「あ゛〜やっと終わった〜」
私は病院のベットに倒れ込む。あれから、初めてのダブルエントリーだったり、そもそも初めてのエヴァの実戦稼働ということでパイロットに異常がないか検査三昧だった。開始時にはすでに夜と言える時間帯であったが今はもうとっくに日を跨いでしまっている。そして念の為に検査入院することになった。もちろんシンジ君は別室で寝ている。
「にしてもえらい事になったな」
仰向けになって呟く。こうなるとは思っていなかった前世を思い出した頃に思いを馳せる。
12月のうだるような暑さのある日、私は幼稚園で泥団子を熱心に作っていた。湿らせた土を手で力を込めて丸める。高まっていた集中力は下品な笑い声によって妨げられた。
「おまえ、おとうさんにすてられたいらないこなんだろー?w」
「いらないこなら、はやくいなくなっちゃえよw」
「ははっ、かわいそーw」
「や、やめてよ…」
蹲っている男の子に3人の男の子が群がって心ない言葉や石を投げつけていた。
この頃の子供は幼さゆえの残酷さで周りとは違う子をいじめの対象にしてしまう。当時正義感の強かった私は、泥団子作りを邪魔されたこともあってキレた。
「いだっ⁉︎」
「ブッ⁉︎」
「ムギュッ⁉︎」
間に割り込むと、1人を蹴りつけ、残り2人の顔面に持っていた泥団子を顔に押し付ける。3人は突然のことにポカンとした後、泣きながら逃げていった。
「もうだいじょうぶだよ」
「うん」
いじめられていた男の子に笑いかける。彼は弱々しく笑顔を浮かべて立ち上がった。私は泥だらけの手を差し出して言う。
「わたしは、むらさめナズナ!よろしくね!」
「ぼくはシンジ、いかりシンジ。ナズナちゃん、さっきはありがとう」
シンジ君が私と握手したとき、突然、私の知らない記憶が濁流となって襲って来る。幼い脳は大量の情報に耐えられず、強制シャットダウン、つまり気絶という手段をとった。
目を開けると家の布団で寝ていた。近くにいた母親が声を掛ける。
「日射病で倒れたって聞いて心配したのよ。しかもお友達と喧嘩なんかして…」
「お母さんごめんなさい」
「もう…体調は?」
「うーん。もう少し寝たいかも」
「分かったわ。何かあったら呼んでね」
母親が部屋から出ていくのを確認すると、私は気絶したことである程度スッキリした頭を巡らせつつも、先ほどから考えている嫌な予想が当たらないことを祈っていた。しかし、隣のリビングに流れるテレビが、私が正解していると告げる。
『……ています。セカンドインパクトから7年経った今でも…』
そこまで聞いて、私は布団を深く被る。
「………………………………………………………………………………詰んでる………………」
えっ、ここエヴァじゃん。いや、あの男の子が『いかりシンジ』ていう名前と12月なのに夏みたいな暑さで予想はしてたんだよ?でもたまたま同姓同名とかたまたまそういう世界って可能性も多いになくはない話で、でもセカンドインパクトは別じゃん。彼が『碇シンジ』で、ここがエヴァの世界で決定じゃん。一般人の私じゃどうしようもないわ。液状化して滅亡ですね。はい。ありがとうございましたー
取り敢えず、これからの方針を考えよう。第3新東京市で頼りになりそうなのは加地さんしかいない。その次に強いて言えばミサトさん、14歳にして大卒のアスカ、使徒で色んな情報を持ってそうなカヲル君。彼らに未来のことを伝えよう。パシャるのはゴメンだ。
それから、シンジ君にはせめてここにいる間くらいは幸せに過ごしてほしい。第3新東京市にはいい思い出もあるだろうが、それ以上と言ってもいいほど辛いこともあったからだ。彼の居場所を作り、出来るだけ人と向き合うようにさせる。それがあっちでも何かしらの役に立つかもしれない。
シンジ君と友人になる。今後の方針をこれに定めると、私は眠りについた。
そして数日前、私とシンジ君は私の部屋で会話をしていた。
「えっ、第3新東京市に?」
「うん。父さんに呼び出されたんだ」
久しぶりの再会に浮かない顔のシンジ君に問いかける。
「何か不都合でもあるのか?」
「全然音沙汰もなかったのに、父さんは急にどうしたんだろうって思って。それに、会って何話せばいいのかな?」
