救いのない世界で、君を救いたい   作:にぎり飯

7 / 21
 エヴァを見たことがあるという最近できた友人と話していたら、その人旧劇だけ見たと言うんですよ。事前にストーリーの流れとか全く知らなかったらしくて、たまたま最初に見たのが旧劇という。いきなりわけもわからず悲惨な映像を見たその人には同情しました。
 もちろん、他のエヴァシリーズを見ることもオススメしました。


雨、逃げ出した後(前編)

 暗いエントリープラグの中は気まずい沈黙が流れていた。かと言って僕が何か言う気にもなれない。そこに突然音が生まれる。

 

「碇、村雨。悪かった…」

「すまんかった…」

「何が?」

 

発言したのはケンスケとトウジ、それにナズナだ。心なしかナズナの声に棘があるように聞こえる。

 

「戦闘の邪魔したこと、俺が悪いんだ。トウジはただ協力してくれただけで」

「ワシだってケンスケを止めなかったんや。だから…」

「なんでこんなことをした?」

 

僕は3人の方を見る。トウジとケンスケは申し訳そうな顔をしている。そしてナズナは無表情で2人を見ている。本気で怒っている時の状態だ。この時のナズナはミサトさんもビビるレベルでめちゃくちゃ怖い。なんというか圧が凄いのだ。いや、本当に。

 

「一度でいいから戦闘を生で見てみたかったんだ…」

「ケンスケ」

「はいぃっ!」

 

ケンスケが緊張で声が裏返って間抜けな声が出るが、それを笑う人はこの中にいない。というかそれができる空気じゃない。下手したら使徒と戦うよりも怖いんじゃないかな?ナズナが2人を冷たい視線で射抜く。

 

「もし私達が負けていたら人類は全滅していた。お前達は自分達の命だけではなく、全人類の命までも危険に晒したんだ。今回は運が良かったが、戦闘中に足元を見る余裕なんてない。いちいち気にしていたらこっちが死ぬ」

「「はい…」」

「それに今回使った銃の弾丸は劣化ウラン製だ。下手したら被爆することだってある。避難命令を出される理由をもう少し考えるんだな」

「「はい…」」

 

2人の反省した様子にナズナは表情を緩め、明るい声を出す。

 

「ま、お前らが無事で良かったよ。これで死なれちゃあ寝覚め悪いからな」

 

柔らかくなった雰囲気の中で僕らは回収されるまでぽつりぽつりと話していた。

 

 

 

「どうしてあたしの命令を無視したの?」

 

ミサトさんが私達を詰問する。ここは普段パイロットの待機室として使われる部屋だ。私達は制服に着替え、ミサトさんと向かい合っている。

 

「言ったわよね?指示には従わなくていいけど、命令には従いなさいって」

「「すみません」」

「あなた達には命令に従う義務があるのよ。特にシンジくん!」

 

ミサトさんが最初に命令違反をしたシンジ君をきっと睨み付ける。シンジ君は蚊の鳴くような声で呟く。

 

「すみません」

「あんたねえ!すみません、すみませんって本気で思ってるの!?」

「だから謝ってんじゃないですか!?それに使徒だって倒したでしょ!?だったらそれでいいじゃないですか!だってそれが皆が僕達に求めてる役割なんでしょ!僕らの監督日記見たんですよ!?」

「あれを見たの!?」

 

あ、やっべ忘れてた…私は頭を抑える。ミサトさんは私達を引き取るにあたって監督日記を描くことになっている。私たちが普段どんなことをしているのか、どんな趣味嗜好をしているのか調べるためだ。まあ、監視されてると取られるのも仕方ない。シンジ君安定してたし、トウジに殴られイベントも回避してたから油断してたわ。シンジ君が暴走したのもそれが原因か。その間にも2人の言い合いはヒートアップして、ついにミサトさんはシンジ君の胸ぐらを掴んだ。私はハッとして、止めに入る。

 

「葛城一尉!流石にやりすぎです!シンジもそんなに卑屈になるな!」

 

すると、ミサトさんの怒りの矛先は私にも向く。

 

「ナズナちゃんもナズナちゃんよ!何でシンジ君を止めなかったの!?挙げ句の果てには殲滅するなんて言い出すなんて」

 

ミサトさんは今は自分の感情に振り回されているのを規則で正当化している。私は少しイラつきつつも、冷静に言葉を返す。

 

