ゴブリンたち全員が、
無言で肉を眺めるリムル。肉にはいい焼き色が付き、肉からは香ばしい匂いがあたりに漂う。
リムルは肉の串焼きを手に取った。肉を歯で加え、串から外し、口内に放り込んだ。そしてゆっくりと咀嚼し、下で肉を転がして、ゆっくりと、丁寧に味わう。
「うっ!?」
「リ、リムル様......」
「お口に合いませんでしたか......?」
顔を埋めるリムルの反応にどよめきが走り、ゴブリン達皆が冷や汗を浮かべ、問いかける。
「ううううう、うんっまあ~い!!!」
リムルは見た目の年相応の笑みを浮かべて、嬉し気に告げた。
そのことを理解したゴブリンたちは歓喜の叫びをあげ、乾杯の合図がわりに木で作ったジョッキをぶつけあう。
そして、ジョッキに注ぎ込んでいた酒を飲み始め、宴会が始まった。
リムルの隣の席にオイラも座り、酒をジョッキに注ぎ込む。
「へへ、久しぶりの肉は美味いか?」
「ああ! マジで美味い! 生きてるってこんなに素晴らしいんだな!」
「そいつはよかったぜ」
リムルの皿に運んできた牛鹿のステーキを盛り、ジョッキにそそいだ酒を飲み込んだ。
◇◇◇
「
気になることを話しているリグル・リグルド・カイジン・老人の
「……事実だ」
オイラの問いを受け、赤髪の
「奴らは来た。
いきなり俺たちの里を襲撃してきた。火矢を放ち、俺たちの里を燃やして、武装をし、鎧を身に着け、森を埋め尽くすほどの圧倒的戦力。あの忌まわしい豚どもに、里は蹂躙しつくされたのだ」
「鎧?」
「ああ、人間の着用するようなフルプレートメイルだ」
「だとすれば、協力者がいるな。それが 」
「ああ、軍勢の中に、
「で、お前さんはリムルに挑んだってことか」
先ほどから話を聞いていたゴブタが疑問を浮かべ、問いかけた。
「つまり、どういうことっすか?」
それにリグルが答える。
「
「なるほどっす?」
魔王......もし、魔王が
「じゃあ、その魔王に恨みを買うようなことをしたってことか?」
「分からぬ。ハッキリしているのは、300人いた同胞は、もうたった6人しかいないことだ」
「なるほどな~、そりゃ悔しいわけだ」
話を聞いていたのか、リムルは腕を頭の後ろに組み、歩いてこちらにやってきた。
「肉は良いのか? リムル殿」
「ちょっと食休み、お前の妹すごいな」
リムルは赤髪の
「薬草や香草に詳しくて、あっという間にゴブリン達と仲良くなった」
「箱入りだったからな。頼られるのが嬉しいんだろう」
そのほかの
リムルはそれらを眺めて、
「で、お前らこれからどうすんの?」
「どう、とは?」
「今後の方針だよ。再起を図るにせよ、ほかの地に移り住むにせよ、仲間の命運はお前の采配にかかってるんだろ?」
「知れたことを、力を蓄え再度挑むまで」
「お前達当てはあるのか?」
リムルの言葉に、
見てわかる通り、ノープランのようだ。
「提案なんだけどさ、お前たち全員、俺たちの部下になる気はあるか?」
「は? 部下?」
「まあ、俺達が支払うのは衣食住の保障だけだ。拠点があった方がお前たちにとって都合がいいだろ?」
「しかし、この街を俺たちの復讐に巻き込むことに......」
「まあ、別にお前たちのためだけじゃない。数千、しかも武装した
「
「うん。この町だって、決して安全とは言えないだろうな。
てなわけで、戦力は多い方が俺達としても都合がいい。逆にお前たちに何かあった時は俺も一緒に戦う」
赤髪の
「なるほど......少し考えさせてくれ......」
「おう、じっくり考えてくれ。
さてと、俺は肉をもらってこようかな」
「オイラももらってくるか」
赤髪の
「悪い話ではない。だが、決めるのはお前だ。我らはお前と姫様に従う」
蒼髪の
そして立ち止まり、怒りを噛みしめながら、木に拳をぶつけた。その拳は、怒りを現すように、轟音を立てて木にめり込む。
「俺に、もっと力があれば......!」
翌日。赤髪の
「決めたのか?」
「
契約は
「そのあとは自由にしてもらって構わない。俺たちに協力して国を作るもよし、旅立つも良しだ」
リムルの言葉を受け、赤髪の
「昨夜の申し出、承りました。貴方様の配下に、加えさせていただきます」
赤髪の
......今すぐ刺し違えてでも殺したいだろう。オイラもその気持ちを痛いほど理解できる。
「顔を上げろ。お前さんたちを受け入れる。仲間たちを呼んでくれ」
赤髪の
リムルはオイラの手を離れて人化し、ベットの上に立つ。
「俺の配下となった証に名をやろう」
リムルの言葉に一同が驚愕し、赤髪の
「俺たち全員に?」
「名前はないと不便だからな」
「しかし......」
桃髪の
「お、お待ちください。名づけとは、本来大変な危険を伴うこと。それこそ高位の 」
「大丈夫だ。それともなんだ? オイラ達に名前を付けられるのは嫌か?」
「そういうことでは......」
「異論などない。ありがたく頂戴する」
「若がそういうのであれば」
「じゃあ始めるか。お前は 」
その時、リムルの視界は暗転し、意識を失った。
暗い視界の中、話し声が聞こえる。
「そろそろ、魔素を分け与えてやりたいんだが......」
「シオン、そろそろ交代の時間です」
「いいえ、姫様。リムル様のお世話は私がします。どうぞお休みなさってください」
「シオンったらもう......」
やわらかく重い二つの球体が俺の体の上に乗っかていることを理解し、魔力感知を再開させ暗転した視界を回復した。すると、目の前にある肌色の二つの巨峰が目に入る。それが
「あ、リ 」
「「リムル様! おはようございます!」」
確認した結果、俺の視界に移るのはサンズと角の生えた人物達。
えっと、どちらさまでしたっけ?