そう言って私には見覚えがありすぎる書類と写真を取り出した。とうとう来てしまった呼び出しに私は驚いたふりをする。
「何これ…非常識にも程があるだろ」
いつ見てもモラルを疑う手紙に呆れる。それに、こんな写真を送りつけてくるのもおかしいし、説明が全くない。
「家に送られてきてたんだ。もしかしたら、父さんの再婚なのかな?相手はこの人で、その話をするために僕を呼び出した…とか?」
いや、使徒と戦わせて、妻に会うためだよ。なんて言えるはずもなく。
「君の父さんはそういうことをする人なの?」
ここであえて答えずに問いかける。シンジ君は地頭は悪くない。ちゃんと考えれば、向こうで足を掬われることも少ないだろう。
「…やっぱり、それはないかもしれない」
「どうしてそう思う?」
シンジ君はあごに手を当てて考える。
「3年前の母さんのお墓参り以来全く音沙汰がなかった父さんがそのためにぼくを呼び出すのは考えられないし、この女の人も何かしらそれっぽいことを書いててもおかしくないよ」
「じゃあ何のために呼び出したのかな?」
「考えられるのは、僕を何かに利用するつもりとか、かな。実の親がそんな事するような人だとは思いたくないけど。」
当たってんだよな〜でも、ここまで考えられるようなら大丈夫だろう。どうやってマダオ達にバレないように情報を渡してもらうか考えるとするか…
「ナズナ、一緒に来てくれないかな」
「ぶっふぉ!ゲッホ、ゲホゲホ…」
「大丈夫!?」
飲んでたお茶が気管に入ってむせる。シンジ君は心配して背中を叩いてくれる。えっうそでしょ。シンジ君だけで行くと思ってたよ!?
「すまん、ちょっとびっくりした。でも、私も一緒でいいの?久しぶりの再会だろ?」
「うん。でも、父さんが何考えてるかわからない以上、ナズナとならどう転んでも安心だから。駄目、かな?」
「二人で行こうか」
シンジ君にとってはそりゃそうか。私は同行を承諾した。決して上目遣いのシンジ君に勝てなかったからじゃないよ。
世界を掌握している組織、SEELE。各国の代表者達は会議を行なっていた。真っ暗な部屋に浮かんだ幾つもの人影が一人の男を取り囲み、詰問している。
「碇君、君の報告書を読ませてもらったよ。これはどういうことかね」
「零号機に加え、初戦で破損した初号機の修理代。第3新東京市の被害。それはさして重大ではないのだが、問題はこの事だよ」
「左様、村雨ナズナというイレギュラーをどうするつもりかね。初号機に相乗りしたばかりか、A.T.フィールドまで操って見せたそうじゃないか」
「人類補完計画に支障がでることが十分に考えられるぞ」
飛び交う叱責をものともせずに、ゲンドウは彼の代名詞ともいえるポーズをしたまま答える。
「問題ありません」
さらに責め立てようとするメンバーをSEELEの長、キール・ローレンツが遮った。
「いずれにせよ、使徒侵攻によるスケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう。碇ゲンドウ、ご苦労だった」
こうして会議は幕を下ろした。
目を開けるといつの間にか外は明るくなっていた。私はまだ眠気が残る体を無理やり動かしてベットから抜け出した。置いてあったいつの間にか洗濯されている制服に着替えて部屋を出る。すると、目の前を包帯まみれの少女を乗せたストレッチャーが通り過ぎた。彼女は惹きつけられるほどの美人で、空色の髪に赤い瞳をしていた。はい、もちろん綾波レイです。
彼女は何とシンジ君のお母さん、碇ユイさんのクローンで、魂は人間、もといリリンの親のリリスのものなのだー。しかもサードインパクトの鍵にするために感情がかなり欠落していて、まともな情操教育を受けられていない。うん、あまりにも倫理観が終わってるね。
彼女が廊下の角を曲がるのを見送った後、綾波とのファーストコンタクトをしていなかったことを思い出し、どうしようかとを考えながら歩いていると、先に聞いていたとある病室についた。ドアをノックして部屋の主に許可をもらうと私はドアを開けた。ベットから体を起こした人はシンジ君だった。