「じゃあ、葛城一尉はあの状況で撤退できると思っていたんですか?」

「そう言って誤魔化そうったって無駄よ!」

「葛城一尉!」

 

ミサトさんが私の大声にビクッとし、少しだけ落ち着きを取り戻させる。

 

「2人が乗り込んできた時、シンクロ率が15%ほど下がり、更にはノイズも発生していたのは葛城一尉も気づいていましたよね?」

「ええ!だから撤退を…」

「できると思ったんですか?シンクロ率が低いということはそれだけ操縦にラグが生じますし、急に操作感覚は変わって咄嗟に対応するのは難しいんですよ。それもノイズがある状態でね。そうだろ?シンジ」

 

シンジ君に同意を求めると、彼は慌てて頷く。

 

「うん。エヴァの反応が急に重くて鈍くなった」

「私もA.T.フィールドを張りづらくなっていました。そんな状態で素早いあの使徒から逃げ切れると?そもそもそれほど訓練を受けてない子供が?最悪ジオフロントに、NERV本部に近づける危険だってあったんです」

 

原作で私が引っ掛かっていたのはそれだった。アスカやレイならともかく、少し前まで一般人だったシンジくんがあんなに追い詰められてる状況でそんな冷静なことができるはずもない。ミサトさんはハッとした表情をするが、すぐに厳しい顔に戻すと

 

「いかなる理由があろうと命令違反は認められません。周りへの示しがつかないからよ。なので2人には」

「罰則を受けるのは私だけでしょう?」

 

私が被せるように言う。

 

「えっ?」

 

シンジ君が怪訝そうな顔をする。ミサトさんは私をじっと見つめると、軽く頷いた。

 

「…そうね。ナズナちゃんは独房にしばらく謹慎してもらいます。行くわよ」

「はい」

 

私達が歩き出そうとすると、シンジ君が慌てて前に回り込む。

 

「なんでナズナだけなんだよ!?命令違反なら僕だってしたじゃないですか!」

 

ミサトさんが冷徹に答える。

 

「それを指示したのはナズナちゃんよ。シンジくんはそれに従った。貴方は先に帰ってなさい」

「ナズナはそれでいいの!?」

 

シンジ君は助けを求めるように私を見つめるが、私は笑って答える。

 

「シンジ、すぐに戻るから心配するな」

「でも…」

「大丈夫だって。それじゃ」

「ちょっと待ってよ!」

 

叫ぶシンジ君を置いて私達はその場から立ち去った。

 

 

ナズナちゃんを従えて廊下を歩いていると、彼女に話しかけられた。

 

「ありがとうございます。さっきのこと」

 

さっきとは処分をナズナちゃんだけにしたことだろう。

 

「前後はともかく貴方の指示があったからできたことよ。それに、さっきの戦闘はあたしの落ち度だったし」

 

ついつい自分の感情で先走ってしまっていた。最悪エヴァもパイロットも失ってしまう可能性があったのに。自分よりもナズナちゃんの方が物事をよく考えている大人だった。

 

「どうして自分だけ罰則を受けるようにしたの?」

 

ナズナちゃんはなんてことのないように言う。

 

「独房なんかに入れば気が滅入るでしょうからね。それなら私だけが受ける方がマシですよ。慣れてますし」

「そう…良かったの?シンジくんを1人にして」

「はい。あいつにはしばらく1人の時間が必要でしょう」

 

いつもはよく一緒にいようとしていたので、こんなことは珍しかった。

 

「そう…ねえ、ナズナちゃん。ちょっと気になってたことがあるのだけどいいかしら?」

「なんです?」

 

振り返ってナズナちゃんの方を見る。少し微笑んでいるような顔からは感情が読み取れない。

 

「あの使徒が腕みたいなので攻撃した時、かなり驚いていたわよね?それにさっきの言葉やサキエルの時も中学生とは思えないものだったわ。…貴方、何か知っているんじゃないの?」

 

とは言ったものの、そう思った根拠はなく、ただの勘なのだけど。じっくりとナズナちゃんの反応を伺う。彼女は驚いたように目を見開くと、困ったように笑った。

 

「葛城一尉は私を買い被りすぎですよ。もし私が知っていたら、私はシンジをエヴァになんて乗らせないようにしてます」

 

その顔は嘘をついているようには見えなかった。そう会話している間にも、目的地についてしまう。

 

「ここに入って」

「はい。あ、葛城一尉」

 

