愚直者、十年の歩み   作:ぼくとー

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 梅組の体育の授業。それは、ここ武蔵においても一種のイベントと化していた。

 彼らの通り道になりそうな家や商店は、どうにか自分たちの被害が最小限である事を祈りつつ、防御用の術式や符を張り巡らせてシャッターを下ろす。ついでに内心で、無事な者たちへと中指を立てる。

 そして、梅組面子の中でも終始オリオトライに張り付くのは、

 

「セイッ!!」

「ふふふっ、甘い甘ーい!」

 

 逃げるオリオトライに一気に踏み込んで距離を詰めては引き離されて。

 真正面の立ち合いなら兎も角、追撃戦となると如何に鍛錬を積んでいる徹平といえども容易くはない。とはいえ、彼は自身のポリシーに従って術式の類を使っていないのだが。

 そこを、オリオトライも指摘してくる。

 

「術式は使わないのかしら!?貴方のなら、私に一発当てるのも出来るんじゃない?!」

「それじゃあ、意味がねぇだろ!?俺は、自分の力で勝ちてぇんだから!」

「相ッ変わらずよね!だったら、来なさい!」

「言われずとも!!!」

 

 再び空中で鞘入りの長剣と木刀がぶつかり合う。

 この二人の派手なぶつかり合いは、後続の者たちにもよく見える。

 

「うひゃ~!テッちゃん本当に強くなったよね~。ナイちゃんも負けてらんないなぁ」

「それじゃあ、準備は良い?マルゴット」

「もっちろん!」

 

 箒に跨る、マルゴットとマルガの魔女コンビが追走。

 空を飛ぶという移動法の関係上、彼女らには基本的に地表の障害物を無視して最短距離を進む事が出来る。

 更に、梅組に在籍する生徒は全員が全員戦闘職ではない。

 アタッカーのみならず、サポーターも多かった。

 その内の二人。

 

「ふはははは!良いぞ、お前たち!もっと金を使え、使えぇい!」

「はぁい!契約ありがとうございまーす!」

 

 シロジロとハイディの会計組。

 彼女らは金銭を対価として術式の契約を中継し分配する。

 自身の前に表示された申請枠を確認して、ハイディはそれらを綺麗にまとめ上げシロジロへとパス。

 受け取った彼は、一纏めに両手で挟むと、

 

「受け取れ、商品だ!」

 

 一気に空へと放り放った。

 光のラインを一つ受け取って、マルゴットとマルガの二人も動き出す。

 

「行くよォ、ガッちゃん!」

「任せて。ライン引くよ」

 

 言って、マルガはマルゴットの箒の柄の部分へとペンを走らせる。同時に、マルゴットは己の跨る箒の柄の上に棒金状の媒体をセット。

 

「マルゴット!」

「いっけぇ!!」

 

 ぶっ放される射撃の雨。速度重視で、障害物の無効などを含めた複雑な加護や術式効果が乗っていない分手数を増やす。

 それらが狙うのは、オリオトライ――――なのだが、当然彼女に挑みかかる徹平も射撃ラインに含まれる訳で。

 

「「あ」」

「あっぶな!?」

 

 降り注ぐ射撃の雨をオリオトライは、打ち合っていた徹平をそのまま足場代わりに思い切り長剣を振るう事でその反動を利用し前へと飛んで回避。

 一方で壁代わりにされた徹平はその場に留まる事になり、結果降り注ぐ射撃の雨を木刀で振り払う事で足止めを喰らう事になった。

 

「テッちゃん、ごめーん!」

「おーう、気にすんなー!」

 

 謝罪に左手を挙げて無事をアピールしつつ、徹平は前を睨む。

 オリオトライの速力は驚嘆に値する。それこそ、彼が全力疾走しても追いつくには少しかかってしまう程に。

 どうするか。足場代わりの屋根の上を走って飛んで、徹平は頭を捻る。

 すると、後方から軽快な足取りが近づいてきた。

 

「徹平さん!」

「おん?追いついたのか、アデーレ」

「Jud.!自分、脚力自慢の従士ですんで!」

 