「おはよ。体調は平気?」
「うん。あっ、ナズナ、怪我は!?」
大丈夫であることを示すために、包帯の巻かれた左腕を軽く叩いた。シンジ君はその様子にほっとした顔を浮かべた。それからしばらく会話していると、ミサトさんがやってきた。
「二人とも、ちょっときてくれるかしら?」
聞けばマダオに呼ばれているらしい。多分エヴァに関することだろう。私たちは顔を見合わせると、移動することにした。
「初号機には2人で乗れ。異論は認めん」
私とシンジ君はマダオの執務室にいた。この部屋にいるのは私達と目の前にゲンドウポーズをした部屋の主、その後ろに立ってる冬月先生、私達の斜め前にいるミサトさん、壁に寄りかかっているリツコさんだ。
「嫌だ!どうして僕らなんだよ!それに、ナズナは痛い思いをしたんだよ!?」
「他の人間には無理だからだ」
「シンジ君だけでも構わないのだけど、ナズナさんがA.T.フィールドを張れていたことやダメージフィードバックを受けてたことから、相乗りが最適なのよ。この場合、ナズナさんはサードのシンジ君に次いで発見されたフォースチルドレンということになるわ」
リツコさんが言う。ミサトさんも口を開く。
「あなた達がやらなければ人類が滅ぶのよ?そんなこと言ってる場合じゃないのよ」
ミサトさんはもう少し子供に寄り添え。
「死んじゃうかもしれないんだよ?あんなもの、もう二度と乗りたくないよ!」
「あなた何のためにここまで来たの?お父さんにあそこまで言われて黙って帰るつもり?」
少なくともエヴァに乗るために来たわけじゃないよ。冬月先生とマダオも続ける。
「それなりの待遇も約束しよう。もちろん強制はしないが、断るとこれからの生活に監視のために制限がつくと思ってくれ」
「サードチルドレンとフォースチルドレン、エヴァに乗れ。でなければ帰れ」
ざけんな。何上から目線で命令してんだよ。てかサキエル倒したのに労いの言葉ひとつないんだが。まだ冬月先生の方がマシに見えるよ。でも、これがエヴァ世界の大人なんだよな。私知ってた。
「ナズナさんはどうするの?あなたは無理にエヴァに乗る必要はないけど」
リツコさんが黙ってた私に声を掛ける。私を出汁にシンジ君を乗せる魂胆は見え見えだ。
「私はもう決めてます。あとはシンジしだいです」
そう言ってシンジ君を見る。しばらくの間、見つめ合う。部屋には沈黙が漂った。
「…乗るよ」
シンジが真っ直ぐな目で答える。私は質問を投げ掛けた。
「それは成り行きだから?」
「違う。僕の意志だ」
「辛い思いをするかもしれない」
トウジやカヲル君を手にかけ、レイやアスカを失い心に深く傷を負ったシンジ君を知っている。そして14歳が背負うにはあまりにも重い事実に苦しむシンジ君を知っている。
「分かってる」
「一度決めたら戻れなくなるよ」
どんなことがあっても、結局はエヴァに乗ることになったシンジ君を知っている。だから、これが無駄なことだとは分かってるんだ。それでも確認せずにはいられなかった。
「僕がやらなければ皆死んじゃうんだ。だから、覚悟を決めてる」
私は息をふっと吐き出した。原作のヤケクソ気味に決断したのとは違う、しっかりとした決意に安心する。と同時にシンジ君の避けきれない理不尽な運命を呪った。
「フォース、お前はどうする?」
マダオが私に問いかける。答えようとすると、
「初号機には僕だけで乗る。ナズナを家に帰してください」
「はあ!?シンジを置いて帰るわけにはいかないよ!」
驚いて反論を試みる。狼の群れに子羊を放置するような真似はできるはずない。
「ナズナを危険な目に遭わせるわけにはいかないよ!痛い思いをするのは僕だけで十分だ!」
先のことを知っているせいか、的外れなシンジ君の言葉に怒り、怒鳴り返す。シンジ君の気持ちは嬉しいが、今回ばかりはそうはいかない。彼と離れてしまえば本編の再現になってしまい、心が壊れてしまうだけだ。
「じゃあ、A.T.フィールドを自在に張れるの!?それに、エヴァンゲリオンなんて後ろ暗いところがありそうな兵器のパイロットになったら大人に利用されるに決まってんだろ!一人で対処できんのか!?」
「でも…」