大人しく部屋に入ったナズナちゃんがくるりと振り返る。

 

「何か知ってそうな私から一つ忠告です。事情がどうであれ、私達に貴方達の思いを叶える義務はありませんよ。それでは」

「ちょっとまっt」

 

 バシュン

 

目の前で扉が閉まり、伸ばした手が空を切る。

 

「どう言うことなの…?」

 

あたしの問いは答えられることはなく冷たい床に落ちるだけだった。

 

 

薄暗い窓のない部屋で私は考え事をしていた。ここは私にあてがわれた独房だ。あれからどのくらい経ったのかわからない。ここには時計がないからだ。たまに出される食事で今がどのくらいなのか推測するしかない。

 

「暇だね〜」

 

なんとなく声に出してみるが、それに答えてくれるものはいない。だが、独り言を呟くレベルで暇なのだ。

 

(とりあえずシャムシエルのコアは粉々に破壊した。S2機関の研究は遅れてくれると思うが…)

 

シンジ君の暴走を止めなかったのはこの理由が大きい。ここでコアが残っていると、使徒のエネルギー機関であるS2機関をエヴァに搭載するという試みが完成してしまう。それによる産物がエヴァ量産機だ。どんなものも拒絶するA.T.フィールドを持つ単体の兵器としては最強のエヴァの唯一の弱点と言ってもいいのが、電力を必要とするということ。その制限を取っ払ったエヴァ量産機にアスカが鳥葬されると、シンジ君がサードインパクトで気持ち悪いコースだ。できるときにやっておくに限る。

 

(ウナゲリオンは建造されず、旧劇ルートは回避…でいいのか?)

 

黙って膝を抱える。ここまでの考えは一切口に出さないようにしていた。十中八九この部屋は監視されているからだ。当然録音もされているだろう。

 

(シンジ君は今頃どうしているかな…)

 

ここにはいない自分の恋人に思いを馳せる。独房がこんな圧迫感のある部屋なら私だけが罰則を受けるようにしてよかった。シンジ君だったらどうなっていたことか。壁に寄りかかると、服越しに芯まで凍えるような冷たさが伝わってくる。

 

(小さい頃は私がシンジ君と付き合うとは思わなかったな…私がいるせいで苦しむことになるのも)

 

拳を握りしめる。すっかり冷えてしまっているのはきっとこの部屋が寒いからだろう。

 

(だから、私がなんとしてでもシンジ君を守らなければ…たとえ私がどうなろうとも)

 

それが私の罪滅ぼしだ。

 

 

その頃、碇シンジは自宅で1人朝食を食べていた。同居人の葛城ミサトは使徒戦後の書類仕事に忙殺され、村雨ナズナは謹慎中。ペンペンは寝床からまだ出てきていない。

 

「そういえば1人で朝ご飯を食べるのも久しぶりだな…」

 

そう呟いた後は黙々と食べ物を口に運ぶ。味気なく感じる食事を胃に流し込み、登校する準備をすると、最後の仕上げにすっかり当たり前となった綾波レイと自分の分のお弁当を詰める。

 

「ナズナ〜あれとって〜…あ…」

 

いつものように頼み事をするが、すぐにその相手がいないことに気づき、シンジの胸中に寂しさが巣食ってゆく。

 

(一人ぼっちなのは久しぶりだけど慣れてるはずなのに。何でこんなに寒くて怖いんだろう…)

 

 ピンポーン

 

その時、気の抜けたチャイムが鳴った。

 

「は、はーい」

 

慌てて玄関に向かい、扉を開けると見知った顔がいた。

 

「トウジ?ケンスケ?」

「センセ、今回は改めてすまんかった!」

「シンジ、ごめん!」

 

同級生2人の突然の腰を90度に折ったお辞儀にシンジは戸惑う。

 

「ちょっと!急にどうしたんだよ?」

「ワシらのくだらん興味のせいでセンセ達に迷惑かけてしもた!」

「シンジや村雨がどんな気持ちでエヴァに乗ってるか考えても見なかった」

「やめてよ!そんなこともう気にしてないからさ!」

 

慌てて頭を上げさせる。どうやらシャムシエルの時にシンジ達の戦闘の邪魔をしたことを相当気にしているらしかった。

 

「それでもこれがワシらのけじめや」

「こうしないと気が済まなかったんだ。村雨にも謝るつもりだ」

「あ、えっと…」

 