記憶が曖昧なんだけど......確か
「お目覚めになられたかリムル様」
テントの外からやってきた赤髪の人物が、俺に跪いていた。
見た目からわかるが、一応確認する。
「
「はっ、今は進化して
思い出した。サンズが名前考えられないからって全部俺に押し付けて、名づけした途端
てか何だって? 鬼人?
『告・鬼人とは、
鬼人とやらに進化したベニマルを観察する。
肌の色が赤色から普通の人間となり、体格は一回り小さくなっている。しかし、内に秘めた魔素量がとんでもないくらい増えていた。それに加え、元からイケメンだったがさらに磨きがかかっている。
これはあれか? リグルドショック*1の再来か!
桃髪の鬼人が、俺の体を撫でながら、しゃがんで俺に話し掛ける。
「リムル様、
スライムの体を動かし、俺を抱えている人物を見上げる。
「
この俺を抱きかかえている
遅れてやってきた老人の鬼人を見る。
「ベニマルの後ろに控えてるのは......」
「
「ホッホ、こちらとしても奥義を防がれ、焦りましたぞ」
鬼人への進化の影響で、まだ老人と言えるが随分若くなったようだ。背丈が少し伸び、目もキリっとしている。
そして、いつの間にかベニマルの後ろに控えていた蒼髪の鬼人に話し掛けた。
「お前は確か......」
「
あまり変化していないが、目元が柔らかくなったような? まあイケメンであることは変わりないな。
というか、なんでたった六人の名づけなのに
『解・上位の魔物に名づけをした場合、それに見合う魔素を消費します。今回の場合は個体名サンズのユニークスキル『決意者』により、少量ですが魔素を受け取ったため比較的早く回復しました』
つまり、たった六人に俺の魔素のほとんどを持ってかれたのか......先に言ってほしかったよね。
ん? 俺が目覚めた時サンズが魔素を分け与えてやりたいって言ってなかった?
『解・個体名サンズのユニークスキル『決意者』はサンズの意思とは独立して存在していると思われます』
つまり俺の『大賢者』と同じってことか。ていうか…一人足りなくね?
俺は
「あと一人はどうした?」
「クロベエはカイジンの工房に入り浸ってるみたいだぜ。まあ今こっちに来てるけどな」
サンズの言葉通りに、テントの外から走る足音が鳴る。
確か、目つきの悪い巨漢だったけど、どうなってるんだろう?
「リムル様が目覚めただべか! 元気になってよかっただよ。
分かったな? オラ
普通のオッサンになっていた。三十路を過ぎたぐらいだろうか、目元の堀も少し浅くなって普通のオッサンだ。
とんでもなく親近感がわいて、ほっとする。
「仲よくしような! クロベエ♪」
「んだ!」
場面は切り替わり、一方そのころ。ジュラの大森林に起った異変は、地響きを立てながら浸食を進めていた。
ジュラの森の中央に広がる湖、シス胡。その周囲には湿地帯が広がっており、
湖周辺には自然によって作られた洞窟が無数に存在する。そのうちの一つの洞窟、
「戦の準備をせよ。豚如き蹴散らせてくれるわ」
「数はどのくらいなのだ?」
首領の傍にいる
「それが、
告げられた情報に、その場にいた者全員が驚愕した。
「馬鹿な!? 我々の20倍もの軍勢だと?」
「魔力感知と熱源感知で何度も確認しました......この命にかけて真実であります!」
首領は三人の
しかし、それらすべてを覆すユニークモンスターが居る。
その者の名は、
「オークロード」
首領がつぶやいた名に、それまで騒然と話し続けていた
「20万もの軍勢をまとめ上げてるオークがいるのならば......
伝説のユニークモンスター、オークロードの存在を疑わねばならない」
オークロード。数百年に一度生まれるとされる、伝説の魔物。同種族である
仮定の話ではあるが、もし本当に誕生したのだとすれば、勝てる可能性は皆無に等しい。
「可能性の話だ。だが、打てる手は打たねばならない。援軍を頼むべきだな。
息子よ! 我が息子はおるか?」
「ここにおりますよ。ですが、親父殿。その呼び方は無粋ではありませぬか? 吾輩にはがビルというゲルミュッド様からいただいた名前があるのですから」
がビルという
「呼び方などどうでもよかろう。
お前にやってもらいたいことがある。それは、他種族への援軍の要請だ」
その言葉に少しの間が空き、ガビルは答えた。
「......伺いましょう」