「でもも、へったくれもない!私はお前を失いたくないんだよ!」
私はここまで言うと、マダオの方を向く。シンジ君は急に言い返すのをやめて俯いている。
「おい、マダオ!」
あ、ついマダオって呼んじった。
「マ、マダオ…?」
マダオの愛z…リツコさんの拍子抜けした声を無視して続ける。
「初号機にはシンジと私で乗ってやる!その代わりいくつかの条件を呑め!」
「ふっ、構わん」
私が突きつけた条件は
・戦闘中はパイロットの判断を優先させること
・尉官までの階級でアクセス出来る情報を開示すること
・守秘義務の緩和
「ちょっと!作戦指揮官はこの私よ!貴方達は私の命令に従う義務があるの!」
「待ち合わせに30分も遅れ、戦闘中の指示はアバウトすぎて目も当てられないものでした。その様な人に自分の命を預ける気になりません」
「遅刻したってどう言うこと!?貴方、一歩遅かったらパイロットを失っていたのかもしれないのよ!?」
この事を知らなかったのか、リツコさんが声を荒げる。
「それは!」
「それに、使徒とかA.T.フィールドとか非科学的なのが相手なら尚更、現場の人間にしか分からないものがあるのでは?」
「素人が口出すんじゃないわよ!」
「葛城君、君の事情は知っているつもりだが、それは看過しかねるよ。だが第4の少女、私達も使徒との戦闘はあれが初めてだったのだ。ここは研究者畑の人間が多くてな、私達の至らなさをこの老いぼれに免じて許してくれないか?」
冬月先生も援護しつつ、私を嗜めた。本当はもっと言ってやりたかったが、その気が失せてしまった。だが、言っておかなければならないことがある。
「…これだけは言わせてください。そもそも、たった14歳の子供を闘いの最前列に立たせるのをおかしいとは思わないのですか?必要な犠牲だか何だか考えてんのかもしれませんが、こういうのは大人がやるべきでしょう?自分勝手な事情を子供に押し付けないで頂きたい」
その言葉に数人が表情を微かに動かす。あまり期待はしてないけど、これで少しはマシになるだろうか。
「わかったわ。戦闘においてあなた達の判断を優先することを許可します。でも、命令はあなた達を守るためのものでもあるのよ。私の指示には従わなくてもいいけど、命令には従いなさい」
「ありがとうございます」
ミサトさんはその時の感情に振り回されやすいし、私は敵の情報を持っているから、自由に動ける環境は必要だ。これだけでも儲け物だろう。
それ以外の二つの条件は何とかNERVの透明度の薄さを挙げ、信用が出来ないことを主張して納得をさせた。途中、うっかりあちら側からすれば私が知っているはずのない事を喋りそうになって焦った。知識持ちはそこら辺のことも注意して話さないといけないから神経がすり減る。それらの話し合いが終わる頃には私の頭は使いすぎで痛くなっていた。それ程まで気をつけていたのは彼らは人間のクズとも言っていい程のろくでなしばかりだが、何せ能力は優秀だし、金と権力を持っている。迂闊な事をすれば大変な目に遭うことは自明の理だ。こいつらに立場を与えたSEELEがものすごく憎らしく感じた。
給料は危険な仕事をしているからか、かなり高かった。それに加えて出撃手当もつくとかで私たちは何回もマダオに確認するほどだった。
そして、やっぱりというかなんというか、ミサトさん家に居候することになった。今度はリツコさんが思春期の男女を同棲させるのはどうとかごねるが、
「ここに来る前は一緒に住んでたので大丈夫ですよ?」
という爆弾発言とミサトさんの強引さが周りを納得させた。
郊外にある展望台に着くと、私達はミサトさんの運転する車を降りた。ビルは地下に格納されていて、夕日の照らされた地上は水平な地面が広がっていた。シンジ君が呟いた。
「何だか寂しい街ですね」
「だな」
ミサトさんが腕時計に目をやった。
「時間だわ」
突然サイレンが鳴り響く。何事かとシンジ君が目を白黒させるが、事態はどんどん彼を置いて進行していく。
「ビルが…生えてくる…」
オレンジ色に染まった世界で塔が生えてくる光景は、壮観だった。
「これが、対使徒迎撃用都市、第3新東京市。私達の街よ」