 追い付いてきたのは、身の丈を超える先端を潰した突撃槍を携えたアデーレ・バルフェット。

 健脚な彼女の足の速さは、徹平も知っていた。そして、そこで彼に天啓来る。

 

「アデーレ、ちっと手を貸してくれないか?」

「自分に、ですか?」

「ああ。前に練習したアレをやろうかと思って」

「アレ…………ああ!アレですね!」

 

 徹平の提案に少しの思案を挟んで、アデーレは大きな声を上げた。

 二人の間で通じるアレというのは、合体技だ。

 

「Jud.!自分は何時でも行けますよ!」

「よっしゃ、なら早速やろうじゃねぇか!」

 

 即断即決。屋根の上を滑りながら、徹平は木刀を振り被る。その姿は宛ら右打席に立った野球のバッターの様。

 同時にアデーレもまた速度を調整しつつ、その場に跳び上がって足を徹平へと向ける形をとった。

 

「いくぞ……!オオオオオッラァあああああああああああ!!!!」

 

 渾身のフルスイング。木刀は、アデーレの靴裏を捉える。同時に、彼女の足裏に表示されるのは加速術式。

 フルスイングの衝撃と、アデーレの健脚、そして加速術式の三つを合わせた即席人間砲台。

 先を潰した突撃槍を構えて、健脚従士の身体は屋根と平行に宙を突き進む。

 風を切る音を察知し、目線で振り返ったオリオトライは飛んでくるアデーレにギョッと目を剥いた。

 

「無茶するわね!?」

あべーべばぶべっと(アデーレ・バルフェット)いびばす(行きます)!!」

 

 強烈な風の中で呂律が回っていないながらも、アデーレの瞳は眼鏡を通して確りとオリオトライを捉えていた。

 博打の様な技だが、意外とそうでもない。

 砲弾となったアデーレは、相手を視認して槍を突き出すし、外れても着地と同時にすぐさま切り返して突進できる。加えて、相手を追い越せばそのまま追撃してくる徹平と挟み撃ち。

 

(意外と考えてるわね。あの速度でアデーレが飛んで来れば大抵の相手は、驚いて硬直するでしょうし。外してもそのまま着地したアデーレと、突っ込んでくる徹平の挟み撃ち)

「覚悟ーーーッ!!」

 

 オリオトライの思考の最中に、アデーレが迫る。

 突き出された突撃槍。穂先を潰しているとはいえ、直撃を受ければただでは済まないだろう。

 ()()()()()

 

「甘いわね!」

 

 足を止めて屋根の上を滑りながら、オリオトライは反転。同時に背負った長剣の留め具を外して右手に柄を握り、反転の勢いを乗せて突っ込んでくるアデーレの突撃槍へと横から叩きつけていた。

 直線運動は、真横からの攻撃に弱い。少し違うが、理論上観葉植物の葉っぱでも拳銃弾を逸らす事は出来るのだ。

 如何に砲弾の様な速度で迫ろうとも、横合いからリアルアマゾネスのパワーでぶん殴られれば当然ながら文字通り矛先が逸れる。

 

「ッ!?――――まだです!!」

 

 バランスを崩したアデーレだったが、ここで終わる気は無い。

 先の一撃で矛先が逸れた事で自然と減速した彼女は、その勢いのまま屋根の上へと片足で着地し、その着地した足を軸に横回転しながら前へ。

 彼女の突撃槍は刺突に向いているが、その大きさ故にぶん回しても十分に破壊力を得ることができる。

 推進力を遠心力へと変換。左から右への時計回りの薙ぎ払いが、オリオトライを襲う。

 

「対応もバッチリね!でも――――」

 