困ったように言葉を濁したシンジにケンスケが気づく。

 

「どうしたんだ?」

「いや、ナズナはちょっとNERVに用事があって…」

 

本当は少し違うのだが、言うべきではないと誤魔化した。シンジがミサトに対して命令違反を冒し、ナズナがそれを後押しするような発言をしていたことを覚えていた2人は何かを察したようで、

 

「あーセンセ、とりあえず学校、一緒に行くで」

「…うん」

 

三人は学校に向かって歩き出した。

 

「シンジは本当羨ましいよな〜」

「急になんだよ?」

 

ケンスケののほほんとした言葉にシンジは反応する。

 

「だってさ〜エヴァのパイロットで?美人の上司と住んでて?これまた綺麗な彼女がいるとかずるいだろ!ああ、どうして神様は人間をこんなに不公平に作ったんだろう!」

 

羨ましくてならないといった様子のケンスケに、シンジは納得できないような表情をする。

 

「ナズナが美人?」

「センセ気づいてなかったんかいな」

 

腑に落ちない様子のシンジにトウジは呆れたようにため息をつく。

 

「村雨はクラスじゃ綾波と並ぶレベルの美少女だって言われてるんだ。おまけに頭も人当たりもいいだろ?あんな完璧な子をどうやって落としたんだよ!」

「そうやで。あいつの欠点らしい欠点なんてあんま喋らんとこと男みたいな口調だけやろ。と言うかなんであないな口調なんや?」

 

ケンスケが興奮気味に、トウジが不思議でならないというようにシンジに彼の恋人について話す。シンジは2人の様子に少し気圧される。

 

「そうそう!それがこれまた男子にウケてるし、おかげで儲かって儲かって…」

 

ケンスケはやっちまったと口を押さえるがもう遅い。

 

「待って、儲かってってどういうこと?」

 

その言葉に我に帰ったシンジがケンスケに質問をする。ケンスケは慌てたように視線を空中に彷徨わせ出した。

 

「えーっと、それはだな…」

「ナズナで何か商売でもしてるの?」

「い、いや?気にすることないって!な、な!トウジ!」

 

何とか誤魔化そうとトウジに助けを求めるが、

 

「ケンスケ…もう手遅れやろ…」

 

と降伏することを勧められる。

 

「早く答えなよ、ケンスケ」

 

シンジの睨むようにして問いただしてくる視線とトウジの憐れむような視線に耐えきれず、ケンスケはとうとう口を開く。

 

「村雨の写真を売って…お金を稼いでいます…主に男子に…」

 

シンジの怒りが膨れ上がる。それはそうだろう。自分の恋人の写真が不特定多数、それも男子の手に渡っているというのだ。それでどんなことをしているのか、思春期を現在進行形で過ごしているシンジはすぐに思い当たる。

 

「それだけ?」

「えっと…碇や綾波のも…やってます…」

 

ケンスケは隠れて撮ったさまざまな生徒(主に女子)の写真をさまざまな生徒(主に男子)に販売していた。ケンスケのカメラの腕はなかなかのもので、常連の生徒は少なくなかった。ちなみに女子生徒が男子生徒の写真を求める場合は憧れや想い人の意味合いが大きい。あと目の保養。

 

「許可は?」

「とってないです…」

 

どんどん圧が強くなっていくシンジと、どんどん小さくなっていくケンスケの様子は側から見れば滑稽であった。ケンスケが短い言葉で問いただされているのをトウジは既視感を抱きつつも仲介に入る。

 

「ま、まあケンスケも反省してるようやし、堪忍してやってや」

「本当に反省してるんだ!写真は学校の生徒にしか売ってないし、エロいやつは一枚も撮ってない!いや、撮ろうとはしたけど!カメラのデータを全部見せたっていい!俺はただカメラを買うお金が欲しかっただけなんだあ…」

 

言わなくてもいいことまでも白状したあまりにも潔い謝罪は聞いた者に怒りを通り越し、哀れさも感じさせた。たった1人を除いては。

 

「もういいよ…」

「シンジ…!」

 

ケンスケが目を輝かせてシンジを見つめる。すぐに目から光がなくなるとも知らずに。

 

「ナズナと綾波には謝って。それから、ナズナの写真を売った人の名前、全員教えて。そいつらの前歯全部折るから」

 

シンジを2人が終日全力で抑える羽目になったのはまた別のはなし。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。