プライベッター様に投げてあったものを持って来ました。
——高校を卒業してから数年。唐突に同好会の皆さんからお誘いが来た。無論、二十歳を超えているということでお酒の席だ。
「先輩どうですか、久しぶりに会ったかすみんは?」
愛も変わらず可愛さを振り撒いてくる中須さんには敵わない。いまだに、学生時代に煌めきを持っているようで。対する自分はどうだ?
わけのわからん社会に揉まれ、夢やら童心やらと共に煌めきは消え失せた。見るに耐えない、等身大のダメな人間になってしまっている。
だから自分は、率直な言葉を彼女へと告げることにした。
「とても可愛らしいですよ。加えて、魅力的にもなっていますね」
「流石先輩! 見る目がありますね!」
なんて具合に中須さんに絡まれつつ、他の面々との会話も挟みながら会は進んでいく。ただ一人との会話をしないまま。
そんな状態が二時間ほど続いた辺りで、自分はしんどくなって一度席を立ち、店の外へと出た。夜風に当たりたかったのと、一服したかったが故に。
店のそばにあった公園に設けられた喫煙所。そこまで足を運んだ自分は、懐からシガレットの入った箱を取り出すと、中から適当に一本抜き出し安いオイルライターで火をつける。
そうして燈を携えたシガレットを咥え、蒸された中身を吸い込む。同時にタバコ特有の香りと、未だ感じる苦味が自身の中を巡っていく。
……美味くも無いのに、ニコチンが持つ中毒性のせいか未だやめられないそれを口元から遠ざけた自分は、大きく息を吐く。
白煙が視界を軽く覆った後、帷へと消えていく。その様を暫し眺めていた自分は、徐に手を動かして灰を受け皿へと落とす。
そうしてまた、次弾を装填しようとした時、不意にこちらへと近付いてくる足音が聞こえた。
不思議に思いながら喫煙所の入り口に視線を留めていると、艶やかな朱髪が特徴的な女性が現れる。
「上原さん……」
入ってきたその人に、思わず言葉が溢れていた。そんな予想外を前に驚いていると、向こうもこちらを見るなり驚いた表情になる。
「わあ、吸ってるの?」
「ええ、まあ……色々あって」
先程まで会話していなかった人物との一対一の空間に耐えられなくなった自分は、有耶無耶な返事をしながら手にしていたシガレットを受け皿の中へと落とす。
その後、1人気まずさ抱えながら視線をあちらこちらへと泳がせていると、不意に彼女の耳に視線が釘付けになる。
「あれ、ピアス……開けられたんですか?」
「これのこと?」
ジッポライターで火をつけたシガレットを口元に運んだ後、ピアスを付けた耳が見えるようにか、軽く顔をはす向ける上原さん。
そんな彼女の優雅さを醸し出す所作に目を奪われていると、彼女が口を開く。
「これね、彼方さんに勧められたやつなんだ。あ、こっちについてるのは愛ちゃんが勧めてくれたやつ」
小さな笑みを浮かべながら、解説をしてくれる上原さん。だが自分の耳に、彼女の言葉は殆ど届いていない。
あまりにも衝撃的な現実を前に、自分は頭は目の前の光景を受け止めるので精一杯になっていたのだ。
「そう、なんですね」
学生時代の彼女からは考えられないほどのギャップに殴られ思考回路の回らなくなった自分は、ぎこちなく相槌を打つ。
そうして訪れた静寂の中で自分は天を仰ぐ。現実とは、時の流れとは、無常であり非情であると痛感しながら。
無論、人がいつまでも同じ状態を保っているのなんて稀な事。それを自分の目で見て確かめて、体験までしているのだから、わかっているつもりではいた。
だが、自分以外のそれを目にしたのは、初めてのことであった。故の現状に、情緒を乱される。すると、上原さんが手にしていたシガレットを受け皿に流す。
「そろそろ戻ろっか」
そう言って出入り口へと進んでいく上原さんであったが、不意に足を止めこちらへと振り返る。
「あ、そうそう。この事、侑ちゃんには内緒にしてくれる?」
少し困ったような笑みと共に、右の人差し指を口元に当てこちらへと問うてくる上原さん。
対する自分は、暫しのフリーズを経て首を縦に振るのであった。
その後自分は、彼女と共に店へと戻ったが、その先の記憶は何一つとして覚えていない。
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