 迫りくる薙ぎ払いを、オリオトライは躱す素振りを見せない。

 代わりに、右手に握る長剣の柄を下に、鞘入りの切っ先を空へと向けてその長剣の腹を迫りくる槍へと向けた。

 受け止める、ではなく受け流す。僅かに寝かされ斜めになっていた長剣の腹を、宛らジャンプ台の様に突撃槍の太い穂先が滑って空へと流されていた。

 遠心力に振り回されるアデーレと受け流しただけのオリオトライ。どちらに動きの余裕があるかは、語るまでもないだろう。

 だが、コレは集団戦。アデーレが足を止めさせたお陰で追いついた者がいた。

 

「カレー!如何ですかぁ!」

 

 大皿のカレーを頭上に掲げたインド人“ハッサン・フルブシ”。

 蹴りかまそうが、カレーぶっかけようが、ソレが攻撃でオリオトライに当たれば生徒たちの勝ち。隙を突いた攻撃だ。

 だが、

 

「後で貰うわ!!」

 

 オリオトライに隙は無し。すぐさま長剣を背に戻すと、突撃槍を流された影響で右手を上に伸ばす様な格好となって回転に振り回されるアデーレの背後へ。

 そのまま彼女の両脇に手を差し込んで、勢いよく空へと振り上げたのだ。

 ハッサンは上から飛び掛かっていた。その軌道に向けて、アデーレロケット(高い高い)

 

「げほぅっ!?」

「はぎゃん!?」

 

 アデーレの頭部が、ハッサンの鳩尾へと深々突き刺さり二人揃って宙を舞い屋根にべっしゃり転がった。

 

「ほぉら!アデーレとハッサンがリタイアしたわよ!」

「くっそが……!」

 

 一歩出遅れ、二人の援護が出来なかった徹平が突っ込み、しかしその一振りは空を切る。

 足が遅い……!と内心で自分を叱責しながら、徹平は立ち止まり、

 

「崎守君!先に行ってくれ!」

「ッ、任せた!」

 

 ネシンバラの声に反応し、内心で謝りながら徹平はオリオトライを追いかける。

 梅組の面々の中でも特記戦力は存在する。主に、総長連合や生徒会の役職持ちだ。

 現状の武蔵における総長連合は、副長を欠いている。その椅子に座る事を打診されているのが、徹平だった。

 ただ、当人が断るのだ。曰く、面倒くさい、らしい。

 しかし、断ったとしてもその実力に疑問符はつかない。武蔵に居る者たちならば、彼の努力をよく知っているのだから。

 だからこそ、ネシンバラも少しでもオリオトライへの一打を与えられる可能性のある彼を前へと送った。

 

「イトケン君!ネンジ君!救助を頼むよ!」

 

 指示が飛び、後方の一団から二つの影が飛び出してきた。

 一人は、見た目変態。背に黒いコウモリのような羽をもつ筋骨逞しい全裸の男性、伊藤・健児。

 

「おはようございます!怪しい者ではございません!淫靡な精霊インキュバスの伊藤・健児と申します!朝早くからのお騒がせして申し訳ありません!」

 

 よく通った声。彼は珍しい種族である精霊の一種である。ついでに、彼に向けて梅組面子がジト目を向けているが、外道たちに掛けられる慈悲は無し。

 そして、イトケンと同じく出てきたのが一メートル大の半球状をした肉色のスライム。

 

『今行くぞ、二人とも!』

 

 イトケンと同じく希少種族であるスライムのネンジ。

 爪先スキップで先を行くイトケンに追い付く形でぬっぺりねとねと。

 

「やあ、ネンジ君!今日も良い透明具合と粘着きで元気そうだ!ネバネバしいね!」

『うむ。此度は、人助けだな。最高速度で――――』

 

 参ろう、と言おうとした瞬間後ろから駆けてきた女生徒に踏まれて肉色スライムは飛び散った。そして、踏んだ彼女は止まる事無し。

 

「ふふふっ、御免ねネンジ!悪いと思っているわよ!ええ、本気よ!私はいつだって本気なのよー!」

 

 駆け抜けていく喜美。その足は軽快で、止まる気配は無し。

 そんな彼女へと叱責を飛ばすのは、屋根の上ではなく道を駆けていた銀髪の女子。その豊かな銀髪の縦ロールは実に派手だ。

 

