使徒に攻撃するタイミングも、攻撃させるタイミングも寸分の狂いもないほどに揃っている。イスラフェルが自己再生の間の進化で得た荷粒子砲にも華麗な動きで同時に対応してしまう。しかし、どれだけ合わせたところで地形にも違いがある。それは周りに回ってイスラフェルの行動に違いを生み出した。

 

「…!」

 

青色のイスラフェルだけが零号機に向け爪を振り下ろす。

 

ガイィン!

 

目の前で光の壁が鋭い爪を阻む。レイはそれを発したものを見る。

 

『今のは村雨さん?』

『ああ。2テンポの遅れ、巻き返せるね?』

『ええ。任せて』

 

その様子を横目で見ていたアスカは使徒との舞踏を繰り広げながら少しの違和感を感じた。

 

(フォースのATフィールド、戦闘記録の中であそこまでの距離から出しているのを見たことがないわ。それとも、今まで出していなかっただけ?)

 

『アスカ、集中。早くなってるよ』

 

その言葉に我に返ったアスカは目の前の敵に向き直った。そしてエヴァの残り稼働時間は10秒。音楽は佳境に入り、エヴァ3機の苛烈さを増して使徒を圧倒する。そして3機はそれぞれ同時に受け持っている使徒を蹴り飛ばす。お互いにぶつかって停止したイスラフェルに向けてエヴァ3機は空高く飛び上がった。

 

「「「うぉりゃああああ!」」」

 

空中で3機が並び、片足を曲げ、もう片方を伸ばすポーズをする。それはいわばイナズマ・トリプル・キックとも言うべきものであった。そしてそれはイスラフェルのコアに突き刺さり、その勢いのまま山肌まで引きずった。そして3点同時攻撃を受けた使徒はそのコアが割れ、大爆発と共に消えていった。

 

 

その爆心地にいたエヴァ3機はどうなったかと言うと無事だった。

 

「あっちゃぁ〜」

「無様ね」

 

初号機と弍号機が折り重なるようにして倒れている一点を除けば。ちなみに零号機はしれっと綺麗に着地して停止している。

 

「ちょっとぉ〜!あたしの弍号機になんてことすんのよ!」

 

弍号機から這い出てきたアスカが受話器型の通信機に向かって叫ぶ。初号機からもそれに抗議する声が上がった。

 

「そっちが突っかかってきたんじゃないか!」

「最後にタイミング外したのそっちでしょ!普段からボケボケっとしてるからよ!」

「なっ!?アスカだって途中でテンポずれてただろ!」

 

言い合う2人を横目にナズナは初号機から降りて、同じように外に出ているレイと並んで折り重なっている2機を見上げた。

 

「哀れね」

「アッハハ…」

 

 どこかのマッドと同じようなセリフを言うレイ。ナズナはこの光景に苦笑して頭を掻くしかなかった。

 そしてアスカとシンジの通信という名の喧嘩はもちろん発令所にも聞こえている。職員たちがその子どもらしい喧嘩に笑っているが、1人だけ笑顔になれないでいるものがいた。

 

「また恥をかかせおって…」

 

関係者各所から来る要望書とは名ばかりの抗議がまた増えると、それらを一身に受け持っている冬月は頭を抱えるのだった。

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