「ちょっと、喜美。謝罪をするのなら、もっと誠意をもってしなさいな。淑女たるもの――――」

「ふふふっ、出たわねこの妖怪説教女め!というか、ミトツダイラ。アンタなに地べた走ってるのよ。いつもみたいに鎖でドカンとやれば良いじゃない」

「この辺一帯は、私の領地ですのよ!?ソレを貴方達は――――」

「あらあら、先生に勝てない狼がキャンキャン吠えちゃってるわね。怖いから、おバカ侍を呼んじゃおうかしら」

「徹平さんを便利に使いすぎじゃありませんの!?あんまり度が過ぎるようなら、私も止めますわよ!?」

「んっふふふ♪テツを折檻するのは賢姉の特権だもの!」

 

 ネイト・ミトツダイラからの説教を受けながら、しかし喜美は艶のある笑みを浮かべて屋根の上を駆けていく。

 ドップラー効果の様に姦しさの離れていく二人を見送って、イトケンは足元の復元しているネンジへと視線を落とした。

 

「いやー、モテモテだね。本人は浮いた話なんてほとんど無いんだけど」

『徹平殿は、鍛錬一筋であるからな』

「うんうん。まあ、下手に誰かとくっついたらそれはそれで荒れそうだけどさ。それより、ネンジ君は大丈夫かい?君、見た目はHP3位のスライムなんだし」

『問題ない!きちんとガードしたからな』

「…………ガード?」

 

 そんな希少種族二人の会話を尻目に、先頭を行くオリオトライを追って近接主体のメンバーが右舷二番艦“多摩”の艦首側にて仕掛けようとしていた。

 企業区画であり、左右を高い建物に挟まれた屋根の上は咄嗟の回避が難しい。

 

「ここは拙者が仕掛けるで御座るよ」

 

 その役職柄、悪路走行を得意とする点蔵が自己申告。この場に居る他三人もその事に否は無い。

 

「そうは言うが、点蔵。どう攻める」

「とりあえず、自分が陽動を。二の手をウッキー殿、三の手をノリ殿に任せようと思うで御座る」

「俺は?」

「テツ殿は、後詰を頼むで御座る。こちらも本気で仕留めに掛かるで御座るが、それでも成功確率を高く見積もれる相手ではない故」

「Jud. 頼むぞお前ら」

 

 木刀を右肩に担いで、徹平は右隣の高い建物の屋根へと跳び上がってその場を離れる。

 彼を見送り、気合いを入れるように点蔵は己の頬を軽く挟むように叩いた。

 そんな点蔵に、作戦結構前にウルキアガの問いが向けられる。

 

「少しわからんな、点蔵。作戦の成功率を上げるのなら、テツを主力に添えるべきじゃないか?」

 

 ウルキアガの指摘。無口で不愛想なバイト戦士のノリキも同じような考えなのか、ジッと点蔵へと視線を送る。

 二人の視線に、先程見送った背中を思い出す点蔵。

 

「Jud. 確かにそうで御座ろう。確率を上げるのなら、テツ殿を本命として自分達三人の陽動をかける方が確実性があるで御座る。しかし――――」

 

 キャップのツバに隠れた目線を前へと向け、点蔵は強く拳を握る。

 

「ソレでは、如何で御座ろう。少なくとも、自分はテツ殿に全てを委ねるつもりは御座らん。適材適所といえども、あの御仁一人に任せるのは嫌で御座る。何より――――拙者は男ゆえ。前を行くカッコイイ背中を追いたいとも思うで御座るよ」

 

 淡々と、しかし熱の籠った言葉だ。

 同時に二人も思い当たる節がある。

 

「……確かに、アイツはカッコイイ」

 

 ニヒルな笑みと共に、ノリキは同意を示す。言葉にせずとも、ウルキアガも頷いた。

 梅組一同は外道揃いだが、だからといって実直な努力を否定する訳ではない。それが親しい友人であるのなら猶の事。

 気合いを入れ直した男衆。そして追いかけっこは佳境を迎える。

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